長編版・不能の公爵令息は婚約者を愛でたい(が難しい)

たたら

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130:大人の階段3・5段目

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おなかが一杯になってしまった。

僕が満腹だよ、って
言ったら、ガイが僕を
抱き上げた。

部屋に戻るという。

もう?って思ったけれど、
お腹いっぱいになったら
眠くなってきたから
まぁ、いいか。

改めて僕は会場の中を
ガイの腕の中から見た。

視界が高くなっただけで
いろんな人たちが目に入る。

異国の人たちは
見ているだけで面白かった。

僕が一番綺麗だと思ったのは
薄い布を何枚も
体に巻いている人だった。

見たこともない服だったけど
淡い色の布を重ね着している姿は
とても綺麗で、
僕も着てみたい、って思った。

もちろん、
僕にはその人に
声を掛ける勇気も
初対面で話ができる自信もないから
もぐもぐしながら
見ていただけだけど。

食べた料理も珍しいものが多かった。

ここの食事は
ケインが持ってきてくれていたし、
準備をしたのは
ロチェスター伯爵だというので
僕はいつもよりも
自由に選んで
食べることができたと思う。

だって僕はいつも
知らない場所で
知らない人が準備した
食べ物を勝手に
口に入れてはいけません、
って強く言われているから。

沢山の種類の料理が
一枚のお皿に乗っていて、
僕は自分が食べたいものだけ
自由に選んで食べたんだ。

これって僕の中では
かなり凄いことだった。

自分で食べたいものを
選んで食べるんだもの。

残ったお皿の料理は全部、
ケインとガイがちゃんと
食べてくれるのが
わかっていたから
できたことだけど。

それにルビと出会えて、
一緒にお菓子を食べて
異国の言葉でおしゃべりが
できたわけだ。

これも凄い経験だ。

学んでいた異国の言葉が
ちゃんと実践で通じるって
ことがわかった。

こうして考えると
僕の異国交流デビューは
立派にやり切ったんじゃないかな。

これならアンナに自慢できると思う。

うん、うん、と僕は満足して、
ガイに抱っこされたまま
部屋に戻ってきた。

ケインも僕の着替えを
用意したら、
「何かあれば呼んでください」
って隣の部屋へと移動していく。

僕は着替えないと、
と思ったけれど、
例の階段下のソファーで
ぐったりしていた。

ちょっと食べすぎちゃった。

窓の外はもう真っ暗で
遠くに街の光が見える。

ソファーから見えるのは
まっくらな夜と、
手が届きそうな星と、
遠くの町の光だけだ。

「大丈夫か?」

ガイが僕の隣に座る。

果実水を渡され、
僕は素直にそれを飲んだ。

「うん。初めての
料理ばかりだったから
つい、食べすぎちゃった」

「そうか。体調は?
気分が悪いとかないか?」

「大丈夫だよ」

こういうところは
ガイも過保護だ。

僕が昔、
食べ慣れないものを
食べて熱を出したことを
アンナから聞いたのかもしれない。

「全部美味しかったよ。
ただ食べすぎただけ」

僕はお腹をさすって見せる。

「異国との交流パーティーって
何をするのかと思ったけど、
美味しいものを食べられて良かった」

「そうだな」

「僕、交流会って
異国の……知らない人と
話をしなくちゃ、って
ちょっぴり不安だったけど、
そんなことなかったね」

「まぁ、あくまでも
交流会だからな。

知らない奴と
話をしたい者はすればいいし、
そうでない者は
エレみたいに料理を
堪能すればいい。

会話を楽しみたい、
異国の食事を食べたい、

参加する目的は
人それぞれだろう」


「そういうもんなんだね。

そうだ。
僕はルビと話せたし
異国交流はできたよ」

僕が自慢気に言うと
ガイは、よくやった、って
頭を撫でてくれる。

「ただ、残念だが、
この国の社交パーティーでは
そういうわけにはいかないんだ」

ガイが申し訳なさそうに言う。

「うん、でもそれは
僕も覚悟してるから」

この国の社交会には、
ちゃんと参加する目的があり、
参加者たちにも役割がある。

ただ参加して、
楽しくおしゃべりして
料理を食べるだけでは
ダメなんだ。

それを知った時、
社交界は怖いって思ったけど
僕にはティーナたちが
ついているから大丈夫。

一人じゃないもん。

一人じゃないといえば、
ルビ、ちゃんと父親と
会えてよかったな、って思った。

父親に抱っこされて、
ぎゅう、ってしがみついていたのに、
僕には、なんでもない、って
強がった顔をして。

ふふ、って笑いが漏れる。

「エレ?」

「ルビがね、
強がってばかりで可愛かったの」

僕はルビの話をする。

「可愛いって言ったら嫌だったみたい。
だからかな。
カッコイイ、って
自分で何度も言うんだ」

笑いながら言うと、
ガイは僕の体を抱き上げ、
膝に乗せた。

「男は好きな相手には
格好良いと言われたいからな。
もちろん、俺もだ」

こつん、と額がぶつかった。

「エレは可愛いが、
格好良いぞ」

「僕?
僕がカッコイイ?」

初めて言われた。

「あぁ。知らない言葉を
きちんと話していた。

初めての場所で、
初めての言葉で。

見知らぬ子どもを安心させ、
笑顔にさせていた。

それは俺にはできないことだ」

ガイの指が僕の頬に触れる。

「エレミアスは格好良いし、
可愛いし、愛しい」

愛しい。

その言葉に、
ぶわ、って顔が熱くなる。

瞬間、唇が重なる。

それから、額に、
頬に、ガイの唇が落ちた。

僕はガイの背中に腕を回し、
ぎゅう、ってする。

けど。
髪が引っ張られる感覚に
ガイの胸に押し付けた顔をあげた。

「あ、待て」

ガイが僕の動きを止める。

「髪が、ボタンに絡まっている」

ガイの服の飾りボタンに、
僕の髪が絡まったみたい。

ガイが大きな手で
僕の髪を解く。

「先に着替えるか」

「うん」

と返事をしたけれど、
僕は自分では服を上手に
脱げないから、
ガイに手伝ってもらうしかない。

「ガイ、ボタン外して」

上着を脱いで、
僕は袖口をガイに見せる。

袖口のボタンは
飾りボタンになっていて、
自分ではうまく外せないんだ。

もっと言うと、
シャツの一番上のボタンは
僕の首を絞めつけるぐらいの
固さだったので、
ここも自分では外せそうにない。

それに飾りボタンの細工は繊細で
乱暴に扱ったら
壊れてしまいそうなんだ。

そういうのも、僕は苦手だ。

ガイも素早く上着を脱いで、
僕のシャツのボタンをはずしてくれた。

大きくて長い指なのに、
ボタンに触れる指は
震えてる気がする。

ガイも細工が壊れるのが
怖くて慎重になってるのかも。

袖口のボタンが外れ、
僕は喉を見せるように
上を見て、喉元のボタンを
ガイに外してもらう。

固かったボタンが外れ、
呼吸がしやすくなる。

そう思った途端、
ガイに上から口付けられた。

下から抱きしめられ、
あの夜みたいな、
息が苦しくなるような口付けだ。

唇が離れ、
ガイが僕を見る。

いつもみたいに、
すまない、って言うのかと思った。

でも、違った。

「もっと……もっと、
エレに触れたい。
いいか?」

ガイが、僕を求めた。

今までガイは僕に
何かを求め、欲しがることはなかった。

いつだってガイは僕のことを
考えて、優先してくれたから。

欲しがるのも、
わがままを言うのも
いつも僕だ。

でも、今、ガイは僕に
触れたい、って
僕が欲しいって
言ってくれている。

それが無性に嬉しい。

僕が頷くと、
ガイは目元をゆるめて
僕の頬に唇を落とす。

それから、僕がさっき
締め付けられていた喉に
首筋に、唇が触れて、
そこに意識を向けているうちに
僕のシャツのボタンが
全部長い指によって外されていた。

いつのまに?って
思う余裕はなかった。

ガイは僕をやや乱暴に
抱き上げて、
再びソファーに座る。

今度もガイの膝に乗ったけれど、
今はガイの膝の上で
向かい合わせになっている。

ガイの膝を跨ぐように
座ったので、
広くて大きな胸が
すぐ目の前だ。

僕が目の前にある
白いシャツを掴んだ途端、
ガイの唇が重なる。

一度目は触れるだけ。
二度目からは、
呼吸が苦しくなるような
激しい口づけだった。

唇を舐められ、
舌が口の中に入り込む。

息苦しくなって、
ガイのシャツを掴んだら、
じゅるって舌を吸われた。

体がしびれて、
腕の力がゆるんだら。
唇が解放される。

息を必死でしていたら、
ガイの舌が今度は
さっきキスをしていた
僕の喉を舐め、
舌が鎖骨に下りた。

ちゅう、って鎖骨を吸われると、
背中がゾクゾクする。

僕が思わず身震いすると、
耳たぶを唇で挟まれた。

何か、言って欲しい。
ガイの声が聞きたい。

少し低い、
甘い声が聞きたくて。

でも聞こえてきたのは
優しい声ではなく
ガイの荒い呼吸だった。

熱をはらんだ呼吸音が
僕の耳を支配する。

ガイの舌が、
僕の耳たぶを舐め、
甘く咬みつく。

怖くはない。
でも、自分の体が
痺れるような、
奇妙な感覚にとらわれる。

僕は思わずガイの名を呼んだ。

するとガイは
耳から唇を離して、
ようやく僕を見た。

やっとガイと視線が合った。

と、思った瞬間、
ガイの金色の瞳が
僕を一瞬で射貫く。

熱く、熱をはらんだ視線は、
美しくて、そして
獣みたいだ、って思った。

僕を食べたがっている獣だ。

でも、ガイならいいか、
って僕は思った。

ガイになら食べられてもいいや。

そう思ったから僕はガイに
「いいよ」って言ったんだ。

「ガイになら食べられてもいい」

見当はずれな言葉だったと思う。

だってガイが僕を食べるわけがない。

でもガイは僕の言葉を聞いて、
口元をゆがめた。

「ガイ?」

「そんなこと言われたら、
止める自信がなくなる」

ガイのその言葉が、
僕が大人の階段をまた上る
合図になった。


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