妹、異世界にて最強

海鷂魚

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二十三話

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 朝食や他の支度を整えて、オールラを出たのは午前九時過ぎになった。
 一回、服を買って行きたいという灯の我儘で路線変更しかけたが、一週間や二週間服を変えないくらいで死ぬわけではないし、なにより食料のおかげで荷室には服どころか、ちょっとした物さえ入れることは叶わなかった。
 不潔であることには変わらないが、アルハに着いてからは風呂も入れるかどうかわからないのだ。シュバルハを走る二日間は服を洗濯したり風呂に入ったりもできるが、アルハに入ってからは野宿は当たり前だし、多少不潔になることは我慢せねばならなかった。
「アルハの町でどっかの家襲撃してさ、そこの風呂とか使えばよくない?」
 と、言う強盗メンバーの灯だったが、
「魔物にはそもそも風呂の文化がない。猫とか犬とか、ペットにしても風呂に入れすぎないよう気をつけろと言われるじゃろ。獣は風呂に入らんでもいいようにできておる」
 シロの論破により灯の襲撃作戦は未遂に終わった。
 そして馬車は走り出し、灯は愚図りながらも、共にアルハへ向かうのだった。
「馬は一日に百キロメートルも走れません。ペース配分を考えて、ゆっくり走って夜まで馬車を走らせます。それを二日間続けて、シュバルハを出ます」
 ヴィルランドールさんが、出発の前に僕らにそう説明した。
 退屈しそうだが、これから敵地に乗り込むのだ。緊張感を持たなければなるまい。
 僕は心なしか、背筋を正して外の様子を伺っていた。走ってる馬車を襲撃されたらたまったものではない。灯にも、シロやクロにも注意するよう言っておいた。
 馬車は三人席が向かい合っているので、窓側になれるのは四人。そこに座るのはシロとクロと灯と僕にして、シバリアさんは真ん中だ。
「なんだか守ってもらうみたいで申し訳ないですね……」
 と、言うシバリアさんだったので、
「怪我した時に癒せるのはシバリアさんしかいませんから。僕らが怪我した時はよろしくたのみますよ」
 そう言って励ました。シバリアさんは、
「ありがとうございます。がんばります」
 と、笑顔を見せてくれたので、その笑顔に癒された僕はますます張り切れるのだった。
「到着予定時刻とかわかりますかね」
 客席と運転席の間にある小窓を開けて、ヴィルランドールさんに声をかける。
「この調子ですと、随分進んでノロリオトールという町に着きそうですね。今日はこの子の調子がいい」
 馬を指して言う。ノロリオトールか。どの辺なのかピンとこないので、地図を見つつ、
「ありがとうございました」
 と、窓を閉めた。
 ノロリオトールは随分シュバルハの端だ。今日は結構進むんだな。すると二日もかからずにアルハに着きそうだ。
「しかし、馬車を引く馬の脚で二日って、随分王都からアルハまでが近いですね」
 シバリアさんに地図を見せながら言った。
 王都から二時間歩いて(町の名前は知らない)、そこでシバリアさんに出会って、馬車を買って、ヴィルランドールさんを雇って、何時間か馬車で走ってリダへ行き、リダでシロとクロに出会って、そこから西へ向かってオールラへ。そこから一日から二日でアルハか。
「シュバルハって結構小さいんですよ」
 シバリアさんが説明してくれる。
「小さな領土で、満足して暮らしていたんです。魔物とは分かり合えないと言い伝えられてましたから、なるべく関わらないようにして。それはアルハの魔物も同じでした。お互いが干渉しないようにしてきた。なのに突然、最近になってアルハの魔物はこちらの領土を、ただでさえアルハより小さいシュバルハの領土を奪おうとしてるんです。だから戦争が起きている」
 大変ですね。と、シバリアさん。
「この戦争に限っては、どちらが悪いかといえばアルハが悪いと言えるわね」
 クロが組んでいた足を組み替えながら言う。ハーフとはいえ、アルハに思い入れがあるとか、そう言うことはなさそうだ。
 少しはあるものだと思うが。
 隠しているのか。
 隠していたとしてもシュバルハ側に付くのがわからないな。中立の立場でいればいい。
 とにかく今はシュバルハの味方で、僕らの仲間なのだから、感謝すべきだ。
 仲間っていうのはやはりありがたい。
 それは灯の存在も例外ではない。
 三日前はどこで仲間を見つけたらいいかさえわからなかった。それを発見したのは灯のおかげだ。傷を治せるのはシバリアさんのおかげだし、馬車で移動できるのはヴィルランドールさんのおかげ。戦闘中、仲間に背中を預けられるのもシロとクロのおかげでもある。
 おかげさまでここまできた。
 あとは目標を達成するのみ。
 それがとても難しそうなのだが。
 みんなで協力すれば、なんとかなる。
 そう自分に言い聞かせて、馬車での旅を続けた。
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