雑魚で貧乏な俺にゲームの悪役貴族が憑依した結果、ゲームヒロインのモデルとパーティーを組むことになった

第47話 超越者

【リツカ視点】

　イノシシの討伐が終わると防壁の上を歩いて防壁西を目指した。

「ギュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ！！！」

「リツカ、あれを見て」
「アキラが、1人で10メートル級と戦う？」
「もう私達はボロボロよ、ろくに戦えないわ」

　アキラはスティールソードを使いつつ1人で10メートル級と戦う。

「ディフェンスダウン！」

　10メートル級の傷を見るに、ディフェンスダウンを3回は当てている。
　それに、アキラがソウルアップをしているのが分かった。

　この短期間で3回のソウルアップ！

　この成長速度は異常だ。

　そしてそれよりも異常なのは10メートル級を相手に優位に立ち回るあの動きの上手さだ。

　10メートル級がジャンプ蹴りを繰り出すと、それと交差するように避けつつ斬り抜ける。
　この動きはキドウに似ていた。
　技量も上がっている！

「配信したままだけどいいの？」
「いいよ、アキラはこういうのを気にしないから」

「ディフェンスダウン！」

『おいおいおい！　また当てたぞ！』
『なんであんなにディフェンスダウンを当ててるんだ？』
『時間が経つとディフェンスダウンの効果が切れる、でも効果時間が切れる前に使い続ければ防御弱体の重ね掛け効果がずっと続く』

『闇魔法って本当はかなり強いんじゃないか？』
『強いとしても周りを見てみ、死体だらけだろ？　かなりリスクを負って飛び込んでるんだよ』
『前はパーティーで戦って勝つのがやっとだったのに、今回は1人で無双してる！』
『アキラは逆境に強いんだよ』
『身体能力から見てソウルランクCだな』

　アキラが張り付くように10メートル級を攻撃している。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお！」

　ザンザンザンザンザンザンザンザンザンザンザンザンザンザンザンザンザンザンザンザンザンザンザンザンザンザンザンザンザンザン！！

『はあ！　何回斬った？』
『分からん、でもたくさん斬ってる』
『気合侍に迫る技量だぞ！』

　足を斬り刻んだ後は眉間に剣を何度も突き立てていた。

『10メートル級が消えた』
『たった一人で10メートル級を倒したのか！』
『ジャイアント、キリング！』

『レアドロップだ！　蹴り強化のスキルを覚えるレアアイテムがドロップした！』
『すげえ！　売れば億はするぜ！』

　アキラが蹴り強化のレアアイテムを持ってメイに近づいた。

　私達が歩いて近づくとアキラの声が聞こえた。

「メイ、プレゼントだ」

　メイの体が光り輝いた。
　そうか、メイに億のレアアイテムを使ったんだね。

「なん、で、私に」

　メイが涙を流した。

「いやあ、メイが、悩んでいたから」

　アキラの真剣な顔がふにゃっとした笑顔に変わった。

「だ、だって、売れば、お金が手に入るんですよ！　な、何で、ううううああああああああああ！」

「悩むのは、苦しいよな。だからさ、悩みが取れるならいいかと思って」
「うあああああああああああああ！」

　メイがアキラに抱き着いた。

　それを見て分かった。
　メイは、アキラに恋をした。
　私の心にも変化があった。

　刺激を与えてくれる対象から、好感の持てる人に変化していたのだ。
　心が温かくなる。
　アキラとなら、パーティーを組みたいと思えた。
　男の人でも、アキラとならパーティーを組める。

　後ろにいた多くの冒険者がアキラに拍手を送っていた。
　そして配信からも多くの声が聞こえる。

『アキラ、男前だぜ！』
『涙が出てきた』
『アキラ最高！』
『貧乏なのに、余裕が無いのに、あんたすげえよ』
『メイちゃん、良かったな』


【マナ視点】

　メイがアキラに抱き着く。
　メイがアキラに恋をしているのが分かった。
　メイが、好きになるのも分からないではない。

　私から見たアキラは、悪役ではなくて、思ったよりは優しい男、その程度。
　でも、パーティーを組むのは悪くないと思えた。
　少なくとも、他の男性と違ってアキラは安心できる。

　でも、メイと抱き合っているのを見て、少しもやもやした気分になった。