長編版・不能の公爵令息は婚約者を愛でたい(が難しい)

たたら

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105:階段を上ってしまった僕

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 露天風呂を出た僕は
小屋を出るとき、
またガイに抱っこされた。

外に出ると、
少しだけ肌寒い。

着ていた服は、
僕もガイも小屋に置いてきた。

僕は小屋に準備されていた
ワンピース型の寝間着を着た。

下着も含めて用意されていたのは
新しいものだったし、
サイズが僕にぴったりだったから
僕のために準備されていたんだと思う。

ガイも小屋にあった簡素な
私服に着替えた。

露天風呂の中が熱かったせいか、
小屋を出ただけで
火照った肌が冷めていく。

中庭を歩いていたら、
まだ表庭ではみんなが
騒いでいるようで、
笑い声が聞こえてくる。

アンナもまだあの中だろうか。

そう思うと、
僕は少しほっとする。

だって今の僕は
普通じゃないと思うから。

こんな僕をアンナには
見られたくない。

「エレ?」

大丈夫か?
ってガイに耳元で聞かれて
僕は、うんうん、って
うなずいて見せるけれど。

ほんとは大丈夫じゃない。

あの大人のキスが……

ガイの咬みつくように
僕を捕食するように
重なり、僕の口を蹂躙した
ガイの舌の感触が。

僕に恋焦がれるような
熱を持った瞳が
気を抜くとすぐに
僕の頭の中に蘇る。

驚いた。
でも嬉しかった。

ガイは怖がらせたかも、って
心配したけれど、
そんなことない。

ガイに求められてるって
そう思っただけで
僕は嬉しくて、
ガイを抱きしめたくなったんだ。

でもそう思うことさえ
恥ずかしすぎて。

僕は言葉がうまく出てこない。

こんな状態をアンナに見られたら
絶対にあやしまれると思う。

そしたら兄に報告されて
ガイと引き離されてしまうかも。

それだけは嫌だ。

僕がガイの首にしがみつくと
ガイは僕を抱っこする腕の力を強くした。

離れたくない。

「ガイ、あのね」

部屋に付くと、
ガイは僕をベッドにおろしてくれた。

でも僕は離れるガイの腕を
すぐに掴む。

「もうちょっと一緒に居たい」

「え、あ、そう、だな
俺もそう思ってた」

とガイは言うけれど、
どこかぎこちない。

「いや?」
って聞いたら、
そんなことないとガイは言う。

「じゃあ、一緒に寝よ」

じつはかなり疲れていたから、
僕はベッドに寝転がる。

ふう、って息を吐いて、
掴んでいた腕をひっぱった。

ガイは少し顔をゆがめて
僕の隣に来る。

二人でシーツに潜り込むと、
ガイはためらうように
僕の髪を撫でた。

「エレは……その、
本当に嫌じゃなかったか?」

 ガイが確かめるように
僕の顔を見る。

「……怖くは、なかったか?」

さっきのことだと思った。

思い出しただけで、
僕の頬は熱くなる。

でも。

「怖くなんてないよ。
だってガイが僕の嫌なこと、
するわけないもん」

僕はガイの腕を離して、
そのかわり、大きな胸に顔を寄せた。

「怖くなかった、ほんとだよ」

それは、本当。
ガイのことは大好きで、
ガイが僕に触れたいって
思ってくれるのは嬉しい。

でも。
でも。

言っていいのかな、って
僕がガイを見上げると、
ガイが小さくうなずく。

僕が何か言いたいことに
気が付いてくれてたみたいだ。

「あのね。
ガイに触れられるのは
嫌じゃないし、嬉しい。

でも、僕は……
僕が、ちょっと怖い」

ガイの大きな手が僕の背中に触れる。

僕を守るように、
優しく背中を撫でられた。

「ガイとキスしたとき……
僕の体の奥が、熱くなったんだ。

恥ずかしくて、
でも、もっと触れて欲しい……みたいな。

自分でもわからない感覚があって
そんなの、初めてで」

よくわからない変化が
僕の体に、
知らない感情が生まれた。

それが僕は怖かったんだ。

でもガイは僕の額に
そっとキスをして、
優しい瞳で僕を見た。

「大丈夫だ」

「大丈夫?」

「ああ、それはエレが
大人に成長してるってことだからな」

大人に?
僕が?

この知らない感覚は、
大人の階段を上っているから?

そう思うと、
もっと、もっと恥ずかしくなる。

僕がガイにすり寄ると、
ガイは僕を抱きしめてくれた。

「ゆっくりでいい。
急いで成長する必要もない。
ただ、俺のそばで、
俺だけに見せて欲しい」

ガイの甘い声に、
僕は脳まで痺れてくる。

「可愛いエレの成長は、
俺だけが知っていればいい」

うん、って返事をするのが
やっとだった。

だって、だって。

ガイを見上げたらすぐに
唇が重なる。

恥かしくて
ガイにしがみついたら
髪に、耳に、頬に、
そっとキスをされる。

疲れているのに、
体が熱くなって。

眠たいのに、
興奮して。

僕はもうパニック状態だ。

「大丈夫だ」

ガイが優しい声で言う。

僕の背中をリズムよく、
優しくぽんぽんと叩く。

「疲れただろう。
眠ればいい。
俺はずっとここにいる」

紡ぐ言葉の合間に、
ガイの唇が僕の体の
いたるところに落ちていく。

それさえも、僕は嬉しくて
心地よくて……安心する。

小さなあくびが、漏れた。

「いい子だ。
目を閉じて、そうだ」

僕はガイの言葉に促され、
目を閉じ、体の力を抜く。

「いい子だ、エレ」

「いい子」だって。
兄もよく僕に言う言葉だ。

兄は僕を弟として、
小さな子供に言うように、
僕を褒めるときにその言葉を使う。

でもガイは違った。

僕のことが
可愛くて仕方がないって
そんな口調で言う。

「いい子だ」

褒められてるんじゃなくて。
ただ大好きだって
言われているみたい。

ガイの甘い声に、
優しい大きな手に、
僕は次第に眠たくなってくる。

ゆっくりと僕の意識が薄れていく。

それでも僕の耳には
ガイの声と、背中に添えられた
大きな手の感触だけは
ずっと残っていた。








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