長編版・不能の公爵令息は婚約者を愛でたい(が難しい)

たたら

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111:護衛騎士の受難・2

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 俺が呆れた声を
出したからだろう。

エレミアス様は立ち上がって
俺の隣に移動してきた。

やばい。

俺は咄嗟に立ち上がる。

エレミアス様の仕草で
俺の膝に乗ろうと
していることがわかったからだ。

エレミアス様は自然に
団長やガイディスの膝に乗る。

それはもう、驚くほど自然に。

乗ってもいいのか、と
聞くこともなく、
そこが自分の椅子で
あるかのように、
ちょこん、と座るのだ。

幼いころから団長の
膝に座るのが
当たり前だったのだろう。

そして接する相手も
限られていたから
今までやってこれたのだろうが、
誰彼も気にすることなく
膝に乗るのはまずいと思う。

だが誰もエレミアス様の
行動をとがめる者はいない。

全ての行動を受け入れられて
エレミアス様は生きている。

それでもわがままに
育ってないところは
尊敬に値するが、
こんな純粋培養で
これから大丈夫かと心配する。

「ケイン?」

俺が立ったからか
エレミアス様が首をかしげる。

「いいえ。
どうぞ、座ってください」

俺は自分が座っていた椅子に
エレミアス様を座らせ、
片膝を地面につけた。

こうすれば、
エレミアス様の声も
よく聞こえるだろう。

それにさっきよりも
距離は近くなる。

俺の行動に
エレミアス様は頷いて
素直に椅子に座った。

やれやれだ。

もし俺の膝に小さな体が
座ったら、俺の命はなかったかもしれない。

「それで、呪いでしたか?」

「うん、そうなんだ」

エレミアス様はさらに小さな声で
俺に昨夜の風呂の話をし始めた。

「偶然だと思ったんだよ?
でも、キャシーさんのパンも、
アンナの仕事も、
ガイの呼び出しも、
全部僕がこうしたいな、って
思ったことが叶った結果なの」

そして風呂で泳いで 溺れかけたのか、と 俺は違うところが気になってしまう。

だが確かに、
偶然と言えば偶然だが
重なり過ぎているとも思う。

「でももし、それが
本当にその腕輪の仕業として。
なんで呪いなんです?」

逆に望んだことは
すべて叶うから
幸運すぎて困る!
ぐらいではないだろうか。

「だってだって。
僕が考えたことが
全部叶っちゃうんだよ?

他の人が迷惑になるとか、
何も考えずに、
勝手に叶うの。

怖いでしょ?」

「あー、そうですね」

そういう善良なところが
あのブレスレットに
好かれる理由かもしれない。

普通は喜ぶだろう?
自分の願いが叶うのだから。

まぁ、そういう相手は
持ち主に選ばれないだろうから、
何年も、あのブレスレットは
持ち主不在だったのかもしれないが。

「ケイン、僕は本気で
困ってるのに」

と、小さな唇が尖る。

「ん-と。
困らなくてもいいんじゃないですか?」

「なんで?」

「エレミアス様が望むことなんて
たいしたことじゃないでしょうし。

そりゃ、この大陸をすべて
掌握して人類を滅ぼす、
なんて願うのでしたら
話は別ですけど」

「そ、そ、そんな怖いこと、
僕は考えないよ」

エレミアス様は顔を青くして言う。

「だから、大丈夫なんです。
そんなエレミアス様だから
あのブレスレットは
エレミアス様を選んだんじゃないです?」

「そ、そうかな」

「ええ。たぶん」

だってなんでも願いが
叶うブレスレットを
持っていて、

願いがパンが食べたいと
一人で風呂に入りたい、だ。

たいして周囲に迷惑が
掛かるとは思えないし、
偶然と言えば、偶然で
片づけることができる程度のことだ。

気にするほどのことではない。

俺が付け足すように言うと、
エレミアス様は安心したように笑う。

「そっか。
そうだよね。
ケインに相談して良かった」

ふにゃりと笑うエレミアス様に
俺は聞いてみる。

「ところで、なんで
俺に相談だったんです?」

「だって、アンナも
ガイも、僕のせいで
余計な仕事が増えたかも
しれないでしょ?

もしそうだったら、
僕のこと、嫌いに
なっちゃうかと思って」

うるっ、と大きな目が潤む。

待った。
待ってくれ。

俺が泣かしたみたいになる。

エレミアス様はすぐに
涙を浮かべる。

しかも嘘泣きではなく
本気泣きだ。

感情のコントロールも
学ぶ機会がなく
成長してきたことが
うかがえる。

そして誰もそれを
教えないし、
とがめないんだよな。

こうなったら俺が
色々と教えていくべきか?

けど、俺も命は惜しいんだがな。

俺はエレミアス様に
持っていたハンカチを差し出した。

さすがに自分から
小さな手を取ることも、
ハンカチを使って
涙を拭うこともできない。

それぐらいは俺だって
わきまえている。

「大丈夫ですよ。
それぐらいであの二人は
エレミアス様を嫌ったりしません」

「そう、かな」

「はい。絶対です」

そう言うと、エレミアス様は
ハンカチを受け取り、笑った。

笑った瞬間、涙がぽろり、とこぼれた。

「ぼっちゃま!」

「エレ!」

瞬間、アンナとガイディスが
近くの茂みから飛び出してきた。

「どうされましたか?
この護衛に嫌がらせでも
受けましたか?」

いやいや、そんなことするわけがない。

「エレ、正直に言ってくれ。
ケインが何かしたのか?
いや、なぜ俺に話をしてくれない?
俺よりこいつがいいのか?!」

ほら、ややこしい話になってきた。

この二人が、あんな怪しい
ブレスレットごときで
エレミアス様から離れるわけがない。

「違うよ、アンナ、ガイ」

エレミアス様は二人の手を取る。

「あのね、あのね。
アンナもガイも僕は
大好きだって話をしてたんだよ」

たったそれだけで
怒りに燃えていた二人の
形相が大人しくなる。

無意識にやってるんだから
エレミアス様は凄い。

きっと団長もこうやって
何かと翻弄されているのかもしれない。

そう考えると、
ちょっと面白いと思う。

「もちろん、ケインも大好きだよ」

と、付け足すように
可愛い声がした。

「あ、りがとうございます」

嬉しい言葉だが、
今は必要なかったな。

 俺は痛いほどの
視線を避けつつ、
そっと立ち上がる。

「では俺はこれで」

いいよな?
もう、俺はこの二人に
場所を譲っても。

二人は俺に
さっさと行けと
言わんばかりの視線を
送ってくる。

俺はいつもの
少し離れた定位置に付いた。

アンナがお茶を淹れなおし、
気が付けばエレミアス様は
ガイディスの膝に座っている。

うん。
あれもエレミアス様の
定位置だな。

しかし、天使の加護ねぇ。

偶然だとは思うが、
一応、ガイディスと
情報共有でもしておくか。

そうでないと、
嫉妬で背中から刺されそうだ。

俺は息を吐き、
楽しそうにお茶を飲む
エレミアス様を見た。

まぁ、泣き顔よりは
あの方がよっぽどいい。

俺はエレミアス様に
剣を捧げているが、
心のどこかで、
実家にいる弟と
重ねてみているところがある。

つまり……
弟として可愛くて仕方がないのだ。

だから兄として
常識は身につけさせたいし、
甘やかすばかりではダメだと思う。

俺のような人間が
エレミアス様の周囲に
一人でもいないと、
絶対にエレミアス様は駄目になる。

と、思うのは、
俺だけだろうか。

まぁ、俺は俺のやり方で
エレミアス様を守ればいい。

それはそう結論づけて、
楽し気にガイディスと
話をするエレミアス様を見守った。

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