長編版・不能の公爵令息は婚約者を愛でたい(が難しい)

たたら

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71:侍女の功績

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 アンナの不可解な行動から
3日後、僕が寝支度を
していたら、兄が部屋にやってきた。

アンナにはもう下がってもらっていて、
僕はお水を飲んで
あとはベットに入るだけの状態だった。

「兄様、どうしたの?」

「寝るところだったか、
すまない。
帰宅が遅くてエレと
夕食を共にできてないな」

「ううん、大丈夫。
でも兄様、最近ずっと
帰りが遅いからちょっと心配」

僕は兄の手を引いて、
自室のソファーに座らせた。

兄の手は冷たくて、
帰宅して着替えてすぐに
僕のところに来てくれたんだと思う。

僕は兄の顔が見えるように
膝ではなくて兄の隣に座った。

「婚約式の日取りが決まった。
お前の衣装など細かなことは
義母とブレイトン公爵夫人が
手を貸してくれることになる」

「母さまが?
領地から出てきてくれるの?」

「あぁ、1週間後には
父と一緒にこの
タウンハウスに戻るだろう」

僕はそれを聞いて嬉しくなる。

「あと、義母がな、
ブレイトン公爵夫人と
手紙のやりとりを
していたらしくてな。

そこで、婚約式の後、
ブレイトン公爵家の別荘に
お前を招待したいと
言っているらしい。

俺は正直、あまり
好ましくないとは思うが、
義母が乗る気でな。

お前が行きたいと
言うのであれば許可を
しようと思っている」

凄い!
僕はまだ兄にお願いすら
できていなかったのに!

神様って本当にいるのかも!

神様が母様に僕が
ガイの別荘に行きたいから
手を貸してあげて、って
言ってくれたのかな?

そうじゃなと、
母様が僕の別荘行きの
ことを知ってるわけないもん。

「行きたい、兄様。
僕、行ってみたい」

「そう、か。
お前が行きたいのなら
仕方がない。

だが、当家からも
侍女は連れて行くように。

旅行に関しても
義母が取り仕切ってくれるそうだ」

「そうなんだ。
兄様、ありがとう!」

僕はすわったまま、
兄の腰に抱き着く。

「あぁ、それと。
相談されていたお前の
友達の件だがな」

兄は僕の髪をゆっくりと撫でる。

「紹介状を送っておいた。
エレの婚約式の出るのに
ふさわしい服を
仕立てるように、
店にも伝えてある。

金額は無償とは言わんが、
貧乏な男爵家でも
購入できる程度の
金額を提示するよう指示している。

あの二人は子爵位だったな。
ならおそらく大丈夫だろう」

「わぁ、ありがと!」

ライリーもサイラスも
僕の婚約式の話を聞いて
急に不安になったみたいだった。

ティーナに王宮で
作法や婚約式で
何をするのかと
何度も繰り返し聞いて、
毎日叱られている。

それに当日の服も、
どんな服で行けばいいのか
わからないし、何より、
新しく仕立てる資金も
安く仕立ててくれそうな
店も知らない、と
言っていた。

ティーナもさすがに
紳士服に関しては
よくわからない様子だったから
僕が兄に、どこか良い店がないか
聞いてみたんだ。

そしたら兄は
「金も時間も気にしなくていい
良い店を知っている。
あとで友人たちの家に
店への紹介状を送っておく」
って言ってくれた。

きっとその手配が終わったんだ。

「兄様は、本当に
何でもできてすごい!

カッコイイし、
頼りになるし、
僕の自慢に兄様です」

ぎゅう、って抱き着いて
膝の上で顔をぐりぐりすると
兄は笑った。

「俺はエレのためなら
なんでもできるからな」

優しく髪を撫でられ、
僕は、うん、っていう。

でも、だんだん僕は
気が付いてきてるんだ。

僕はこの屋敷の中で
こうやって兄に守られて。

傷つくこともなくて
なんでも受け入れてもらえて。

優しい優しい場所で
生きてきた。

皆が僕のために動くのは
当たり前だったし、
感謝はしたけれど、
その願いが叶わないなんて
思ったことなかった。

僕は何もかも、
やってもらって当たり前で、
何かを返そうなんて
思ったこともない。

でも、それじゃダメだよね。

最近学び始めた教典にも
載っていた。

当たり前のこと過ぎて
なんでこんなことを
わざわざ教典に書くのだろう、
って思っていた中に、
書いてあった。

『嬉しいことを
してもらったら、
その人に、嬉しいことを
返してあげよう。

その人に返すことが
できなかったら、
また別の人に、
手を差し伸べてあげよう』

これは僕が考えている
当たり前のこと、
『人のものは盗まない』
と同じところに書いてあった。

つまり同じぐらい
当たり前のことなんだと思う。

僕はその当たり前を
全く知らずに生きてきたわけで。

「兄様」

「なんだ?」

「僕ね、兄様が大好きで、
兄様が僕のために
沢山、嬉しいことを
してくれるから。

僕も兄様に何かしたい。
僕が兄様にしてあげられること、
なにかない?」

顔をあげて兄を見ると、
兄は驚いた顔をしている。

「エレも、成長したんだな」

しみじみ言われると、
ちょっと恥ずかしい。

「俺は可愛いエレが、
今のまま、幸せで
楽しく過ごしてくれれば
それが一番嬉しい」

「そんなのはダメ、
何かして欲しいこと言って?」

僕は兄の膝に両手をつき、
兄の顔を覗き込む。

「そうだな。
では、こうしよう。

今は無理だが、
俺の仕事が落ち着いたら
俺とも旅行に行ってくれないか。

エレの体調が良い時で構わない。

バーンズ侯爵家も
保養地は幾つか持っている。

別荘の窓から
美しい湖が見える景色を、
いつかエレにも
見せたいと思っていた」

湖に沈んでいく夕日を
別荘の大きな窓から
見るのは格別なんだと兄は言う。

「行く!
行きたい!」

何それ、絶対に見たい!

飛び上がる僕を抱きとめ
兄は僕の背中を
ぽんぽんとたたいた。

「さぁ、話は終わりだ。
寝る前にすまなかったな」

「ううん、兄様、ありがとう」

兄は僕の頬にキスをした。

「おやすみ、
可愛いエレ」

「おやすみなさい、兄様」

兄は部屋を出て行ったけど、
僕はわくわくすぎて
なかなか眠れそうにない。

ベットに入っても、
頭の中はいまから起こる
楽しそうな出来事でいっぱいだった。

婚約式に、ガイとの旅行。
それから兄と湖畔の別荘!

楽しすぎる!

明日学院に言ったら、
ライリーとサイラス、
ティーナにも自慢しなきゃ。

ううん、そうだ。
ライリーとサイラスに
仕立て屋さんのことを
言っておこう。

いきなり紹介状が
届いたら驚くかも、だし。

そうだ。
ティーナのドレスの話も
ちゃんと聞かなくっちゃ。

前、ティーナが
僕の婚約式で着る
ドレスの話をしてくれてたのに

急に迎えが来て
僕は話の途中で帰ってしまったんだ。

それからアンナにも
旅行に行くよ、って言わないと。

アンナに……そうだ、
神様はいるんだよ、って言おう。

神様が母様に伝えてくれて、
兄に許可をもらってくれたんだ。

旅行にはアンナも一緒に
行こうね、って言わなくっちゃ。

それから……
それから……

僕はたくさん
考えていたけれど、

考えすぎて疲れたのか、
いつのまにか眠ってしまった。


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