底辺地下アイドルの僕がスパダリ様に推されてます!?

皇 いちこ

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#23 マジックアワー

23-4 マジックアワー

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彼方にそびえる東京タワーのネオンが眩しい。
主人のオフィスから程近いスタジオでゲスト出演の収録を終えた後、紫音はニット帽、サングラスとマスクという完全武装でエントランスのソファに座っていた。
首都高沿いに隣接するモールの外壁には、メインで起用されたDigorディゴール春夏キャンペーンの広告がでかでかと掲載されており、ここまで無事にたどり着けるかは一種の賭けだった。だが、定時をとうに過ぎたこの時間なら、ゲート前に立つ夜勤の警備員ぐらいしか目撃者はいない。
暫定的に恋人として結ばれてからの逢瀬は、一分一秒が待ち長かった。こうしている間も、ビルに宇宙船が墜落して逢引きを阻まれるのではないかと、ついネガティブな思考に囚われてしまう。そしてようやく、硬質なフロアに革靴の靴音が響いた。

「すまない、待たせたね」
「っ……いえ、お疲れ様です!」

ひとたび主人が降り立てば、無機質な空間も五つ星ホテルのロビーに変わる。グレージュのスリーピースを品良く着こなす彼は、 バックにエンパイア様式のシャンデリアを背負って現れた。
紫音は彼の胸に飛び込みたい衝動を抑え、大人しくビジター用の入館証を受け取った。

警備員と会釈を交わしてゲートを通り抜けし、エレベーターで54階建ての超高層ビルを上昇していく。直矢の手がゆっくりと伸び、小鳥を撫でるような慎重さでサングラスを外す。現れた二つの瞳は、愛する男に会えた喜びで輝いている。どちらからともなく二人は抱き合った。

「ごめんなさい、無理にお邪魔しちゃって」
「いいんだ、もう全員帰ってるから」

マスクで息苦しくないよう、しかし直矢は惜しみながら一歩退いた。

「……嬉しかったよ、連絡」

最近の退社時間は把握していなかったが、もしかするとまだ残っているのではないか。淡い期待を込めて紫音が送ったメッセージはこうだった。

『テレ夕を出たところですが……もしまだオフィスにいたら、少し会えますか?』
『もちろん。おいで』

シンプルな短文でも、すぐに返事が返ってきたことがこの上なく嬉しい。『おいで』の三文字は、収録終わりで疲れ切った心を甘く震わせた。まもなく目的のフロアに到着すると、非常灯だけが点いた廊下はひっそりと静まり返っていた。社員証で開錠する音とともに、微かに緊張が走る。ここが主人が長い一日を過ごす場所なのだ。

まるで美術館の受付のようなレセプション。最新設備のミーティングルーム。開放的なカフェテラス。ニューヨークの情緒を醸し出すバスケットゴールとビリヤード台。
めくるめく景色を通り過ぎて、案内されたのは奥の役員室。一歩足を踏み入れると、重厚なウォールナットのデスクとレザーチェアが風格を醸し出していた。そして、部屋の主の香りが微かに感じられる。スパイシーなウッディフゼアのフレグランスだ。甘く官能的なノートが堪らず、紫音はバックパックのストラップを握り締めた。

「ケータリングの残りで申し訳ないんですけど、良かったら……」


いそいそと鞄を開けて、楽屋で包んでもらったサンドイッチとネズミシーのお土産を取り出す。店内の人波に揉まれながら悩みに悩んだが、至って普通の缶入りチョコレートになってしまった。

「わざわざすまないな。ロケは楽しかった?」
「はい!……一緒に行ける時があれば、案内しますね」

洗練されたオフィスにいる主人を前にすれば、夢の国が描かれたショッピング袋は子供じみて見える。紫音は冗談のつもりで言ったが、直矢は自然な笑みを零した。

「頼もしいな。じゃあ、記念日にでも行こうか」

――『記念日』。
まだどこか不確かだった関係が、その一言で確固たるものになる。不意打ちで弾けそうなほどの喜びが溢れ、紫音は衝動的にマスクを剥ぎ取った。
背伸びをして、口づけを一つ贈る。抱擁が再び深まり、長いお返しが降って来た。

「最近、ちゃんとお食事できていますか?……あまり家に行けていないから心配で」

最後の一人になるまで居残っていたおかげで、こうして会えているのだが、依然として責任が大きいのだろう。地位の高さがそうさせているのだが、目の下の翳りに紫音の心は傷んだ。

「大丈夫。帰る途中に、遅くまでやってる弁当屋ができたんだ」
「そうなんですか……でも、それだけじゃなくて……その」

明るく振舞う主人に対して、紫音は申し訳無さと罪悪感で俯いた。
元々は自分の危機感の無さのせいで、こんな状況を作り出してしまったのだ。あの時、上手く立ち回れなかったせいで。
そして少し調べるだけで、仲間が指摘した誹謗中傷も芋づる式に出てきた。自分一人では手の施しようがないほど事態は膠着していたのだ。心無い言葉の羅列は、思い出すだけで具合が悪くなってくる。

「Fステの生中継の件で、大変なことになってるって聞きました……ネットの書き込みとか、全然知らなくて」

顔が見えない相手からの非難に、紫音自身も深く傷ついた時期があった。
心にナイフを突き立てられたような苦痛を思い返せば、主人の顔を直視することもできない。

「……ああ、そんな事はどうでもいい。どうせ暇な連中が好き放題言ってるだけだから」
だが、頭上から掛けられた声に、取り乱した気配は無い。
紫音がおそるおそる見上げると、一切繕うことのない態度が伺えた。

「下らない相手に合わせて、自分まで低い次元に落ちる必要は無い。俺も……君もだよ」

骨張った手が伸び、紫音の頬を優しく撫でる。
あれだけ重く立ち込めていた靄が晴れ、心がふっと軽くなった気がした。自分にはない強さのおかげで、何度安寧をもたらされたことだろう。

(……僕は……素晴らしい人に出会えた)

どうしようもない不安を、いつの間にか打ち消してくれる。こみ上げそうになる涙を止めてくれる。
それが、高科直矢という男だった。

「あの時……庇ってくれて本当に嬉しかったです。ろくにお礼も言えてなくて、ごめんなさい」

輪郭を穏やかになぞる指先に、紫音は自分のそれを絡めた。

「直矢さんのこと、もっと大好きになりました。プリンの……百億倍大好きです」

自ら盾となろうとした果敢な騎士を愛さずにはいられない。
紫音はもう一度背伸びをして、キスを捧げた。拙いながらも見様見真似で挑む、深い口づけを。唇の戯れは、強引な舌にたちまち吞み込まれた。

「ッ……はぁ……っ!んん……!」

密着する二人の躰は、デスクの書類の上に雪崩れ込んだ。
口内を貪り合ううちに、いとも容易く火照りが増す。スーツパンツの下では、すでに生命力が猛々しく反応していた。

「――紫音、ダメだ……これ以上は……」

荒々しい主張を内腿に感じた紫音は、一層拒むことができなかった。

「嫌……シてください……」

大胆にも自らジーンズを下ろし、主人の手を下着の中へ誘う。
漆黒の双眸は驚きで揺れた。ひっそりと開花を待ち望む蕾は、あらかじめ濡れていたからだ。

「二つ目のお土産は……僕ですから」

本命のお土産は別にあり、今夜早速その役目を果たしていた。
ネズミストアで一緒に購入した、くまのブウさん携帯用はちみつボトル≪カナダ産≫。体温で滑らかに溶け、柑橘系の香りを漂わせていた。

「あ、あっ!はぁぁ……深い……っ♡♡」

ぬぷっ……ズブズブ……ッ!
性急な愛撫の後、蜜壺に熱い楔を一気に打ち込まれる。冷静さを失った主人の姿は愛おしく、紫音はジャケット越しに爪を立てた。

少し結び目を緩めただけのネクタイが、ゆらゆらと揺れる。
着衣のままのセックスは、裸で抱き合うよりも淫らだ。神聖なオフィスで行為に浸る背徳感の中、二人の興奮はすぐに最高潮に達した。
まだ数えるほどの交わりでも、従順な内壁はあっという間に主人の形に馴染む。もう長い間、再び受粉の日を待ち侘びていたのだ。
抽挿の深さと、肌と肌がぶつかる音も普段より激しい。硬く充血した雁首 でぷくりと膨らんだ胡桃を擦られ、内部は飽きることなく痙攣を繰り返した。

「んあっ、そこ、イイっ……あ、ああ――……っ♡♡」
「ハァ……く……ッ!」

艶やかな吐息が乱れ、ドプドプッ――と最奥に白濁のシロップが注ぎ込まれる。
繋がったまま深いキスを交わすと、かぐわしい花の蜜の味が広がった。極上の甘さは魔法に掛けられているようで、紫音はしばらくお互いの熱が混ざり合うのに身を委ねた。
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