転生したら死にゲーBLの主人公でした

秋月ふく

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1日目(2)

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ホームルームを終え、生徒会室がある別棟へ向かう。

田村先生の言いつけに従って、生徒会の手伝いに行かなければならないからだ。

実はこの展開は俺にとって、良い面と悪い面、両方を備えている。

まず、本来のシナリオでは主人公は成績優秀の模範的生徒であると評価され、この繁忙期を機に補充要員として生徒会に投入されるとされていた。

しかし俺はこの体に入って1日目でありながら、遅刻の罰で生徒会の手伝いをさせられることになった。

そう、扱いの落差が大きいのだ。
俺がこの体に入る前の主人公の行動が、本来のものとは正反対だったことが伺える。

なにが起きて、この違いが生じたのかはわからない。
だが、早くもシナリオ通りではないことがここで証明されたわけなので、ケケカト様の事件も起こらない可能性がある。
これから何事もなくイケメンチート人生を謳歌できる可能性もあるわけだ。

輝かしい人生の幕開けの予感に胸を高鳴らせながら、スッキプをしそうな勢いで渡り廊下に出ると、5月に似つかわしい爽風が髪を揺らした。

校庭の手前ではサッカー部の部員が準備運動をしており、奥では野球部がキャッチボールをしている。
響き渡る掛け声に、青春の日々を思い出して足を止めた。

まあ、俺は帰宅部だったのだが。

「黄昏れてるの?」

トントンと不意に肩を叩かれ、驚いて振り向くと綺麗な碧い目をした生徒が俺の後ろに立っていた。

「君が僕たちの手伝いに来てくれるっていう晃君だよね?」

好奇心旺盛なキラキラした目、繊細なパーツがバランスよく配置された相貌に驚き息をのむと、目の前の生徒が可笑しそうに喉を鳴らした。

「なに?僕に見とれちゃった?」

「はい。あ、いいえ」

ついウブな反応をしてしまうが、本人はそのような態度は取られ慣れているのか、なんでもない風で俺に微笑みかけた。
自己肯定感がだいぶ高そうなタイプだ。

今朝、綺麗系イケメンだと自身で称したが、この生徒と相対的そうたいてきに見て判断するならば、主人公は清楚系イケメンと言い換えたほうがいいのかもしれない。
評価を改めることにする。
綺麗系イケメンの座は君に譲ろう、少年よ。

「生徒会室に入りずらくないかなって思って、君を迎えに来たんだよ」

のほほんと話す目の前の美形は、性格までいいらしい。
遅刻の罰として生徒会に出向くというシチュエーションに多少の気後れがあったのは確かなので、素直にありがたい。

「知らない上級生しかいなくて、少し入りにくいなって思ってたので助かります。ありがとうございます」

目の前で頷く美形が天使に見えて仕方がない。
俺の緊張を解こうとしてか、生徒会室に着くまでに食堂の裏メニューがあることや隠し部屋など、知る人ぞ知る学園の豆知識を聞かせてくれた。



教室のものとは違う木製の丈夫そうな机が、向かい合って4つ並ぶ機能性重視の室内。
生徒会の端には来客用とおぼしきベージュの革張りソファーと華奢な脚の白テーブルも設置されているが、今は生徒会の生徒のものであろう荷物が無造作に置かれている。

そんな生徒会室に入り室内を見渡せば、積み上げられた書類を黙々と捌いていた生真面目そうな生徒と穏やかそうな生徒が作業を止めて顔を上げた。

「晃君連れてきたよー」

能天気な声に、生真面目そうな方の生徒が眉を寄せた。

「弓川、素人が1人増えたところで何も変わらん。迎えに行くよりさっさと作業に取り掛かってほしかったのだが」

俺をここまで連れて来てくれた美形が、腕を組み、形の良い口をとがらせて反論する。

「口悪いなあ。僕、七條のそういうところは苦手だからね。ねえ晃君、七條は人の痛みがわからないだけで、君を貶しているわけではないから気にしないでね」

そうか、この綺麗系イケメンは弓川新なのか。
この人物も攻略対象の一人。生徒会の会計だ。
正直、七條ルート以外は担当外で着手していなかったこともあり、彼がそうなのだとは、気づくことができなかった。
たしか弓川は小悪魔系な先輩キャラの立ち位置だったはずだ。
実写化して相対あいたいしてみると、なかなかに癖になりそうな旨味のある人物だ。

「直人も新も、人の悪口は言わないようにな」

睨みあう2人の間に、柔らかな雰囲気の生徒が割って入る。

「晃君、田村先生から聞いてたよ。遅刻の罰で俺たちの手伝いだなんて災難だったな。でも来てくれてありがとう!これからよろしく。まずは自己紹介していこうか。直人、自己紹介の時間はお互いを尊重し合って有意義な時間を過ごすために必要なことだ。時間を惜しんだりしないで、しっかり自己紹介しろよ」

説得され、渋々といった様子で、七條が俺のほうを向く。

「生徒会長の七條直人しちじょうなおとだ。頼まれた仕事で出来ないものや苦手なものがあれば早めに言ってほしい。
君が俺たちの仕事を手伝うことで、逆に俺たちの時間がとられるようなことがあれば、本末転倒だからな」

「七條!」
「直人」

弓川ともう1人の生徒が非難するように呆れ顔を向ける。
七條はそれを意に介さず、役目は終わったとばかりに、席に着き自分の作業を再開した。

やっぱり生徒会長は七條直人か。
涼しげな目元と整ったクールな顔立ちもあいまって、冷たい印象を受ける。
そして、なんといっても感じが悪い。
うん、やっぱり七條は俺の苦手なタイプだ。

「晃君ほんとにごめん。直人は普段はいいやつなんだ。生徒会の仕事となると、そっちに熱が入りすぎて他人をおろそかにしがちなだけで。悪気はないから。きっと君も慣れるから、どうかよろしくしてやって。俺は副会長の佐竹数さたけかず。これから1ヶ月頼りにさせてもらうよ」

佐竹の性格は大人で人当たりがいい印象だ。
我が道を行く七條とマイペースで素直に物事をズバズバ言う弓川、尖った個性を持つ2人の中和役担当が彼なのだろう。

七條や弓川までとはいかずとも整った容姿をしているが、佐竹は攻略キャラではなかったはずだ。
そういった面からみても、今後、佐竹には構えずに接することができそうだ。

「佐竹先輩、よろしくお願いします」

今後頼りになりそうな佐竹に深々とお辞儀をすると、「うん」と安心感のある声で返事が返ってきた。

「僕は会計の弓川新ゆみかわ新た。晃君が来てくれてホント助かるよ。これからよろしくね!」

バチリッと音が聞こえそうなくらいの見事なウインクに心臓が射られそうになる。

さすが小悪魔先輩。

弓川を目の前にして、黒髪と碧眼がとんでもない威力でマッチすることを知るのだった。

「何を手伝ってもらおうかな………。晃君は何か得意なことある?」

「パソコンですかね」

佐竹に得意なことと聞かれ、考えなしに元の自分の得意分野を答えてしまう。
口に出してから、主人公の得意なものを言ったほうがよかったのではないだろうかとも思ったが、もう遅い。

「パソコン?エクセルとかワードとかも大丈夫?」

「あ、全然いけますよ」

もう言ってしまったからには仕方ない。
開き直って、そのままパソコン作業を引き受けることにした。

手始めにと、崇月祭に係る仕事を割り振られる。学園の関係者への招待状、予算表の作成、学園職員との会議書類。

たしかにこれは、社会常識や実用的なコンピュータ知識のない学生には負担が多い仕事だ。
その他にも作業もあるのならば、余裕をなくしてもおかしくないのかもしれない。

因みに得意分野を尋ねてきたのは佐竹だが、この仕事を割り振ってきたのは七條だ。
悪意はないと、ほかの2人からフォローされていたが、右も左もわからない部外者の1年に振るには悪意がありまくりなチョイスではないだろうか。

だが中身は俺だ。ブラック企業で磨かれた腕を存分に振るうことができる振り分けに、心の中でガッツポーズをする。
過労死した社畜を舐めるなよっ。

毎度取引先と公的な文書をやり取りしてきた俺にかかれば、礼儀をわきまえた招待状もつつがなく仕上げることができる。

予算表もすでに手書きでデータがまとめられていたため、表と補足つけて見やすく工夫して作成。

会議書類は、これもほぼほぼ内容はまとまっているので、データで書き起こし、大きなスクリーンで説明する場合を見越して説明用のパワーポイントも作成した。

「終わりました」

胡散臭げに向き合っていた書類から顔を上げる七條の机に、先程まで使っていたノートパソコンを持っていき、画面を向け説明する。

「これが招待状、こっちが予算表、あと会議書類と念のため会議用のパワーポイントも作ってみました」

データを1つ1つ開いて説明すれば、七條の顔色が見る見るうちに変わっていくのが目見入り、少し愉快な気持ちになる。

「1週間後の会議までにまとめられればいいと思ったものを任せたのだが、1時間もしないうちに全部まとめてくれたのか」

「本当にもう終わったの!?え!すご!!キーボードの並々ならぬ音からして、もしかしたらとは思ってたけど、まさかこんなに早くできるなんて。しかも森藤より仕上がりいいじゃん!天才現る!」

いつの間にか七條の背中側に回って一緒にパソコンを見ていた弓川が素直に感嘆の声を上げる。

その声につられて佐竹も出来上がったデータを確認しに来た。

「田村先生からは成績は優秀な生徒だって聞いてたから少し期待してたけど、これは期待以上」

佐竹も顔を輝かせて褒めてくれた。

ブラックなあの会社に入ってからは、スピードはともかく、これくらいの内容はできて当然として扱われていたため、素直にうれしい。

しかし、予算表はすでに手書きで分かりやすくまとまっていたものだったため、内容を理解するための時間が大幅に短縮できたし、会議書類だって内容や考えがしっかり順序だてて決めてあったため、あとは見る側を考慮して少し手を加えるだけで仕上げることができた。

実際は俺がすごいのではない。
大本を作り上げたこの生徒会役員たちが大人顔負けの分析力や企画力、情報収集能力を保持しており、かなり優秀なのだ。
さすがエリート校の生徒をまとめるだけのことはある。

「俺はこういうの慣れてるだけで、先輩たちが作っていた大本の書類がすごくわかりやすくまとまっていたからですよ。すごいのは先輩たちです」

高校時代の俺であれば、この膨大な情報をまとめる段階で音を上げていたことだろう。
お世辞でなく、心からの賞賛を送る。

「いやいやいや。慣れてるとかいうレベルじゃないから」

「見たけど、1つ誤字があっただけであとは手の入れようがないほどの仕上がりだよ。俺たちにはできないことだ、なあ、直人?」

この成果を見ても態度を改めないのか?と佐竹が七條を肘で小突く。

「………、ああ。いい出来だ。これなら予想よりも早くに準備が終わりそうだ。半澤は今日は帰っていい。また明日頼む」

真摯にむけられる眼差しの中に、取るに足らないものを見るような色がなくなったことにホッと安堵する。

どんなに忙しくても、人によって態度を変える奴は人として嫌いだ。

だがこの状況でも、粗を探したり、変にバツが悪そうにすることなく、堂々としているところには好感を抱く。

「七條、素直じゃん。いい子」

「お前のそういう弄りは好きではない」

「あ、さっき僕が言ったこと、根に持ってるでしょ」

弓川にわしゃわしゃと頭を撫でられ、七條は鬱陶しそうにそれを振り払う。
本気で嫌がっているわけではないようだが、忙しさに張り詰めた先ほどの様子が七條の第一印象だったため、内心ハラハラしながらそれを見守っていた。

「晃君が来てくれて本当によかった。おかげで終わりが見えてきたから、直人もそんなにイライラしなくなると思うし、俺たちも気が楽になった。明日もまたよろしく」

帰り際「またな」と無愛想ながらに七條が声をかけてくれ、佐竹と弓川は丁寧に生徒会室の外まで見送ってくれた。

正直中身は俺だし、もっとアウェイな状態で生徒会の仕事を手伝っていくことになると思っていたが、ふたを開ければ生徒会の生徒は皆、根はいい子そうで、こちらに気遣ってくれていたので、今後もうまくやっていけそうだと思った。

思いのほか早い時間に開放されたため、まだ日が落ちる気配もない。
慣れない学園生活を終え、疲れがどっと出てきたので、俺は寮に帰って夕食まで仮眠をとることにした。






----------コンコンッ

ドアを叩く音で目が覚める。
どれくらい寝ていたのだろうか。
一階から立ち昇ってくる夕食の匂いに、腹が鳴る。

「晃、寝てるのか?」

郁哉の声が聞こえながらも、眠気で立ち上がることが出来ず二度寝することにした。

少し間をおいて、ガチャリと鍵を開ける音がする。
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