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癒-healing-
P24.本当にないものねだり
しおりを挟む「ん…」
「あ、気が付いた!」
「あれ…?」
彼女はそっと目を開けると、起き上がらずにあたりを見渡している。
「よかった…体調はどうですか?痛いところとかは…?」
「い、いえ…大丈夫、です。」
むくっと起き上がると、きょとんとした顔でまわりをまだ見まわしている。
「あ、僕の家です。あの場所から近かったので…」
「……そっか。私…」
今度は自分の体を確かめるように手を握ったり開いたりしていた。
「あ、風邪ひいちゃいけないと思って、家政婦さんに着替えを頼んだんです。勝手にすみません。」
彼女は黙って首を振った
「ありがとう。…でも、よかった…またあなたと話せた。」
「…え?」
綺麗な笑顔でそんなことを言ってくる彼女に、思わず顔が熱くなってしまった。
それに気づいた甘実さんが慌てて言葉を訂正する。
「あ、そういう意味じゃなくてね…」
ほわっと彼女の白い肌が赤く染まった。
少しの間沈黙が流れる――
何意識してんだ…ほとんど初対面の人に…。
「あのね!あの…あなたのこと可哀想だと思うのが普通なのかもしれないけどね、私はちょっと羨ましいの!」
この空気を変えようとしてか、彼女は少し大きな声でそういった。
「羨ましい…?」
「…うん。私はね、あなたと真逆だから。」
「さっきの…?」
「私はね、人を癒してあげられる力が、昔からあって…とてもいいことだと思っていたの。でも、そうじゃなかった。」
彼女は自分の力についてやけに詳しく知っていた。
人の怪我や心を癒す力であること、
つらい記憶が消されてしまうことを、
隠さず話してくれた。
「私はね、覚えてないの。今まで生きてきた中で、辛いことがあった記憶。」
「でも、それはなくてもいいものじゃ
「良くない。」
彼女は、僕の言葉を遮るとこう言った。
「友達の…記憶がないの。彼女は確かにいたのに…私の中でモザイクがかかっているみたいに…それで、私はおかしいんだって気づいた。とても大切な人だったはずなのに、居たはずの人が、元から居ないことになってしまうくらい、強い力なんだって…そう思ったら、本当に怖くて…」
彼女は肩を抱えて震えている。
「人のことは治してあげられるのに、自分のことは消えて、組み替えられているんだって…本当の私は誰なんだろう…何処にいるんだろうって。」
僕は同じだ、と思った。
誰にでもない、自分自身の力に怯えて、自分自身の能力に翻弄されている。
「だからね、私は自分のことを治せる君が羨ましいの。」
「………」
「ごめんね?こんな話。貴方は人を救える力が欲しいんだよね?不思議だね…こんな力でも、きっとお互いに素敵な力のはずなんだよ…本当にないものねだり。」
「…本当ですね。こんな力、足して割れたらいいのに。」
彼女はきょとんとした顔をしたあと、
そうだねと言いながら、また綺麗に笑った。
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