長編版・不能の公爵令息は婚約者を愛でたい(が難しい)

たたら

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120:魚の呪い?

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 僕たちは海辺の町に
2日間滞在することにした。

3日目からは、
王都に向かって
移動することになる。

ただ、まっすぐ王都に
戻るんじゃなくて、
いろんな町を見ながら
ゆっくり帰ろうと
ガイは提案してくれている。

ここは港街だけれど、
少し遠回りをしたら
大きな川がある町や、
他国との陸の貿易地点と
なっているような街もあるらしい。

川や海、他国との国境が
近い町、もしくは
文化交流が盛んな街は
珍しいものが多いらしい。

外の世界を知らなかった僕は
何を見ても珍しいんだけど、
ガイが僕に見せたい、って
楽しそうに話をしてくれるから
僕も行きたくなってきた。

でも、ここまで来るのに、
もう7日ぐらいかかっているから、
ゆっくり王都に戻ったら
ガイの休暇はすべて
使い切ってしまう。

大丈夫かな、って思ったら
ガイは休暇が足りなくなったら
申請を出せばいいから
気にしなくても構わないって。

本当かな。
兄に怒られないか、
ちょっと心配。

でも旅行って楽しすぎる。

僕はわくわくした気分で
街を散策することにした。

この街は坂が多くて
大変だけれど、
散策はケインだけでなく
アンナも誘ってみる。

ガイの別荘では
アンナはお留守番だったから、
ここでは一緒に歩くことにしたんだ。

借りたという屋敷で
僕とガイは一休みしてから
ケインとアンナを連れて
街に出た。

僕はアンナに魚の話ばかり
してしまったから、
「夕食に魚を出すように
料理人に伝えましょう」
と言われてしまい、
ちょっとだけ反省した。

だってアンナも
魚の姿を見たら
ショックだと思うし。

でも味は美味しかったから
食べれたら大丈夫だよね。

僕は海に面した道に
並んでいる出店を順番に
見て歩いた。

貝殻のアクセサリーや、
魚の形をした装飾品もある。

海の街らしく、
魚のコースターや
お茶を飲むカップ、
食器にも魚の絵が描いてある。

それも食器に描いてある絵は
子供が描いたみたいな
どこか可愛い絵柄ばかりだ。

土産物として売っているから
貴族のお茶会に使うような
ものはないんだろうけど。

こうしてみると、
魚も可愛く見えるけれど、
あの目は駄目だ。

だって食べようと思ったら
僕を見てるんだもの。

 海の街で驚いたのは
こうしてお土産物が売ってる
屋台に並んで
飲食店も数多くあることだ。

屋台で食べ物を
売っている店もあるけれど、
普通のお店も
店の中だけでなくて、
外の道にまで椅子とテーブルを
置いて、多くの人たちが
そこで食事をしている。

屋台で立って食べるよりは
良いのかもしれないけれど、
食べている姿が丸見えだ。

 知らない人が道端で
何かを食べている姿を、

しかも席に座って
食べている姿を見るなんて
あまり機会が無いから
ちょっと目のやり場に困る。

でもこの街は
これが普通なんだよね。

「ぼっちゃま、
こちらでしたら
可愛らしいかと」

アンナが僕に魚の形をした
ペンを示した。

ペンだ。

インクを付けるところが
魚の口になっている。

細長い魚の形になっていて、
持つところに
鱗の模様があった。

ペンの後ろにはしっぽ?もついている。

「ほんとだ、可愛い」

これなら、目玉も怖くない。

「あ、これ、いろんな種類がある」

色や模様が違うものが
沢山売っていた。

「アンナ、僕これが欲しい。
ティーナたちのお土産にする」

「かしこまりました」

アンナが頭を下げて
いろんな種類を一種類ずつ
手に取ってくれる。

「良いものが見つかったか?」

「うん、あのペンをね、
ティーナたちのお土産にするんだ」

この街はティーナの領地だから
珍しくはないかもしれないけれど、
皆でお揃いのものを持つことが
大事だって思う。

「エレミアス様、
この魚だったら
怖くないですよ」

ケインも怖くない魚を
見つけたみたいだ。

なんだろうと振り返ると
魚の形をしたクッキーだった。

確かにこれなら怖くない。

「これも買うか?」

ガイが言うので
僕は頷いた。

その後も別の店に入ったけれど、
まるで魚の呪いのように、
『怖くない魚』を沢山見つけてしまった。

カップに、コースターに
クッキーにチョコレート。
魚の絵のノートもあった。

それから、絵本。
魚たちが主人公の本だった。

僕が見つけるたびに
ガイが横からそれを買っていく。

どんどん荷物が増えて
ケインが「そろそろ持てませんよ」
と文句を言った。

アンナは僕の買ったペンを
持ってくれていたけれど、
それ以外の荷物は
全部ケインが持ってくれていたんだ。

僕も手伝おうと思ったけれど、
僕が荷物を持ったら
その僕をガイが抱っこすることに
なるのは目に見えていたので
僕はごめんね、って思う。

「そろそろ夕方だな。
じゃあ、戻るか」

ガイの言葉に
ケインはほっとしたような顔をした。

案の定、僕は途中で
疲れてきたから
ガイに抱っこしてもらう。

ほら、荷物を持たなくてよかったでしょ、
ってケインに言ったら、
「俺も誰かに抱っこして欲しいです」
って言われた。

「ダメだよ、
ガイの抱っこは僕専用なんだから」

「いや、全然羨ましくないですし、
むしろ、遠慮したいです」

「なんで?
ガイの抱っこは安心するよ?
仕方ないから、
ちょっとだけ貸してあげる」

「いや、まて。それは嫌だ」

「遠慮します」

ガイとケインの声が重なる。

「俺が抱っこするのは
エレだけだからな」

ガイが真剣に言うから
僕は、ふふ、って笑った。

「そうだよね。
ここは僕専用だもん。
ごめんね、ケイン」

「いえ、ほんとに、
全然、まったく、
羨ましくないですから」

力強くケインが言う。

そんな僕たちのやり取りを
アンナが口元を緩めて
聞いていた。

「アンナ? 
面白かった?」

「いえ、申し訳ありません。
ぼっちゃまが楽しそうで
私も嬉しくなってしまいました」

アンナはそう言って
優しい目をする。

「ぼっちゃまが旅行など
どうなることかと
心配致しましたが、
杞憂でございました」

「うん、僕ね、
とっても楽しい。

屋敷の外の世界は、
面白くって、
……怖くなかったよ」

僕がそう言うと、
アンナは一瞬、
目を潤ませた。

「そうでございますね」

と言ったアンナは、
本当に嬉しそうだ。

アンナは屋敷から
出れない僕を
ずっと心配してくれてたんだろうな。

「俺がまだまだ、
楽しい場所に連れて
行くからな」

ってガイが言って。

なぜかケインが
「ほどほどにお願いします」
って返事をする。

それがなんだか楽しくて。

僕はアンナと視線を合わせて
笑ってしまったんだ。


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