長編版・不能の公爵令息は婚約者を愛でたい(が難しい)

たたら

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39:貴族令息の当たり前・1

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 翌朝目を覚ましたら、
僕はいつのまにか寝間着を着ていて、
化粧も落とされていた。

昨日のことは夢かと思ったけれど、
アンナに聞いたら、僕が寝ている間に
アンナたち侍女が数人で
僕を着替えさせてくれたらしい。

「災難でしたね」と
アンナは言う。

「うん。
でも僕、ドレスなんて
着たことが無かったでしょ?

これから着る練習を
した方が良いのかなぁ」

僕の言葉に、アンナの動きが止まった。

「アンナ?」

「何故……練習を?」

「うん?
だって、これからも
着る機会があるかもしれないでしょ?

僕、ドレスを着るのが当たり前って
知らなかったから……」

「……その知識はどこから?
いえ、出過ぎた真似を」

とアンナはすっと頭を下げたけれど。

どう言う意味だろう?

ロザンヌ夫人の言ってたことは
間違ってたってこと?

でもガイのお母さんなのに、
間違えるってことある?

でもまって。
ロザンヌ夫人は女性だから
なにか思い違いをしているのかもしれない。

だって僕は男の子だし、
女性と男性では常識が違うのかも。

よし、学校に行ったら
確かめてみよう。

ティーナは女性だからダメだし、
聞くとしたら、
ライリーとサイラスだ。

昨日は疲れ果てて
ほとんど何も食べてなかったから、
僕は朝ご飯は沢山食べた。

兄の姿が見えなくて
セバスチャンに聞いたら、
兄はもう仕事に行ったと言う。

昨日、王宮で何かあったのかな。

また兄ともガイとも
会えない日が続くんだろうか。

ちょっと寂しくなりながら
僕は学院に行く準備をする。

護衛のケインと一緒に
学院に着くと、やはり入口で
ライリーとサイラスが待っている。

ケインが僕のカバンを二人に渡して、
いつも通り、僕たちは教室に向かう。

「あのね、二人とも」

昨日の疲れがまだ残っていて、
僕はいつもよりゆっくり歩いている。

朝食はいつもより、果物を
2切も多く食べたのに、
何故か疲れが取れていない。

「相談があるんだけど……いい?」

ティーナには内緒で、と僕が言うと
二人は驚いた顔をしたが、
もちろんです、と強く頷く。

「では、特科の時間はどうですか?」

ライリーの提案に僕は頷いた。

今日の午後の授業は特別科目だ。

貴族学院の授業は
午前中は基本科目の
授業が多いけれど、
午後からは、個人の素質を
伸ばすようにと、
特別科目の授業をすることが多い。

騎士を目指している者は
騎士科や、王宮の侍女や
卒業後すぐに結婚が決まっている
女子たちは淑女科など

普段、授業はクラス単位で
学んでいるけれど、
特別科目の時だけはみんな
バラバラになる。

ただし、これは強制では無く
好きな科目を学ぶことができるので
女性でも騎士を目指すのであれば
騎士科の授業を受けることも可能だ。

ただし、今まで騎士科で
学ぼうとした女性はいないらしいけれど。

ティーナは特別科目の時は、
淑女科で刺しゅうをしたり、
ダンスをしたりしているみたいだった。

ライリーとサイラスはもちろん、
騎士科の授業を受けていて、
僕は特別科目の時間は、
図書室で本を読んだり、
屋敷に帰ったりしている。

だって僕はもう、
卒業資格を取得しているし、
騎士にも淑女にもならないから。

文官志望の生徒を集めた
科目もいくつかあるけれど、
わざわざ一人ぼっちで
学びたいと思う程ではない。

「でも二人とも良いの?」

僕は構わないけれど、
二人は特別科目の時間、
騎士として学ぶことがある筈だ。

「かまいませんよ、
エレ様の方が大事ですし」

「授業より大事だしな」

と二人が言ってくれるので
僕は嬉しくなる。

「あ、じゃあケインに
遅くなるって言っておかなくっちゃ」

「あ、俺が行ってきてやるよ」
僕の言葉に、サイラスが反応した。

「俺の足の早さを
見ておいてくれ」

なんて言うなり、走り出す。

校舎に侍従や護衛は入れないけれど、
伝言だったら、事務員さんに言えば
伝えてくれることになっている。

僕は授業中でも体調が悪くなったり、
いきなり帰ったりするから、
僕が帰りたくなったら
事務員さんに言って、
ケインに連絡を取って
貰うようにしているのだ。

今日は特別科目の授業があったから
一応、お弁当は持って来たけれど
ケインもお昼頃には
屋敷に帰るって思っていたかもしれない。

「あいつ、本当に落ち着きないな」

呆れたようにライリーが言うけれど
僕にとってはありがたいことだ。

僕がようやく階段を上って
教室に着くと、なんと
もうサイラスが教室の席に座っていた。

どれだけ足が早いのか。

僕が驚いていると、
サイラスは胸を張って
僕を見た。

「すっげー早かっただろ?」

「うん。凄い」

本当にそう思ったから
僕はサイラスを大絶賛したのだけれど。

「エレ様、あまりあいつを
甘やかさないようにお願いします」
ってライリーに言われてしまった。

そんなつもりはなかったんだけどな。

席に座ると、
クラスメイト達が順番に
僕に挨拶をしてくれる。

ほんの数か月前には
考えたことも無かった光景だ。

僕は嬉しくて、
ひとりひとりの顔を見て
「おはよう」って言う。

「ティーナ、おはよう」

僕はティーナが近づいて
来るのを見つけて、
先に声を掛けた。

「おはようございます、
エレ様」

ティーナは僕のそばまで来ると、
そっと僕に身を寄せた。

「あの、エレ様」

そして僕の耳元で小さな声を出す。

「リリック様たちと
ドレス遊びをしたって
本当ですの?」

なんで知ってるの!?って
思ったけれど、そう言えば
リリック嬢とティーナは
姉妹の様に育ったって
言ってたっけ。

「うん、遊び……かどうか
わかんなかったけど」

楽しいより、疲れたって
印象しか残ってない。

「なんてこと……!
私も、私もご一緒
したかったですわ……」

僕が頷くと、
何故かティーナはショックを
受けたような顔をして、
よよよ、と泣き崩れる。

「ティーナ、どうしたの?」

「エレ様、今度は私も、
必ず私もご一緒させてくださいませ」

心配になってティーナに
手を伸ばすと、ティーナは
その手をぎゅっと握る。

「う、うん」

あまりにも真剣に、
力強く言われたので
僕は咄嗟に頷いてしまったけれど。

もう当分、ドレスは着たくないなぁ、
って心の中で呟いた。

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