雑魚で貧乏な俺にゲームの悪役貴族が憑依した結果、ゲームヒロインのモデルとパーティーを組むことになった

ぐうのすけ

文字の大きさ
93 / 116

第93話 戦士の心

しおりを挟む
【ヤナギ視点】

 俺は護衛としての力不足を感じて休みを貰っていた。
 刀を振り、モンスターを倒し、鏡を見ながら刀を振る毎日を続けた。
 そして自分を追い込み、手が痺れそれでも刀を振ったあの時、俺は振り方を掴んだ。

 前よりも手ごたえのある風切り音。
 滑らかに動く素振り。
 そしてモンスターを倒した時の切れ味、修行の手ごたえを感じていた。

 オウセイの家に帰ると、家の前でアキラが剣を振っていた。
 動きが段違いに良くなっている!
 キドウに迫る技量を手に入れたのか!

 オウセイはアキラの動きを腕を組みながら見ていた。

「オウセイ、アキラと打ち合いをしたい」
「本人に言ってくれ。私はただ、見学をしていただけだ」
「分かった」

 私はアキラの隣で刀を振った。
 そしてアキラの素振りが終わるのを待つ。


 アキラの素振りが終わると、皆が集まっていた。
 オウセイが腕を組んだまま言った。

「気にせず進めてくれ」

「アキラ、腕を上げたな」
「はい、前よりはマシになりました」
「打ち合いを頼んでいいか? いや、試合をしたい」
「いいですよ。アドバイスをお願いします」
「アドバイス出来るかどうかは分からない。まずは試合だ」

 俺は刀を構えた。
 アキラも剣を構える。

 目を見て分かった。
 アキラの準備は出来ている。
 俺から間合いに入った。

 打ち合うとやはり押し負ける。
 アーツを使わなければ無理か!

 その時、アキラが後ろに下がった。

「どうして剣を止めた?」
「何か言いたげに見えたので」

 打ち合うだけで心が通じ合う。
 スキルを、アーツを使いたい。

「アーツ有りで行く!」

 アキラが小さく頷いた。
 俺はもう一度アキラの間合いに入る瞬間にスキルを使った。

「月光!」

 月光は刀の攻撃力と速度を一定時間引き上げるスキルだ。


 刀で2回打ち合ったがそれでもアキラの剣を突破できる気がしない。
 俺は即座にアーツスキルを使った。

「三日月!」

 三日月型の斬撃を飛ばすスキルを近距離で使った。
 アキラが強引に身をよじって三日月をかわす。
 その瞬間に更にアールスキルを使った。

「斬月!」

 高速の一振りを浴びせるアーツスキルだ。
 月光で強化した上での三日月と斬月、このコンボは刀使いとしては陳腐。
 だがそれゆえに対処しがたい王道の勝ちパターンだ。

 だが。

 ガッキイイイイイン!
 ズザアアアアアアア!

 強力な斬月の一線をアキラは剣で受け止めた。
 剣と刀から火花が散ってアキラが半回転しながら後ろに飛ぶが足を踏ん張って踏ん張り地面に跡がつく。

 まだだ、アキラの体勢が崩れた。
 その隙に!

「三日月!」

 刀の斬撃が飛ぶ。

「斬月!」

 三日月に追いつくように一瞬で距離を詰めてバツ字の強力な攻撃を繰り出した。
 アキラの剣が弾かれ手から離れた瞬間に新たな剣がアキラの手に現れた。
 グレイブレイブか!

「……」
「……今専用武器を出したのって、反則になります?」
「いや、反則ではない。よく分かった。ありがとう」
「もう終わりですか?」
「ああ、俺の負けだ。己の未熟さを痛感した」

 不意打ちのように月光を使い、三日月と斬月で体勢を崩し、次の三日月と斬月で押し切れなかった。
 あのコンボが俺に今できる最高の攻撃。
 あれで崩せなかった時点で分かってしまった。
 俺には勝てないと。

 刀しか能の無い俺が魔法剣士の剣に歯が立たない。

 俺はまだ未熟だ。

 足りない部分がこのわずかな打ち合いで見つかるとは。
 数か月訓練を重ねても気づけない気づきを一瞬の打ち合いで気づかせてくれる。
 試合はこれだから面白い。

「アキラ、頼みがある。キドウとも、試合をしたい」
「分かりました……」

 アキラの連絡でキドウがここに来てくれる事になった。

「ヤナギ、良いのか?」
「オウセイ、何の事だ?」
「5回もスキルを使っただろう? キドウとの連戦に耐えられるのか?」
「いい、追い詰められるのも悪くない。それにまだスキルは使える」


 キドウが来て礼をした。
 俺はすぐに刀を構えるとキドウも刀を構えた。

「すぐに始める」

 俺はキドウとの間合いに入り打ち合う。
 キドウの抜刀術に押し込まれ、俺は後ろに下がる。

 1撃1撃がアーツに迫る威力だ。

「月光!」

 俺はためらいなくスキルを使った。
 月光無しでは打ち負ける。

 そして打ち合い、キドウの刀を弾いた瞬間にアーツスキルを使った。

「三日月! 斬月!」

 十字の斬撃、タイミングは申し分ない!
 だが、


 キドウの刀が斬撃を受け流した。
 わずかに崩れた体勢もすぐに立て直し納刀した刀を構える。
 アーツまで放ち、わずかに崩した体勢が一瞬でゼロに戻る。

「キドウ、本気を、スキルを見せてくれ」
「失礼した。きあああああああああああああい! オーラ! 月光!」

 俺はキドウの気合・オーラ・月光の重ね掛けで手も足も出ず腹に斬撃を受けてあっけなく負けた。


 オウセイと並びながらキドウとアキラの打ち合いを見学する。
 キドウは想定内のレベルアップだ、強いのは最初から分かっていた。
 だが、アキラの技量は予想をはるかに超える成長に見える。

 アキラが転倒して負けた。
 キドウがアキラに手を差し伸べた。

「兄さんには敵わないな」
「数か月の訓練だけで、剣だけで私に勝つのは難しい。だが、アキラは私に追いついている」

 そうだ、アキラの剣技は異様な速度で跳ね上がっている。
 更にアキラは闇魔法を使う魔法剣士だ。
 剣だけでキドウに勝たなくても闇魔法がある分実質同格とも言える。

「まだまだ訓練が足りない。たった数か月ではそこまで変わらないか」

 アキラの言葉が胸に突き刺さる。
 俺は休みを貰ってわずかな時間訓練しただけだ。
 そしてそれでも俺は成長した、俺はまだ伸びしろがある。

 オウセイがため息をついた。

「はあ、ヤナギにはもっと長い間ヒメビシで働いて欲しかったのだがな」

 俺の心は決まっている。
 金は貯まっている。
 やりたいと思っていた修行に打ち込める。

 後はオウセイに言うだけでいい。

「今まで世話になったな」
「それは私の方だ。修行に満足したらまた帰ってこい」
「満足したらな」

 俺は黙って家を出て行った。
 キドウとアキラをメイドやリツカ、カドマツたちが見学しながら盛り上がる。
 別れの挨拶は得意じゃない。

 ただ気配を消して歩いて去っていく。


 家を離れて大きな屋敷を振り返った。

 そして自分の口を抑える。
 
 俺の顔には笑みがこぼれていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

転生?したら男女逆転世界

美鈴
ファンタジー
階段から落ちたら見知らぬ場所にいた僕。名前は覚えてるけど名字は分からない。年齢は多分15歳だと思うけど…。えっ…男性警護官!?って、何?男性が少ないって!?男性が襲われる危険がある!?そんな事言われても…。えっ…君が助けてくれるの?じゃあお願いします!って感じで始まっていく物語…。 ※カクヨム様にも掲載しております

異世界帰りの俺、現代日本にダンジョンが出現したので異世界経験を売ったり配信してみます

内田ヨシキ
ファンタジー
「あの魔物の倒し方なら、30万円で売るよ!」  ――これは、現代日本にダンジョンが出現して間もない頃の物語。  カクヨムにて先行連載中です! (https://kakuyomu.jp/works/16818023211703153243)  異世界で名を馳せた英雄「一条 拓斗(いちじょう たくと)」は、現代日本に帰還したはいいが、異世界で鍛えた魔力も身体能力も失われていた。  残ったのは魔物退治の経験や、魔法に関する知識、異世界言語能力など現代日本で役に立たないものばかり。  一般人として生活するようになった拓斗だったが、持てる能力を一切活かせない日々は苦痛だった。  そんな折、現代日本に迷宮と魔物が出現。それらは拓斗が異世界で散々見てきたものだった。  そして3年後、ついに迷宮で活動する国家資格を手にした拓斗は、安定も平穏も捨てて、自分のすべてを活かせるはずの迷宮へ赴く。  異世界人「フィリア」との出会いをきっかけに、拓斗は自分の異世界経験が、他の初心者同然の冒険者にとって非常に有益なものであると気づく。  やがて拓斗はフィリアと共に、魔物の倒し方や、迷宮探索のコツ、魔法の使い方などを、時に直接売り、時に動画配信してお金に変えていく。  さらには迷宮探索に有用なアイテムや、冒険者の能力を可視化する「ステータスカード」を発明する。  そんな彼らの活動は、ダンジョン黎明期の日本において重要なものとなっていき、公的機関に発展していく――。

男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺

マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。 その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。 彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。 そして....彼の身体は大丈夫なのか!?

処理中です...