ANGEL -エンジェル-

癒-healing-

Ｐ30．彼女しかいない。

「二階堂優…あんたいつからここに…」




「兄さん…」

二階堂優は真くんを睨み付ける。
少し先の本棚の陰から出てきた彼は
それ以上私たちに近づこうとしなかった。

「お前1人じゃ、やっぱり頼りないと思ってな」

「はぁ?」

「それに、無理やりこいつと会わされる日が来るかと思うと胸糞悪いから」

「ちょっと?!あんた本人の前でそんなこと…!!」

俯く真君を気にする様子はなく
二階堂優はそのまま話を続ける。

「話を聞いた限りじゃ、解決策は一つだ。甘実とその友達を会わせて、記憶を取り戻す。」

「そんなこと…真君がやった時は真君の記憶を消されちゃったんだよ？みかんが思い出せない方より、優先的に真君の記憶を…」





「彼女の記憶は思い出せないんじゃありませんよ。」





「え？」

黙っていた真君が話し出す。


「思い出せないのではなく、どうしても、消せない。だから他を消す。甘実さんの記憶を取り戻すことができるのは、甘実さんこの力の流れを断ち切ることができるのは、彼女しかいない。」


「記憶を消すことができない相手であれば、無理やりにでも思い出すかもしれない。でもこれは賭けだな…もし、今度こそ記憶を消されてしまった場合…」


「甘実さんの記憶はおそらく二度と戻ることはないでしょう。」


私は交互に解決策を述べる彼らに圧倒されてしまった。

この2人…考えてること一緒じゃん…
ここにいるとまた私だけ置いてけぼりの気分…

「えーっと…じゃあ、その人に協力してもらわないといけないのか…？でも、辛い記憶なら“その子”から嫌がられるかもしれないね？」

「そもそも、甘実さんの力のことを信じてくれないと協力してもらうのは難しいですね…」

真君と二人で腕を組んで考え込む。

みかんの記憶についてその人に説明したとして
信じてくれる人なんて普通いないよね…？
どう言えば協力してもらえるんだろう？

「………」

「………」

「………」

「あ、甘実さんが忘れられないくらいの人なら、その人にとっても甘実さんは大切な存在の可能性が高いんじゃ…」

「確かに!親友の一大事なら、こんな嘘みたいな話も信じてくれるかも！」

私たちを見て二階堂優がため息をつく。

「お前らなぁ…こんな話を誰が信じるっていうんだよ…そもそも何て言ったけ？その女の名前。」

「あれ？そういえば聞いてないね？」

「あ、そうでしたね、二年の――」






「「は?!」」