底辺地下アイドルの僕がスパダリ様に推されてます!?

皇 いちこ

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#23 マジックアワー

23-2 マジックアワー

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大地はネズミ、櫂人はアライグマ、奏多はイヌ、佑真はアヒル、そして紫音はシマリスの着ぐるみにそれぞれ迎えられ、ひしと抱き合って鼻同士でキスを交わした。つややかな毛並みからは異国情緒あふれる香りが漂い、それだけで紫音の胸は感激で一杯になる。

熱烈なグリーディングを済ませ、湖を中心に広大な園内を時計回りに進んでいく。
早速見つけた露店で、カチューシャとポップコーンバケットを購入する。紫音はシマリスとハグした記念に、リス二匹のぬいぐるみが付いたカチューシャを選んだ。無意識のうちにどれが恋人に似合うだろうかを考えてしまう。もこもこのクマ耳にしようか。ハイブランドのスーツもシックに着こなす彼だからこそ、可愛いアイテムを身に着けたギャップに悶えてみたい。そして、周囲の目を気にせず沢山写真を撮りたかった。二人だけで共有しているフォトアルバムには、昨日からの思い出で埋め尽くされている。まだ気恥ずかしくてお互いの写真ばかりだったが、もっとツーショットの枚数を増やしていきたい。そんな期待で紫音の胸は踊っていた。
少なくとも想いが通じ合ったことを心と体で確認できた今は、世界がまた一つ輝いて見える。何かにつけ恋人の存在を思い出し、スキップしてミュージカル調に歌い出したい気分だった。まるで魔法にかかっているよう。

今日のロケも順調そうだ。しかしながら、そんな上機嫌な紫音に試練が訪れた。
最初にたどり着いた人気アトラクション『タワー・オブ・ホラー』で、地上12階からの空中落下を見て失神しかけてしまったのだ。意外にもシーは絶叫系や暗闇系が多く、かろうじて乗れそうなのはトビウオのキッズコースターぐらいだ。全然怖くねぇからと言う大地に騙されて乗った、ランドの機関車コースターでさえ目を閉じてやり過ごすのに精一杯だった。

今回はお留守番が多そうだと、紫音は内心肩を落とす。
代わりに、期間限定スイーツやドリンクの紹介で忙しくなるだろう。だが、旅館の朝食が美味しすぎるあまり食べ過ぎてしまい、お腹に入る余地があまりないのが実情である。
そこで、ディレクターの計らいで、隣接されている『カメとおしゃべり』でインサートを撮ることになった。カメと話せるなんて想像もできない紫音は、ほぼ素の状態で興奮を露わにしていた。会場モニターの前に集まったオーディエンスは九割以上が家族連れで、紫音は途端に居たたまれない気分になる。最後列にちょこんと座って、ショーの開始を待った。

「四列目の内側の通路寄りの、ウサ耳のカチューシャ着けてるヤツ。そう、間抜けヅラのお前!ご挨拶ができてなかっただろ?名前、年齢、職業名乗りやがれ!」

いざ始まってみると、口汚いカメの歯に衣着せぬジョークのおかげで、会場はすぐに温まった。
最新鋭の映像技術にも驚いたが、全員を巻き込む陽気なトークに紫音は感服していた。

「人生に疲れただと?ぬるいこと言ってんじゃねえよ、タコ!
いっぺん裸で東京湾泳いでみろよ。お前の悩みなんか、ちっぽけでどうでもよくなるぜ」

(僕も……あんな風に気さくに相談に乗れたらな)

爆笑の渦の中、紫音が思いを寄せるのはリスナーからのお便りである。
週一回放送されるラジオ冠番組では、悩める乙女や婦人の声が山のように届き、とりわけ大人気コーナーになった。
気になるクラスメイトや同期へのさりげないアプローチ。日毎涙に暮れるマリッジブルー。老後資金の不安。マルチ商法にハマった友人への懸念。夫のうるさいいびき。人生経験が豊富な年長組はスラスラと答えが出る一方で、紫音は大した解決策も出せない自分を歯痒く思った。このウミガメのように新鮮な視点を提供できればどれだけ心強いだろう。そんな物思いに耽るうちに、ショーは大盛況のうちに幕を閉じた。

「お前ら最高だぜ!また会おうな!フォォ―――ッ!!」

撮影協力への感謝を伝えるため、少人数チームで最後の一組まで見送る。
ベビーカーに乗せられた赤ん坊も含め、冬休みを満喫する子供たちは元気いっぱいだ。そこへ、二人の男の子が、もじもじしながら紫音の元へ駆け寄って来た。

「あの……久しぶり、しおんお兄ちゃん!」

気恥ずかしそうにはにかむのは、もえぎ幼稚園のパンダ組のとおる君だった。
やっぱりアイドルってすごいね!と目を輝かせる彼は、隣にいるすもも組のすばる君と仲良く手をつないでいる。ちょうどクリスマスの読み聞かせで告白を宣言した相手と、無事に結ばれたようだ。

会場を後にして、四人が出てくるまで休憩を兼ねて一緒に待つことになった。ウォーターフロント沿いに座って、ホットチョコレートを三人で回し飲む。少し離れたベンチで、母親二人がチュロスを分け合っていた。

「一回目のラジオでお便りくれたの、やっぱりとおる君だった?」
「わかっちゃった?あの時、みんなの前でせんげんしちゃったし」

やんちゃなリトルプリンスは、チョコレート色の舌をペロリと出した。
事情を知らないすばる君のために、聖夜の遊戯室での出来事と、親友への告白の意気込みを綴ったふつおたの内容を簡単に話す。心地よい潮風が吹き抜ける中、三人で密かにクスクス笑い合った。

「お手紙嬉しかったよ。僕だけ上手に質問に答えられなくてごめんね」
「ぜんぜん!スプラッシュのみんなが背中を押してくれたおかげで、すばる君と付き合えたんだから」
「……ううん、とおる王子が頑張って勇気を出したからだよ」

この小さな体のどこにそんなパワーがあるのだろう。
身近な幸福が自分のことのように嬉しくなって、紫音は二人の頭を交互に撫でた。今度はすばる君が自慢げに語り出す。

「実はね……ママたちもけっこんすることになったんだ」
「えっ……!?」

全く予想できなかったニュースに、紫音は耳を疑う。
しかし、三人が座るベンチの奥に目を遣れば、当の二人が仲睦まじく肩を寄せ合っていた。

「二人ともおたがいのこと気になってたんだって。
僕たちがこいびとになったでしょ?だから、ママたちも気持ちをつたえあってね……」

照れくさそうに語るすばる君は愛らしく、隣で眺めていた彼氏がたまらず頬に口づけた。

「僕のママはべんごしで、とおるママはおいしゃさん。
だから『えんまんりこん』で、パパたちよりもかせいでるから、ヨウイクヒもいらないって。すごいでしょ」

無邪気に喜ぶ二人に対して、指摘すべき点は多々あった。
しかし、真実の愛を見つけられたのなら、これ以上喜ばしいことはないだろう。さらに、両親の温かな理解に恵まれたことは祝福すべきことだった。

「そっか……うん、本当にすごいよ。おめでとう!ママたちに末永くお幸せにって伝えておいてね」

そこへ、三度の落下の衝撃で髪が乱れた四人が、えも言われぬ表情で帰還した。
全員集まったところで、小さな恋人たちと写真を撮って笑顔で別れる。二組のカップルの背中を見守りながら、紫音の心は満たされていた。

いつかあんな風に、主人と腕を組んで歩いてみたい。
そして、結婚の二文字がますます現実味を帯びてくる。芸能界に身を置き、少しずつ影響力を持ち始めた自分が交際さらには入籍を公表することで、世界がもっと優しくなれればいい。
そのためには、新たに芽吹いた関係を大切に築いていかなければならなかった。できるだけ会う時間を作って、連絡もこまめに取って。そう考えると、辛抱の時でも自然と笑顔になる。順番にメイク直しを終えた奏多が笑いかけてきた。

「『カメとおしゃべり』、そんなに楽しかった?」
「――うん、すごく楽しかったよ!」

少し遅めのランチの食レポが済むと、疲れないうちに本日のハイライトである新設エリアにやってきた。先ほどのライドは、あくまで準備運動だったようだ。
みぞれの女王が住まう城。妖精と愉快な仲間たちが冒険する永遠の地。おさげのプリンセスが王子を待つ塔。
夢と希望を生み出すアイドルにネズミ嫌いの人間はいないだろう。未だに長蛇の列が絶えない魔法の泉エリアには、四人ともずっと来てみたかったらしい。珍しく揃って、彼らのテンションは天井高だった。ボートに乗って姉妹の物語を辿り、幻想的なランタンの世界に没入し、船長との大迫力の戦闘に息を呑む。それぞれのアトラクションの結末には、目を潤ませた。
三つのゾーンを巡った後は、あっという間に夕方のパレードの時間が迫っていた。
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