転生したら死にゲーBLの主人公でした

秋月ふく

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2日目(1)

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今日も生徒会の手伝いは早めに切り上げさせてもらえた。
他に手伝えることがあるのなら、最後までいると伝えたが、割り振られた仕事さえ終わらせれば、時間は関係ないそうだ。

「それって逆に、終わらなければ何日も残業させられるってことだからね」とげんなりした顔で弓川に補足されたときには、得意分野で攻めてよかったと心から思った。

いい意味でも悪い意味でも実力主義。
七條らしいやり方だ。



「めえ」

どこからかヤギの鳴き声のようなものが聞こえ、ふと足を止める。

さすがに室内にヤギがいるはずはないと思うのだが。
ケケカト様の件もあり、ちょっと変わった学園なので、断言しきれないのが正直なところ。

声の元をたどって、階段の陰の収納スペースになっているところを覗くと、積み上げられた段ボールの隙間で、小さな白い鳥が瞳を潤ませて俺を見ていた。
なんとも奇妙な鳴き声だったが、声の主はヤギではなく、この鳥のようだ。

全体的に白色だが、羽根先はオレンジ色をしている。
野鳥には見えないが、インコとかそういう鳥ともまた違うような………。

見れば、小鳥はおびえた様子で、体を小刻みに震わせていた。

迷い込んでしまったのだろうか。
屋外へ逃がしてやろうかと、そっと手を近づけると、逃げることなく俺のシャツとブレザーの間に潜り込んできた。

生き物特有の体温がじんわりと肌に伝わる。

人慣れしている子だ、かわいい。

「そこの君」

声のする方を見上げれば、生物教師だろうか。
白衣を着た洋風ハーフ顔の若い教員が、上の階から手すりに肘をかけてこちらを見下ろしていた。

教員の声が聞こえてから、袖の中の小鳥が一層震えるのを感じる。

なんとなく、鳥のシルエットが教員の視界に入ってはいけない気がして、俺はさりげなく腕を後ろで組んだ。

「なんですか?」

「白い鳥とかって見かけてないですか?このくらいの」

そういって、人差し指と親指で小鳥のサイズを示す教員。

今ちょうど保護したところです、と言おうとしたところで、小鳥が「やめてくれ」と言わんばかりに俺のシャツを啄む。

うーん。やっぱり、かくまってあげた方がいいのだろうか。
俺が渡したばかりに、この鳥が解剖されたとかになったら後味が悪過ぎるし。

「見かけてないですけど………」

俺がそう応えると、小鳥は啄んでいたシャツからサッと嘴を離す。
なんか、意思の疎通ができてる感がすごい。

「今そっちにいってもいいですか?」

え、こっちにくるんですか?心の中で盛大に焦り出す俺。

近距離であれば、袖が小鳥の形に膨らんでるのがばれてしまう。
小鳥もそれを理解しているのか、硬直しながらブルブルと震えている。

噓をついているのがバレて、小鳥を盗んだと思われても嫌だし。
かといって、おびえる小鳥を差し出すのも良心が痛むし。


「おーい、晃。忘れもの」

額に嫌な汗をかき始めたタイミングで、緊張感が張り詰める廊下に、場違いな明朗な声が響いた。

「鞄を忘れてますよ。宿題とかどうするつもりだったのー?」

眉を下げて小走りでこちらに駆け寄る弓川。
俺がいる階段下まで残すところあと5段の位置に迫っていた教員が、弓川に気づき声を掛ける。

「弓川君、生徒会の仕事中ですか?」

「あ、野崎先生。そうなんです。晃も手伝ってくれてて、そろそろ修羅場乗り切れそうな感じなんですよ」

「へえ、こちらの生徒も手伝いですか……。崇月祭の準備は毎年規模の割に大変ですもんね。お疲れ様です。頑張ってくださいね」

弓川に激励を残し、野崎と呼ばれた教員は、先程までロックオンしていたはずの俺を置き去りにして、上の階に戻っていった。

ふう。なんとか乗り切れた感じか。
やっぱり、鳥泥棒だと疑われていたのだろうか。

だとしたら、弓川の発言は、俺のアリバイを示すにも、いい弁明になったはずだ。
それを踏まえて、教員も引いてくれたのではないかと思う。
またしても弓川にピンチを救われた。

「先輩はいつも天使ですね」

「よくわからないけど、まあ、僕の存在は世界を救うから」

「おっしゃるとおりです」

弓川の軽口に、どこぞやの店頭のマスコット人形のように、うんうんと首を感慨深く何度も縦に振れば、さすがの弓川も引いたのか、鞄を俺に押し付けて「ま、また明日」と足早に生徒会に戻っていった。

お前のせいだぞ、鳥。
ブレザー越しに小鳥を人差し指でつつく。

「…メェ」

八つ当たりはやめてくれとでも言うように、小鳥は喉を小さく鳴らした。



弓川の足音が生徒会室に吸い込まれていき、再び静けさが訪れる放課後の別棟。
またあの教員が戻ってこないとも限らないので、俺はそそくさと校内を後にする。

念には念を入れて、校舎や別棟がある位置からは見えないであろう寮の陰で、俺は小鳥を袖口から取り出した。

害意がないことが通じているのか、小鳥は暴れたりせず大人しくちょこんと俺の手に乗った。
素肌で感じる羽毛は絹のように柔らかく、うるうるとした大きな黒い瞳がめちゃくちゃ可愛い。

なんだか手放すのも惜しい気もするが、寮はペット禁止だ。
どちらにせよ飼うことはできないので逃がしてやることにした。

「なんで追いかけられてたか知らないけど、上手く逃げ切れよー」

俺の言葉に、鳥はコクリと頷き、手から飛び立った。

「ありがとう」

小鳥が俺の耳元を掠めていった際に、声変わり前の少年のような愛くるしい声が聞こえた。

ここには俺と、その頭上を優雅に飛行するあの小鳥しかいない。
ということは、声の主は………

ん?鳴き声、「めえ」じゃなかったの?

そんなツッコミを胸の内に、返事を待つが如くこちらを眺める小鳥に手を振れば、「めえ」とおどける様に一回転して小鳥はオレンジ色の空の向こうに消えていった。
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