長編版・不能の公爵令息は婚約者を愛でたい(が難しい)

たたら

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53:楽しみな約束

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 僕は兄の膝の上で
紅茶を飲み、
兄にサンドイッチを
食べさせてもらっている。

兄に、昼食を食べながら
話を聞けばいいと言われ、
僕は口をもぐもぐしながら
兄とガイの話を聞いた。

 僕とガイの婚約式は
僕が社交界にデビューを
してからだと言っていたし、
僕のデビューはまだ先のはずだった。

けれど今回、王宮で
起こった事件で
貴族社会の勢力図が
大幅に変わる可能性があるみたい。

そうなると、未婚である
僕やガイが他の貴族子女たちに
狙われる可能性があるし

僕たちの婚約に
横やりを入れる者たちも
出てくるかもしれないという。

だからとにかく婚約の
書類だけでも提出して
ガイとの婚約を成立させいと
兄はいう。

婚約式は身内だけでしても構わないし、
むしろ、デビュタント前に
婚約を成立させたいと
兄は強く僕に言った。

「婚約式は身内だけのつもりだが、
エレが呼びたい友人がいれば
その者たちだけは呼んでも構わない」

「ほんと?
じゃあ、ティーナたちを
呼んでもいい?」

もちろんだ、と兄はうなずく。

「ガイは?
ガイもそれでいいの?」

僕との婚約が早まるけど大丈夫?

「もちろん、できるだけ早く
エレを俺のもの……

いえ、
可愛い天使を守る栄誉を
できるだけ早く手に入れることができるのは、
何よりの喜びです」

ガイは勢いよく同意の言葉を
告げてくれたと思ったけれど、

途中で勢いを無くして
ちらちら兄を見ながら
声を固くする。

「いい心がけだ、では
ガイディス・ブレイトン。

私の可愛い天使を
生涯、守り抜くと誓うがいい」

「はい、命に代えましても」

と、僕の婚約の話なのに、
兄とガイの間で話がまとまってしまう。

いいけど、僕、のけ者になってない?

「どうした? エレ。
頬が膨らんでるぞ」

兄の指が僕の頬をつつく。

「だって、兄様もガイも、
僕をのけ者にするんだもの」

「そんなつもりはない。
だが、兄を独り占めできずに
拗ねたのか?

相変わらずエレは可愛いな」

よしよし、って頭を撫でられ
僕は、まぁそれでいいか、って思う。

「婚約式に関しては、
私がブレイトン家と話し合い、
決めておく。

エレは体調を調えて
可愛い笑顔を見せてくれればいい」

ほんとにそれれいいのかと
ガイを見たけれど、
ガイは大きくうなずく。

なら、全部兄に任せてもいいかな。
いままでも、そうだったもの。

ほんとはこうして
兄が僕を甘やかすから、
僕は何もできない役立たずに
なってしまうんだけど。

でも僕が役立たずだと
兄は喜ぶから。

それに、兄は僕よりも先に
結婚してしまう。

結婚したらこの屋敷から
出て行ってしまうんだ。

そう思うと、
今のうちに兄に甘えて、
兄を喜ばせたいとも思う。

「エレ」

兄は僕を膝からおろした。

「もう少しだけ、
私の可愛い弟でいてくれ」

その言葉に、
兄は僕の気持ちに
気が付いているのかもしれないと思った。

僕が成長したいと思ってることも、
兄の前で、わざと役立たずに
なっていることも。

でも。

「僕はずっと兄様の弟ですよ。
兄様が結婚しても、
僕がガイと結婚しても」

「そうだな」

兄は少し笑って、
ソファーから立ち上がる。

「さて、私の話はこれだけだ。
私はこれから用があるので
外出するが」

ちらり、と兄はガイを見る。

「エレの体調を鑑みてから
外出の許可を出す。
わかっているが、無理はさせるな」

ガイは立ち上がり「もちろんです」と
敬礼をした。

「エレ、夕食までには戻る。
いい子にしておいで」

「はい、兄様」

僕の返事に兄は満足したように
セバスチャンに合図をして
部屋を出て行く。

その後をセバスチャンが追い、
サロンには僕とガイと
アンナだけが残った。

「ぼっちゃま、
新しいお茶をお淹れ致しましょうか?
それとも、デザートをお持ち致しましょうか」

テーブルにはまだまだ
サンドイッチや焼いたチキンが残っている。

そういえば、兄は僕には
サンドイッチを食べさせたけど、
自分は全然食べていなかった。

兄の前に座っていたガイも、
なぜか料理に手を付けていない。

「ガイ、おなか、すいてなかった?」

「い、いや、そんなことはない。
むしろ、空きすぎているぐらいだ」

テーブルの上のものを
すべて食べることができそうだと
ガイが言うので、僕はアンナに
デザートをお願いした。

僕はかじりかけのサンドイッチを
食べ終わったらもうおなか一杯になりそうだ。

ガイはアンナにお茶のお代わりを
淹れてもらいつつも、
どんどん、サンドイッチやチキンを
食べていく。

本当におなかが空いていたみたい。

なら、なんで食べなかったの?
と聞いたら、

「団長の前では緊張してな」
という。

「団長にエレとの婚約を
ここにきて破棄されるのかと
生きた心地がしなかった」

なんていうけど、
兄はそんなことしないと思う。

だって僕がガイを大好きなんだもの。

兄は僕が好きなものを
僕から取り上げたりはしない。

今までだって、
僕が可愛いといったぬいぐるみも、
レースのリボンも、
真っ赤なお花も、
兄は全部僕に譲ってくれた。

僕がそういうとガイは
「それは団長の趣味じゃなさそうだし」
とむにゃむにゃ小声で何やらつぶやき

「団長がエレが好きなものを
排除しないのなら、
俺がエレに好かれ続ければ
一生一緒にいることができるってことだな」

と、言ってくれた。

僕は嬉しくて「うん!」って大きくうなずく。

アンナがデザートを持ってきたときは、
僕はガイの隣に座って、
これからの話を沢山した。

もちろん、騎士団の見学の話だ。

ガイが言うには、
ライリーもサイラスも
家族に騎士がいるので
一緒に見学に来てもいいらしい。

そんなの嬉しすぎる!

それから、婚約式の後、
学院が長期休暇に入るので
体調が良ければ、
ブレイトン公爵家か、
バーンズ侯爵家の避暑地、
もしくは領地に行かないかとも誘われた。

僕の体調によってどこに行くかは
考えるけれど、
まずは近い場所から
外に出る練習をした方が良いと
兄とガイで話し合ったらしい。

今後は僕がバーンズ侯爵家を
継ぐのだから、

今までみたいに
ただ屋敷の中にいるだけでは
ダメだと、第二王子殿下から
指摘されたそうだ。

確かに僕は長時間、
馬車に乗ったこともないし、
社交界も初めてだし。

デビュタントどころか、
子ども同士のお茶会にも
参加したことがないから、
練習は必要だと思う。

でも、旅行だって。

考えただけでも僕はわくわくだ。

僕がこの屋敷を出て
遠くに遊びに行くなんて
今まで考えたこともなかった。

僕はガイに出会えて、
本当に良かったと思う。

ガイと出会わなかったら、
僕はずっと学院でも
友達ができないまま、
屋敷に閉じこもっていただろう。

だからね。

「ガイ」

「なんだ?」

「大好き」って僕が言うと、
ガイは、カーっと顔を赤くして。

「俺もだ」って、
アンナに聞かれないように、と
僕の肩を引き寄せて、

耳元で「アイシテル」って囁いた。


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