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Second photo 大人への階段
忘れかけていたもの
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思えばいつから一眼レフを手にとっていなかったのだろう。最後に触ったのは確か小学四年生の春頃だった。つくしにたんぽぽに、庭に生い茂る植物たちにレンズを向けながらも、どこか気持ちが乗らない自分がいた。一眼レフの本格的な扱いを覚えていくうちにうまく操作ができない自分に苛立ちを覚え始めたのもこの頃だ。オートモードで写真撮影を続けていた私は、更なる技術の向上を目指し、様々な箇所をいじって撮影を試みるがどうもうまく撮れなかったのだ。
うまく撮れない苛立ちをぶつける相手はテレビゲームや漫画だった。お菓子を片手に床に寝転がって何時間も時間を使っていた。読み散らかした漫画やお菓子の食べこぼしで母にはよく叱られた。
気付けば一眼レフの存在を忘れていった。いや、忘れたかったのかもしれない。自分で言うのもなんだが、勉強や運動や他の人より秀でている実感があった。小学校で行われるテストは満点だったし、体育でも運動能力が高く生徒のお手本になることもしばしばあった。塾には通っていなかったが要領が良かったために覚えるべきことを頭にしっかりと残すことができた。それでも、一眼レフの扱いに慣れることができなかったのだ。プロカメラマンが撮った世界各国の写真集を眺めては、自分との写真の違いにため息が出た。
それからは一眼レフの呪いと言えばいいのだろうか。一眼レフを見ると反射的に目を逸らす自分がいた。一眼レフのレンズと目が合うと何か大きな圧を感じてこちらをじっと見ているような感覚に陥った。比較的に何でもできる自分がなぜここまで慣れることができないのかの理由探しをするにはまだ年齢が足りなかった。なんでだろう、どうしてできないのだろう、そんな思いだけを抱え続けて気付けばタンスの中に一眼レフを仕舞い込んでいた。
両親は一眼レフをいじることをやめた私に何か言うことはなかった。一ヶ月、二ヶ月と触らずにテレビゲームや漫画に没頭する日々が続いた。ファッション雑誌を読んでは、洋服が欲しいとねだったり、東京へ行ったみたいとせがんだ。両親は困りながらもなるべく私に尽くしてくれていた。
母に病気を告白されてからは、謙虚になった。相変わらず一眼レフには触らなかったが慎ましく家族が穏やかに過ごせるように行動していた。母は「わがまま、言っていいんだからね。」と声をかけてくれたこともあったけれど、その度に私は首を振った。母はこの時決まって私を抱きしめて「ありがとう。」と泣きそうになりながら喋る。肩に生ぬるい温度を感じながらただただ、母の温かい愛情を感じていた。
またこの頃から私の視力が一気に下がった。テレビゲームに熱中したり薄暗い中漫画を読んだりした報復が来たのだろうと思った。
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小学校を卒業して、いらないものを処分している時にタンスの中で黒く光っているものがあった。ずっと私が大切にしていたもの、でも私が手放してしまったもの、その時の私の手にちょうどよく収まる一台の一眼レフはどこか寂しそうな風貌をしていた。思わず
「ごめんね」
と言った。その後、ホコリを丁寧に乾いたタオルで拭き取りそっと窓際に置いてみた。
レンズをじっと見ても恐怖を感じなかった。下から覗いても横から覗いても、あの時の焦りや苛立ちは私の中になかった。もう一度触ってみよう。中学生になる春、私は固い決意を胸に刻んだのだ____。
うまく撮れない苛立ちをぶつける相手はテレビゲームや漫画だった。お菓子を片手に床に寝転がって何時間も時間を使っていた。読み散らかした漫画やお菓子の食べこぼしで母にはよく叱られた。
気付けば一眼レフの存在を忘れていった。いや、忘れたかったのかもしれない。自分で言うのもなんだが、勉強や運動や他の人より秀でている実感があった。小学校で行われるテストは満点だったし、体育でも運動能力が高く生徒のお手本になることもしばしばあった。塾には通っていなかったが要領が良かったために覚えるべきことを頭にしっかりと残すことができた。それでも、一眼レフの扱いに慣れることができなかったのだ。プロカメラマンが撮った世界各国の写真集を眺めては、自分との写真の違いにため息が出た。
それからは一眼レフの呪いと言えばいいのだろうか。一眼レフを見ると反射的に目を逸らす自分がいた。一眼レフのレンズと目が合うと何か大きな圧を感じてこちらをじっと見ているような感覚に陥った。比較的に何でもできる自分がなぜここまで慣れることができないのかの理由探しをするにはまだ年齢が足りなかった。なんでだろう、どうしてできないのだろう、そんな思いだけを抱え続けて気付けばタンスの中に一眼レフを仕舞い込んでいた。
両親は一眼レフをいじることをやめた私に何か言うことはなかった。一ヶ月、二ヶ月と触らずにテレビゲームや漫画に没頭する日々が続いた。ファッション雑誌を読んでは、洋服が欲しいとねだったり、東京へ行ったみたいとせがんだ。両親は困りながらもなるべく私に尽くしてくれていた。
母に病気を告白されてからは、謙虚になった。相変わらず一眼レフには触らなかったが慎ましく家族が穏やかに過ごせるように行動していた。母は「わがまま、言っていいんだからね。」と声をかけてくれたこともあったけれど、その度に私は首を振った。母はこの時決まって私を抱きしめて「ありがとう。」と泣きそうになりながら喋る。肩に生ぬるい温度を感じながらただただ、母の温かい愛情を感じていた。
またこの頃から私の視力が一気に下がった。テレビゲームに熱中したり薄暗い中漫画を読んだりした報復が来たのだろうと思った。
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小学校を卒業して、いらないものを処分している時にタンスの中で黒く光っているものがあった。ずっと私が大切にしていたもの、でも私が手放してしまったもの、その時の私の手にちょうどよく収まる一台の一眼レフはどこか寂しそうな風貌をしていた。思わず
「ごめんね」
と言った。その後、ホコリを丁寧に乾いたタオルで拭き取りそっと窓際に置いてみた。
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