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7・婚約者の騎士さん
しおりを挟む兄様がいなくなって、
僕と騎士さんはまた二人になった。
騎士さんは顔を真っ赤にしたまま
イスに座って、僕に何かを
言いたそうにしている。
でも学院の人たちみたいに
どこかに行く様子はなくて、
僕をちらりと見ては、
顔を赤くして目を反らす。
僕はどうしていいかわからない。
今まで友だちと呼べる人も
僕にはもいなかったので、
見知らぬ人とどうやって
会話を続けたらいいのか
わからないのだ。
すると「失礼します」と
執事のセバスがやってきた。
「ブレイトンご子息からでございます」
と差し出されたのは、
とっても大きな花束だった。
「凄い! 綺麗」
って僕が言うと、
騎士さんは、また大きな声で
「我が家の庭に咲いている花です!」という。
騎士という人たちは
大きな声を出すのが普通なんだろうか。
兄様は違うけれど。
僕は騎士さんを見た。
名前は……なんだっけ。
大きな声にびっくりして、
ちゃんと聞いてなかった。
この屋敷で大きな声を出す人は
いいないから、驚いたんだ。
ただ、声は大きいけれど、
怖い人では無いと思う。
だって兄様が僕に紹介した人だし、
優しい人のはず。
だから僕は、ちゃんとお礼を言うことにした。
「素敵な花をありがとうございます」
「い、いえ、その、
あなたの方が美しい……」
ごにょにょにょと騎士さんは
何やら呟く。
あんなに声が大きいのに
肝心なところが聞こえない。
でもお花が好きってことかな。
「僕のお庭のお花も綺麗なんですよ」
僕は立ち上がる。
「一緒に見に行きましょう」
と手を差し出してみたが、
騎士さんは、「は!」っと
大きな声を出したかと思ったら、
イスから立ち上がって僕のそばに跪いた。
「命に代えてもお守りします」
「?? このお庭の散歩ですよ」
さすがに庭で、事件は起きないよね?
というか、この騎士さん、
僕の結婚相手かと思ったけれど、
やっぱり護衛だったのかな。
兄様の部下みたいだし。
よくわかんない。
でもわからないことは
聞けばいいんだよね。
そう本にも書いてあったし。
僕は騎士さんに立ってもらい、
その手を引いて庭を案内することにした。
本当に護衛だったら、
手を引くとかありえないけれど、
セバスが何も言わずについて来るから
やっぱり護衛では無いと思う。
僕はゆっくりと歩きながら
お庭の綺麗なお花を見て貰ったり、
僕が好きな場所を案内した。
庭の奥にある温室は、
僕の大好きな場所だ。
寒い季節でも、
綺麗な花を見ながらお茶が飲めるし、
雨の日も関係ない。
この温室は、家族用のサロンと
繋がっているので、
サロンの大きなガラス扉から
外に出て、そのまま温室に
行くことができるのだ。
僕は温室を案内して
サロンの扉を見せる。
サロンはガラスでおおわれてるから
外からでも部屋の中の様子が
見えるのだ。
サロンは普通にソファーや
テーブル、暖炉とかしかないけれど
僕はその前のふかふかのラグの前で
寝そべって本を読むのが好きだった。
僕のそんな話を
騎士さんは、うん、うんと
聞いてくれる。
温室の中にある
テーブルセットに座ると、
今度は冷たいハーブティーを
侍女が準備して持って来てくれた。
ちょっと汗をかいたから
冷たいのお茶は嬉しい。
ちらっと騎士さんをみたけれど、
騎士さんは汗をかくこともなく、
僕みたいに息切れもしていない。
僕は自分の体力のなさに
ちょっとだけ恥ずかしくなる。
「あの、騎士さま」
と俺が呼ぶと、騎士さんは
目を見開いて、笑った。
「どうか、俺……いえ、
私のことはガイディスと
お呼びください」
いいのかな?
そっとセバスを見ると、
セバスは頷いている。
「わかりました。
ガ、ガイ、ガディ」
慣れない名前に、
ちょっと舌がもつれる。
子供みたいだと恥ずかしかったが、
ガイディスは、言いづらければ
ガイと呼んでいただければ、という。
しかも呼び捨てで構わないというので、
僕は思い切って「ガイ」と呼んでみた。
すると、怖そうな顔だったガイディスの
顔が、ほころぶように笑顔になる。
頬を赤くしながら、
嬉しそうに笑ったのだ。
僕が名前を呼んだだけで、
そんなに嬉しそうな顔をするなんて。
僕は驚いたけれど
嬉しくなってしまう。
それから僕は夢中で
ガイディスに話しかけてしまった。
僕の母様のことや、兄様のこと。
それから僕は体が弱くて
学院に通うことができていないこと。
僕が何を話しても、
ガイディスは大きく頷き、
僕の話を深く聞き、
僕の話を遮ることなく
疑問に思ったことは聞き返してくれる。
家族以外でこんなに話が続いたのは
初めてだった。
僕は一生けん命話した。
自分のことを知って欲しかったのだ。
でも沢山話をして、
ガイディスの話を全く聞いてないことに
気が付いた。
本ではお互いのことを良く知ることから
友情は始まるって書いてあった。
だから僕はガイディスのことも聞いた。
ガイディスは公爵家の次男で、
騎士団にいるらしい。
公爵家!?と驚いたけれど、
跡を継ぐのは長兄だし、
自分は騎士でなければ
爵位のない平民になるのだと言う。
だから僕との結婚の話が
でたのかな?と思ったけれど、
ガイディスの話では、本当は
兄様との政略結婚だと思っていたそうだ。
そこで僕がいたから驚いたらしい。
兄様が結婚?
部下である騎士と?
そんなのあるわけがない、と
思ったら笑えて来た。
しかもお互い、
色んな勘違いをして
驚いていたのだ。
そう思うとおかしくなってきて
僕は声を出して笑ってしまった。
声を出して笑うなんて
いつぶりだろうか。
僕が笑うと、ガイディスは
「勘違いして面目ない」と
小さくなっていたが、
勘違いしていたのはお互い様だ。
しかも大きな体を小さくする姿が
おかしいし、可愛く思えてきて、
それもまた笑いを誘う。
「そ、その、エレミアス殿と
婚約を視野に顔合わせしたと
思っているのですが、
そ、そ、それでよろしいのでしょうか」
爵位はガイディスの方が上なのに、
緊張したように言われて、
僕は考えた。
騎士団長の兄様のことを
気にしてるんだと思う。
「敬語は使わなくていいよ。
エレって呼んで」
兄様もそう呼んでるから、というと
ガイディスは、妖精に恐れ多い、と
手をぶんぶん振る。
どういう意味だろうか。
あとでセバスに聞いてみよう。
「婚約に関しては……兄さまが
考えている通りになる、としか
言えないんだ、ごめんね」
僕は何もできない役立たずだから。
しゅん、とうなだれると、
大きな手が僕の両手を包んだ。
そして僕の手を掴んだまま
足もとに跪いて
僕の手を額に当てる。
騎士が忠誠を誓う仕草だと
僕は気が付いた。
兄様が陛下に対して
この忠誠を誓う仕草をしなかったと
何年か前に問題になったことがあり
そこで知ったのだ。
ちなみに、兄様はまだ誰にも
忠誠を誓っていない。
陛下は「いいよ、いいよ」と
笑って許してくれているけれど、
父様と陛下が仲良しでなかったら
絶対に処罰されていると思う。
なんて僕が考えている間にも
ガイディスは俺を見上げ、
真剣な顔で僕の手を離した。
「俺、俺がお守りします!
一生! 命を懸けて!
俺は剣も使えるし、
社交界だって、
毒婦が相手でも構いません。
俺が盾になります。
領地経営も、自信はないけど
頑張ります!
苦労はさせません!
団長の恐怖にも堪えられます!
俺を選んでください!」
兄様の恐怖ってなんだ?
選んで、って僕が選ぶの?
何を?
……伴侶、を?
僕は自分で何かを決めるって
あまりしたことがない。
全部兄様が決めて、
僕はそれに従っていただけ。
甘えて、甘やかされることで
兄様を喜ばすだけの存在だったから。
でも、このガイディスという
騎士と一緒に居ることが出来たら
毎日が楽しくなりそうな気がした。
だから僕は「はい」って返事をした。
するとガイディスはみるみる顔を赤くして
何故か目に涙を浮かべる。
そして跪いたまま
「生涯をかけて幸せにします」と
泣き崩れてしまった。
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