長編版・不能の公爵令息は婚約者を愛でたい(が難しい)

たたら

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42:子爵令息の受難・1

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 僕の名前は、ライリー・ランドン。
子爵家の次男だ。

どこにでもある茶色の髪に、
ちょっと薄い茶色い目の、
平凡でどこにでもいる、
下位貴族の息子だ。

そんな僕に天変地異のような事が起こった。

バーンズ侯爵家の秘宝、
社交界では隠された天使とも
呼ばれているエレミアス様と
友だちになったのだ。

爵位的にも、学院を卒業したら
絶対に話などできない相手だ。

たまたまエレミアス様……
エレ様が学院に来た時に、
校舎の入り口で一緒に
なったことがきっかけだ。

僕は侯爵家の護衛にいきなり
呼び止められて、
物凄く焦った。

凄い怖そうな、
威圧のある顔の護衛で、
僕は「なにもしてないです」って
言いたくなった。

でもそんな僕に護衛の人は
エレ様のカバンを渡してきた。

ビックリしたけれど、
護衛の人は僕が
尊敬している兄と
仲良しだという。

それに僕も兄と同じように
信頼に足る人物だって
言ってくれた。

それが嬉しくて僕は
エレ様のカバンを持ち、
教室まで連れて行って
あげることにした。

エレ様は体が弱くて、
体力がないのは本当だと思う。

なぜなら、教室にたどり着くまで
数回、立ち止まって休憩したのだ。

確かに僕たちの教室は
階段を上らないとだめだし
校舎の入り口から遠い
一番端だったけど。

僕はエレ様が倒れないか
はらはらしながら
一緒に階段を上った。

僕がゆっくり歩いていることに
気が付いたのか、エレ様が
申し訳なさそうな顔をするから
僕はクラスの話をすることにした。

みんな、エレ様のことを気にしている。

本当は仲良くなりたいけれど、
相手は高位貴族だし、
バーンズ侯爵家の天使だし、

もし粗相があったら家が、
家名ごと家が無くなるかも
しれないと思っていたからだ。

でもクラスの皆が
エレ様と仲良くなりたいと
思っていることは本当だ。

なにせ教室に着くと、
あっと言う間に僕は
幼馴染のサイラスに首を掴まれ
エレ様を紹介しろ、と言われる。

その後も、あれよあれよと
クラス全員とエレ様は仲良くなり、
なぜか委員長のヴァレンティーナ女史
と親友になってしまった。

エレ様は思っていた通り、
体が弱くて、急に熱を
だしたりする。

一度、エレ様が休んだ時、
クラスの皆でお見舞いの手紙を
書いて、ヴァレンティーナ女史に
まとめて送ってもらったのだが、
それは大いに喜んでもらえたみたいだ。

その手紙のせいかわからないけど、
僕は父を通して、
バーンズ侯爵家から
手紙をもらった。

エレ様の兄上様からだ。

可愛い弟を頼む。

と短く書かれていただけだったが、
その言葉に僕も兄も、
父も母も物凄くおののいた。

エレ様の兄上様は
貴族社会でもキレ者だと
噂になってたし、

あの国王陛下にさえ、
傍若無人なふるまいをしても
許されるとまで言われている。

事実、騎士の誓いをせずに
陛下のそばで騎士団長を
しているのだ。

そんなことが許されるなど、
異例中の異例だろう。

そんな相手から【頼む】と
言われたのだ。

父からは何があっても
エレ様をお守りしろ、と
強く言われてしまった。

あとからサイラスに聞くと、
サイラスのところにも
似たような手紙が届いたらしい。

サイラスのところは
もともとは平民から
武勲を立てて騎士伯になり、
そこから子爵位を賜ったという
根っからの騎士の家系だ。

「いやぁ、親父からは
お前はエレミアス様の下僕になれ!
なんて言われちゃったぜ」

とサイラスは笑ったが、
言った方は本気だったと思う。

何にせよ、手紙のこともあり
僕とサイラスはできだけ
エレ様のそばにいることにした。

もちろん、義務ではなく
エレ様のことを好きになっていたし、
なによりエレ様は
ほっとけないのだ。

エレ様は
「友だちが欲しかった」と
僕やサイラスの手を取り、
仲良くしてね、などと言う。

友だちになって、とか、
仲良くして、とか。

そういうのを友達同士で
あまり言うことはない。

高位貴族だと、友達は
親が選ぶとか聞いたことがあるし、
僕たちのような下位貴族の子息は、
ただ近くにいたから、
何となく仲良くなり、
友だちになる。

わざわざ、友達だ、なんて
宣言したりはしない。

それに高位貴族の子息が
わざわざ下位貴族の子息に
「友達になって」など
いうわけがない。

しかも、自分から手を握り、
笑顔で頭を下げるなどありえない。

そう言った社交界の
【常識】を全く
知らなかったエレ様は
バーンズ侯爵家の中で
大切に守られて
成長してきたのだと
思わざるおえなかった。

とにかくエレ様は世間知らずだ。

サイラスはさりげなく
そんなエレ様にツッコむが、
エレ様はツッコまれたことにも
気が付かない天然だ。

僕がそばにいるときは
できるだけフォローをしようと
心がけているけれど、
僕がいない時はさすがに
仕方がない。

だから……

「どれぐらいの早さで
ドレスを着れたら
合格点なんだろう」

と相談を受けた時は、
反応に困った。

正直、何を言っているのか
わからなかったのだ。

話しを聞いていると、
ブレイトン公爵夫人の
お遊びの一環だとわかった。

サイラスも、からかわれたんだ。
なんて言うが、僕はあわてて
その口をふさぐ。

そんなことを言ったら、
エレ様が悲しむじゃないか。

僕はなんとか考えながら
貴族子息はドレスを着ないのだと
エレ様に説明する。

でももしこれでエレ様が
ブレイトン公爵夫人に
「もうドレスを着ない」なんて
言ったら、僕の家はお取りつぶしになるのだろうか。

不安でしかない。

それでも何とかエレ様に
納得してもらったら、
また大きな爆弾が投下された。

「あのね、あかちゃんと
ねやごとって関係ある?」

僕たちは固まった。

「内緒だよ?
二人だから、特別に相談するんだからね」

なんて可愛く言われて、
僕もサイラスも心を込めて
相談に乗ろうと思っていたはずだが。

さすがにこの相談には
乗れそうもない。

さすがのサイラスも
いつものツッコミもでないようだ。

どうすればいいのか迷っていると、
エレ様の瞳に涙が浮かんでくる。

ヤバイ。
このままでは泣かせてしまう。

「おい、どうするよ」

首に腕を回されて、
サイラスが小声で僕に言う。

「そう言われても、
僕たちが何かを言うなんて……」

『ドレスを着ない』以上の大問題だ。

「だよな。
余計なことを教えたら、
俺たちの家なんて
あっと言う間になくなっちまう」

サイラスの言葉に僕も頷く。

でもこのままで
エレ様が納得するはずもない。

でも閨の話しを僕たちが
エレ様にするなど、
恐ろしすぎる。

エレ様が知らないと言うのなら
それは知らなくてもいいと
侯爵家が判断しているからだ。

その判断をただの
子爵令息が覆せるわけがない。

オロオロしていると、
サイラスが、思いついたかのように
エレ様には赤ちゃんが生まれないと
当たり前のことを言う。

確かにそうだ。

閨事という言葉が強烈過ぎて
頭から抜け落ちていたが、
同性婚で子どもが生まれるわけがない。

バーンズ侯爵家の跡継ぎ問題は
僕たちが関与できるものでもないし、
エレ様が赤ちゃんを生むわけでも
ないのだから、この問題は
解決だろう。

エレ様は何も知らなくていいのだ。

そう僕たちが結論付けたのに。

またエレ様が可愛く、
無垢な子どものような顔で
僕たちの息の根を止めに来る。

「結局、ねやごとってなんだったの?」

僕は明日、朝日を迎えることができるのだろうか……。


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