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#23 マジックアワー
23-3 マジックアワー
しおりを挟む魔法の泉エリアのオープンを記念した、特別な水上ショー。
千夜一夜をテーマにしたエキゾチックな街並みを駆け抜け、五人は湖が広がるハーバーを目指した。心の準備を整え、スタッフが優先パスで確保してくれていた席へと急ぐ。
雄大な火山を背景に、花々のモチーフで彩られたフロートが滑るように現れた。
遊歩道を埋め尽くす観衆に向かって、キャラクターに扮した外国人キャストとネズミ二体の着ぐるみが手を振っている。大音量で名曲が流れる中、夕焼けに包まれた彼らは踊り出した。ついさっきアトラクションに登場した彼らが生き生きと動く姿には、感動もひとしおである。五人はコメントもリアクションも忘れて見入った。
まさにここは夢の国、いや愛の国だ。
同じ舞台に立ち、同じ屋根の下で暮らしても、今日一日で仲間の知らない一面を沢山見ることができた。ランドの時よりもさらに豊かな表情を。特に大地と櫂人の二人はネズミガチ勢だったのか、長年のわだかまりが嘘のように消え、古い親友のように語り合っていた。この瞬間も珍しく、紫音の目の前で二人が至近距離で並び立っている。寮の中でもお互い半径2メートル以内には近寄らないのに、ステージ以外でこの光景が見られる日が来るとは。卵から孵化したウミガメが成熟するまで生きられる確率=約0.02%以下と同等の奇跡だった。
『スプラッシュのみんなが背中を押してくれたおかげで、すばる君と付き合えたんだから』
ふと、とおる君の笑顔が走馬灯のように紫音の脳裏を過る。
勇気のバトンは次へと渡していかなければならない。今度は、紫音は眼前の二人の背中を押したい気分になった。より絆を深める絶好のチャンスだ。
そこへ、ゴールデンアワーの神秘的な橙色に照らされた湖上で、橋の下から新たなフロートが姿を現した。
船上には、入園後にグリーディングをしてくれた動物たちが勢ぞろいしている。
マリン風の衣装に着替えた彼らは、甲板を突き破りそうなほど飛び跳ねていた。ガチ勢であれば、この神業的な合流を見逃す手はない。
「あっ、二人とも見て!(棒)」
紫音はごく自然に、後ろから肩をそっと叩く。
すると、同時に振り向いた二人の唇が重なり、カメラがその瞬間を捉えていた。
*
どんなアクシデントでも、アイドルの品格を崩さない二人の切り替えは早い。
何事も起こらなかったような実に見事なリカバリーで、その後のロケはつづがなく進行された。四人がトロッコに乗って火山の周りを爆走する間、紫音はクラゲが上下に揺れるだけのライドへ。遺跡を駆け抜けるコースターで四人が360度回転する傍ら、紫音は魔法のじゅうたんでのんびり空中散歩を楽しんだ。そして、紫音がレストランで冬限定のフードスーベニアを紹介する間、四人は魔宮へ水晶のドクロを探す旅へ出るという風に。
閉園まで遊び尽くすという鬼畜ミッションと夜勤キャストへのインタビューも含め、マネージャーの送迎車に乗った頃には、外はどっぷり闇に包まれていた。それぞれがお土産紹介コーナーでちゃっかり大人買いしたアイテムの山で、トランクは一杯になる。
「みなさんお疲れ様でした!……さすがにハードでしたよね。お水どうぞ」
ヘアメイクの時間も入れてほぼ13時間拘束。
体力づくりには余念が無い五人でも、さすがに口数はほとんど無い。しかし、リーダーとサブリーダーは別の理由で押し黙っている。二人の間に挟まる形で座っていた紫音は、今日何度目かわからない謝罪を繰り返した。
「本当にごめん……その、あんな風になるとは思わなくて」
「いや、元はと言えばこの男が悪い。あんな近くに立っているからだ!」
ムスッとした顔で東京湾を眺めていた櫂人は、途端に毛を逆立てた猫のように威嚇する。大地も大地で頑なに譲らない。
「ハァ!?お前が寄って来たんだろうが!大体、初めてじゃねえだろ」
「なっ……あれこそ事故だったろう!今後は半径5メートル以内に近寄らないでくれ!」
発情期の猫のような応酬に、紫音は小さく縮こまる。バックミラー越しに一瞥したマネージャーが、言い辛そうに切り出した。
「あの……その件なんですが、ファンの方が撮っていた動画に映り込んでいたらしく……」
「――本当だ!良かったね、二人ともトレンド入りしてるよ」
最後列で復活した奏多がスマホの画面をかざし、SNSのつぶやきランキングを開いた。
ちょうど海辺で恋人たちがヴェーゼを交わすように、ハプニングの直後に頬を染める二人の様子が遠巻きから映し出されていた。
「ア゙ア゙!?ふざけんなよ、何だよこの汚ねぇ絵面!」
「!?まさか……何という仏の業……もう嫁に行けん……」
大地は罵詈雑言をわめき出し、絶望した櫂人は両手で顔を覆った。一方、計算高くなったマネージャーは上機嫌だ。
「なので、しばらくは匂わせ路線で売り込んでみましょう!あっ、そろそろオンエアの時間ですよ」
マネージャーはナビを切り替えて、FMラジオに切り替えた。慣れ親しんだテーマソングがサラウンドスピーカーから流れてくる。
『SPLASHの≪Cinderella Nights Radio≫!今夜は寝かせないよ、お姫様&王子様?』
先週収録分の放送が始まると、掴み合いに発展しそうだった口論もぴたりと止む。
『新年初めての放送、あけましておめでとう!美味しいおせちとお雑煮は食べましたか?我が家は今年も奏多ママの手作りでした』
『時短レシピをモンスタに載せてるので、来年のためにぜひチェックしてくださいね。
早速ですが、ふつおたのコーナーです。メールが多すぎて今週もミニゲームまでたどり着けないかも(笑)』
『最近のふつおた、ほぼ人生相談だろ?俺ら駆け込み寺でもねえのに』
『私たちのフラワーズは感性豊かな御人ばかりだ。その分悩みも絶えないだろう』
『僕も毎日悩みが絶えないので、日記帳に吐き出しています……』
『(一同笑い)』
一人目の相談者はヨシノリ王子(29歳会社員)。
人生の何もかもが面白くなく、今のままでは正常なメンタルを保てないという。その最大の原因は、やはり仕事についてだった。残業も無く、有休もスムーズに取れるというホワイト企業だが、成果を上げる必要もなく、ルーティンワークをこなすだけの日々が苦痛だという。ろくに会社勤めの経験の無い三人は沈黙を守った。
『安定してお給料を貰えて、省エネで働けるっていうのは、僕たちから見ると羨ましいけどね。明日はどうなるかわからない身だよ(笑)』
『刺激が足りないなら、色々チャレンジしてみない?
まずは今の会社で働きながら、副業を小規模で始めてみるのはどうかな。ポイントは自分が興味を持って楽しくやれること。軌道に乗ったら、本格的に起業しよう』
『確かに、主な収入源を確保しながら少しずつ挑戦できるよね。俺だったらMoreTubeでメイクのコラボ動画とか……古着の通販もやってみたいな』
他業種ではあるが、最近までは彼自身も組織の一員だった奏多からの的確なアドバイスだ。ルーティンワークとは縁もゆかりも無い年下組から、拍手喝采が起こった。
『すごい!もう解決しちゃった。続いて二人目は……フラワーネーム708号室(年齢・職業秘密)さん』
別の王子からの相談は至ってシンプルで、推しが尊すぎて困るという内容だった。
二週連続でヘビーな質問が続いたせいか、息抜きのように思えて、紫音は思わず笑みをこぼす。
『そういえば、僕も最近推しができました』
『おー、誰なんだよ?』
『それはもちろん――……プリン君です!』
盛大なドラムロールの後、愛する家族へのノロケが始まった。
『鼻息荒げながらご飯食べてる姿も、白目剥いて寝てるのも、怒った時にペロがぺろーって飛び出てるのも、可愛くて可愛くて……ずっと見てても飽きません。尊いってこういうことですね』
『(一同笑い)』
車内でも笑いが起こる中、後部座席から佑真が身を乗り出した。
「紫音、次直矢さんに会う時にちゃんとフォローしないと」
「えっ?」
意味ありげな微笑を浮かべる佑真は、恋の暗号を紐解いてみせた。
「プリンよりも百倍あなたのことが大好きだって。708号室って多分……ナオヤの当て字だと思うよ」
「ああ、そういえば彼……ポケベル世代だったね」
恋人が垣間見せたお茶目な一面に、紫音の胸はトクリとときめいた。
全く売れなかった頃にも欠かさなかった、モンスタへのいいねやコメントも然り。自分があずかり知らぬところで、ずっと献身的に支えてくれているのだ。
関係を公にできなくても、こうして電波の上でつながれることの嬉しさ。
そう思うと、急に顔を見たくなる。今日会ったばかりでも関係無い。アンチコメントの件や本人特定の動きも紫音は心配で堪らなかった。
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