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回-recovering-
F28.私が、嫌なの!
しおりを挟む高校生は大人か、子供か。よくそんな議論がされるけど、女子なら結婚もできるし、子供を産める体にもなっている。もちろん男子だって18歳から結婚出来るし、選挙権だってもらえる。最近では成人年齢の見直しだって考えられているから、もしかしたら高校生で成人だってありえない話ではない。
ーーしかし、私達は守られている。
近い将来、一人で社会へと出て困らないだけの知識を教えてくれる、先生たちに守られる。
日々の生活に困らないように衣食住を共にし、与えてくれる、親に守られている。
私達は、周りの人に守られて、与えられて、生きている。
もし、守り、与える人が大人たちと仮定するなら、私達はまだ子供なんだと思う。
ーーそんな長い前振りの末に言いたい事は、子供の私達には…
「この金額は無理だ…」
「貯金とかないの?」
「あるわけないでしょー…いつもギリギリなんだから…」
万単位の買い物なんてした事はない。ましてや、この金額を誰かに借りたとしても、私には返すあてはない。バイトも学校で禁止されているし、なにより、親にお小遣いを貰う身としては、他人のDNA鑑定のためにお金を出すなんて、バレたら何を言われるか…
「お金の問題はシビアだよ…」
「まぁ、二階堂が受けてくれるかもわかんないしね。」
「ダメじゃん!」
お金を出して、受けてくれないでは元も子もない。
うなだれる私に呆れた様子の九理は、でもまぁ、と切り出す。
「でもまぁ、他にも方法はあるでしょう?」
「……そりゃあ、まぁ、ねぇ?」
「……本当に分かってるの?」
「分かってるよ!…司書の先生、でしょ?」
私達にはまだ方法がある。聞けばいいのだ。
二階堂の、もしかしたら真君のーーお母さんに。
でもそれには大きな問題がある。二階堂が母から離婚の理由が真君が生まれた事だと聞かされていたのなら、聞いたとしても答えが決まっているようなものだ。それが本当か嘘かは分からないけれど。
「本当のことなのか、嘘なのか…それはさておき、同じようなことを言われるかもね。」
「でも、それじゃあ真君がご両親から嘘を言われていたことに…」
「………」
「………」
行き詰まるものは、やっぱり行き詰まる。
九理に全部話して、考察したところでだいぶ冷静に離れたのだけれど、冷静に考えても矛盾している。誰かが嘘をついているのか、または、勘違いしているのか分からない。それが本当である、または嘘である照明ができないから、どうしようもなくなってしまう。
そもそも、人が2人以上いれば必ず反発が起きるものだ。何かしら食い違うものだ。同じ感覚、同じ考えを持つ人はいないし、それぞれが信じるものも違う。こんな時、話し合いによる解決ができるのが人間のいいところだと私は思うのだが、二階堂にはそれが通用していない。自分の敵、とみなした相手に対して話を聞き入れないどころか、会うのも拒んでいる。
2人で長い沈黙の後に、ぽつりと九理が言った。
「やっぱり、私が司書の先生の心を覗けば…」
「それはダメ!」
絶対に行き詰まった時に言うとは思っていたが、案の定九理はまた力を使おうと考え始めていた。確かにそれが一番手っ取り早いのかもしれない。でもそれはダメだ。
「…だってもう、それしかないでしょう?全部聞いて整理しても、何も分からないし…」
「絶対にダメ!」
いささか諦めが早い九理は少々面倒くさそうにしているが、絶対にダメだ。
「みかんに怒られるとか言うんでしょ?こっそりやって、関わってないふりするから…」
「ダメだってば!」
「なんでよ?別にバレるようなヘマしない…」
「私が、嫌なの!」
大きい声に閑散とした店内はさらに静かになったような気がした。長い前髪の奥で目を丸くする九理は、私の声に…と言うよりも、発言に驚いているようで、少しの沈黙の後に口を開いた。
「………なんでよ?」
「友達だから!なんで自分の寿命も考えずにそんな簡単に力使うとか言うの?人のことより、自分のことを大切にしてよ!」
いつだかみかんは言ってた。九理は自分の寿命を他の天使に教えてもらったってーーだから、今やりたいことをやってるってーーみかんは九理が私達のために簡単に力を使うのを分かってたから言わなかったんだ。九理のために。長く生きて欲しいと思う、私たちのために。
私は九理に生きていて欲しい。いなくなってほしくない。まだ九理のこと何にも知らないけど、これからもっと知りたいと思うんだ。
みかんとの昔の話も、高校で私に話しかけて来たときの話も、なんで今猛勉強してるのかも、いっぱい聞きたいことがある。
もっとちゃんと、友達になりたいーー
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