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高等部に進級しました
213:優しい世界
しおりを挟む俺が目を開けると
花畑に寝転がっていた。
夢か?
クマが俺の胸の上で
顔を覗き込むように
丸い手を俺の両頬を掴んでいる。
「クマ?」
俺が声を出すと
クマは嬉しそうな仕草で
俺の身体の上から
ぴょん、と下りた。
どうみても花畑だ。
メルヘン女子が夢見る
恋人たちがウフフ、キャハハと
手を繋いで踊ってるような
花が咲き乱れている花畑だ。
俺がティスに告白できたから
嬉しすぎてこんな夢を
見ているのだろうか。
そんなの……恥ずかしすぎる。
と俺が頭を抱えると
クスクスと笑い声が聞こえてきた。
「カミサマ?」
俺が顔を上げると、
すでにクマが踊っていて
真っ白いテーブルに椅子。
そしてティーセットが
準備されている。
俺がテーブルに近づくと
クマは抱っこをねだるように
両手をあげた。
俺はクマを持ち上げて
イスに座らせる。
最初は短い足で
必死に椅子によじのぼってたのに
クマもすっかり俺に甘えることに
慣れてしまったみたいだ。
俺はクマの前に座り、
カミサマが来るのを待つ。
『あの世界は随分と
優しい世界になったようだ』
頭にカミサマの声が響く。
「優しい世界……は嬉しいです。
それを目指しているので」
『それを邪魔するものは
排除して構わないと言ったのだが?』
少しだけ厳しい声が
俺の頭に響く。
でも俺は脅えないぞ。
もうやってしまった後だしな。
「ダメなものを排除するだけでは
優しい世界にはなれないと
思ったので」
半分は嘘だ。
俺が排除したくなかったからだ。
多くの物を排除するのは
それ相応の覚悟がいる。
そして今回は国一つだ。
多くの命を失う覚悟が必要だった。
俺はそれができなかった。
だから、排除以外の道を探したのだ。
『そうか。
壊れても捨てずに
修理すれば動くようになるのだな』
まるで壊れたおもちゃの話を
するようにカミサマは言うが、
そんな簡単なものではない。
いや、カミサマからしたら
その程度のことかもしれないが。
『どうだ?
あの世界は。楽しいか?』
「はい、とても。
感謝してます、カミサマ。
俺をあの世界に連れてきてくれて」
俺の言葉に、
目の前のクマが笑った気がした。
『そうだな。
私も久々に思い出したよ。
世界を創る楽しさも、
見守る面白さも』
クマが丸い手で
俺にポットから紅茶を淹れてくれる。
俺は慌ててクマから
ポットを受け取って
ティーカップに紅茶を淹れた。
俺もクマにも、ミルクと
砂糖を2つ。
テーブルの上には
クッキーが置いてあったので、
俺はクマにそれも取り分けてやった。
『そなたの力だが、
どうする?』
クマが優雅に紅茶を飲むのを見ていたら
そんな言葉が頭に響いた。
「どうする、とは?」
『過ぎた力は良くないだろう。
必要が無ければ封印するが?』
確かに、と思った。
いつまでも俺のチート能力に
頼られても困るしな。
だが今は、じゃあいらない、
とは言えそうにない。
スクライド国が今後
どうなるかわからないし、
まだ見えてない問題が
出てくる可能性もある。
『そうか。
ならば当分はこのままでいいだろう。
これもそなたを気に入っているようだ。
これもこのままでいいな』
俺の考えを呼んだように
カミサマが言う。
これ、とはクマのことだな。
つまりクマもこのまま
俺のモバイルバッテリーなわけだ。
それは地味に、嬉しい。
『嬉しいのか?』
カミサマが言う。
「はい、クマが動くのは
楽しいですし。
きっとクマは僕のために
いつも動いてくれてると思うので」
俺がそう言うと、
クマはガバっと顔を上げて
持っていたクッキーを俺に差し出した。
目が輝いて見えるのは
俺だけだろうか。
くえ!と言わんばかりに
クッキーを差し出すクマに
俺は迷ったけれど
そのままクッキーを口に入れた。
ぱくん、と食べると
クマはテーブルに乗り出して
両手を振り回している。
……喜びの舞いか?
カミサマの笑う声がまた聞こえる。
『さて。
あの世界にはあと何が足りないと思う?』
急にそんなことを聞かれた。
足りないもの?
『世界を完璧にするために
必要なものはなんだ?』
カミサマが言い方を変えて
また俺に問う。
でも、そんなの俺にわかるわけない。
「わかんないです。
だって俺はただの人間だし。
でも、完璧ってのは
カミサマだから思うことで
俺たち人間は完璧かどうかは
関係ないんじゃないかな」
俺が思ったことをそのまま伝えると
カミサマは『どういう意味だ?』と
聞いてきた。
「だって。
完璧な人間っていないじゃないですか。
誰だって弱かったり怖いものがあったり
脆かったり、くじけることだってある。
俺も臆病で、寂しがりやで
恋愛もまともにできないし。
でもだから、楽しいんだと思います。
カミサマがさっき言ってた
見守るのも面白いって言葉。
完璧な世界だったら、
そんな面白さもなくなりますよ、きっと」
俺がそう言うと、
カミサマは言葉が詰まったように
何も言わなくなった。
何かまずかっただろうか。
俺は思ったことを
言っただけだったのだが。
沈黙が気まずくて
俺は紅茶を飲んだ。
うん。美味しい。
クマにもらったクッキーも
美味しかったので
俺は手を伸ばして
もう一枚、クッキーを食べた。
『ほんとに、人間は面白い』
そんな言葉が、頭に響く。
『だから、捨てきれない。
排除できないのだ、私は』
排除?
人間を?
俺がクマを見ると、
クマはテーブルの上に
足を乗せて四つん這いになった。
驚いて見ていると
クマはそのまま俺の前までくる。
俺は慌ててクッキーの
皿とカップを横に避けた。
クマの移動に邪魔だと思ったからだ。
クマは正座みたいに座って
俺と視線を合わせる。
『しばらくあの世界は
人間たちに任せてみよう』
俺の目を見るクマは
どこか怖かった。
『排除するのではなく、
育ててみるのも面白い。
優しい世界は、
完璧ではないから
楽しいのだな』
俺はクマの圧に押されるように
コクコクと頷く。
『そうか、そう。
人間は完璧ではない。
だから完璧を求めても
無理だったのだ。
排除以外の、道……』
カミサマの声が恐ろしすぎて
俺はその言葉の深い意味を
考えないようにする。
だって、俺の言葉一つで
もしかしたら俺たちがいる
あの世界は滅んだかもしれないのだ。
俺がカミサマに頼まれた
世界を繁栄させろというあの言葉。
その言葉の裏は、あの世界を
排除……滅ぼすか、存続させるかの
選択をするための言葉だったのかもしれない。
俺は冷や汗が流れた。
俺は好き勝手やってしまったが、
結果的には良かったんだよな?
そう考えて、俺は
カミサマの『祝福』って思った。
俺が何をやったとしても
俺の都合の良い方向に
ものごとが動いて行くという
幸運の祝福。
あれのおかげか?
結果的に、すべて丸く
おさまったもんな?
クマが手を伸ばし
俺の頭を撫でた。
『そなたは、面白い。
力に溺れるでもなく、
強さに甘えるでもない。
そなたは、まさに
愛し子の名にふさわしい』
え?
今、カミサマに愛し子を
認定されましたか?
俺がそう思った途端、
カミサマの笑い声がして。
クマが俺の前で
きょとんとした顔になった。
カミサマが抜けたのだと
俺は何となく思う。
「クマ、テーブルの上はあぶない」
俺がクマを抱き上げると
クマは手を伸ばして
クッキーを取る。
「美味しいよな、この世界のお菓子」
お茶も美味しかった。
でも。
「俺たちの世界のお菓子もお茶も
めちゃくちゃ美味いもんな」
完璧な世界で、
完璧なお茶やお菓子を食べるのも
それはそれで素晴らしいと思う。
でも俺は。
「サリーが淹れてくれた
お茶が一番、美味しいと思うし、
公爵家のシェフの作るクリームが
一番だと思う。
あ、プリンは王家のシェフが
一番おいしいと思うけど」
完璧じゃないから、一番が沢山ある。
俺はそれが嬉しい。
俺の言葉が伝わったのだろう。
俺の頭に
『そういうものなのだな』と
優しい声がして。
クマが俺の身体にぎゅっとしがみついた。
瞬間、視界がぐるりと回り、
俺はタウンハウスの事実の
ベットにいた。
「うわ、酔いそう」
視界が急に変わったので
車酔いみたいになる。
でも俺は今すぐ
サリーが淹れてくれたお茶を
飲みたくなって。
クマを抱っこしたまま
ベットから起きると
サリーに聞こえるように
呼び鈴を鳴らした。
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