武田の鬼に転生した歴史嫌いの俺は、スキルを駆使し天下を見る

こまめ

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第1章 策士、俺 (1543年 4月〜)

第十八話 裏切と、訝しさ

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 「武田め、やはり攻めて来おったか」

 其の日の朝、山中で骨を休めるのは数名の護衛を引き連れる諏訪頼重。
 彼の目前を通る山河に、思わず吐息が漏れる。
 そのせせらぎや泳ぐ魚といい、やはり趣深い。
 
 
 「様子は如何じゃ」
 側に居座る男は、俯いたまま語る。

 「武田は、御射山に陣を立てております」

 頼重は静かに笑う。
 やはり持つべくは有能な家臣だったか。
 武田は今頃、混乱を極めている事だろう。
 
 しかし、武田のことだ。
 頼重わしの蒔いた種に気づくのも、もはや時間の問題。
 だが、今はそれで良い。
 問題は、如何に今を逃れるかにかかっている。
 

 「大儀であった。
  此れからも、どうか頼むぞ」

 頼重は、男の手を握る。
 対して何も言わず、ただ頷く男。
 一見すれば何気ない光景であろう。しかし頼重が満足気な笑みを浮かべる反面、男の心の中には《哀愁》に似た何かが生まれていた。

 当の頼重は、それに気づく事はない。
 それはまるで、己に陶酔した〈思い上がり〉のよう。






 「宗秀殿、いかがした……?」
 武田陣中で、宗秀は些か考え込む素振りを見せる。
 「先陣(伏兵)は何処へ向かった」
 「は、諏訪家の支城、上原城にございます」
 「未だに上原城におるのか」
 「は、その支城に敵は一人として残っておらず、
  我らが占めております」

 宗秀の額に、多量の汗を浮かび上がる。
 それは暑さのせいか、それとも

 「引き返させよ。
  南部、其方は気付いたか。
  この状況が、如何にまずいものかを」

 雰囲気を一掃する、低い声。
 その発言の主は、武田晴信。
 南部は彼の方を振り返る。
 熱風に近い風が、陣中を吹き抜けた。

 
 何故だ?城は取ったもの勝ちではないのか?
 知識皆無の俺はそう思い込んでいた。
 しかし、直ぐに理解に至る。

 そう、《上手く出来過ぎている》のだ。

 一度気づけば、己の中で違和感が膨張を始める。
 相手が我らの動きに気付き逃げ出した事に、焦点を当て過ぎていた。
 城持ちがそう易々と自分の支城を譲るだろうか。
 よく考えれば分かる事だ。嫌な予感がするのも頷ける。



 「晴幸、如何する」
 突然、晴信は俺を指名した。
 矛先が変わり、全員の目が此方へと向く。

 そうか、俺は参謀として此処へ呼ばれた身であったな。
 戦の動向、風向きを読み、的確な策を編み出す。
 此処にいる限り、常に問われ続けることになるのだろう。

 俺は盤上の地図を眺め、考える。
 ストラテジーの関わる思考は、現代の戦略ゲームで幾らか培ってきたつもりだ。だがゲームとは違い、上手くはいかないのが現実。
 面倒だが、ここは確実性のある行動を取ることが定石か。

 「ここは上原城に伝令役を送るのが最適かと。籠る者達へ撤退の意を伝えるのです」
 「で、あろうな」

 晴信は早速、伝令役を誰に任ずるかを考える。
 名乗りを上げたのは、南部の家臣である藤三郎。

 「南部殿、この藤三郎にお任せ下さりませ」
 藤三郎の声に、南部は念を押す。

 「藤三郎、其方は敵に姿を見られずに、
  上原城に向かわねばならぬ。やれるか」
 その言葉に、大きな頷きを見せる藤三郎。
 彼の様子に、南部は笑みを浮かべるのであった。

 南部は藤三郎に向かわせたいと晴信に説き、晴信は其れを了承、藤三郎はすぐさま上原城へと向かった。

 これで良かったのだろう、しかし何だろうか、この胸騒ぎは。
 俺は終始、不安の種を撒かれた様に、俺の心を襲う胸騒ぎの正体について、深く考え込む。



 「其処の者、その上原城とやらに籠る者達を
  率いておるのは誰じゃ」
 その時、誰かがした何気ない問いかけの、意外な答えが耳に入ってきた。
 俺は再び、その名に驚くことになる。


 「は。はら虎胤とらたね殿にございます」






 〈信濃諏訪領内 上原城〉

 「我らの動きが知られたやも知れぬ」
 上原城の広間に集う二十人ほどの男。
 原虎胤は其の中央に座り、腕を組む。
 
 (暑い……)
 陽が昇り、気温は徐々に上がる。
 こういう時に限って、頭というのは回らなくなるものだ。

 「如何いたすか、
  此のままじっとしている訳にもいくまい」
 「先程使いを陣に向かわせた、
  今は晴信様の御指示を待つのみじゃ」

 虎胤の頬を垂れ、滴り落ちる汗が、畳を濡らす。
 彼も心の中では分かっていたのだ。
 此れ程簡単に、城一つが奪えて良いものかと。

 (何だ、この胸騒ぎは)
 此の時、〈誰か〉と同じ感情を、彼自身も感じていた。
 

 そんな彼らを餌として狙う者達が、
 静かに息を潜ませていた事に気付くはずも無く、
 虎胤は唯、晴信から寄越されるだろう返答を
 じっと待っているのだった。





 其の夜、南部は砦(陣)の外へ向かっていた。
 何処からか鈴虫の音が聞こえる。
 彼は川に辿り着き、その傍に座り込む。

 川に映える満月の美しさに、思わず見惚れる。
 同時に、そこはかとなく孤独を感じてしまう。
 そんな彼の目前を、ひとつの光が横切るのが見えた。

 (蛍……)
 南部はふと天を見上げる。
 満月の傍を飛ぶ、無数の蛍。
 何故だろうか、此の蛍は集って居る筈なのに、
 各々が思い思いの動きをするのは。

 南部は手を伸ばす。
 直ぐに一匹の蛍が指に留まり、光の点滅を見せる。

 「此処に居たか、南部殿」
 突然の声に南部は驚き、同時に蛍は宙に逃げてしまう。
 「晴幸……殿か」
 其処に立っていたのは、俺である。
 昼間に異変を感じてからというもの、彼の行動を逐一観察していた

 俺は彼の隣に座る。
 南部は俺と目を合わせようとはしない。
 「美しい、此の辺りは蛍が多いのだな」
 「そうじゃな」

 南部の見せる不愛想な態度に、少し気まずさを感じる。
 そう言えば俺も、初めて話し掛けられた時、同じような態度を取っていたな。


 「南部殿、一つ訊ねても宜しいか」
 「何じゃ」
 「何か気掛かりな事でもおありか?
  あぁ、昼間に見せた其方の様子が少し気になったものでな」

 南部はふうと息を吐き、立ち上がる。

 「あっても其方には言わぬ」
 そう言って、元来た道を引き返し始める。

 
 南部の背中を見て、俺は思う。
 あの男は、俺に似ているなと。
 自ずと孤独を選び、襲い来る孤独を恐れている。
 俺は流れる川の水を救い上げ、飲む。

 原虎胤殿、どうか無事であれば良いものだが。
 冷たい無味の液体が、喉を通り越した。

 蛍はまだ、俺の頭上を飛んでいる。
 鈴虫の鳴く静かな夜に、ふと平和を感じてしまっていた。
 上原城に、恐るべき事態が迫って居ることも知らずに。
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