長編版・不能の公爵令息は婚約者を愛でたい(が難しい)

たたら

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38:可愛い天使

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 フリルとレースの、
裾が大きく広がったドレスを着て、
大きなリボンを付けられたとき、
また扉がノックされた。

「母上!
今、バーンズ侯爵家に行ったら、
まだエレが戻ってないと……っ!」

「ガイ!」

待ってたよー。

僕はウルウルしてしまう。

疲れて僕はラグの上に座り込んでいた。

耳飾りも重たいし、
ネックレスも辛い。

何よりドレスがこんなに
窮屈な物だったなんて。

僕は立ち上がる気力もなく
両手を広げてガイを見た。

だっこ。

ガイに抱っこされたい。

この屋敷に来るまでは
お膝に座るのもやめようとか
僕はもう大人だしと思ってたけど。

もう、子どもでいいや。

抱っこされて
なでなでされたい。

僕は今日はもう、
物凄く頑張った!

ガイは素早く僕の前に来て
僕を抱き上げてくれた。

わーん。
ガイだー。

僕はガイにぎゅーってしがみつく。

「可哀そうに。
こんなになるまで
母上に付き合わされるなんて」

ガイは僕の背中を撫でてから
「母上! 義姉上も!」
と大きな声を出す。

「エレは体が弱いと
伝えておいたはずです」

「だって」

「だってではありません」

「義姉上まで一緒になって、
というか、何故ここにいるんですか?」

「……可愛い義弟の顔を見に来たのよ」

「ドレスを持って?」

ラグの上に置かれたドレスたちを
ガイが冷たい目で見る。

「ガイ、いいの。大丈夫」

僕がそう言うと、
ガイは僕を抱っこしたまま
ソファーに座った。

自然に僕はガイのお膝の上だ。

「お茶は飲めるか?
菓子は?」

ガイがティーカップを
取ってくれたので
僕は素直にお茶を飲む。

冷めてたけれど、
今の僕にはちょうどいい温度だ。

「ほら、甘いものも
好きだろう」

と焼き菓子が口元に来たので
僕は素直に口を開ける。

甘いー。
おいしい。

ほっとする。

僕はドレスを何着か着たけれど、
お茶もお菓子も食べる暇がなかった。

ほんとは食べたかったんだ。

もぐもぐしていると、
視線を感じて顔を上げる。

すると驚いた顔の
ロザンヌ夫人とリリック嬢がいた。

「なんて顔をしてみてるんです?」

ガイがトゲトゲして言う。

「驚くに決まってるでしょう。
あなたがそんな顔をするなんて」

ロザンヌ夫人が言う。

「ヴァレンティーナが
べた惚れと言っていたけど
本当だったのね」

リリック嬢も呟き、
びっくりだわ、と首を振る。

「落ち着いたら帰ろう。
バーンズ侯爵家まで送って行くから」

二人の言葉など
聞こえなかったかのように
ガイが言う。

「うん。ありがと」

今すぐにでも帰りたいが
ドレスを着替えないと。

でも。

「リリ姉様」

「ねえさま?」

ガイが不機嫌な声を出す。

「あの僕、このドレス、
ほんとに貰ってもいいですか?」

「エレ!?」

ガイが耳元で騒ぐ。

「ええ、もちろんよ。
気に入ったの?」

にこやかに聞かれ、
僕はなんて言うか迷った。

ほんとはドレスを脱ぐ気力も無いから
このまま帰りたいだけだけど。

「僕、ドレスを着るのが
当たり前って知らなくて。

ドレスを着るのが初めてだったんです。
だから疲れちゃって……

今度会うまでに、
ちゃんと着れるように
練習しておきます」

ガイの膝の上でペコリ、と頭を下げると、
「母上ー!!」とガイが叫んだ。

「ほんとに素直で可愛いわね、
エレちゃん」

ロザンヌ夫人はうるさいわよ、
とガイに言うと、じゃあねぇ、と
侍女に指示をして僕の着て来た
服を袋に入れる。

「そのドレス以外にも
気に入ったものがあれば
持って帰っていいわよ」

気に入ったもの……はないんだけどな。

困ってガイを見ると、
ガイは僕を抱き上げて立ち上がる。

「母上、気持ちはわかりますが
ドレスはもう結構です」

「あら、なぜ?
可愛いのに」

「可愛いのは認めます。
エレは妖精で天使ですから」

「でしょう?
だから妖精で天使なドレスを
選んだのだけど」

「エレ様、このイヤーカフは
差し上げますわ。
ほら、こうしてみると
ガイディス君の瞳の色と
同じでしょう?」

ガイとロザンヌ夫人が話しているのに
その横からリリック嬢が僕に
話しかけてくる。

手には金色の石が
装飾に使われている耳飾りだ。

「ありがとうございます」

ガイと同じ色なのは、嬉しい。

思わず、にぱって笑うと、
リリック嬢は僕の耳に
イヤーカフを付けてくれた。

「義姉上!
俺の可愛いエレに
勝手に贈り物をしないでください」

「あら、そんなに威嚇しなくても。
私は義姉になるのだから、
そんなに嫉妬しなくてもいいでしょう?」

言葉だけ聞けば怒っているようだけど
リリック嬢の顔は笑っている。

「ほんと、結婚にまったく興味の無かった
堅物次男が、こんな嫉妬深い、
溺愛男だったとは。
母もびっくりだわ」

なんてロザンヌ夫人が言う。

「でもまぁ、お似合いの二人で
安心したわ」

「えぇ、無理している様子はないですわね」

「二人とも……」

ロザンヌ夫人とリリック嬢の言葉に
ガイが感激したような声を出すが、
それはあっという間に消える。

「こんな可愛い子がうちの子になるなんて」

「こんな可愛い子が義弟になるなんて」

「「ドレスの作り甲斐がある(ります)わ」」

なんて二人の声が同時に聞こえて、
「エレは二人にはもう貸しません!」と
ガイが怒鳴る。

「さぁ、エレ、帰ろう」

ガイが僕を抱っこしたまま歩き出す。

「まぁ、もう帰るの?」

「昼食を準備してるのよ?」

と、リリック嬢とロザンヌ夫人が
ガイを止めようとするけれど。

「その昼食も食べずに、
ドレス遊びをしてたのは
どこのどなたです?」

とガイが冷たく言う。

「だって可愛いんですもの」

とロザンヌ夫人は言い、
ね? と僕を見た。

僕は疲れていたけれど。
でもちゃんと挨拶はしなきゃって
頑張って笑顔を作った。

「お母様、また遊びに来ますね。
リリ姉様も。

今日は疲れてしまったので、
もう帰ります」

僕が自分で帰る旨を告げると、
ロザンヌ夫人もリリック嬢も
素直に道を譲ってくれる。

「そうなの、残念だわ」

「また会いましょうね」

僕は二人に、必ず、って
返事をして、ガイに馬車に
乗せて貰った。

馬車の中でも僕はお膝抱っこだ。

もう、ガイから離れたくない。

「二人がすまない」と
ガイは謝罪してくれたけれど。

でも僕の体力が無いからだから
仕方がないと思う。

僕はウトウトしながら
ガイの胸に顔を押し付けた。

ほんと、疲れちゃった。

ドレスも疲れたけれど、
今日は朝から緊張してたから
余計に疲れてたんだと思う。

いつの間にか僕は
ガイの膝の上で寝てしまっていて。

馬車が止まる振動で
目を覚ましたけれど、
ガイの膝から下りる気は全くない。

ガイに抱っこされて
馬車から下りると、
すでに屋敷に戻っていた兄や
兄もセバスチャン。

そして侍女のアンナたちも
僕の姿を見て、大きく目を見開いた。

僕のドレス姿が珍しかったからかな。

僕は兄に「ただいま」を
言ったつもりだったけれど、
言葉になったかはわからない。

だって眠たくて……。

皆がなんか沢山話しかけてくれたけど。

僕は本当に疲れてて。

ガイの腕から兄の腕の中に
移動したのはわかったけれど。

僕は目を開けることなく、
そのまま翌朝まで眠ってしまったんだ。





 
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