長編版・不能の公爵令息は婚約者を愛でたい(が難しい)

たたら

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26:すれ違い

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僕はガイが来るのを屋敷で待っていた。

今日は学院が休みだから、
朝はセバスチャンと作法や所作の
勉強をして、午後からはガイと
領地について学ぶ予定だ。

なのに、ガイはなかなか来ない。

本当は今日は朝から会えるはずだったのに、
殿下の用事で予定が変わったんだ。

お昼ごはんは一緒に食べることが
できると思ったのに、
いつもの時間を過ぎても
ガイはやってこない。

どうしたんだろう?

ガイは騎士だし、
ケガとかしてないかな?

僕はセバスチャンに言って、
お昼ごはんは庭で食べることにした。

ここにいたら、ガイが来たら
すぐにわかるからだ。

僕はティーナに借りた
恋愛指南書を手に庭に出る。

侍女のアンナたちが
ガゼボにお昼ご飯を準備してくれる。

僕は椅子に座り、
まずはお茶を飲む。

ガイと一緒に食べたかったな。

恋愛指南書をテーブルに置き、
僕は目の前のサンドイッチを見た。

僕にとっては荷が重い、
大きなチキンのサンドイッチと、
サラダとハムが挟まった小さめのサンドイッチ。

あと、クッキーと、果物もある。

僕が食べるものはたいてい決まってるから、
それ以外はガイのためのものだ。

僕は仕方なく果物に手を伸ばした。

あまり食べる気がしない。

「失礼いたします、ぼっちゃま」

そこにセバスチャンがやってきた。

「どうしたの?」

「今、早馬が」

「ガイから?」

「はい、今からこちらに向かうと」

僕はその言葉にうれしくなる。

「じゃぁ、ガイの分のお茶も
準備してくれる?」

控えていたアンナに言うと、
アンナはお辞儀をしてこたえてくれる。

「どれぐらいで来てくれるかな?」

「王宮からでしたら、
さほど時間はかからないかと……」

とセバスチャンの言葉が
終わらないうちに、
馬の蹄の音が聞こえてくる。

セバスチャンが僕に黙礼して
屋敷の玄関へと向かう。

するとすぐに、
馬の鳴き声がして、
セバスチャンとガイが
一緒に庭にやってきた。

「すまない、遅くなった」

汗をかいたガイが頭を下げる。

「ううん。よかった。
今からね、ご飯を食べるところなんだよ」

ガイが僕のそばに来ると、
アンナがお茶を入れ、
別の侍女がガイに濡れたタオルを渡す。

ガイが汗を拭き、
用意されたフィンガーボールで
手を洗うと、すぐにアンナが
乾いたタオルをガイに渡した。

ガイは礼を言い、タオルで
手を拭き、ついでに顔も拭いた。

粗野な感じがしたけれど、
それも騎士故だと思うと、
嫌ではなくて。

むしろカッコいいと思う。

それから僕はガイと一緒に
お昼ご飯を食べた。

さっきまでは食べたくないと
思っていたのに。

ガイと一緒だったら
サンドイッチだって食べれてしまう。

ガイは第二殿下の護衛をしているらしく、
急に呼び出されたのは
そのせいらしい。

しかも、しばらくは
僕に会いに来れないかも、っていうんだ。

「すまない。
殿下が当分、集団見合いをするため、
俺は殿下の護衛と、
見合いに来た令嬢たちの
相手をしなければならないんだ」

「ガイが?
殿下の見合い相手なのに?」

その言葉に僕はなぜか嫌な気分になった。

だって殿下のお見合い相手ってことは
高位貴族の令嬢ってことになる。

しかも集団でお見合いってことは
たくさんの令嬢たちと
ガイは会うんでしょ?

殿下が結婚するのは1人だけだから
それ以外の令嬢の中で、
ガイのことが好きになる人が
出てくるかもしれない。

だってガイは優しくて
カッコ良くて……

僕の胸がモヤモヤしている間も
ガイは言葉を続ける。

「殿下とすべての令嬢が二人で
話ができるように、と
配慮されることが決まったんだ。

令嬢たちが、殿下と
二人で話をするまでの
待ち時間を殿下の側近たちが
相手をすることになってな」

「ガイは護衛なのに?」

もう一度、僕は不満を口にした。

「俺も一応、殿下の側近扱いだからな」

やっぱり嫌だ。
なんか嫌だって思う。

令嬢たちと一緒に仲良く話しをするの?

ガイは仕事なのに、
僕はなんだか意地悪な気分になった。

殿下の仕事の日、
僕に会えなくてもいいから
ガイが病気になっちゃえって。

王宮に行けなくなっちゃえって、
そんな気持ちが沸き起こって、
僕は驚いた。

だって、そんなことを思うのは
悪い子のはずだ。

僕はずっと「いい子」だったのに。

兄に甘えて、愛される、
バーンズ侯爵家の「いい子」で
いることが僕の価値だったのに。

「エレ? すまない」

僕の顔を見たガイが、
すまなそうに手を伸ばして
僕の頭を撫でた。

僕は何かを言いたかったけれど。

自分の気持ちがわからなくなって、
立ち上がる。

ガイがどうした?という顔をしたけれど。

その大きな膝に僕は座った。

僕が座ってもガイは嫌がらない。
兄と同じように、僕を支えてくれる。

だから僕は体を横にして
ガイにしがみついた。

ぎゅう、と顔を大きな胸に押し当てると、
ガイはまた「ごめん」という。

「殿下のわがままに付き合うのは
これで最後だから」

僕が拗ねてると思ったみたい。
ガイは僕の機嫌を取るように
背中を撫でる。

でもそうじゃない。
拗ねてるんじゃないんだ。

でもどう言えばいいのかわからない。

それに「いい子」じゃない僕は
このバーンズ侯爵家では
価値のない子になってしまう。

そのことをガイに知られるのは嫌だった。

僕は泣きたい気分になって、
もっと深くガイに抱き着いた。



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