100 / 139
#23 マジックアワー
23-2 マジックアワー
しおりを挟む大地はネズミ、櫂人はアライグマ、奏多はイヌ、佑真はアヒル、そして紫音はシマリスの着ぐるみにそれぞれ迎えられ、ひしと抱き合って鼻同士でキスを交わした。つややかな毛並みからは異国情緒あふれる香りが漂い、それだけで紫音の胸は感激で一杯になる。
熱烈なグリーディングを済ませ、湖を中心に広大な園内を時計回りに進んでいく。
早速見つけた露店で、カチューシャとポップコーンバケットを購入する。紫音はシマリスとハグした記念に、リス二匹のぬいぐるみが付いたカチューシャを選んだ。無意識のうちにどれが恋人に似合うだろうかを考えてしまう。もこもこのクマ耳にしようか。ハイブランドのスーツもシックに着こなす彼だからこそ、可愛いアイテムを身に着けたギャップに悶えてみたい。そして、周囲の目を気にせず沢山写真を撮りたかった。二人だけで共有しているフォトアルバムには、昨日からの思い出で埋め尽くされている。まだ気恥ずかしくてお互いの写真ばかりだったが、もっとツーショットの枚数を増やしていきたい。そんな期待で紫音の胸は踊っていた。
少なくとも想いが通じ合ったことを心と体で確認できた今は、世界がまた一つ輝いて見える。何かにつけ恋人の存在を思い出し、スキップしてミュージカル調に歌い出したい気分だった。まるで魔法にかかっているよう。
今日のロケも順調そうだ。しかしながら、そんな上機嫌な紫音に試練が訪れた。
最初にたどり着いた人気アトラクション『タワー・オブ・ホラー』で、地上12階からの空中落下を見て失神しかけてしまったのだ。意外にもシーは絶叫系や暗闇系が多く、かろうじて乗れそうなのはトビウオのキッズコースターぐらいだ。全然怖くねぇからと言う大地に騙されて乗った、ランドの機関車コースターでさえ目を閉じてやり過ごすのに精一杯だった。
今回はお留守番が多そうだと、紫音は内心肩を落とす。
代わりに、期間限定スイーツやドリンクの紹介で忙しくなるだろう。だが、旅館の朝食が美味しすぎるあまり食べ過ぎてしまい、お腹に入る余地があまりないのが実情である。
そこで、ディレクターの計らいで、隣接されている『カメとおしゃべり』でインサートを撮ることになった。カメと話せるなんて想像もできない紫音は、ほぼ素の状態で興奮を露わにしていた。会場モニターの前に集まったオーディエンスは九割以上が家族連れで、紫音は途端に居たたまれない気分になる。最後列にちょこんと座って、ショーの開始を待った。
「四列目の内側の通路寄りの、ウサ耳のカチューシャ着けてるヤツ。そう、間抜けヅラのお前!ご挨拶ができてなかっただろ?名前、年齢、職業名乗りやがれ!」
いざ始まってみると、口汚いカメの歯に衣着せぬジョークのおかげで、会場はすぐに温まった。
最新鋭の映像技術にも驚いたが、全員を巻き込む陽気なトークに紫音は感服していた。
「人生に疲れただと?ぬるいこと言ってんじゃねえよ、タコ!
いっぺん裸で東京湾泳いでみろよ。お前の悩みなんか、ちっぽけでどうでもよくなるぜ」
(僕も……あんな風に気さくに相談に乗れたらな)
爆笑の渦の中、紫音が思いを寄せるのはリスナーからのお便りである。
週一回放送されるラジオ冠番組では、悩める乙女や婦人の声が山のように届き、とりわけ大人気コーナーになった。
気になるクラスメイトや同期へのさりげないアプローチ。日毎涙に暮れるマリッジブルー。老後資金の不安。マルチ商法にハマった友人への懸念。夫のうるさいいびき。人生経験が豊富な年長組はスラスラと答えが出る一方で、紫音は大した解決策も出せない自分を歯痒く思った。このウミガメのように新鮮な視点を提供できればどれだけ心強いだろう。そんな物思いに耽るうちに、ショーは大盛況のうちに幕を閉じた。
「お前ら最高だぜ!また会おうな!フォォ―――ッ!!」
撮影協力への感謝を伝えるため、少人数チームで最後の一組まで見送る。
ベビーカーに乗せられた赤ん坊も含め、冬休みを満喫する子供たちは元気いっぱいだ。そこへ、二人の男の子が、もじもじしながら紫音の元へ駆け寄って来た。
「あの……久しぶり、しおんお兄ちゃん!」
気恥ずかしそうにはにかむのは、もえぎ幼稚園のパンダ組のとおる君だった。
やっぱりアイドルってすごいね!と目を輝かせる彼は、隣にいるすもも組のすばる君と仲良く手をつないでいる。ちょうどクリスマスの読み聞かせで告白を宣言した相手と、無事に結ばれたようだ。
会場を後にして、四人が出てくるまで休憩を兼ねて一緒に待つことになった。ウォーターフロント沿いに座って、ホットチョコレートを三人で回し飲む。少し離れたベンチで、母親二人がチュロスを分け合っていた。
「一回目のラジオでお便りくれたの、やっぱりとおる君だった?」
「わかっちゃった?あの時、みんなの前でせんげんしちゃったし」
やんちゃなリトルプリンスは、チョコレート色の舌をペロリと出した。
事情を知らないすばる君のために、聖夜の遊戯室での出来事と、親友への告白の意気込みを綴ったふつおたの内容を簡単に話す。心地よい潮風が吹き抜ける中、三人で密かにクスクス笑い合った。
「お手紙嬉しかったよ。僕だけ上手に質問に答えられなくてごめんね」
「ぜんぜん!スプラッシュのみんなが背中を押してくれたおかげで、すばる君と付き合えたんだから」
「……ううん、とおる王子が頑張って勇気を出したからだよ」
この小さな体のどこにそんなパワーがあるのだろう。
身近な幸福が自分のことのように嬉しくなって、紫音は二人の頭を交互に撫でた。今度はすばる君が自慢げに語り出す。
「実はね……ママたちもけっこんすることになったんだ」
「えっ……!?」
全く予想できなかったニュースに、紫音は耳を疑う。
しかし、三人が座るベンチの奥に目を遣れば、当の二人が仲睦まじく肩を寄せ合っていた。
「二人ともおたがいのこと気になってたんだって。
僕たちがこいびとになったでしょ?だから、ママたちも気持ちをつたえあってね……」
照れくさそうに語るすばる君は愛らしく、隣で眺めていた彼氏がたまらず頬に口づけた。
「僕のママはべんごしで、とおるママはおいしゃさん。
だから『えんまんりこん』で、パパたちよりもかせいでるから、ヨウイクヒもいらないって。すごいでしょ」
無邪気に喜ぶ二人に対して、指摘すべき点は多々あった。
しかし、真実の愛を見つけられたのなら、これ以上喜ばしいことはないだろう。さらに、両親の温かな理解に恵まれたことは祝福すべきことだった。
「そっか……うん、本当にすごいよ。おめでとう!ママたちに末永くお幸せにって伝えておいてね」
そこへ、三度の落下の衝撃で髪が乱れた四人が、えも言われぬ表情で帰還した。
全員集まったところで、小さな恋人たちと写真を撮って笑顔で別れる。二組のカップルの背中を見守りながら、紫音の心は満たされていた。
いつかあんな風に、主人と腕を組んで歩いてみたい。
そして、結婚の二文字がますます現実味を帯びてくる。芸能界に身を置き、少しずつ影響力を持ち始めた自分が交際さらには入籍を公表することで、世界がもっと優しくなれればいい。
そのためには、新たに芽吹いた関係を大切に築いていかなければならなかった。できるだけ会う時間を作って、連絡もこまめに取って。そう考えると、辛抱の時でも自然と笑顔になる。順番にメイク直しを終えた奏多が笑いかけてきた。
「『カメとおしゃべり』、そんなに楽しかった?」
「――うん、すごく楽しかったよ!」
少し遅めのランチの食レポが済むと、疲れないうちに本日のハイライトである新設エリアにやってきた。先ほどのライドは、あくまで準備運動だったようだ。
霙の女王が住まう城。妖精と愉快な仲間たちが冒険する永遠の地。おさげのプリンセスが王子を待つ塔。
夢と希望を生み出すアイドルにネズミ嫌いの人間はいないだろう。未だに長蛇の列が絶えない魔法の泉エリアには、四人ともずっと来てみたかったらしい。珍しく揃って、彼らのテンションは天井高だった。ボートに乗って姉妹の物語を辿り、幻想的なランタンの世界に没入し、船長との大迫力の戦闘に息を呑む。それぞれのアトラクションの結末には、目を潤ませた。
三つのゾーンを巡った後は、あっという間に夕方のパレードの時間が迫っていた。
1
あなたにおすすめの小説
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~
柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】
人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。
その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。
完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。
ところがある日。
篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。
「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」
一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。
いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。
合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)
姉が結婚式から逃げ出したので、身代わりにヤクザの嫁になりました
拓海のり
BL
芳原暖斗(はると)は学校の文化祭の都合で姉の結婚式に遅れた。会場に行ってみると姉も両親もいなくて相手の男が身代わりになれと言う。とても断れる雰囲気ではなくて結婚式を挙げた暖斗だったがそのまま男の家に引き摺られて──。
昔書いたお話です。殆んど直していません。やくざ、カップル続々がダメな方はブラウザバックお願いします。やおいファンタジーなので細かい事はお許しください。よろしくお願いします。
タイトルを変えてみました。
今日もBL営業カフェで働いています!?
卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ
※ 不定期更新です。
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
オメガ大学生、溺愛アルファ社長に囲い込まれました
こたま
BL
あっ!脇道から出てきたハイヤーが僕の自転車の前輪にぶつかり、転倒してしまった。ハイヤーの後部座席に乗っていたのは若いアルファの社長である東条秀之だった。大学生の木村千尋は病院の特別室に入院し怪我の治療を受けた。退院の時期になったらなぜか自宅ではなく社長宅でお世話になることに。溺愛アルファ×可愛いオメガのハッピーエンドBLです。読んで頂きありがとうございます。今後随時追加更新するかもしれません。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる