転生したら死にゲーBLの主人公でした

秋月ふく

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1日目(3)

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隣部屋の鍵を開ける音かとも思ったが、やはり開かれたのは俺の部屋のドアで。
平然とした様子で俺の部屋に踏み込む郁哉を、潜っている布団の隙間から確認した。

半澤晃の記憶として保持しているのは学園に入学するまでのものしかない。
そのためなぜ郁哉が俺の部屋の鍵を持っているのかわからず、狼狽えてしまうが、ふと今朝の一件を思い出す。

なるほど、遅刻常習犯の半澤晃を起こすために、幼馴染の郁哉がその役を押し付けられたのだろう。

押し付けられた厄介ごとを、律儀にこなす郁哉の姿に、面倒見の良さが垣間見える。

居留守を使って二度寝をしようとしたことがバレないよう、俺はあたかも最初から寝ていた風を装うことにする。

「晃、メシ」

嘘寝で瞼がピクピク動くのを見られぬよう、寝返りを打つように、あくまでも自然に郁哉に背を向けたがーーー

バサリッ

容赦なく掛け布団が剥ぎ取られた。

眠くて本当に開かない目を細めながら、首だけを捻って背後の郁哉に無言の抗議するも、
朝同様に見事な手際でベッドの端に座らされるのだった。

ぼーっと座る俺の寝癖を、さっと撫でつけて直してくれながら郁哉がぽつりと呟く。

「今日は俺のこと警戒しないんだ」

「警戒?」

なんのことだと首をかしげる俺を、郁哉は物言いだげな顔で見つめるが、やがてなにかを諦めたように肩をすくめる。

「………なんでもない」

下手な作り笑いを浮かべ、郁哉は俺の手を引いた。

眠気で頭が働かない。
少し寂しげな郁哉に、どう声を掛けていいかも分からない。

けどこのまま寝たら、夕飯は食べられないから、取り敢えず話は聞かなかったことにして、郁哉について行くことにする。

「俺、腹ペコ」

「俺が起こしに来なかったら、夕食なしだったんだからな」

「うん、ありがとう郁哉」

「どういたしまして」

にっこりと微笑む郁哉。

そんな郁哉を見て、少し半澤晃を羨ましく思う。
俺にもこんな友達がいたらーーー
仕事に没頭する俺を連れだしてくれる友達でもいたら、過労死などしなかったのかもしれない。

………いや、過ぎたことは仕方がない。
俺の日ごろの行いの結果なのだから、それを次に生かすまでだ。

成長の第一歩として、目の前の幼馴染を大切にしていくことを心に決める。





朝と違い、食堂は生徒でごったがえしており、食器や生徒たちの話し声でだいぶ賑やかである。

夕食のトレーを持って席に着いたところ、七條達と奥の席で夕食を食べていた弓川と目が合い、手を振られたので、小さく振り返した。

それを見て郁哉が唐揚げをつまんだ箸を止める。

「そっか、晃は今日から生徒会の手伝いか。どうだった?」

「皆いい人たちだったよ。本人たちに言ったら怒られそうだけど、最初会った瞬間は、生徒会って顔採用なのかと思った」

顔採用のところで郁哉がクスッ笑う。

「確かに生徒会の人たちは皆かっこいいよな」

「うん。けど実際はそれだけじゃないってすぐわかったよ。生徒会の仕事ぶりをみたら、郁哉もびっくりすると思う。俺も見習わなきゃなって思った」

見せてもらった書類の完成度を思い出す。
作業の手際もよかったし集中力も凄かった。

七條においては、嫌味な部分も目の当たりにしてはいるものの、一緒に仕事をするとしたら、ここの生徒会役員はとても心強い仲間だと思う。

「生徒会に入ると、国内のどこでも好きな大学に推薦してもらえるらしいからな。中途半端な奴は入れないだろ」

「へえー、そうなんだ」

どこでも好きな大学、そんな美味しい話があるとは。

このまま手伝いをしているうちに生徒会の役員になれたら、イケメンで尚且つ高学歴という、更にチート人生になる未来しか見えない。

密かに抱く下心と野心で鼻の下が伸びそうだ。


「晃、僕たちのこと褒めてくれてるんだ」

聞き覚えのある声が郁哉との会話に割って入り、ぎくりと肩が跳ねる。
心なしか俺たちの周りの生徒たちからの視線が集まっている気がする。

「ゆ、弓川先輩!?」

振り向けばキラキラした美形が、悪戯を成功させた子供のように得意げな顔をしていた。

どこから聞かれていたんだろう。「顔採用だと思った」のことろだけは聞かれていないでほしい。

「大丈夫、顔採用も誉め言葉だと取ってるから。けど晃はそれ以外も俺たちのこと認めてくれてるんだね。うれしい」

ばっちり聞かれていた。
そして俺の心、読まれてる!?

慌てふためく俺を前に、顔をほころばせる弓川は本当に嬉しそうに見えるので、こちらとしては反応に困る。

「ごめんなさい。先輩達が顔も性格も頭もいいっていうことを郁哉に伝えたかったんですけど、もうちょっと言い方を考えてから話せばよかったです」

弓川は俺の謝罪を受け、意外そうな顔をする。

「いやいや、全然嫌な気してないから、気にしないで。寧ろ通りがかったときに褒めてくれたのが聞こえて、嬉しくてこっちに来たんだ」

この人、心が広いんだよな。友達多そう。

「それより、今日の晃の仕事ぶりには驚いた。ホント、パソコン裁きの神だと思ったよ。あの後、七條達と話してたんだ。晃が手伝ってくれれば1週間見込みだった崇月祭の準備も、あと2、3日あれば終りそうだってね」

また褒めてくれて、そんなに煽てられたら調子にのっちゃいますよー。
平静を装いながら、心の中でデュフデュフしてしまう俺。
つくづく釣り合わない外見の中に入ってしまったなと思う。

「晃、そんなにパソコンできたんだ?」

「うん、そうなんだよ。バスケ部期待の新人、水原郁哉君」

郁哉の問い掛けに、なぜか弓川が答える。
しかし、まずったな。

幼馴染の郁哉であれば、半澤晃の元のパソコン技量も知っているかもしれないというのに。
つい、得意分野が目の前に来て、張り切りすぎた。

「弓川先輩俺のこと知ってるんですか?」

「ああ、バスケ部の部長の菊田が君のこと褒めてたから」

郁哉はというと、弓川に認知されていた喜びのほうに意識がシフトしていたようで、おかげで変に勘繰られずに済んだ。

周囲から一目置かれている弓川に覚えられていたら誰でも嬉しいはずだ。

現に席の周りの生徒は、弓川を意識してか俺たちの会話に耳を傾けている。
存在自体がファインプレーな弓川に心の中で拍手を送った。





「じゃ僕はそろそろ戻る。二人ともバイバイ。晃、明日もよろしく」

手を振りながら七條達の席に戻っていく弓川。
そういえば、いつの間にか晃君から晃呼びになっていたな。

それよりも、と。
冷める前にこの大盛りのからあげを食べてしまおう。
サクサクの唐揚げをムシャリと頬張り、久しぶりにおいしいと心から思うことができる食事を堪能するのだった。





食事が終わり、郁哉と別れて部屋に戻った。
仮眠をとったおかげか体が軽い。

よし、気分もいいし散策でもしにいくか。
5月の夜はまだ肌寒いので、ハンガーに掛けてあった上着を羽織り、夜の学園内を見て回ることにした。

外に出ると、校舎へ続く並木道は街灯で照らされており、
大会前が目前に控えている部活の生徒なのだろうか、こんな時間でも寮に帰る生徒がちらほら見受けられた。

さてと、気になる場所はいくつかある。
見物がてらにケケカト様の像を見に行くか、弓川が言っていた校舎内外にある隠し部屋を探しに行くか。

校舎内はもう入れないだろうから、外にもあるという隠し部屋を見つけておきたい。

もしゲームのように、追われる身になった場合に備えて、身を隠せる場所がいくつかあった方が心強いだろう。

考えながら歩いているうちに、並木道は終わり、校舎方面と校庭とは違う学園の庭方面の分かれ道に差し掛かった。

庭の景色がいいと聞いていたので、そちらの方に行ってみようと思う。

少し大きめの池は暗闇でやや不気味で、魚でもいるのか、ときおり水音が鳴る。

池を跨ぐ橋を渡りきり、高校野球の練習くらいならできそうな広さの庭に出れば、そこには何本もの尻尾を生やしたオオカミが遠吠えをしているかのようなブロンズ像が鎮座していた。

これがケケカト様らしい。

光源がまばらな庭で、この像だけはしっかりとライトアップされており、像自体が磨き上げられているためか、夜なのに煌々と輝いている。

確か現在、生徒会を準備で忙しくさせている崇月祭もケケカト様のための祭りだったはずだ。

作ったお菓子を生徒全員で食べ、ケケカト様の像にもそれをお供えする祭り。

建前としては、新入生が早く学園に慣れ、学友や先輩と親睦を深められるようにするためらしいが、
本質はケケカト様へ食料を献上して、生徒の学力向上を祈願する、儀式的な要素が強い催しだと認識している。

なんだか一種の宗教のようでぞっとしないな。
そんなことを考えていると、

――ガコンッ

足元で硬質な何かが、作動する音が鳴った。
そちらを向けば地面が四角く盛り上がり、扉のようなものが開いた後に人が出てきた。

「この時間に人がいるのかよ」

舌打ちとともに、不機嫌そうに唸る声。

突然予想外な位置から現れた生徒に驚き、体が硬直してしまう。

出てきたのは目つきの悪い男子生徒1人。おそらく上級生だろう。
ブレザーを着ておらず、白シャツと学園指定のグレーのズボンのみの着用で、寒そうだ。

舌なめずりでもしそうな厭な顔で、不躾な視線をこちらに這わせる生徒。

この瞬間、痴漢に怯える女性の気持ちがすごく分かった気がした。

「1年か。お前、綺麗な顔してるな。持て余してたし口封じにもちょうどいい。こっちにこい」

羽交い絞めにされて、生徒が出てきた地面の入り口から下へと、強引に誘導される。

「なにするんですか……、やめてくださいっ」

見下ろせば、ぽっかりとあいた地面の中に階段が続いており、奥は暗くてよく見えない。

「蹴落とされたくなければ、自分で降りろ」

ここは隔離された男子校。

ケケカト様の呪いがなくても、この半澤晃を目の前にしたら、変な気を起こす輩がいない訳ではないことを失念していた。自分の迂闊さが恨めしい。

自分よりもガタイの良い上級生相手に、抵抗することさえ叶わず、俺は、言われた通りに地下へと続く暗い階段を降りるのだった。
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