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前年の犠牲者
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人感センサーでもついているのか、階段を降りきると自動的に照明がつく。
6畳ほどの室内には、テーブルや座布団がこじんまりと置かれている。
換気扇もあり、地下なのに空気もクリーンだ。
持ち込み禁止の菓子類などが種類ごとに籠に入れられ、棚ににぎっちりと収納されているが、それはまあ、ご愛嬌で通る代物だろう。
背後の生徒がドスの利いた声で俺に命令を出す。
「おい、そこのポテトチップスを持ってこい」
思っていた命令と違う………。
あれれ、と拍子抜けしそうになるも、この後、この生徒がどんな凶行を行ってくるかわからない。
引き続き気を引き締めなくては。
「はい………」
命令された通りポテチの袋が入った籠をテーブルに置く。
男子生徒はいつの間にかテーブルに肘をつきながら座っていた。
「のり塩味とって」
「……はい」
ガサガサと籠の中を漁り、言いつけどおりの味の袋を取り出す。
そこで、パシャリとシャッター音が鳴る。
「え………」
混乱のあまり、ポテチの袋を持ったまま、動きも思考も停止する俺。
スマホを俺に向けて写真を撮る目つきの悪い生徒。
「はい、共犯。俺がこの写真を教師に見せたらどうなるかわかってるよな」
………たしか持ち込みを禁止されている菓子類を食べた場合、校則では反省文以上の厳重な処罰が下されることになっていましたね。
「この隠し部屋のこと誰にもチクるなよ」
ああ、なんだそんなことか。
気を張っていた分、がくりと肩の力が抜ける。
もっといかがわしい、あんなことやそんなことを想定してしまっていた俺は、相当ゲームに毒されていたようだ。
なんだかすごく恥ずかしい………。
「のり塩じゃなくてもいいけど、なにか食べたいのあるか?」
「じゃあ、うす塩でお願いします」
ボリボリとポテチを咀嚼する音が2人分響き渡るシュールな室内。
そもそも、この先輩が勘違いさせるような凶悪な見た目なのが悪い。
目つきが悪いし、なんか胸筋とか腕の筋肉とかすごいし。こういうのワイルド系っていうのだろうか。
「あの、さっきは綺麗な顔って褒めてくれてありがとうございます」
「ああ、さっきのな。お前みたいな見た目いいやつだったら、証拠写真としてフォルダに入ってても気持ちがいいものだからな」
逆に先輩の見た目なら、言動は気を付けた方がいいと思いますよ。と言えるのなら言いたい。
さっきは本当に犯されるかと思った。
「俺、1年の半澤晃っていいます。ポテチありがとうございます」
「俺は2年の米山良太。もしまた菓子が食べたくなったら遠慮なく俺に言え」
全然いい人なんだよな、見た目と違って。
「けど、よくこの隠し部屋を見つけましたね。こんなところ普通見つけられなくないですか?」
もし探すコツとかがあるのならぜひともご教示願いたい。
今後隠し部屋を探す参考にしたいので。
米山は何かを思い出し、懐かしむように目を細めて、少し遠くを見る。
「仲のいい先輩に、この隠し部屋を教えて貰ったんだ。前は2人でこうして隠れて菓子を食べてた」
「その先輩は卒業しちゃったんですか?」
米山は表情を硬くして、しばし言い淀む。
「………。いや、失踪したんだ。去年の夏の時期に」
それって………。
ケケカト様の前年の犠牲者ということだろうか。
「先輩はきっと帰ってくる。けど人見知りな人だから、この部屋は俺とお前だけの秘密にしてくれ。先輩の数少ない居場所を残しておきたいんだ」
「誰にも言いませんよ」
少し掠れた声で米山に同意を求められて、俺はそっと頷いた。
心中はケケカト様の犠牲者がいる事実を知り、ざわめく気持ちを抑えるのに必死だった。
「半澤も誰かに言わなければ、ここを使っていい」
「ありがとうございます」
うん。思わぬ言質が取れただけでも、今回の散策は十分に成果を得られたといえよう。
米山の寛容さには感謝するばかりだ。
出入口はケケカト様の像の近くと、少し離れた草が生い茂る木の陰にあるらしい。
出入りが目立たない木の陰付近は土で制服が汚れるため、人通りがない時間帯はケケカト様像付近の方を使っていたという。
今回、俺に見つかったこともあり、今後は2人とも木の陰付近の出入口を使うよう取り決めた。
今日は門限もあるので、米山と連絡先を交換して寮に帰ることにした。
寮の入り口で別れ、背を向ける俺に米山が意を決したようにして言葉を投げ掛ける。
「半澤、1つ忠告だ。崇月祭で振舞われるものは絶対口にしないように」
「どうしてですか?」
生徒会役員が頑張って準備しているのを知っているため、その努力を無駄にするようなことを言う米山の言葉に耳を疑う。
「どうしてもだ。菓子が食べたくなったら、いくらでもでもやるから」
冗談にしては真剣な顔で、眉間にしわを深く刻む米山に俺は首を縦に振ることしかできなかった。
6畳ほどの室内には、テーブルや座布団がこじんまりと置かれている。
換気扇もあり、地下なのに空気もクリーンだ。
持ち込み禁止の菓子類などが種類ごとに籠に入れられ、棚ににぎっちりと収納されているが、それはまあ、ご愛嬌で通る代物だろう。
背後の生徒がドスの利いた声で俺に命令を出す。
「おい、そこのポテトチップスを持ってこい」
思っていた命令と違う………。
あれれ、と拍子抜けしそうになるも、この後、この生徒がどんな凶行を行ってくるかわからない。
引き続き気を引き締めなくては。
「はい………」
命令された通りポテチの袋が入った籠をテーブルに置く。
男子生徒はいつの間にかテーブルに肘をつきながら座っていた。
「のり塩味とって」
「……はい」
ガサガサと籠の中を漁り、言いつけどおりの味の袋を取り出す。
そこで、パシャリとシャッター音が鳴る。
「え………」
混乱のあまり、ポテチの袋を持ったまま、動きも思考も停止する俺。
スマホを俺に向けて写真を撮る目つきの悪い生徒。
「はい、共犯。俺がこの写真を教師に見せたらどうなるかわかってるよな」
………たしか持ち込みを禁止されている菓子類を食べた場合、校則では反省文以上の厳重な処罰が下されることになっていましたね。
「この隠し部屋のこと誰にもチクるなよ」
ああ、なんだそんなことか。
気を張っていた分、がくりと肩の力が抜ける。
もっといかがわしい、あんなことやそんなことを想定してしまっていた俺は、相当ゲームに毒されていたようだ。
なんだかすごく恥ずかしい………。
「のり塩じゃなくてもいいけど、なにか食べたいのあるか?」
「じゃあ、うす塩でお願いします」
ボリボリとポテチを咀嚼する音が2人分響き渡るシュールな室内。
そもそも、この先輩が勘違いさせるような凶悪な見た目なのが悪い。
目つきが悪いし、なんか胸筋とか腕の筋肉とかすごいし。こういうのワイルド系っていうのだろうか。
「あの、さっきは綺麗な顔って褒めてくれてありがとうございます」
「ああ、さっきのな。お前みたいな見た目いいやつだったら、証拠写真としてフォルダに入ってても気持ちがいいものだからな」
逆に先輩の見た目なら、言動は気を付けた方がいいと思いますよ。と言えるのなら言いたい。
さっきは本当に犯されるかと思った。
「俺、1年の半澤晃っていいます。ポテチありがとうございます」
「俺は2年の米山良太。もしまた菓子が食べたくなったら遠慮なく俺に言え」
全然いい人なんだよな、見た目と違って。
「けど、よくこの隠し部屋を見つけましたね。こんなところ普通見つけられなくないですか?」
もし探すコツとかがあるのならぜひともご教示願いたい。
今後隠し部屋を探す参考にしたいので。
米山は何かを思い出し、懐かしむように目を細めて、少し遠くを見る。
「仲のいい先輩に、この隠し部屋を教えて貰ったんだ。前は2人でこうして隠れて菓子を食べてた」
「その先輩は卒業しちゃったんですか?」
米山は表情を硬くして、しばし言い淀む。
「………。いや、失踪したんだ。去年の夏の時期に」
それって………。
ケケカト様の前年の犠牲者ということだろうか。
「先輩はきっと帰ってくる。けど人見知りな人だから、この部屋は俺とお前だけの秘密にしてくれ。先輩の数少ない居場所を残しておきたいんだ」
「誰にも言いませんよ」
少し掠れた声で米山に同意を求められて、俺はそっと頷いた。
心中はケケカト様の犠牲者がいる事実を知り、ざわめく気持ちを抑えるのに必死だった。
「半澤も誰かに言わなければ、ここを使っていい」
「ありがとうございます」
うん。思わぬ言質が取れただけでも、今回の散策は十分に成果を得られたといえよう。
米山の寛容さには感謝するばかりだ。
出入口はケケカト様の像の近くと、少し離れた草が生い茂る木の陰にあるらしい。
出入りが目立たない木の陰付近は土で制服が汚れるため、人通りがない時間帯はケケカト様像付近の方を使っていたという。
今回、俺に見つかったこともあり、今後は2人とも木の陰付近の出入口を使うよう取り決めた。
今日は門限もあるので、米山と連絡先を交換して寮に帰ることにした。
寮の入り口で別れ、背を向ける俺に米山が意を決したようにして言葉を投げ掛ける。
「半澤、1つ忠告だ。崇月祭で振舞われるものは絶対口にしないように」
「どうしてですか?」
生徒会役員が頑張って準備しているのを知っているため、その努力を無駄にするようなことを言う米山の言葉に耳を疑う。
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