長編版・不能の公爵令息は婚約者を愛でたい(が難しい)

たたら

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121:お昼寝中

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 借りた屋敷は王都の屋敷と
似たような感じだった。

ただ、庭が物凄く広くて、
馬車や馬を置く場所がかなりある。

一緒に来た護衛や侍女たちも
ちゃんと部屋を与えることが
できたみたいで、
一安心だ。

 もちろん、僕はガイと
同じ部屋だ。

と、言いたかったけど、
アンナがダメっていうから
ガイとは隣同士の部屋になった。

アンナが言うには、
婚約者でも結婚までは
相手と一緒に同じ部屋で
眠ったらダメなんだって。

でも僕、もうガイと一緒に
眠ったことがあるんだけどな。

それを言ったら
アンナが不機嫌になりそう
だったから言わなかったけど。

 僕の部屋に一緒に
来てくれたケインに
「アンナは僕とガイが
一緒に寝るのは嫌なのかな」
って聞いてみた。

ケインは、一瞬言葉に詰まった。

「あー、そうですね。
やきもちじゃないですか?」

「ヤキモチ?」

「アンナはずっと
エレミアス様のそばで
お仕えしていたんですから、
ぼっちゃまを盗られた!
とか、そんな感じで」

「そっか。
僕、小さいころは
ずっとアンナに面倒を
見てもらってたから。

僕、もうアンナに
手を引いてもらわなくても
大丈夫なぐらい
大人になったもんね」

「まぁ、まだまだと
俺は思いますけど」

小さくケインがなんか言うけど
僕は気にしない。

「じゃあ、僕はアンナに
大好きだよって
伝えたらいい?」

「まぁ、そうですかね?」

ケインってば、
なんだか投げやりだ。

「いいんじゃないですか?
エレミアス様がそうやって
親離れ?して、
一人で頑張るってのも。

アンナはエレミアス様の
ことが心配で
色々言ってますが、
結局、エレミアス様が
幸せならそれでいいんですよ」

まぁ、俺もですが、
ってケインは言う。

「うん、ありがとう」

ほら。
やっぱり僕は恵まれてて幸せだ。

 僕はケインにお願いして
部屋の窓を開けてもらった。

部屋には大きな
バルコニーが付いていて、
そこから海が見える。

「少し休みますか?」

ケインが言うので
僕は素直にうなずいた。

全然歩いてないのに、
お店を沢山まわったせいか
ちょっと疲れてしまったんだ。

「アンナを呼んできます」

ってケインが言って
部屋から出たと思ったら
すぐにアンナが部屋に来た。

「ぼっちゃま、
お疲れだと聞きましたが」

「うん、ちょっとだけね」

って僕が笑ったら、
アンナは僕に冷たいお茶を
淹れてくれた。

それから僕がお茶を
飲んでいる間に
部屋着の準備をして
飲み終わったと同時に
着替えを手伝ってくれる。

「ガイにもちょっと
休むって言っておいてくれる?」

「かしこまりました」

アンナが頭を下げて、
僕がベッドに潜り込むのを
見届けてから部屋を出て行く。

「ふう」って僕は息を吐き
目を閉じた。

自然にあくびが出る。

「疲れたけど、
楽しかったな」

魚があんな形をしていたなんて。

ちょっと怖かったけど、
魚のペンを買えたのは良かったな。

みんなに渡すのが楽しみだ。

僕はウトウトしながら
学院でお土産を渡す姿を
想像する。

『俺様だって!
俺様だって楽しみたい』

頭の中で声が聞こえた。

若い男の人の声だけど、
ちょっと乱暴で偉そうな口調で、
でも、どこか子供っぽい。

『俺様を置いて行きやがって!』

あのブレスレットの声かな。

なんでブレスレットが
僕に話しかけてくるんだろう。

『俺様はな、精霊なんだぞ』

どうだ、凄いだろう、
と自慢げな声がする。

「精霊?
ブレスレットの?」

『そうよ。
俺様はな、もともと、
女神に捧げられた
特別な存在なんだぞ』

精霊の話では、
ブレスレットはこの国の
神様ではなくて。

もっと昔に、
別の大陸にいた女神に
捧げられたものらしい。

長い間、女神の力を
受けながら神殿の奥深くで
ブレスレットは眠っていたらしい。

でもある日、
人間たちが戦争を起こした。

それは激しい戦いで、
神殿は壊され、
ブレスレットは人の手に
よってその大陸から
持ち出されてしまったという。

『俺様が目覚めたのはな、
いろんな人間たちが
俺様を奪い合って
殺し合ってることに
気が付いたからよ』

え、怖い。
怖いけど。

「眠っていても
誰かの願いを叶えることができたの?」

『そうさ。
凄いだろう?

そのころにはもう、
俺様は女神の力を
授かってたからな。

人間たちの欲を叶えるぐらい
わけなかったのさ』

「なんでそんな酷い
人たちの願いを聞いてあげたの?」

『俺様は人間の善悪ってのが
そのころは理解してなかったからな。

でもよ。
俺様が人間たちの願いを
叶えてやっても、
誰も感謝しねえし、
要求はどんどん増える。

なんか俺様、
嫌になっちまってよ』

「そうなんだ」

『でもよ、
俺様は女神に命じられたわけさ。
この世界のために
良いことをしろ、って。
そのために力をもらったんだ』

自慢げな声はさらに
得意げに続けた。

『だから俺様は
人間たちの願いを
分け隔てなく叶えてやったのに、
戦は起こるし、
誰にも感謝されないし、
やってられないだろ』

それは……そうなのかな。

でも、手当たり次第に
人間の願いを叶えるって
良くない気もする。

だって人の命を奪ってでも
お金が欲しいって人の
願いを叶えたら、
奪われた人は不幸になるもん。

もう少し考えて
願いを叶えてあげたらよかったのに。

ちょっと僕はモヤモヤした気分になってしまう。

ただ、さすがに長い年月を
過ごしていくうちに、
人間たちに戦争が起こったら
世界にとっては良くないことだって
精霊は気が付いたそうだ。

そこで、
人間たちの善悪とかの観念を
精霊は人間たちを観察することで学んだ。

願いを叶える人間を
選別することにしたらしい。

ところが、そうなってくると
精霊が願いを叶えてやろうと
思うような人間に出会えなくなったそうだ。

争って、膨大なお金を使って
やっと手に入れたのに、
ブレスレットは願いを叶えない。

それどころか、
気に入らない願いをする人間を
精霊は無視するだけでなく
相応の罰を与えていたそうだ。

あの不思議なお店の女の人も、
精霊の罰で、精霊が願いを
叶えたいと思う相手と
出会うまで、
時間の流れから切り離されて
永遠にあの店から出ることが
できなかったらしい。

なんか、精霊って
物凄く身勝手なんじゃない?

人間じゃないから
仕方がないけれど。

勝手に願いを叶えて、
求められたら、
今度は気に入らないって、
勝手に罰を与えるなんて。

僕のモヤモヤには気づかない様子で
精霊の声はさらに興奮した調子になる。

『わかるか?

誰もが俺様を欲しがって
殺し合いになったぐらいなんだぞ』

「うん、大変だったんだね」

それしか言えない。
だって僕、争いって嫌いだし。

『そうじゃねぇ!
なんでお前は俺様を
崇めて、願いを言わないんだよ』

「え、お願いは叶えてもらったよ。
そうだ。ありがとう」

『おう!
じゃねぇ!
もっとあるだろう?

大金持ちになりたいとか、
美女を侍らせたいとか、
大陸を制覇したいとか』

「うーん。
僕は別にお金に困ってないし、
綺麗な女の人に
そばにいてもらっても
嬉しくないし。

大陸を制覇って、
戦争するってことでしょ?

僕は誰かが傷つくのは嫌だし、
そもそも、体力が無いから
戦場にも立てないよ」

『じゃあ、もっと別のモンは?
人間はよ、たいてい俺様に
食欲と性欲を願うもんだ!

うまいもんを食べたいとか
あんだろ?』

「……せいよく?
よくわかんないけど、
僕はあんまりたくさんの
ご飯を食べれないし。

美味しいものは好きだけど
今、食べてるもので
十分幸せだよ」

『なんだと!?
俺様がこれだけ言ってるのに
なんてやつだ。

俺様、絶対におまえを
もっと幸せにしてやるからな。

涙を流して感謝されるほど
幸せにしてやる!

おぼえてろよ!』

 ものすごく怒鳴られて、
僕は、目を覚ました。

眠ってたはずなのに、
疲れた……気がする。

ものすごい捨て台詞だった。

あれって夢じゃないよね?
ううん。
やっぱり夢かも。

夢でも夢でなくても、
別に困るような内容では
なかったと思うし、
何もしなくても大丈夫だよね?

僕は眠かったから
もう一度目を閉じたけど。

「やっぱりガイには
話しておいた方が良いかなぁ」
とつぶやいた。

だって、
置いてけぼりにされた、
捨てられたって、
ブレスレットが怒ってるんだもん。

迎えに行かないとダメかなぁ。
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