長編版・不能の公爵令息は婚約者を愛でたい(が難しい)

たたら

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43:子爵令息の受難・2

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 また振出しに戻ってしまった。

「あかちゃんはどうやって生まれるの?」

という質問と

「閨事ってなに?」

という質問は同じではなかった。

正直に言うと、同じ意味だと
受け取って欲しかった。

サイラスを横目で見ると、
すい、っと目だけが横に動く。

幼馴染だからわかるが、
これは拒否の意味だ。

俺には無理、と言っているのだろう。

もちろん、僕にも説明は無理だ。

閨の授業は各々、家で行われる。

やりかたはその家それぞれだろうし
どこまで教わるかは
その家の家長の判断になる。

僕やサイラスのような
下級貴族は知識だけ教えられて
それで終わりだが、
高位貴族ともなれば、
実地で教える家庭教師を
つけることもあると聞く。

同性婚でも異性婚でも
問題が起こらないように。

ということらしいのだが、
その高位貴族のエレ様が
何も教わっていないのだ。

それこそ僕たちのような
下級貴族に普及されている
本すら読んだことが無いと
言うのであれば、
それはバーンズ侯爵家が
総力を持ってから
エレ様を遠ざけていたとしか考えられない。

そういえば、エレ様はさっき
ヴァレンティーナ女史にも
同じ相談をしたようなことを言っていたが。

これを女性に相談するあたり、
エレ様は本当に何も知らないというか、
それとも相談に乗ったと言う
ヴァレンティーナ女史に
敬意を払うべきというか。

「エレ様、こういうのって」

サイラスが沈黙に耐え切れなくなったのか
急に話し始めた。

「好きな相手としかダメって
教わったんで」

何を言ってんだ、と
僕は思わず肘でサイラスを小突いた。

今は行為以前の問題だろう。

「好きな相手としか?
うーんと、
ねやごとって、なにか
好きな人と一緒にすることなの?」

ほらみろ、エレ様が妙な関心を
持ったじゃないか。

サイラスは自分の失言に
気が付いたのか、顔が真青になる。

「え、エレ様、そう、その
閨事に関しては、えっと……
好きな相手以外と話しを
してはならないって言われてるんです」

僕はサイラスに助け舟を出す。

咄嗟に言ってしまったが、
これは良い案ではないだろうか。

「そうなの?」

素直なエレ様は首を傾げるが
疑う素振りはない。

「そうなんです。
僕やサイラスも、閨事と言う
言葉は知ってるんですが、
その意味はまだ知らなくて。

好きな相手や
婚約者ができたら、
その時に学ぶらしいですよ」

僕の言葉に、サイラスも
ぶんぶん、と首を縦に振っている。

「そうなんだ。
じゃあ、二人にはまだ
婚約者はいないの?」

「「はい」」

大きく頷くと、
エレ様は納得したみたいだ。

「そうなんだ。
じゃあね、僕がねやごとに
ついて何かわかったら
二人にも教えてあげる」

と、にこにこして言われたが
さすがに僕もサイラスも
頷くわけにはいかない。

そんなことになったら
命がいくつあってもたりないだろう。

背中に冷たい汗が流れた。

「あ、そうだ。あとね」

まだあるの!?

僕は身構える。

「今度、僕の家に遊びに来て?
あと、二人の家にも
遊びに行きたい」

冷たい汗が額からも流れ落ちた。

「え? え?
俺、侯爵家に招待されてんの?

しかも俺のあのオンボロ屋敷に
エレ様が来るってことか?」

小さな声でサイラスが呟いている。

「ダメ?」
と小首をかしげる姿は
可愛らしいとは思うけれど、
僕たちに頷く権利はない。

「あとね、あとね。
一緒に遊びに行きたい。

兄様はもっと元気にならないと
屋敷の外に出たらダメっていうけど、
僕はもう大丈夫だと思うんだ」

侯爵家に逆らってまで
エレ様を連れ出したら
僕やサイラスはどうなってしまうのだろう……。

遠い目をしてしまうが、
エレ様はキラキラした瞳で
楽しそうに僕とサイラスと
遊ぶ計画を話している。

閨事は誤魔化せた。

だが、遊びに行かない、なんて
エレ様に言えるわけがない。

どうする?
どうすればいい??

サイラスを見ると、
「うちに来るんじゃなくて
街に遊びにでかけるんなら
大丈夫か」なんて呟いている。

バカか。
高位貴族のご子息を
しかも体が弱い
エレ様を連れまわせるもんか。

焦る僕の横でサイラスは
「待てよ、
人混みはダメか?
じゃぁ、俺の領地の
湖とかなら……」
などと呟いている。

が。

誰がお前の領地の
あのちっぽけな湖を見て
喜ぶんだよ。

あれはな、湖じゃなくて
池っていうんだ。

カエルが数匹いるだけじゃないか。

僕とサイラスの領地は
隣同士しだから互いのことを
良く知っている。

僕の領地も似たような物だが
サイラスの領地だって、
何も無いただの田舎だ。

池と、牛と、畑しかない、
何も無い場所だ。

そんなところにエレ様を
連れて行ってみろ。
大騒ぎになる。

いや違う。
問題はそこじゃない。

焦って考えがまとまらない。

良く僕は考えすぎるから
騎士には向いてないって
兄に言われるけれど、
考え無しで動くなんて真似、
サイラスじゃあるまいし
僕にはできない。

でも僕は兄を尊敬してるから
騎士を目指している。

「ねぇ、ライリー」

エレ様が僕を呼ぶ。

「じゃあね、兄様に
招待状を送ってもらうね。
サイラスにも」

「え?」

「は?」

「ティーナのときはね、
ティーナが僕の兄様に
招待状を送ってくれたんだよ。

だから今度は僕が
二人に招待状を
送ればいいんでしょ?」

あて名は二人の名前でいいの?
やっぱりお父さんの名前?

なんて言われて俺もサイラスも固まった。

『よろしく頼む』の一文が
書かれた手紙でさえ、
大騒ぎになったのだ。

それがバーンズ侯爵家への
招待状だなんて……。

俺もサイラスも真青だ。

だが、断ることなんかできないし、
ちょっとだけ。

ほんのちょっとだけ、
侯爵家の屋敷というのを
見てみたい気もある。

僕たちが明確な返事ができない状態で、
エレ様はどんどん話を進めた。

どうする?
どうする?

と僕とサイラスは視線を合わせるばかりだ。

そうこうしていると、
特別科目の授業が終わる合図が鳴る。

「もう終わりの時間だ」

あっと言う間だよね、なんて
エレ様は笑う。

そして相談に乗ってくれてありがとう、
と、僕とサイラスの手を握ったけれど。

結局エレ様は僕とサイラスの様子を見て
どのように結論付けたのか、
まったくわからなかった。

ただ、閨事の話しだけは何とか誤魔化せた。

それだけは、バーンズ侯爵家の
方々に胸を張って言えると思う。

本当にそれだけは褒めて欲しい。

僕は笑顔で手を握ってくる
エレ様になんとか笑顔を返すと、
「じゃあ、教室に戻りましょう」と
立ち上がった。

物凄く疲れた気がする。

「エレ様、この後はどうするんだ?」

僕は疲れていたが、
サイラスは疲れも見せずに言う。

「僕は……どうしようかな」

授業は休憩を挟んで、あと1時間ある。

午後からの授業は2時間あるのだ。

「良かったら食堂でのんびりしません?
今の時間だったら空いてるだろうし、
俺、なんか腹へってきちゃって」

さすがサイラスだ。
気疲れを空腹と勘違いしてるのか?

「ほんと?
行く、一緒に行く」

とエレ様は楽しそうだ。

食堂は学院が開いている間は
いつでも使用できる。

なので使用するのは問題ないが、
僕たちは授業をサボっているのだ。

そのことに気が付いているのだろうか。

そうは思ったけれど、
エレ様も行く気みたいだし、
僕は反対意見を飲み込んだ。

結局僕は、エレ様の味方で、
エレ様を守らないとだめなわけだし。

「よし、じゃあ行くか」

立ち上がったエレ様の下から
サイラスは上着を掴むと、
埃が付いたままの服を
払うことなく着た。

こういう大雑把なところが
騎士には必要なのかもしれない、と
僕はこっそり思う。

エレ様は、そのまま着るの?
と目を丸くしていたが
「どうせ汚れるんで」と
サイラスは言う。

騎士には図太い神経も
きっと必要なんだろうな。

僕はそんなことを思い、
ため息をついた。









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