長編版・不能の公爵令息は婚約者を愛でたい(が難しい)

たたら

文字の大きさ
45 / 132

44・不穏な話

しおりを挟む
 僕は学院から帰ると、
セバスチャンにサイラスと
ライリーの話をした。

二人を屋敷に招待したいことと、
二人と遊びに行きたいこと。

あと長期休みが始まったら
二人の領地にも遊びに
行ってみたい。

僕がわくわくして話をすると
セバスチャンは大きく頷き、

「それまでにもう少し
体調を整えた方がよろしいですな」

では、今日の夕食はニンジンを
多めにお出し致しましょう。

なんて言う。

いいけど。
いいんだけどね。

 僕はちょっとふてくされて
アンナの淹れてくれた紅茶を飲むことにする。

自分の部屋で飲んでもよかったんだけど
今日は大きな窓があるサロンで
紅茶を飲むことにした。

ソファーもテーブルもあるけど、
僕は毛の長いラグの上に、
そのまま座るのがお気に入りなのだ。

アンナは紅茶をテーブルに置いたけれど、
僕はすぐそばのラグの上に座った。

横にはクッションが沢山あって、
僕はそれで心地よい場所を自分で作る。

以前、母がそんな僕を見て
「まぁ、リスが巣作りをしているみたいね」
なんて笑ったけれど。

気分は似たようなものだと思う。

クッションを重ねて、
僕はその上に座った。

さて。
紅茶を飲もう、と思った時、
部屋にノックの音がする。

「どうしたの?」

アンナが扉を開けると
セバスチャンが立っていて、
その後ろから見慣れた侍従が入って来た。

彼は兄様付きの侍従で
いつもは兄様と一緒に
王宮に行っている筈なのに。

驚く僕の前で
侍従は跪いて手紙を差し出した。

「兄君様からでございます」

「兄様から?」

兄がわざわざ職場から
手紙を送ってくるなど
初めてで僕は驚いた。

すぐに手紙を開けようとしたら
アンナがペーパーぺーナイフを
差し出してくれる。

それを受取り僕は
手紙の封を開けた。

手紙には、第二王子殿下の
集団見合いの際に、
毒入りの紅茶が発見された、
と簡潔に書かれてある。

その紅茶が見つかった時、
その場にたまたま
第二殿下の見合の様子を
確かめに来ていた王太子殿下もいた。

つまり、その毒は、
見合いに参加していた
令嬢たちの誰かを狙ったのか、
それとも王太子殿下を狙ったのか。

やはり第二王子殿下を狙ったのか
相手の狙いがまったく
わからない状態らしい。

毒を飲んだ女性は
すぐに異変に気が付いて
吐き出したから、
命の別状はないらしいが

事情聴取のため令嬢たちは
王宮から出ることも叶わず、

兄も、ガイも、当分は
王宮で寝泊まりをするらしい。

手紙には当分、屋敷には
戻ることができないこと、
そして貴族学院は休むように、
と書いてある。

休むのは嫌だな、と
僕は思ったのだけれど。

手紙の最後のところに、
事件について兄の考察が
書かれてあった。

今回の件は公にしないものの
高位貴族の誰がが
狙われた事件だ。

恐らく犯人が捕まるまでは
貴族学院も休校になるだろう。

また今回の犯行は
無差別に高位貴族を
狙った可能性もある。

もし貴族同士の派閥の摩擦で
毒が仕込まれたと言うのであれば、
貴族子女が通う学院の生徒が
次に狙われる可能性がある。

貴族子女が人質にでも取られたら
それこそ大変なことになるから
遅かれ早かれ数日中には
王家から貴族学院の休校が
指示されるはずだ、と。

そう言ったことから、
明日から当分の間、
貴族学院は休みなさい。

と書かれた手紙を読み終え、
僕は思わず口を尖らせた。

ぐうの音も出ない
言葉の羅列に
どうしても拗ねたくなる。

だって兄もガイも当分
会えそうにないのに、
学院にも行けないなんて。

でも僕のわがままで
学院の休校を止めることが
できるはずもない。

明日はみんなで楽しく
遊ぶ計画をしたかったのに、
僕は物凄く残念な気持ちになった。

でも普段何もしなくても
僕は兄たちに心配ばかり
かけているのに、
こんな時に出かけたいとか
我が儘を言えるわけがない。

僕は物凄くしょんぼりした。

どれぐらい、しょんぼり
だったかというと、
夕ご飯で食べることが
出来た量がいつもの
半分ぐらい。

いつも食後は食欲が無くても
デザートだけは食べるけど
それも食べれなかった。

セバスもアンナも
心配そうに僕を見るけど
だって食べたくないんだもん。

僕はしょんぼりのまま
お風呂に入って、
アンナに髪を洗って貰って。

そのままベットに入った。

僕のベットにはうさぎさん。

そのうさぎさんの腕には
ガイにそっくりな獅子の子がいる。

僕がうさぎさんごと
獅子の子をぎゅーってする。

最近、全然ガイと会えてない気がする。

そう思って前にいつ
ガイと会ったんだっけ、
って考えたら、
つい先日、会ったばかりだった。

ドレスを着た日は
抱っこして連れて
帰ってもらったわけだし。

でも僕にとっては、
物凄く長い間
会ってなかったように思える。

だって、会えなくて寂しいし、
今すぐにでも会いたい。

それに……

僕はそっと指で唇に触れた。

ふに、っとした感触に、
ガイと重なった唇を思い出す。

僕はなんだか体が
熱くなってきて、
シーツに潜った。

小さい頃から、キスは
いっぱいしてきたし、
されてきた。

頬へのキスは兄に
いつもしていたし。

兄だって、両親だって
僕の頬や頭にしょっちゅう
キスしてた。

母に「キスは大好きってことよ」
って教えて貰ったから
僕はキスをすることが
当たり前みたいに思ってた。

でも。
そんな「大好き」に囲まれてた
僕だけど。

唇へのキスは初めてだった。

同じキスなのに。
兄や両親とは全然違った。

胸が熱くなって、
恥ずかしくって。

でも、もっと触れて欲しくなった。

そんなの、兄とのキスじゃ思わない。

「これがアイシテルってこと、かな」

口に出すと、またまた顔が熱くなる。

ティーナから借りた恋愛小説では
最後に「愛してる」って言って
主人公が好きな人と唇に
キスをして終わるんだ。

これがハッピーエンドなら、
僕とガイも、小説だったら
両想いのハッピーエンドって
ことだよね?

僕は物語の人物ではないので、
エンドじゃなくて、
まだこうして人生は
続いているけれど。

「両想いでハッピーエンド」

ホントにそうだったら嬉しいな。

ううん。
絶対そうだ。

だってガイは僕のこと
愛してるって言ってた。

僕も……大好きって思ったけど、
この気持ちはきっと
アイシテルだったんだ。

あの時僕も、
アイシテルって言えば良かったな。

大好きっていつも言ってるから、
つい口から出ちゃったんだ。

ガイには僕の気持ち、
ちゃんと伝わったかな。

いつも言ってる大好きじゃなくって、
アイシテルって意味だったんだよって、
伝わってるかな?

伝わって無かったら嫌だな。

早くガイに会って
僕の気持ちを伝えたい。

しょんぼりだった気分が
ガイとのことを思い出して
物凄く高揚したのに、
一気にまたしょんぼりに戻る。

そんなことをしていたからだろうか。

僕は翌朝、熱を出してしまい、
貴族院が休校するとか関係なく、
寝込んでしまった。





しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由

スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの二人は、スキルを得た事で魔王討伐に旅立つ勇者と彼の帰還を待つだけのただの親友となる。 勇者と親友の無自覚両片想いのじれったい恋愛の物語。

聖女を演じた巻き添え兄は、王弟殿下の求愛から逃げられない

深嶋(深嶋つづみ)
BL
谷口理恩は一年ほど前、妹と一緒に異世界に転移してしまった。 聖女として魔術の才を開花させた妹・世奈のおかげもあって、二人はアルゼノール王国の大教会に保護され、不自由のない暮らしを送ることができている。が、最近は世奈の奔放さに理恩は頭を抱えることもあった。 ある日、世奈の仕事を肩代わりした理恩は、病に臥せっている幼い第二王子・イヴァン王子のもとに参じることに。 ――「僕が大人になったら、僕の妃になってくれませんか」。 何度も謁見を重ねるうちに理恩に懐いた彼は、目の前の聖女が偽者であることに気付かぬまま、やがて理恩に求愛する。 理恩は驚き、後ろめたい気持ちを抱きながらも、「大人になっても同じ気持ちでいてくれたなら」と約束を交わした。 その直後、何者かの陰謀に陥れられた世奈の巻き添えとなり、理恩は辺境の地へと飛ばされてしまい……。 ――数年後、アルゼノール王国を出て世界中を巡っていた理恩は、とある国で偶然、王弟・イヴァンと再会する。 傷心の旅をしているのだという彼は、どういうわけか理恩との交流を持ちたがって――?

「地味な婚約者を捨てて令嬢と結婚します」と言った騎士様が、3ヶ月で離婚されて路頭に迷っている

歩人
ファンタジー
薬師のナターリアは婚約者の騎士ルドガーに「地味なお前より伯爵令嬢が ふさわしい」と捨てられた。泣きはしなかった。ただ、明日から届ける薬が 一人分減るな、と思っただけ。 ルドガーは華やかな伯爵令嬢イレーネと結婚し、騎士団で出世する——はずだった。 しかしイレーネの実家は見栄だけの火の車。持参金は消え、借金取りが押し寄せ、 イレーネ本人にも「稼ぎが少ない」と三行半を突きつけられた。 3ヶ月で全てを失ったルドガーが街角で見たのは、王宮薬師に抜擢された ナターリアが、騎士団長と笑い合う姿だった。 「なあ、ナターリア……俺が間違っていた」 「ええ、知ってます。でも、もう関係のない話ですね」

薄紅の檻、月下の契り

雪兎
BL
あらすじ 大正十年、華やかな文明開化の影で、いまだ旧き因習が色濃く残る帝都。 没落しかけた名家に生まれた“Ω(オメガ)”の青年・白鷺伊織は、家を救うため政略的な「番(つがい)」として差し出される運命にあった。 しかし縁談の相手は、冷酷無慈悲と噂される若き実業家であり“α(アルファ)”の当主・九条鷹司。 鉄道・銀行事業で財を成した九条家は、華族でもありながら成り上がりと蔑まれる存在。 一方の伊織は、旧華族の矜持を胸に秘めながらも、Ωであるがゆえに家族から疎まれてきた。 冷ややかな契約婚として始まった同居生活。 だが、伊織は次第に知ることになる。 鷹司がΩを所有物としてではなく、一人の人間として尊重しようとしていることを。 発情期を巡る制度、番契約を強制する家制度、そして帝都に広がる新思想。 伝統と自由のはざまで揺れながら、二人は「選ばされた番」から「自ら選ぶ伴侶」へと変わっていく——。 月明かりの下、交わされるのは支配ではなく、誓い。 大正浪漫薫る帝都で紡がれる、運命を超える愛の物語。

遊び人殿下に嫌われている僕は、幼馴染が羨ましい。

月湖
BL
「心配だから一緒に行く!」 幼馴染の侯爵子息アディニーが遊び人と噂のある大公殿下の家に呼ばれたと知った僕はそう言ったのだが、悪い噂のある一方でとても優秀で方々に伝手を持つ彼の方の下に侍れれば将来は安泰だとも言われている大公の屋敷に初めて行くのに、招待されていない者を連れて行くのは心象が悪いとド正論で断られてしまう。 「あのね、デュオニーソスは連れて行けないの」 何度目かの呼び出しの時、アディニーは僕にそう言った。 「殿下は、今はデュオニーソスに会いたくないって」 そんな・・・昔はあんなに優しかったのに・・・。 僕、殿下に嫌われちゃったの? 実は粘着系殿下×健気系貴族子息のファンタジーBLです。

断罪回避のために親友と仮婚約したはずが、想像以上に執着されていた。

鷲井戸リミカ
BL
ある日アーサーは、自分がネット小説の世界に転生していることに気が付いた。前世の記憶によれば親友のフェルディナンドは、悪役令息という役割らしい。最終的に婚約者から婚約破棄され、断罪後は国外追放されてしまうのだとか。 大事な親友が不幸になるのを見過ごすわけにはいかない。とにかく物語の主人公たちから距離をとらせようと、アーサーはフェルディナンドを自分の婚約者にしてしまった。 とりあえず仮婚約という形にしておいて、学園を卒業したら婚約を解消してしまえばいい。そう考えていたはずがアーサーのとある発言をきっかけに、フェルディナンドの執着が明らかになり……。 ハッピーエンドです。

黒獅子の愛でる花

なこ
BL
レノアール伯爵家次男のサフィアは、伯爵家の中でもとりわけ浮いた存在だ。 中性的で神秘的なその美しさには、誰しもが息を呑んだ。 深い碧眼はどこか憂いを帯びており、見る者を惑わすと言う。 サフィアは密かに、幼馴染の侯爵家三男リヒトと将来を誓い合っていた。 しかし、その誓いを信じて疑うこともなかったサフィアとは裏腹に、リヒトは公爵家へ婿入りしてしまう。 毎日のように愛を囁き続けてきたリヒトの裏切り行為に、サフィアは困惑する。  そんなある日、複雑な想いを抱えて過ごすサフィアの元に、幼い王太子の世話係を打診する知らせが届く。 王太子は、黒獅子と呼ばれ、前国王を王座から引きずり降ろした現王と、その幼馴染である王妃との一人息子だ。 王妃は現在、病で療養中だという。 幼い王太子と、黒獅子の王、王妃の住まう王城で、サフィアはこれまで知ることのなかった様々な感情と直面する。 サフィアと黒獅子の王ライは、二人を取り巻く愛憎の渦に巻き込まれながらも、密かにゆっくりと心を通わせていくが…

拗らせ問題児は癒しの君を独占したい

結衣可
BL
前世で限界社畜として心をすり減らした青年は、異世界の貧乏子爵家三男・セナとして転生する。王立貴族学院に奨学生として通う彼は、座学で首席の成績を持ちながらも、目立つことを徹底的に避けて生きていた。期待されることは、壊れる前触れだと知っているからだ。 一方、公爵家次男のアレクシスは、魔法も剣術も学年トップの才能を持ちながら、「何も期待されていない」立場に嫌気がさし、問題児として学院で浮いた存在になっていた。 補習課題のペアとして出会った二人。 セナはアレクシスを特別視せず、恐れも媚びも見せない。その静かな態度と、美しい瞳に、アレクシスは強く惹かれていく。放課後を共に過ごすうち、アレクシスはセナを守りたいと思い始める。 身分差と噂、そしてセナが隠す“癒やしの光魔法”。 期待されることを恐れるセナと、期待されないことに傷つくアレクシスは、すれ違いながらも互いを唯一の居場所として見つけていく。 これは、静かに生きたい少年と、選ばれたかった少年が出会った物語。

処理中です...