45 / 50
四十五話
しおりを挟む
「西田……に、日本人?」
まさかあるわけがないと思いつつ、名前を反芻する。そうすることで何かわかるかもしれないと思ったが、何も分からなかった。
「ニホン? なんじゃそりゃ。というか、貴様は何者じゃ。王じゃないのか」
シロの問いに、王——いや、西田は両腕を開いて、恍惚の表情で答えた。
「そう、俺がお前らの王、いや、神とも言っていい存在だよ」
「それは嘘です」
緊急事態だと判断して、速攻で灯の傷を癒しながら、西田を睨みつけるシバリア。
「王の名前はノールドル・ルッシュタインという名前です。ニシダヒカルなんてヘンテコな名前じゃありません」
「ヘンテコなんてひどいなぁ。というか、ノールドルは前王だね。俺がぶっ殺してノールドルに変装してたんだよ。どう? 誰も気づかなかったろ」
自慢げに笑う顔が気持ち悪い男だ。
素直に嫌悪感しか感じない。
仕草、言葉遣い、言葉選び。全てに悪意を感じる。
悪意の塊みたいな男だ。
「姿を変える能力の持ち主かしら? それにしても解せないわね。なぜ私たちの前で能力を解いたのかしら?」
今度はクロが疑問を口にする。
「いや、国民を騙すためにノールドルに変装はしてたけど、今のお前らにはノールドルの変装はいらないんだよな。騙すためにここにいるわけじゃないから。じゃじゃーん! 俺が2回目の答えあわせパートを担当する——いや、魔王——ルーツェの確信が正解かどうかを答えてやるパートだな」
「パートだのわけのわからんことを言うやつじゃ。高い地位につく奴は皆頭がおかしいのか?」
「いやいや、シロさんそれは違うぜ。俺がお前らとは別次元に生きてる存在だからだと言わざるを得ない。神の地位にいると言ってもいい俺様だからこそ、真の答えあわせができる。ルーツェのやつはすごいよ。知能のないゴミアルハ種のくせに、あと一歩まで答えに近づいていたからね」
「なぜ儂の名を——」
いや、それより、彼の名前が日本人めいているのも、答え合わせだのも、意味がわからない。意味がわからず困惑する僕らを見て楽しんでいるのか? この男は。
「それで? 西田くん。答えとやらを教えてくれよ」
僕はなるべく西田の目を見ながら話を催促した。灯をチラと見れば、この男は多分、僕が灯の力が回復するのを待っていると勘づかれる。
「時間稼ぎはいいよ。灯さんの傷が癒えるまで待っててあげるー」
「…………」
今の僕はどんな表情をしているだろうか。とても、後ろにいる灯やシバリアには見せられない顔しているに違いない。
ここまで殺意を覚えたのは西田が初めてかもしれない。
「その傷ももう癒えます。さあ、あなたの答えあわせとやらをしてくださいな」
シバリアが怒気の含んだ声で西田を威圧する。普段優しい女性が怒っているのを見るのは怖い。だが、西田はそうでもないようで、むしろ怒っている相手を見て楽しむように、
「ああ、話してるうちに終わるね、シバリアさんの能力があれば」
と、ニヤニヤしながら僕に視線を移した。
「君も察しがいいが、少々適応能力が劣っていると言わざるを得ないね。まあ、普通の日本人がいきなり異世界の戦場にぶち込まれたらそんなもんか。とにかく、だ。まあ察しが良かろうと悪かろうと、俺には関係ないがね。どうせ魔王を殺せると確信していたし、ここまでは俺の計画通り」
「計画通り?」
まるで新世界でも作るかのような言い草だが。
「そう、計画通り。この世界の全ての事象は、俺の掌の上の出来事だ」
「大層なものね」
クロが呆れたようにいう。
確かに、神を自称するのであれば、全ての事象が掌にあったところで驚きはしないけれど、本当に神であれば、なぜ人の名を名乗る? なぜ人の姿をしている?
「まず、魔王が言っていたことは全て正しい。全ての事件は俺が起こしたものだ。アルハの数々存在していた村を尽く潰して回ったのは俺だ。だが惜しいな。強大な力を持った人間が一人で村を潰していると推測できれば、ルーツェのやつも俺に一歩近づいたが、軍隊がなければあり得ないだとか、つまらないレッテル貼りで結論を出してしまったことがあいつの欠点だな」
「欠点というなよ。最初は誰かの単独行動だと気づいてたよ、あの魔王は」
「そうかもしれない。だからあいつはシュバルハが怪しいと踏んでいたが、それも惜しい。シュバルハの何が首謀者であり、黒幕であり、真の悪なのか。それを考えなかった。この星にはシュバルハ種とアルハ種という人間しか存在しない。必然、二択あるわけだから、シュバルハが怪しいと言えば大概当たるだろうな。あいつもバカだよ」
相変わらず、ニヤニヤ顔は収まらない。なにをそう余裕でいられる?
今にでもシロとクロは飛びかかろうと姿勢を低くしている。
自分の容姿を変えられる能力ならば、クロの言う通り、どうどうと前に出てきた事が理解できない。なにを考えている?
「一体、どこからどこまでが計画通りだ?」
「灯さんが仲間を連れて魔王を倒す事だけだよ。あとの工作は全て準備という名の遊びにすぎない。君ら異世界転生者が魔王を殺しやすくするために、アルハ種の人間は九割ほど殺戮しておいた。それだけだよ。そんで道も準備したし、お前らはレールに乗って俺の計画通り魔王を倒せばいいだけ」
「ただ、計画になかったのは灯の戦闘力だな」
僕の問いかけに、疑問を持ったように首を傾げている西田。そのわざとらしさも、僕にわざわざ西田の計画違いを言わせて、それを否定したいだけのように思える。
まさか、僕の考えている西田の計画違い、つまりは灯の戦闘力が、魔王にやや劣ったという点さえも計画通りか? ならば異世界転生者が魔王を倒す計画がなぜ立てられる?
いや。
そもそも、今までの言葉全てが虚言でしかない可能性すらある。
「あー、黙っちゃったね。黙った時点で君の負けだぜ、青志くん。自分の考えに確信を持てない奴は弱い。……灯さんの力が魔王よりやや劣っていたと言いたいんだろ? だが、それも俺の計画のうちだ」
「…………」
「灯さんが死にかけ、魔王の手によって灯の愉快な仲間たちも死んだり死にかけたり——現状そのシナリオはうまくいってないけど、とにかくだ。灯さんが死にかけた時に、もっとパワーアップするように能力を設定しておいたのさ。負けそうになった時に覚醒する。そういう展開、燃えるだろ? まあ、覚醒しなくても結構な広さがある魔王都を瓦礫だらけにしてるし、覚醒しなくても魔王に勝てたのはすごいよね。青志くんは魔王に灯さんの力が劣ってるっていってたけど、全然劣ってないよね」
だが、なぜ灯は死にかけなかった?
そうだ、三寂で僕が魔王を消しとばしたからだ。
僕が三寂を使うということは計画になかったのだろうか。
問いただしたくもあるが、容易に口は開けない。
なにを見透かしているのかわからない者に、むやみに情報は開示できない。
だが、神にも見えるこの男の計画のどこかに、欠陥があったことは確かだ。
真の黒幕を知って絶望するのはまだ早い。
シロが口を開いた。
「貴様は話している間にアカリの治療が終わると踏んでいたな。じゃがその計算はミスをしておる。ここで饒舌なお前が無残に儂らの手によって殺されるという計画は立てておったか?」
「そんな計画立ててないね」
その言葉とともにシロが一歩を踏み出した。
「——お前が踏み込んできて、俺に真っ二つにされるって計画はさっき立てたぜ?」
待てシロ、と。
名を呼ぶ前に。
シロは人中を縦に切断された。
左半身と右半身に別れたシロだった物は、血と内臓をぶちまけながら、踏み込んだ余韻で少し前に転がって、西田の足元で動きを止めた。
「お前……ッ!」
猫が怒ると毛が逆立つのを見たことがある。クロの毛も一瞬で逆立った。
クロがここまで感情をあらわにしたのは初めてだ。だが、その怒りの攻撃さえ、西田には届かなかった。
ギュルッ、と。
不気味な音とともに、クロの体が一瞬で球体に変わった。その音はクロの骨やクロの肉やクロの内臓をまとめて潰して丸めた音だった。
肉団子になったクロだった物も、西田に一歩及ばず、血の海に沈んだ。
ここで僕が怒ることもなければ、かといって特攻するわけでもなかったのは、西田がなにもしていないのを確認したからだ。
西田はただ立っているだけだった。
シロが勝手に真っ二つになった。
クロが勝手に肉団子になった。
だが、何もしていない西田を見て、僕は、こいつが二人を殺したのだと、確信した。
だから動けなかった。
動いたら、僕も同じ目にあうとわかって、動けなかった。
友が死んだ悲しみ?
友が殺された怒り?
友のために立ち上がれなかった罪悪感?
その全ての感情を。
圧倒的力の前でひれ伏された。
「ふ、二人の回復を……」
僕の後ろにいたはずのシバリアが、よたよたと歩いてくる音が聞こえた。回復をって、なにをいっている? どうみても二人は即死している。今のシバリアは気が動転している。
「ダメだッ! シバリア——」
と、シバリアの顔を見たが。
なかった。
シバリアの顔なんて、どこにもなかった。
首から上がないシバリアは数歩歩いた後、ぐしゃりと力が抜けたように、ちょうど僕の横で倒れた。
倒れたというか、膝から崩れたといった方が的を得ている。
「あ、あああ、ああああああああ、あああ、ああ……! 灯——」
あいつを殺せ! と、命令しようとした。
僕は婚約相手を殺されても、その犯人に摑みかかることもせず。
最強を誇ってきた妹に、その犯人の殺害を命令しようと、後ろにいたはずの灯に振り向いた。
死にたくないからとか、単純な感情で灯に向いたのではない。ただ、頭が回らなかった。西田という——この男を殺せる能力を持っているのは、もう灯だけだ。僕は三寂を使い果たしたのだから、戦えない。
でも。
灯ならやってくれる。
今までみたいに敵を瞬殺してくれる。
助けてくれ、灯——
「う、ぅ」
シバリアに今まで治癒されていたはずの灯は。
地面に顔面を押し付け倒れていた。
「あ、異世界転生者には異世界ボーナスとして、チート能力をあげたけど、あれもともとは俺の能力でもあるからもう灯さんからは能力を返してもらったぜ? 今はなんでそこで倒れてんのか知りたい? 今までの筋肉痛だよ。今、全身に激痛が常時走って、痛みに声さえ出せない状態なんじゃない? 森ごと王都吹き飛ばしたり、魔王と激しい戦闘をして勝ったみたいだしね。尋常じゃない筋力を使った代償だね」
「…………」
「最後の答え——俺は異世界転生者だよ。ニシダヒカルって名前聞けば、シバリアさんにはヘンテコって言われたけど、君ら元日本人は気づいただろうね。あははっ。お前らが異世界でチート使って敵を倒しまくる俺TUEE物語だと思った? 残念! チート能力を持ってるのは俺でした! あー、俺が自伝を書くならそうだなぁ、『俺、異世界にて最強』なんてどうかな? どうかなどうかな?!」
なんて楽しそうにするのだろう。
足元にあるシロの死体を踏み潰しながら、クロの死体を足蹴にしながら。
人生、今が絶頂だと言わんばかりに楽しそうにする。
「最初は召喚されてチート能力貰って魔王討伐頼まれたけどさぁ、チート能力って使って楽しいけど、欠点はすぐ飽きることだよね。俺アルハの村何個か潰して飽きてさー。帰って国運営したいなー! って思って! で、ノールドル暗殺してノールドルに変装してさ、俺のチート能力で道を切り開いたり、旅をしやすくするためにアルハの村をほとんど潰したり、本当に楽しかったなー。これもチート能力様々って感じだわー。って、あれ? なにしてんの?」
西田に疑問を持たれたのは僕だ。
僕が何をしていたかといえば、首のなくなったシバリアの体を弄っていた。
「うわ、死体に欲情する変態を召喚しちゃったかな? 正確には青志くんはついでだけどさ。でも灯さんは頭イかれてるぜ。物を一つもってこいって書いたのに、人を持ってくるんだもんな。人と物が一緒の価値ってやばくね? ねえ聞いてる?」
死した婚約者の亡骸に興奮した?
いや、違う。
僕はお前の計画の欠落に気づいたのだ。
西田は何かを見落としている。
最初からそう思っていた。
西田のストーリーでは、僕ら仲間も絶え絶え、灯が死にかけたところで灯の力が覚醒し、魔王を倒す。だが、そうならなかったのはなぜだ?
僕が三寂で魔王を殺したからだ。
森や魔王都を吹き飛ばしたのは誰だ?
僕だ。三寂の力で吹き飛ばした。
だが、西田はそれを灯がやったと思っている。
僕や他の人間にはできない。いわゆるチート能力を与えた灯にしかできない。そう思っているはずだ。思い込んでいるはずだ。
ならば好機はある。
そしてそれが今であることは、明確だ。
「三寂。お前の条件である、依り代だ——」
シバリアの亡骸から取り出したのは、一本の杖。
魔法使いというのは、杖を使うのが定石だろう?
シバリアも例外ではなかった。それを事前に、僕は確認していた。
無機物であり、人が振れる物。
それにこの杖はぴったりだ。
僕の言葉と同時に、三寂の依り代だった木刀が砕けた。
「な、なにをしている——君は?」
西田は呆けて僕のことを見ているだけだ。
魔王、ルーツェもそうだった。
僕なんか眼中にないのだ。
それが最大の欠点だ。
アルハの王も、シュバルハの王も変わらない。
高い地位に立つものは、弱者を見下ろさない。正確には、弱者と思われる者は一切見ない。
だから西田は僕が三寂を放つその瞬間まで、気づかない。
「三寂、一刀」
絶大な力の恐怖を。
「ぐ、う……!」
「今の一刀は、ザギ、シロ、クロの分だ」
西田は耐えた。
森ごと街一個を吹き飛ばした衝撃を、西田は耐えた。しかし、両腕は吹き飛んだ。腕のない状態で西田は立っている。
なぜ腕だけが消滅したのかは知らない。だが、西田自身が一撃を耐えることは想定内だ。
「三寂、双子」
西田は僕に殺意を込めた表情で、何かをしようとした。モーションが見えた。だから賺さず二撃目を加えた。
「これはシバリアの分だ!」
僕はシバリアのために西田を殴りに行くことができなかった。その分、この一振りに呪いを込める。
そして次は両足だけが消滅した。数々の能力を持つ西田のことだ。これも何かの能力だろう。
西田は四肢のない状態で、胴体だけで地面に転がっている。だが、まだ死んでいない。
「そしてこれが——」
灯の分だ。
そう言おうとした時。
背後から僕の杖を持っている手を掴んだ者がいた。灯だ。
何十時間も走り、魔王と激戦を繰り広げた灯の筋肉はズタボロだ。死んでいてもおかしくない。だが灯は確かに立ち上がり、僕の杖を、僕とともに掴んでいる。
「これは、私の分だ……!」
流石は兄妹であるとしか言えない。
僕たちの息は完全に揃っていた。
灯は教えてもいない三寂の最後の技を、僕とともに叫んだ。腹の底から、もう喉が使えなくなってもいいという覚悟とともに。
「三寂——!」
灯の振る角度に合わせて、三寂を振るった。
そして今度こそ、西田が消滅するのを、僕は確認したのだった。
最後に胴体と首だけだった西田は異形な物に姿を変えようとしていた。その異形ごと消滅させた。
そして、三寂も言っていた通り。
三振りしたのちに残ったのは、静寂だけだった。
まさかあるわけがないと思いつつ、名前を反芻する。そうすることで何かわかるかもしれないと思ったが、何も分からなかった。
「ニホン? なんじゃそりゃ。というか、貴様は何者じゃ。王じゃないのか」
シロの問いに、王——いや、西田は両腕を開いて、恍惚の表情で答えた。
「そう、俺がお前らの王、いや、神とも言っていい存在だよ」
「それは嘘です」
緊急事態だと判断して、速攻で灯の傷を癒しながら、西田を睨みつけるシバリア。
「王の名前はノールドル・ルッシュタインという名前です。ニシダヒカルなんてヘンテコな名前じゃありません」
「ヘンテコなんてひどいなぁ。というか、ノールドルは前王だね。俺がぶっ殺してノールドルに変装してたんだよ。どう? 誰も気づかなかったろ」
自慢げに笑う顔が気持ち悪い男だ。
素直に嫌悪感しか感じない。
仕草、言葉遣い、言葉選び。全てに悪意を感じる。
悪意の塊みたいな男だ。
「姿を変える能力の持ち主かしら? それにしても解せないわね。なぜ私たちの前で能力を解いたのかしら?」
今度はクロが疑問を口にする。
「いや、国民を騙すためにノールドルに変装はしてたけど、今のお前らにはノールドルの変装はいらないんだよな。騙すためにここにいるわけじゃないから。じゃじゃーん! 俺が2回目の答えあわせパートを担当する——いや、魔王——ルーツェの確信が正解かどうかを答えてやるパートだな」
「パートだのわけのわからんことを言うやつじゃ。高い地位につく奴は皆頭がおかしいのか?」
「いやいや、シロさんそれは違うぜ。俺がお前らとは別次元に生きてる存在だからだと言わざるを得ない。神の地位にいると言ってもいい俺様だからこそ、真の答えあわせができる。ルーツェのやつはすごいよ。知能のないゴミアルハ種のくせに、あと一歩まで答えに近づいていたからね」
「なぜ儂の名を——」
いや、それより、彼の名前が日本人めいているのも、答え合わせだのも、意味がわからない。意味がわからず困惑する僕らを見て楽しんでいるのか? この男は。
「それで? 西田くん。答えとやらを教えてくれよ」
僕はなるべく西田の目を見ながら話を催促した。灯をチラと見れば、この男は多分、僕が灯の力が回復するのを待っていると勘づかれる。
「時間稼ぎはいいよ。灯さんの傷が癒えるまで待っててあげるー」
「…………」
今の僕はどんな表情をしているだろうか。とても、後ろにいる灯やシバリアには見せられない顔しているに違いない。
ここまで殺意を覚えたのは西田が初めてかもしれない。
「その傷ももう癒えます。さあ、あなたの答えあわせとやらをしてくださいな」
シバリアが怒気の含んだ声で西田を威圧する。普段優しい女性が怒っているのを見るのは怖い。だが、西田はそうでもないようで、むしろ怒っている相手を見て楽しむように、
「ああ、話してるうちに終わるね、シバリアさんの能力があれば」
と、ニヤニヤしながら僕に視線を移した。
「君も察しがいいが、少々適応能力が劣っていると言わざるを得ないね。まあ、普通の日本人がいきなり異世界の戦場にぶち込まれたらそんなもんか。とにかく、だ。まあ察しが良かろうと悪かろうと、俺には関係ないがね。どうせ魔王を殺せると確信していたし、ここまでは俺の計画通り」
「計画通り?」
まるで新世界でも作るかのような言い草だが。
「そう、計画通り。この世界の全ての事象は、俺の掌の上の出来事だ」
「大層なものね」
クロが呆れたようにいう。
確かに、神を自称するのであれば、全ての事象が掌にあったところで驚きはしないけれど、本当に神であれば、なぜ人の名を名乗る? なぜ人の姿をしている?
「まず、魔王が言っていたことは全て正しい。全ての事件は俺が起こしたものだ。アルハの数々存在していた村を尽く潰して回ったのは俺だ。だが惜しいな。強大な力を持った人間が一人で村を潰していると推測できれば、ルーツェのやつも俺に一歩近づいたが、軍隊がなければあり得ないだとか、つまらないレッテル貼りで結論を出してしまったことがあいつの欠点だな」
「欠点というなよ。最初は誰かの単独行動だと気づいてたよ、あの魔王は」
「そうかもしれない。だからあいつはシュバルハが怪しいと踏んでいたが、それも惜しい。シュバルハの何が首謀者であり、黒幕であり、真の悪なのか。それを考えなかった。この星にはシュバルハ種とアルハ種という人間しか存在しない。必然、二択あるわけだから、シュバルハが怪しいと言えば大概当たるだろうな。あいつもバカだよ」
相変わらず、ニヤニヤ顔は収まらない。なにをそう余裕でいられる?
今にでもシロとクロは飛びかかろうと姿勢を低くしている。
自分の容姿を変えられる能力ならば、クロの言う通り、どうどうと前に出てきた事が理解できない。なにを考えている?
「一体、どこからどこまでが計画通りだ?」
「灯さんが仲間を連れて魔王を倒す事だけだよ。あとの工作は全て準備という名の遊びにすぎない。君ら異世界転生者が魔王を殺しやすくするために、アルハ種の人間は九割ほど殺戮しておいた。それだけだよ。そんで道も準備したし、お前らはレールに乗って俺の計画通り魔王を倒せばいいだけ」
「ただ、計画になかったのは灯の戦闘力だな」
僕の問いかけに、疑問を持ったように首を傾げている西田。そのわざとらしさも、僕にわざわざ西田の計画違いを言わせて、それを否定したいだけのように思える。
まさか、僕の考えている西田の計画違い、つまりは灯の戦闘力が、魔王にやや劣ったという点さえも計画通りか? ならば異世界転生者が魔王を倒す計画がなぜ立てられる?
いや。
そもそも、今までの言葉全てが虚言でしかない可能性すらある。
「あー、黙っちゃったね。黙った時点で君の負けだぜ、青志くん。自分の考えに確信を持てない奴は弱い。……灯さんの力が魔王よりやや劣っていたと言いたいんだろ? だが、それも俺の計画のうちだ」
「…………」
「灯さんが死にかけ、魔王の手によって灯の愉快な仲間たちも死んだり死にかけたり——現状そのシナリオはうまくいってないけど、とにかくだ。灯さんが死にかけた時に、もっとパワーアップするように能力を設定しておいたのさ。負けそうになった時に覚醒する。そういう展開、燃えるだろ? まあ、覚醒しなくても結構な広さがある魔王都を瓦礫だらけにしてるし、覚醒しなくても魔王に勝てたのはすごいよね。青志くんは魔王に灯さんの力が劣ってるっていってたけど、全然劣ってないよね」
だが、なぜ灯は死にかけなかった?
そうだ、三寂で僕が魔王を消しとばしたからだ。
僕が三寂を使うということは計画になかったのだろうか。
問いただしたくもあるが、容易に口は開けない。
なにを見透かしているのかわからない者に、むやみに情報は開示できない。
だが、神にも見えるこの男の計画のどこかに、欠陥があったことは確かだ。
真の黒幕を知って絶望するのはまだ早い。
シロが口を開いた。
「貴様は話している間にアカリの治療が終わると踏んでいたな。じゃがその計算はミスをしておる。ここで饒舌なお前が無残に儂らの手によって殺されるという計画は立てておったか?」
「そんな計画立ててないね」
その言葉とともにシロが一歩を踏み出した。
「——お前が踏み込んできて、俺に真っ二つにされるって計画はさっき立てたぜ?」
待てシロ、と。
名を呼ぶ前に。
シロは人中を縦に切断された。
左半身と右半身に別れたシロだった物は、血と内臓をぶちまけながら、踏み込んだ余韻で少し前に転がって、西田の足元で動きを止めた。
「お前……ッ!」
猫が怒ると毛が逆立つのを見たことがある。クロの毛も一瞬で逆立った。
クロがここまで感情をあらわにしたのは初めてだ。だが、その怒りの攻撃さえ、西田には届かなかった。
ギュルッ、と。
不気味な音とともに、クロの体が一瞬で球体に変わった。その音はクロの骨やクロの肉やクロの内臓をまとめて潰して丸めた音だった。
肉団子になったクロだった物も、西田に一歩及ばず、血の海に沈んだ。
ここで僕が怒ることもなければ、かといって特攻するわけでもなかったのは、西田がなにもしていないのを確認したからだ。
西田はただ立っているだけだった。
シロが勝手に真っ二つになった。
クロが勝手に肉団子になった。
だが、何もしていない西田を見て、僕は、こいつが二人を殺したのだと、確信した。
だから動けなかった。
動いたら、僕も同じ目にあうとわかって、動けなかった。
友が死んだ悲しみ?
友が殺された怒り?
友のために立ち上がれなかった罪悪感?
その全ての感情を。
圧倒的力の前でひれ伏された。
「ふ、二人の回復を……」
僕の後ろにいたはずのシバリアが、よたよたと歩いてくる音が聞こえた。回復をって、なにをいっている? どうみても二人は即死している。今のシバリアは気が動転している。
「ダメだッ! シバリア——」
と、シバリアの顔を見たが。
なかった。
シバリアの顔なんて、どこにもなかった。
首から上がないシバリアは数歩歩いた後、ぐしゃりと力が抜けたように、ちょうど僕の横で倒れた。
倒れたというか、膝から崩れたといった方が的を得ている。
「あ、あああ、ああああああああ、あああ、ああ……! 灯——」
あいつを殺せ! と、命令しようとした。
僕は婚約相手を殺されても、その犯人に摑みかかることもせず。
最強を誇ってきた妹に、その犯人の殺害を命令しようと、後ろにいたはずの灯に振り向いた。
死にたくないからとか、単純な感情で灯に向いたのではない。ただ、頭が回らなかった。西田という——この男を殺せる能力を持っているのは、もう灯だけだ。僕は三寂を使い果たしたのだから、戦えない。
でも。
灯ならやってくれる。
今までみたいに敵を瞬殺してくれる。
助けてくれ、灯——
「う、ぅ」
シバリアに今まで治癒されていたはずの灯は。
地面に顔面を押し付け倒れていた。
「あ、異世界転生者には異世界ボーナスとして、チート能力をあげたけど、あれもともとは俺の能力でもあるからもう灯さんからは能力を返してもらったぜ? 今はなんでそこで倒れてんのか知りたい? 今までの筋肉痛だよ。今、全身に激痛が常時走って、痛みに声さえ出せない状態なんじゃない? 森ごと王都吹き飛ばしたり、魔王と激しい戦闘をして勝ったみたいだしね。尋常じゃない筋力を使った代償だね」
「…………」
「最後の答え——俺は異世界転生者だよ。ニシダヒカルって名前聞けば、シバリアさんにはヘンテコって言われたけど、君ら元日本人は気づいただろうね。あははっ。お前らが異世界でチート使って敵を倒しまくる俺TUEE物語だと思った? 残念! チート能力を持ってるのは俺でした! あー、俺が自伝を書くならそうだなぁ、『俺、異世界にて最強』なんてどうかな? どうかなどうかな?!」
なんて楽しそうにするのだろう。
足元にあるシロの死体を踏み潰しながら、クロの死体を足蹴にしながら。
人生、今が絶頂だと言わんばかりに楽しそうにする。
「最初は召喚されてチート能力貰って魔王討伐頼まれたけどさぁ、チート能力って使って楽しいけど、欠点はすぐ飽きることだよね。俺アルハの村何個か潰して飽きてさー。帰って国運営したいなー! って思って! で、ノールドル暗殺してノールドルに変装してさ、俺のチート能力で道を切り開いたり、旅をしやすくするためにアルハの村をほとんど潰したり、本当に楽しかったなー。これもチート能力様々って感じだわー。って、あれ? なにしてんの?」
西田に疑問を持たれたのは僕だ。
僕が何をしていたかといえば、首のなくなったシバリアの体を弄っていた。
「うわ、死体に欲情する変態を召喚しちゃったかな? 正確には青志くんはついでだけどさ。でも灯さんは頭イかれてるぜ。物を一つもってこいって書いたのに、人を持ってくるんだもんな。人と物が一緒の価値ってやばくね? ねえ聞いてる?」
死した婚約者の亡骸に興奮した?
いや、違う。
僕はお前の計画の欠落に気づいたのだ。
西田は何かを見落としている。
最初からそう思っていた。
西田のストーリーでは、僕ら仲間も絶え絶え、灯が死にかけたところで灯の力が覚醒し、魔王を倒す。だが、そうならなかったのはなぜだ?
僕が三寂で魔王を殺したからだ。
森や魔王都を吹き飛ばしたのは誰だ?
僕だ。三寂の力で吹き飛ばした。
だが、西田はそれを灯がやったと思っている。
僕や他の人間にはできない。いわゆるチート能力を与えた灯にしかできない。そう思っているはずだ。思い込んでいるはずだ。
ならば好機はある。
そしてそれが今であることは、明確だ。
「三寂。お前の条件である、依り代だ——」
シバリアの亡骸から取り出したのは、一本の杖。
魔法使いというのは、杖を使うのが定石だろう?
シバリアも例外ではなかった。それを事前に、僕は確認していた。
無機物であり、人が振れる物。
それにこの杖はぴったりだ。
僕の言葉と同時に、三寂の依り代だった木刀が砕けた。
「な、なにをしている——君は?」
西田は呆けて僕のことを見ているだけだ。
魔王、ルーツェもそうだった。
僕なんか眼中にないのだ。
それが最大の欠点だ。
アルハの王も、シュバルハの王も変わらない。
高い地位に立つものは、弱者を見下ろさない。正確には、弱者と思われる者は一切見ない。
だから西田は僕が三寂を放つその瞬間まで、気づかない。
「三寂、一刀」
絶大な力の恐怖を。
「ぐ、う……!」
「今の一刀は、ザギ、シロ、クロの分だ」
西田は耐えた。
森ごと街一個を吹き飛ばした衝撃を、西田は耐えた。しかし、両腕は吹き飛んだ。腕のない状態で西田は立っている。
なぜ腕だけが消滅したのかは知らない。だが、西田自身が一撃を耐えることは想定内だ。
「三寂、双子」
西田は僕に殺意を込めた表情で、何かをしようとした。モーションが見えた。だから賺さず二撃目を加えた。
「これはシバリアの分だ!」
僕はシバリアのために西田を殴りに行くことができなかった。その分、この一振りに呪いを込める。
そして次は両足だけが消滅した。数々の能力を持つ西田のことだ。これも何かの能力だろう。
西田は四肢のない状態で、胴体だけで地面に転がっている。だが、まだ死んでいない。
「そしてこれが——」
灯の分だ。
そう言おうとした時。
背後から僕の杖を持っている手を掴んだ者がいた。灯だ。
何十時間も走り、魔王と激戦を繰り広げた灯の筋肉はズタボロだ。死んでいてもおかしくない。だが灯は確かに立ち上がり、僕の杖を、僕とともに掴んでいる。
「これは、私の分だ……!」
流石は兄妹であるとしか言えない。
僕たちの息は完全に揃っていた。
灯は教えてもいない三寂の最後の技を、僕とともに叫んだ。腹の底から、もう喉が使えなくなってもいいという覚悟とともに。
「三寂——!」
灯の振る角度に合わせて、三寂を振るった。
そして今度こそ、西田が消滅するのを、僕は確認したのだった。
最後に胴体と首だけだった西田は異形な物に姿を変えようとしていた。その異形ごと消滅させた。
そして、三寂も言っていた通り。
三振りしたのちに残ったのは、静寂だけだった。
0
あなたにおすすめの小説
巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。 〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜
トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!?
婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。
気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。
美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。
けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。
食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉!
「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」
港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。
気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。
――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談)
*AIと一緒に書いています*
SE転職。~妹よ。兄さん、しばらく、出張先(異世界)から帰れそうにない~
しばたろう
ファンタジー
ブラック企業で倒れたSEが、
目を覚ますと――そこは異世界だった。
賑やかなギルド、個性豊かな仲間たち、
そして「魔法」という名のシステム。
元エンジニアの知識と根性で、男は再び“仕事”を始める。
一方、現実世界では、
兄の意識が戻らぬまま、妹が孤独と絶望の中で抗っていた。
それでも彼女は、心ある人々に支えられながら、
科学と祈りを武器に、兄を救う道を探し続ける。
二つの世界を隔てる“システム”の謎が、やがて兄妹を結びつける。
異世界と現実が交錯するとき、物語は再起動する――。
《「小説家になろう」にも投稿しています》
無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。
さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。
だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。
行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。
――だが、誰も知らなかった。
ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。
襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。
「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。
俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。
無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!?
のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる