長編版・不能の公爵令息は婚約者を愛でたい(が難しい)

たたら

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37:奥様、大暴走

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 僕はロザンヌ夫人に連れらて、
衣裳部屋? みたいなところに来た。

床にはラグが敷いてあって、
ソファーもテーブルもある。

僕がソファーに座ると
すぐに侍女がお茶とお菓子を用意してくれた。

「えっと、あの」

「可愛いわね、エレミアスちゃん。
ねぇ。あの子はあなたのことを
エレって呼んでるのでしょう?」

「は、はい」

「私もそう呼んでもいい?」

「もちろんです」

「じゃあ、私のことは
お母様と呼んでね」

と言われて、僕は躊躇う。

いいのかな?
まだ僕はガイと結婚してないんだけど。

ちらり、とそばに控えている侍女を見ると
彼女はすっと頭を下げた。

その通りにしろ、っと言われた気がして、
僕は「はい。お母様」と呼んでみた。

本当の母は、母様と呼んでるから
間違えることもないと思うし
大丈夫だろう。

何に対して大丈夫なのか
わかんないけど、大丈夫だと思うことにする。

「まぁ、ホントに可愛いわ、エレちゃんは」

エレちゃん、と呼びなれない
呼び方をされたけれど、
僕は笑顔を作る。

兄も両親も僕のことを
可愛いと言ってくれるし
ガイも、ティーナも言ってくれる。

可愛い、というのは
誉め言葉だと思うから言われるのは
嬉しいし、構わないんだけど。

でもこんな風に、グイグイ
強引に僕に話しかけてきて、
圧がある笑顔を向けてくる人は
初めてだったので、
僕はどうしていいかわからない。

「じゃあ、可愛い遊びをしましょうね」

意味はわかんないけど、
拒否できない感じがして
僕はただ頷くしかない。

「失礼致します」

そこにノックする音がして、
侍女が扉を開けると、
さっきの執事が立っていた。

「どうしたの?」

「リリック・モルガン様が
いらっしゃいました」

「まぁ、リリちゃんが?
ここへ呼んでちょうだい」

「かしこまりました」

と、頭を下げて執事さんはいなくなるけど。

え? 
待って?

また知らない人が増えるの?

僕が泣きそうになりながら
待っていると、長い赤茶色の髪をした
綺麗な女の人が部屋に入って来た。

瞳の色は濃い赤で、
美人だけれど、ちょっと気が強そうな
顔立ちをしている。

雰囲気はティーナに似てる。

年齢は兄ぐらいだと思う、と
僕が女性を見ていると、

「リリちゃん」と夫人が手招きをする。

「エレちゃん。
このリリちゃんは、
うちの長男のお嫁さんなのよ」

そうなんだ。
ビックリしたけれど、
そうするとこの人は
将来、僕の義姉さんになるんだ。

「は、初めまして。
エレミアス・バーンズです」

僕が名乗ると、女性は優雅に
カーテーシーをした。

「お目に書かれて光栄ですわ。
モルガン伯爵家が娘、
リリック・モルガンと申します」

凄く綺麗な仕草に、
僕は目を丸くする。

「まぁ、エレちゃん、
そんな顔をしてどうしたの?
見惚れちゃった?」

「はい、とっても綺麗で、
僕、感動しました」

僕の言葉に、リリック嬢は
目をちょっとだけ見開いて
にこやかに笑う。

「光栄ですわ」

すごい大人だ。
僕もこんな風になりたい。

「まぁ、そんな」

「え? 僕、口に出てました?」

慌てて僕は両手で口を押える。

「ふふ、エレちゃんは
本当に可愛らしいわね」

夫人がそう言い、
「リリちゃん、今から
可愛いエレちゃんと遊ぶのよ」と
リリック嬢をそばに呼び寄せた。

「えぇ、そうなるのではないかと思い、
私も駆けつけましたの」

手土産も持ってきましたわ、という
リリック嬢の声に、一緒に来ていた
侍女たちが持っていた箱を開けていく。

床に敷いたラグの上に
敷き詰められていくのは
女性用のドレスだった。

「まぁ、可愛い物ばかりね」

「はい、私の両親が何かと
買い与えてくれるのですが、
私が着れるものはなにもなく」

着れるものが無い?
なんで?

と僕がリリック嬢を見ると、
「似合うものと好きなものは
別なのですわ」という。

「ですので、差し上げますわ」

というので、意味が分からず
僕は首をかしげてしまう。

「まぁ、なんて可愛らしい。
ヴァレンティーナの話は
本当でしたわね」

「リリック様は、ティーナを知ってるんですか?」

頑張って敬語を使ってみた。

するとリリック嬢は笑う。

「えぇ、姉妹みたいに育ちましたの。
それよりもどうぞ、
私のことはリリ姉様と呼んでくださいな。
もう家族のようなものですから」

そうなの?
そうなのかな?

だって僕はまだガイと結婚してないし、
リリック嬢もまだガイのお兄さんと
結婚してないんでしょ?

いいの? と僕はキョロキョロして
そばにいる侍女さんたちを
順番に見たけれど、
全員が僕と視線が合った瞬間、
「その通り」というように
頭を下げていく。

じゃあ。

「リリ姉様、あの僕は
ドレスは着ないですよ?」

一応、そう言ってみた。
リリック嬢を姉様とは呼んだけど、
僕はドレスを着ないから。

貰っても意味がないと思うんだ。

それとも僕ではなく
別の人にドレスを
あげるという意味だったのだろうか。

僕は首をかしげてしまったけれど。

「まぁ、何故ですの?」

何故?

本当に不思議そうに
リリック嬢に言われて
僕は言葉に詰まる。

あれ?
僕がドレスを着ないのって
あたりまえだよね?

違うの?

「まぁまぁ、リリちゃん。
可愛い天使ちゃんが
困ってるわよ」

「申し訳ありません、
お義母様。
ですが、可愛らしいんですもの。

私もエレ様と呼んでも構わないかしら?」

僕が頷くと、リリック嬢は
嬉しいですわ、とまたにこやかに言う。

「では、どれから着ましょうか」

そして当たり前のように僕に聞く。

「リリ姉様、僕が……ドレスを
着るんですか?」

「えぇ、そうよ。
その為に持って来たんですもの」

え?
そうなの?

でも僕はドレスなんて
着たこと無いし……

でも僕がドレスを着るのを
当たり前みたいに言うってことは
僕がドレスを着ることは
おかしいことではないのかな?

僕が世間知らずだから、
知らないだけで、
ほんとは誰でもドレスを着るんだろうか。

頭がハテナになってしまったけれど、
僕は、さぁ、さぁ、どんどん着てみましょう、
という女王のようなロザンヌ夫人の言葉に
あれよあれよと侍女たちの手によって
着替えさせられる。

「まぁ、なんて可愛いの。
そうだわ。お化粧もしてあげましょう」

「リリちゃん、その前に
髪を整えて、そうね、
あの髪飾りを付けてあげるわ」

女性二人が楽しそうに
僕にドレスを着せて
侍女にあれこれ注文をする。

僕は物凄く疲れてしまったけれど。

拒否することもできずに、
ただひたすら言われるがまま
ドレスを何着も着て、
必死でこの時間が過ぎるのを待っていた。




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