長編版・不能の公爵令息は婚約者を愛でたい(が難しい)

たたら

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24・無茶ぶりされた俺

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 俺は妖精との婚約に、
物凄く浮かれていた。

騎士団内でも俺がバーンズ侯爵家に
婿入りすることが周知されており、
やっかむ者もいたが、
表立って何かをする者など
いるはずがない。

俺は公爵家の人間だし、
なによりあの騎士団長の
義弟になるのだ。

その俺にちょっかいを
かけることができる者など
王族以外にはいない。

そう、王族以外には。

「いいなー。
私も次男なのに
バーンズ侯爵家に婿に
入りたかったな」

とふざけたことを言うのは
この国の第二王子殿下だ。

今日は護衛騎士として
そばに付いているが、
今、第二殿下は休憩時間のため
そばにいるのは俺しかいない。

だからこそ気安い口調で
話しかけてくるのだが、
俺は任務中だし、
私語は禁止だ。

「そうか、無視するんだ。
ふーん」

いや、無視ではなく
私語は禁止なんだ。

「意地悪するなら
私もいじわるしちゃおっかなー」

「ちょ、何を!」

この第二殿下のことだ。

何をされるかわからないと
思わず声を漏らしたら、
にんまり、と第二殿下が笑う。

「可愛いよねー。
ガイディスの婚約者。

この前、学院に視察に行った時、
たまたま見かけて、
声をかけちゃった」

「え? は?」

「君のことを知ってるって言ったら、
目をキラキラさせてね。

とっても大事な、
初めての友達なんです、って
物凄く可愛い笑顔だったよ」

初めての友達ね、と
第二王子殿下は笑う。

ほっといて欲しい。

俺の妖精は、世俗社会の
婚姻や婚約の意味を知らないのだ。

「それで?
そのおともだちの付き合いは
いつまで続けるの?

いくら君がその……身体的に
夜の生活は無理だとしても、
さすがにあの認識では
今後、危ないぞ」

俺はぐうの音も出ない。

そうなのだ。
俺の妖精は世俗を知らない。

だから友だちは崇高なものだと
信じているし、誰かを騙したり
騙されたりするわけがないと思っている。

物語りに出てくるような
いわゆる悪人は少ししかいなくて、
友だちは信じるべき存在だとか、
本気で思っているのだ。

そんな妖精がもうすぐ社交界に
デビューをする。

もう、物凄く胃が痛い。

どうやって守り切ればいいのか
俺は日々悩んでいるのだ。

正直、本格的に
社交が始まったら
第二王子殿下を守る余裕は
絶対ないと思う。

だからこそ、俺は騎士団を辞め、
俺の妖精のためだけに生きると
覚悟を決めていた。

「私はね、
幼馴染の君が心配だし、
あの騎士団長の義弟になるなど
本気なのか、と言いたいところだが。

まぁ、あの可愛い子の伴侶になると
いうのが魅力的なのも理解はしている。

だが。
あのままでは、守り切れんぞ?

知識は必要だ。

妖精でも天使でも構わないが、
この世俗で生きているのだから、
人間の欲ぐらい知っておくべきではないか?」

それは……そうだ。

何も知らなければ警戒できない。

今までは良かったが、
社交界に出たらそうはいかないだろう。

それはわかっている。
わかっているのだが。

「騎士団長が、できるだけ
侯爵家の天使を穢すな、と」

思わず愚痴の様に小さく言ってしまった。

なんたって今朝はいきなり
団長に呼び出されたかと思うと、
執務室で睨みつけられた。

そして俺の妖精が
『子どもはどうやって生まれるの?』
と誰もが通る疑問を
とうとう持ってしまった、
と聞かされた。

しかも、それを聞いた
執事の機転で、その質問に
答えることができるのは、
俺だけになってしまったらしい。

「いいか。
あの子を穢さず、
なおかつ、あの子が
納得するように説明するように」

なんて命じられて、
俺は魂を飛ばしそうになった。

そんな無茶ぶりをされても
困ると言いうか、
どう考えても無理だろ?

どうやって説明すんだよ。

思わず呻いてしまう。

「あー、あぁ、なるほど」

第二王子殿下は俺が全てを
語らなくても納得したように頷く。

「溺愛ぶりは有名だしな。
しかし、いつまでも侯爵家の籠の鳥で
いるわけにもいかないだろう」

「そう、ですが。
汚らわしい言葉は一切聞かせるなと
命じられていて……」

俺の言葉も歯切れが悪い。

騎士団長がそう言うのもわかる。

わかるが、実質問題、
成人を迎えてもなお、
ただ屋敷に囲い、
守っていくのは難しいのだ。

「こうなったら、正式に
婚姻してからが勝負だな」

俺の苦渋の表情を見て
第二殿下が言う。

「勝負、とは?」

「騎士団長が婚約者と婚姻したら、
バーンズ侯爵家を出て行くのだろう?」

「え?まぁ、そうですね。
新居は近くに建てられるようですが」

「なら、あの屋敷には、
あの可愛い子と君の二人だけだ。

邪魔者はいない。

色々と教え込めばいいのではないか?」

教え込む、という言葉に
俺は一瞬、妄想してしまった。

あの可愛い妖精が俺に甘えて
おねだりする姿だ。

「まぁ、夜の生活は無理でも
常識的なことは教えることができるだろう」

真剣な声に、俺は意識を瞬時に戻す。

冷静になれ、俺。

俺は今、不能なのだ。

そう、不能だった。

このことは絶対に知られてはいけない。

知られてしまえば、あっという間に
俺は婚約者の地位から落とされる。

騎士団長は俺が不能だから
愛らしい妖精の伴侶に選んだと
明言していた。

つまり俺が正常になったとバレたら
俺なんぞ、いつ消されてもおかしくはない。

「そう。ですね。
まぁ、考えておきます」

俺が曖昧に返事をしたせいで、
第二王子殿下は不満そうな顔をしたが、
俺は大丈夫だ、と頷いて見せる。

心配してくれるのはありがたいが、
こればかりは、大きなお世話だ。

慎重に行動をしなければ
あの妖精を手に入れることが
できなくなってしまう。

そう、俺は不能ではなくなっていた。

どんな女性に出会っても
恐怖でしかなく、
俺の男根が反応することなど
なかったのに。

俺の不能が回復の兆しを
見せたのは、
あの愛らしい妖精と出会った翌日だった。

翌朝俺はなんと、夢精していたのだ。

青臭いガキでもあるまいし、と
恥ずかしくなったのだが、
それぐらい俺の妖精は可愛らしく
魅力的だった。

幼く清らかなのに、
淫らに見えた唇が、舌が、
俺の脳裏に焼き付いていたのだ。

それから俺の身体の不調が
嘘のように回復していった。

自ら性欲を処理する必要性を
感じるほどではないが、
全く何の反応も無かった
男根が、不用意に、しかも
頻繁に反応するようになった。

先日に至っては、
ただ反応するだけではなく、
明確に勃起した俺の男根は、
膝に座った可愛い小さなお尻を
押し上げようとまでしたのだ。

それ以来、俺は
バーンズ侯爵家で甘えて
俺にすり寄る妖精の匂いに
勃起しそうな下半身を必死に抑え、
可愛い指先でぎゅっとシャツを掴まれる度に
抱きしめたくなる衝動を抑えた。

俺が邪な想いを持ち、
下半身を滾らせているとバレたら
俺は終わりだ。

だが、あんな可愛い妖精に
甘えられて正常でいられるわけがない。

手を出すな、なんて無茶ぶりすぎる。

それでも俺は我慢する。

あと1年。
あと1年我慢すれば、
俺はあの妖精と婚姻を結べるのだ。

それまでの我慢だ。

俺は不満そうな第二王子殿下に
隠れてぐっと拳を握る。

そんな俺を見て、
第二王子殿下は「まぁ、君が
それで幸せならいいけどね」と
あきれたように呟いた。



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