妹、異世界にて最強

海鷂魚

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二十二話

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「おはよう。よく眠れた?」
 早朝六時。僕は一足先に起きて外の空気を吸おうと思ったところで、宿の前で先に準備運動をしていたのはシロだった。
「儂は眠りが良いからの。安眠できたわ。今のうちに安眠しとかんともうずっとできんかも知れんしな」
「確かにね」
 なんて話しつつ、僕はシロの横で伸びをした。
「儂は今から走り込みに行くつもりじゃが、お主もついてくるか?」
「僕はパス。ちょっと朝日を浴びに来ただけだし。それにシロの脚力についていけないよ」
「それもそうか。お主はただの貧弱な人間だものな」
「嫌な言い方するな……」
 まあ別にそれで良いが。シロの性格上、皮肉屋みたいなのが合ってる。本性はただの恥ずかしがり屋の可愛い女の子なので、本当に性格も猫みたいだ。
 僕が猫の性格を熟知しているかと言われればそれは違うが。
 ツンデレというのが猫の性格というのが一般的な見解ではないだろうか。
 だとすれば、シロは猫みたいな性格だと、そう思うのだった。
「まあそんなお主もギルドの仲間じゃ。儂の本気を見せてやっても良いぞ」
「本気?」
「儂はクロと違って脚力を鍛えておる。その力を今に見せてやろうというのじゃ」
 自慢げにするシロ。クロと違うのならば、クロはどこを鍛えているのだろうか。
「儂のスーパーダッシュじゃ——」
 そう言って腰を低くし、片足を前に出した体勢で、飛び出した。
 その速度は、以前灯が見せたダッシュと同じような速度である。ブンという音とともにあっという間に消えて行く。この速度だと、誰かとぶつかったりして事故を起こさなければいいが……。
 僕はシロを見送ってから、宿に戻ろうとした時、僕の後ろでシロを見ていた人物がいた。
 灯だ。
「なんだお前、いたのか」
「うん。……話聞いてたけど、あのダッシュ、全力なのかな」
 灯は少し不安そうに、そう言った。
「それがどうした?」
「私のこのあいだの走りは、三割くらいしか出してないんだよ。それがシロちゃんの全力と同じって……」
 あのスピードで三割……。
 全力を出したらどうなるんだ……。
 少し興味が出て来た僕は、灯に提案を投げかける。
「おい、お前も全力疾走してみろよ」
「嫌だよ」
 少し被せ気味に拒否する灯。
「私、こんなに強いなんて……。化け物みたいじゃん」
 灯は暗い顔をして、俯いた。
 僕としては、その認識がなかったと言ったら嘘になる。
 灯のメンタルから性格から勇者としての力まで。
 全てが化け物じみている。
 そう思わざるを得ない時もあった。
 しかし、ここでの灯はやはり、勇者なのだ。
「勇者は強くて当然だろ」
 僕は言う。
 胸を張れ。
 灯のない胸を張ったところで、胸の大きさは変わらないのだけれど。
 自信は大きくなる。
「勇者は強くて当然か……。確かにね」
 灯はちょろいのですぐに元気な笑顔を見せると、
「ありがと兄ちゃん! 私、強い自分が大好きになった」
 と、自らの悩みを解決させた。
 ていうか、本当にちょろいな。
 悩みの起承転結が一行の文章で終わりそうな勢いだ。
 だが、それと同時に、そんな灯が自殺を考えていた時期には、どんな負荷が灯にかかっていたのか。計り知れない。
 僕などでは、同情もできないほど、灯は悩んでいたのだろう。
「灯。今日から一週間、過酷な旅になるかもしれないけれど、全力で行こう」
 しれないというか、知れているが。
 過酷な旅になるだろう。それでもあやふやにしたのは、僕のポジティブさ故だ。
 灯が明るくなくては意味がない。
 ならば兄である僕も、少しは明るくなくてはなるまい。
「兄ちゃんは必ず私が守る」
「お前は必ず僕が守る」
 言い合いつつ、お互いに笑みがこぼれた。こんな気恥ずかしいことを真面目に言って、馬鹿じゃないのかと、そう思う。けれど、もう今じゃなきゃダメなのだ。
 今真面目にならなければ、今後、灯と真面目になり合う日が訪れないような。
 そんな気がした。
「兄ちゃん。愛してるよ」
「ふふ、唐突に言われると本当に気持ち悪いな……」
「兄ちゃんから言ったんだよ」
「こんな会話前にもしたな」
 僕から言ったのだ。愛してると。
 ならば灯の愛も受け入れてやらないとな。
 僕と灯は宿に戻ることにした。
 部屋は分かれているので、それぞれの部屋で支度をしなければならない。
 廊下での別れ際、僕は灯に声をかける。
「灯」
「なに? 兄ちゃん」
「無理はするなよ」
「ありがとう」
 会話を交わしつつ、僕も、決意を新たにして自室に戻るのだった。
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