ANGEL -エンジェル-

蜜星

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回-recovering-

F27.結構するわよ?

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私は最初に九理に助けを求めたあの時のように、屋上で語り合わんばかりの勢いだったが、それはあっさりと下校時間の放送によって阻まれてしまった。
じゃあ外で話そう、と2人で学校を出ることになった。

長い前髪を整えて、綺麗な髪を三つ編みにしていく様子を見ているとなんだか変装でもしているようだーーなんて思いながらじーっと見つめていると、その視線に九理は不愉快そうな顔になる。


「ダサいのは分かってるわよ」

「私、何も言ってないけど…」

「この前も言われたの。」

「誰に?みかん?」


みかんがそんなこと言う訳ないでしょ!と怒られてしまったが、私には彼女の友達はみかんぐらいだと思っているので、さらに追求したくなってしまうーーいや、この場合悪口みたいな物言いをするのは友達とは限らないのか…とすぐに思い直して、そのまま大人しく支度ができるのを待ったわけだが。
友人の定義とは実に曖昧なもので、会話してすぐに友達になった気になる人もいれば、知り合いと友達の境界線をきっちり引く人もいるーーつまりは、その人の価値観。物の考えよう。と言えるが、私の場合はその境界線がぶれぶれだったりする。自分がどう思っているか、と考えるのは案外稀なもので…どちらかというと、相手がどう思っているのか考えてしまう。
例えばみかんであれば、初めて会った日から毎日一緒に話して、ランチして、休日にお出かけする日だってある。学校で一番行動を共にする人物ーー紛れもなくお互い友達と思っているだろう。
だが、クラスの中にはちょくちょく会話する人もいるし、何気なくいつものように話しかけられる人も少なくない。会えば気兼ねなく話せるような人物ーー程度もあるが、これも恐らく友達と言えるだろう。
ーーでは、九理は?
位置的には、お互いにみかんを通じて知り合った、友達の友達。みかんがいるから一緒に話したり、ランチしたり、出掛けたりした。側から見れば友達そのものだ。でも九理はどう思っているのか…考えてもよく分からなかった。みかんに執着していて、どちらかというと嫉妬しているのだろうかと思える時もあったりしたので、友達、と言うよりは敵視されているのかもーーとさえ思った。類は友を呼ぶ。そんな言葉があるのだから、私達はいい友達になれるのかもしれない。しかし、何しろ出会い方が特殊だったためか、みかんがいないと会話がぎこちなく感じることも否めない。たぶんこれは、お互いに無意識に探り合っていたのだ。私と同じようにきっと九理も友達との境界線に悩んでいたのかもしれない。なにせ、類は友を呼ぶーーなのだから。


「…て、訳で今に至るんだけど…きゅうりはどう思う?」


近くのファストフードのお店に入って、最近起こったことを事細かに話した。私の話が終わるまで、口を挟まず聞いてくれていた九理は私の奢ったカフェラテを飲んで一息ついてから、なるほどね。と呟いた。もしや、それだけで分かってしまったのかと思ったが、


「いや、探偵じゃないんだから…なんでそんな事になっているのかは分からない。…けど、そもそも2人の認識が、前提からだいぶ食い違ってるわね。」


確かにそうだ。私もそれはおかしいと思っていた。
二階堂は、真君とは腹違いの兄弟で、家族がバラバラになったのは真君のせいだと思っているようだった。
対して真君は、二階堂とは双子の兄弟で、親の離婚で離れて暮らしていたと思っている。
前者の方なら真君の立場は非常に悪いだろうし、二階堂が近寄りたくない気持ちもわかる。しかし、後者の方なら2人がいがみ合う理由もない訳だ。


「真君が言ってるのが理屈が通ってるような気がして…だって、親御さんが真君に嘘をつく必要がないでしょう?」

「それはあなたの願望が入った答えね。そうならいいなと思っているから、そう感じるのよ。」


私の意見はあっさりと…否、ばっさりと切り捨てられるように否定された。


「それで言うなら、二階堂だって同じ。親御さんが…司書の先生が、そんな酷い話をつくって教える必要あるの?」

「それは、ごもっともで…」


ここで話はループするのだ。どちらも正しい、では理屈が合わない。でもどちらかの親が嘘をつく必要はどこにあるのだろう?


「もう一度聞くけど…二階堂は真君の事なんだと思ってるって?」

「…?えっと、腹違いの兄弟で、家族を引き裂いた奴…?」

「てことは…真君のお母さんが、お父さんの再婚相手との子供だと思ってるんじゃない?」


それを聞いて一瞬、それはそうだ、何を今更言っているのかーーと思ったが…そうではない。大前提が違うのはそこだ。
2人は双子なのかどうかーー
これをはっきりさせなければ、この問題は解決しないのだ。


「じゃあ2人が双子かどうか分かれば、正解にたどり着けるかな…?!」

「そうね…それさえ分かれば、ほぼ正解にたどり着けるでしょうね。確実に調べるならDNA鑑定…と言いたいところだけど」


九理はそう言いながら慣れた手つきでスマホの画面を叩いて、すぐに私へ向けたーー


「結構するわよ?」


そこに書かれた金額に、思わず目を丸くしたーー








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