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84:宿場町
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宿場町と言っても
宿屋ばかりあるわけではない。
旅する者のために、
食事処や、お土産屋など
多くの店がこの町にはある。
俺はエレミアスを連れて
宿屋を出た。
ケインと、公爵家の
護衛が数名、
後からついてきている。
アンナは宿に置いてきた。
護衛がいるとはいえ、
夜に女性がうろつくのは
やはり良くないからだ。
アンナは不本意だったらしく
ものすごく睨まれたが、
仕方がないだろう。
万が一の場合、
護衛対象は少ない方がいい。
とはいえ、
この町は王都から
さほど離れていないため、
宿場町の中では、
治安が良いとされている。
また大きな町ではないため、
エレミアスでも一人で
町の端から端まで
歩けるくらいの大きさだ。
そう考えると、
女性のアンナには
控えておけと言ったが、
エレミアスの初めての町歩きには、
ちょうど良い場所だと思う。
エレミアスは花屋を見ては
「花が売ってる」と驚き、
食べ物の屋台を見ると、
「立って食べてる」とまた驚く。
エレミアスにとっては、
花は屋敷の庭にあるもので、
購入するものではないらしい。
もちろん、立って食べる屋台も
見るのは初めてだろう。
エレミアスは屋台の前で
「僕も食べる」と言い出したが、
それは全力で止めた。
エレミアスは可愛らしく
唇を尖らせて不満な顔をしたが、
屋台の食事は正直、
慣れないうちはおススメできない。
焼いた肉は固いし、
味がやたらと濃かったりする。
慣れている平民や
普段から体力を使う者、
労働者であれば、
味が濃いものを好むが、
エレミアスの胃が
それを受け付けるかどうかわからない。
俺はエレミアスに
味の保証ができないことと、
ここで体調を崩したら、
王都に逆戻りだと伝えて、
なんとか諦めさせた。
ただ、旅の帰りであれば
王都に近いし、
屋台に寄っても構わないと
言うと、エレミアスには、
しぶしぶと言った様子でうなずく。
その代わりに、と
俺はエレミアスと
大衆食堂に入ることにした。
もちろん、エレミアスは
こういった食堂も初めてだろう。
この店は俺のなじみの店で
店を切り盛りしている
おかみのこともよく知っている。
俺が新人の頃に
世話になった先輩騎士の
実家が、この店なのだ。
さすがに頻繁に
顔を出すことはないが、
任務で王都を離れて
旅をする必要があったときは
ひいきにさせてもらっている。
「おや、いらっしゃい」
おかみさんには、
俺が騎士であることは
知らせてはいるが、
公爵家の次男だと
言うことは伝えていない。
あくまでも、
おかみさんの息子の
後輩、というだけだ。
「ご無沙汰してます」
「また、任務かい?
こんな可愛いぼっちゃんの
護衛かなにかかい?」
エレミアスは相変わらず
可愛らしい姿だが、
町に出るために
裕福な商家の子息の
ような服を着ている。
アンナの提案で、
フードを被っているが、
可愛い顔は、フードでは
隠しきれなかったようだ。
「いや、その」
なんと言おうか考えていると、
「ガイ」と隣から呼びかけられる。
「エレ、こちらはな、
俺の先輩騎士の親御さんなんだ」
「そうなの?」
エレミアスは目を輝かせ、
おかみさんに挨拶をした。
「こんにちは。
えっと、先輩のお母さん?
僕ね、騎士さんたちを
この前、見てきたんだ。
すっごく恰好良かったよ」
「そうかい、そうかい。
うちの息子のことも
そう言ってもらえたら
嬉しいよ」
おかみさんは笑って
俺たちを店の奥に案内した。
気を使ってくれたのだろう。
護衛たちもすぐ近くの
テーブルに座るが、
俺とエレミアスは
ふたりだけで座る。
エレミアスはメニューも
見たことが無いようで、
ここに書いてあるものを
好きに頼めるのだと
教えたら目を丸くしていた。
「さぁ、ぼっちゃんたちは
何にするかね?」
おかみさんが水を持って
テーブルにやってくる。
エレミアスはメニューを
じっと見ていたが、
おかみさんを見て
目をキラキラさせた。
「すごいですっ。
これ全部、料理できるなんて」
「あ? あぁ、そうだね。
一応、商売だしね」
おかみさんは驚いたようだが、
作ってるのは私の
ダンナだよ、と笑った。
「僕ね、どれがいいのか
全然わからなくって」
まぁ、そうだろうな、と
思っていると、
可愛い顔が俺を上目使いに見る。
「じゃあ、俺が頼もう」
俺が言うと、エレミアスは
嬉しそうな顔になる。
「待っておくれよ、
あんた、こりゃ護衛じゃなくて」
「あぁ、仕事じゃなくて
私用で旅行中なんだ」
「まぁ、まぁ、
なんてこったい!
うちの息子よりも早く嫁を貰うなんて!
おかみさんがあまりにも
大きな声を出すものだから
店中に声が響き渡った。
「え!?
あんたら、新婚かい?」
「そりゃおめでとー!」
「かんぱーい!」
周囲から勝手にお祝いの
言葉がかけられて、
あちこち、乾杯!と
ジョッキが高々と上がる。
エレミアスは戸惑うが
おかみさんは
「よっしゃわかった。
今日はお祝いだよ、
料理はまかせな」
と言って、
注文も聞かずに
さっさと店の奥に引っ込んだ。
おいおい、と思っていると、
あっというまに
「おまちどうさま」と
料理がどんどん運ばれる。
あまりに大量なので
近くの護衛たちにも
分けることになったのだが
エレミアスは見たことのない
庶民の料理におおはしゃぎだ。
「ガイ、ガイ、これ、
これも食べたい」
エレミアスは量を
食べることができないので
取り皿に欲しいものを
少しだけ、俺が取り分けてやる。
残りは俺が食べるか、
護衛たちのテーブルに回す。
エレミアスはチーズが
とろけたシチューを
ふーふー言いながら
口に入れて、
「おいしー」と笑う。
やばい。
俺はこれだけで幸せだ。
ウダウダとエレミアスとの
関係……というか、
閨のこととか、
イチャイチャしたいとか。
いろんなことを
考えてしまったが、
この笑顔を見ただけで、
俺は満足してしまった。
俺はこのエレミアスの
笑顔のために
今、ここにいるんだ。
耳の奥に、
『ガイディス・ブレイトン、
しっかり守れ!』
という団長の声が聞こえる。
俺は心の中で敬礼した。
団長!
俺は必ず、
エレミアスを守ります!
この俺の命に代えて。
そう誓ったはずなのに。
数時間後、
俺はその誓いが
大きく揺らぐ出来事に
遭遇したのだ。
宿屋ばかりあるわけではない。
旅する者のために、
食事処や、お土産屋など
多くの店がこの町にはある。
俺はエレミアスを連れて
宿屋を出た。
ケインと、公爵家の
護衛が数名、
後からついてきている。
アンナは宿に置いてきた。
護衛がいるとはいえ、
夜に女性がうろつくのは
やはり良くないからだ。
アンナは不本意だったらしく
ものすごく睨まれたが、
仕方がないだろう。
万が一の場合、
護衛対象は少ない方がいい。
とはいえ、
この町は王都から
さほど離れていないため、
宿場町の中では、
治安が良いとされている。
また大きな町ではないため、
エレミアスでも一人で
町の端から端まで
歩けるくらいの大きさだ。
そう考えると、
女性のアンナには
控えておけと言ったが、
エレミアスの初めての町歩きには、
ちょうど良い場所だと思う。
エレミアスは花屋を見ては
「花が売ってる」と驚き、
食べ物の屋台を見ると、
「立って食べてる」とまた驚く。
エレミアスにとっては、
花は屋敷の庭にあるもので、
購入するものではないらしい。
もちろん、立って食べる屋台も
見るのは初めてだろう。
エレミアスは屋台の前で
「僕も食べる」と言い出したが、
それは全力で止めた。
エレミアスは可愛らしく
唇を尖らせて不満な顔をしたが、
屋台の食事は正直、
慣れないうちはおススメできない。
焼いた肉は固いし、
味がやたらと濃かったりする。
慣れている平民や
普段から体力を使う者、
労働者であれば、
味が濃いものを好むが、
エレミアスの胃が
それを受け付けるかどうかわからない。
俺はエレミアスに
味の保証ができないことと、
ここで体調を崩したら、
王都に逆戻りだと伝えて、
なんとか諦めさせた。
ただ、旅の帰りであれば
王都に近いし、
屋台に寄っても構わないと
言うと、エレミアスには、
しぶしぶと言った様子でうなずく。
その代わりに、と
俺はエレミアスと
大衆食堂に入ることにした。
もちろん、エレミアスは
こういった食堂も初めてだろう。
この店は俺のなじみの店で
店を切り盛りしている
おかみのこともよく知っている。
俺が新人の頃に
世話になった先輩騎士の
実家が、この店なのだ。
さすがに頻繁に
顔を出すことはないが、
任務で王都を離れて
旅をする必要があったときは
ひいきにさせてもらっている。
「おや、いらっしゃい」
おかみさんには、
俺が騎士であることは
知らせてはいるが、
公爵家の次男だと
言うことは伝えていない。
あくまでも、
おかみさんの息子の
後輩、というだけだ。
「ご無沙汰してます」
「また、任務かい?
こんな可愛いぼっちゃんの
護衛かなにかかい?」
エレミアスは相変わらず
可愛らしい姿だが、
町に出るために
裕福な商家の子息の
ような服を着ている。
アンナの提案で、
フードを被っているが、
可愛い顔は、フードでは
隠しきれなかったようだ。
「いや、その」
なんと言おうか考えていると、
「ガイ」と隣から呼びかけられる。
「エレ、こちらはな、
俺の先輩騎士の親御さんなんだ」
「そうなの?」
エレミアスは目を輝かせ、
おかみさんに挨拶をした。
「こんにちは。
えっと、先輩のお母さん?
僕ね、騎士さんたちを
この前、見てきたんだ。
すっごく恰好良かったよ」
「そうかい、そうかい。
うちの息子のことも
そう言ってもらえたら
嬉しいよ」
おかみさんは笑って
俺たちを店の奥に案内した。
気を使ってくれたのだろう。
護衛たちもすぐ近くの
テーブルに座るが、
俺とエレミアスは
ふたりだけで座る。
エレミアスはメニューも
見たことが無いようで、
ここに書いてあるものを
好きに頼めるのだと
教えたら目を丸くしていた。
「さぁ、ぼっちゃんたちは
何にするかね?」
おかみさんが水を持って
テーブルにやってくる。
エレミアスはメニューを
じっと見ていたが、
おかみさんを見て
目をキラキラさせた。
「すごいですっ。
これ全部、料理できるなんて」
「あ? あぁ、そうだね。
一応、商売だしね」
おかみさんは驚いたようだが、
作ってるのは私の
ダンナだよ、と笑った。
「僕ね、どれがいいのか
全然わからなくって」
まぁ、そうだろうな、と
思っていると、
可愛い顔が俺を上目使いに見る。
「じゃあ、俺が頼もう」
俺が言うと、エレミアスは
嬉しそうな顔になる。
「待っておくれよ、
あんた、こりゃ護衛じゃなくて」
「あぁ、仕事じゃなくて
私用で旅行中なんだ」
「まぁ、まぁ、
なんてこったい!
うちの息子よりも早く嫁を貰うなんて!
おかみさんがあまりにも
大きな声を出すものだから
店中に声が響き渡った。
「え!?
あんたら、新婚かい?」
「そりゃおめでとー!」
「かんぱーい!」
周囲から勝手にお祝いの
言葉がかけられて、
あちこち、乾杯!と
ジョッキが高々と上がる。
エレミアスは戸惑うが
おかみさんは
「よっしゃわかった。
今日はお祝いだよ、
料理はまかせな」
と言って、
注文も聞かずに
さっさと店の奥に引っ込んだ。
おいおい、と思っていると、
あっというまに
「おまちどうさま」と
料理がどんどん運ばれる。
あまりに大量なので
近くの護衛たちにも
分けることになったのだが
エレミアスは見たことのない
庶民の料理におおはしゃぎだ。
「ガイ、ガイ、これ、
これも食べたい」
エレミアスは量を
食べることができないので
取り皿に欲しいものを
少しだけ、俺が取り分けてやる。
残りは俺が食べるか、
護衛たちのテーブルに回す。
エレミアスはチーズが
とろけたシチューを
ふーふー言いながら
口に入れて、
「おいしー」と笑う。
やばい。
俺はこれだけで幸せだ。
ウダウダとエレミアスとの
関係……というか、
閨のこととか、
イチャイチャしたいとか。
いろんなことを
考えてしまったが、
この笑顔を見ただけで、
俺は満足してしまった。
俺はこのエレミアスの
笑顔のために
今、ここにいるんだ。
耳の奥に、
『ガイディス・ブレイトン、
しっかり守れ!』
という団長の声が聞こえる。
俺は心の中で敬礼した。
団長!
俺は必ず、
エレミアスを守ります!
この俺の命に代えて。
そう誓ったはずなのに。
数時間後、
俺はその誓いが
大きく揺らぐ出来事に
遭遇したのだ。
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