妹、異世界にて最強

海鷂魚

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四十三話

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「話は終わりか?」
 魔王が立ち上がる。
「最初から必要のない話だったよ」
 と、灯。
 灯が前に出て、魔王と一騎打ちをするつもりだ。
『それでいい』
 ずっと黙っていた女の声がする——三寂。
『妹と魔王を倒さなくてもいい。妹と半魔の猫二匹に魔王は任せろ。青志はシバリアを守るだけでいい』
 だが、さっきとはいっていることが違う。灯の力を過信するなと言っていたのに、今は戦わせろと言っている。
『状況が変わった。私の力は残り少ない。私の力を温存するために、妹を戦わせろ。今は引け。戦いを見届けろ』
「…………」
 それで、いいのだろうか。
 アルハの王である彼のいうことが正しければ、僕らは今すぐここを離れて、アルハから身を引くべきではないのだろうか。
 だが、先ほどの灯の目。
 あれは完全に、我を忘れるほど闘志に満ちた目をしていた。
 自分が悪であるとか、善であるとか。正しくあるとか、誤りであるとか。
 どうでもよく考えている。
 灯は今、自分が戦うこと、魔王を殺すことだけに存在価値を見出している。
 王様に異世界転生されなければ、自殺していた灯。
 ——王様に託されたから。
 それだけで今、灯は生きている。
 だからアルハが被害者の立場にいたところで、 それは関係ない。王様に助けられた自分には関係ない。
 今の灯は、王様のために死ぬのだろうか。
「灯」
「なに?」
「僕はお前のために死ねるよ」
「ありがとう。だけど、私はまだ死ねない」
 その言葉と同時に、戦闘が始まった。
 ドン。という、音圧とともに響く音が、灯の体と魔王の体がぶつかり合った音だ。そんな現実味を失っている事実に、ただ呆然とすることしかできないでいた。
 二人は体の全てを武器にして戦う。
 瞬き一つすれば、もう戦況は変わっている。進退を凄まじい速さで行なっている二人を目で追うことで、やっと僕は立てていた。
 立つことしかできないでいた。
 指一本でも動かせば、二人を見逃す。
 そうしないためにも、立っているしかない。
「化け物と、化け物の戦いじゃ」
 シロがボソッと言った。
「手は出せん。ここから一歩前に出れば、首が飛ぶ」
 シロの真後ろで、守られるように立つ僕は、戦況を冷静でもなく見ながら、あることを考えていた。
 今の灯は、少しでもアルハの味方をした僕を怒っているんじゃないか?
 そう思っていた。
 確信はない。
 ただ、長年——僕は十五年灯の兄をやっているのだ。
 なんとなく、彼女の考えていることがわかる。
 あいつは、魔王を殺した後に、僕を殺すかもしれない。
 灯のために死ぬと、僕はあいつに宣言したのだ。灯は自分の怒りを、自分のために僕にぶつけ、僕を殺すかも。
 実際はわからない。実の兄を殺すほど残虐な妹だとも思わない。
 だけど、あいつ、シュバルハを批判されたとき、すごく怒っていた。
 さっきも闘志に満ちていたのは、魔王の存在だけではない。僕が話した辻褄合わせが、灯の怒りを買ったのだ。
 ならば、ひとつ試せることがある。
 あいつは、今は死ねないといっていた。ならば、僕だからこそできることがある。
「灯いいいいいいいいいい!」
 僕の呼びかけに、誰も反応しない。
 クロがちらとこちらを見ただけだ。
 クロは精神的に余裕を持てるタイプの人間だ。
 余裕が持てていても、僕に注目できたのは一瞬。そうでなければ、灯や魔王の巻き添えを食らうかもしれないから。
 シロは余裕が持てていない。
 僕が叫ぼうが泣き喚こうが、灯と魔王の戦いにいつでも避けられるよう、準備しているだろう。
 それは僕とシバリア、あるいはクロでさえを守るつもりでいるからかもしれない。
 だが、それでいい。
 そんなシロとクロの後ろにいるから、僕は叫べる。
「どう考えてもシュバルハが悪いだろ! お前が何考えてんのか知らないけど、さっさと魔王に謝って帰ろう!」
 灯が一瞬、こちらを見た気がした。
 気がしたというくらい、一瞬だった。
 灯のこちらを見る目は、魔物を前にしたそれと同じだった。
 僕を、魔物と同じ目で見た。
 背筋がゾッとした。殺意が放たれ、僕の心臓に直撃した。それだけで死にそうになったが、とにかく。
 よし、ここまで灯が俺に殺意を持てたのならば、灯と僕ならばできるはずだ。魔王を倒す一手を打つことが。
『何を考えている? 青志』
 三寂の声がした。ええいうるさい。
「お前の、三振り目の名前はなんだ」
『教えない。ここで使うからだ』
「使うさ。魔王を倒すためだ」
『三回刀を振れば、そこには静寂しか残らない。故に三寂。それが私の能力だ。三回力を使ったあと、三年休まねば、私の力は戻らない』
「そうなのか。ハイリスクハイリターンだな」
『理解しただろう。ならば今ここで私の力を使い切ることが、どれだけ危険か。分かるな?』
 「わかった上でお前の力を使う」
『何を考えている? 真の巨悪は、シュバルハにあるかもしれないのだぞ』
「わかってる。だから必要なのは僕の力じゃなく、灯の力なんだ。シュバルハの王が悪なのだとしたら、灯が全てを理解した上で、王を灯の力で倒さなければならない。そうしないとあいつはずっと、お前のいう巨悪のうちのひとつでしかない。勿論、そこには僕やシバリアやシロやクロも含まれるけれど、救われるべきは、灯なんだよ。灯がずっと、アルハの人間・・を殺してきたんだから」
『…………それでも、教えることは……』
「しっかし、三寂。お前とここ一週間以上ずっといて、少しお前のこともわかってきたんだ」
『だからなんだ?』
「お前の最後の名前、なんとなく分かるよ。でも、お前の口から聞きたいんだ」
『…………』
 三寂の長考。
 その間にも灯と魔王は殺しあっており、こちらにも血飛沫が飛ぶという事態が続いている。というか、
「まずくないか?」
「ああ」
 僕の問いに、シロが短く答える。
「アカリが押されておる」
「戦闘力は同等といえるけれど、やはり戦闘術に差がついてるわね。アカリは何も考えずに殴り続けるだけだけれど、魔王は防衛術も長けている」
 クロが考え込むように瞳を伏せた。
『条件がある』
 どれだけ待っただろう。どれだけ灯の体から血が流れただろう。実際には数分も経っていないのに、三寂が喋り出すまでに数時間を要している気がした。
『私の本体はこの刀ではない』
「どういうことだ?」
『私を正式的にカテゴライズすると、精霊という扱いになる。私はこの刀に憑けと命令されたからこの刀に宿っているだけであって、別に依り代がどれであろうと構わないのだ。条件があるとすれば、人の手で持てる物、無機物であることだ』
「誰に命令されたんだ?」
『お前たちを召喚した魔術師にだ』
「なるほど、それで?」
『私の依り代を用意しろ。私の本来の力は、三寂という三振りの衝撃を、依り代さえあれば無限に撃ち続けることができるというものだ。依り代がなければ三年休まねばならないが、依り代さえあれば、一刀、双子、三寂の三振りを無限に使うことができる』
「お前今、三寂って……」
 三振り目の名前を教えないとか言いつつポロっと口に出してるぞ……。
『わざと教えたのだ。三振り目の名は三寂。そのままだな。私の名を呼び、刀を振れ。だが、その条件は先ほどにも言ったが、私の依り代を用意することだ』
「でもそんなのどこにあるんだよ……あ」
 僕は自分の背後で守っていたシバリアに向き、あることを聞いてみた。
「シバリア。きみは——」
「はい——なら」
 シバリアの回答を聞いて、僕はみんなに声をかけた。
「これから突撃する」
「何を言っておるんじゃアオシ。危険すぎる」
 シロがこちらを向かず、そのまま僕を制する。どんな状況でも後ろなんて見てられないのだ。それほど、今の灯と魔王の戦いは激戦を極めている。
『依り代はどうするつもりだ、青志。私を裏切るつもりか——』
 三寂の声も聞こえるが、今は無視だ。約束は破るためにある訳ではないが、利己的な条件がつけば話は別だ。
「いや、シロやクロは僕の後ろにいてくれればそれでいい。僕はここから動かない」
「まだそいつを撃てるのか?」
 三寂を指すシロ。
「でも、灯はどうするの? 巻き込まれるわ」
 クロが後ろに下がりつつ、灯の心配をする。やはりクロは優しい女の子だ。
「大丈夫だ。僕には作戦がある。いや、僕たち・・・の作戦だ」
「儂等も何かすることがあるのか?」
「違うよ。見てればわかる」
 そして僕は大きく息を吸い込んだ。
 大音量での発声の準備だ。
「灯! 僕のために死ね」
 その瞬間。
 灯は大きく飛び上がった。
 なぜならば、僕が灯を殺せるとしたら、三寂の技が必要になると灯は知っているからだ。つまりは、灯は回避行動を取ったのだ。三寂は範囲攻撃だが、灯の大ジャンプ——目測で百メートル以上の高さに一瞬で飛べば、三寂の衝撃からは免れるだろう。
 僕が刀を振るそぶりを見せたのも、大ジャンプの要因になってくれた。三寂を使うと灯に言外に伝えられたのだ。しかし、魔王は飛ばない。大ジャンプした灯を驚愕の表情で見ている。それは僕が、魔王都を半壊させた三寂の所有者だと知らないからだ。明らかに弱そうな僕なんかは眼中にない。その傲慢さが己を殺すのだ、魔王。
 そして灯は、僕のためには、今は死ねないと言った。それがあったからこそ、僕が灯を殺そうとすれば、あいつは必死に避けるだろうと推測したのだ。
 灯は単純だし馬鹿だし頭の螺子は外れているが、そのおかげで、あいつがどういう挑発にどういう行動をとるか簡単に推測できた。三寂の力を発揮することができた。
「——三寂」
 そして、三寂の最後の力が放たれる。
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