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#28 星を摘みに
28-1 星を摘みに
しおりを挟む『🎵ーーSibuya Sparkling Nights』
『シュワシュワの泡に 心まで溶けて』
『唇まで ドキドキ踊る』
『クセになる 甘いフレーバー』
『恋のボトルを開けたら』
『後戻りできない Taste of You』
胸の前で両手でハートを作る仕草も、弾ける泡を表現した腰のスウィングも、生中継のカメラに鮮やかに映える。映像の泡が舞うのに合わせてひらめく、指先のダンスも幻想的だ。最後にボトルを飲むように手を口元へ、キュートなウインクで視聴者のハートをも射抜く。
マンゴスチン田中が手掛けたカリスマティックな振付は、SBSでも大バズり中だ。観覧席は悲鳴と拍手に包まれ、63,150倍の倍率を勝ち抜いた猛者たちの心を癒した。コラボドリンクにちなんで散布された炭酸水に、乙女たちは歓喜の咆哮を上げた。
怒涛のパフォーマンスを終えた五人がゲスト席へ戻ると、司会のヤモリに歓待される。
「いやぁ、相変わらず気持ち良い放水っぷりだね!
東阪ドーム公演もチケット完売なんだって?あと一か月とちょっとかな」
「はい、おかげさまで。3月9日、フラワーズの皆さんに会える日を楽しみにしています!」
少し照れたはにかんだ表情で、大物司会者にも臆さず答える。
この数週間で、紫音の自信は着実に積み重ねられつつあった。仲間たちとの結束、憧れの≪Fステ≫への再出演、ドーム公演演出完成への兆し。そして何より、胸元で寄り添うネックレスの存在が心を奮い立たせてくれる。楽屋で着替えの最中にも鏡越しに見ると、人知れず紫音の口元は綻んだ。そこへ、ドレッサーに置いていたスマホが振動する。
≪Fステ良かったよ。気をつけておいで≫
メンバーとの橋渡し役として奔走するうち、幼馴染との関係性は良好なものになっていった。一時期は結婚秒読みなどという誤報道に困惑したが、多忙な経営者はゴシップに構っていられない様子で、紫音もまた気に掛けないようになった。
ワゴンタクシーの窓の外に映るオフィスビルの結集も、日常の一部になっていく。威信を放つコンクリートの塔は、今夜も燦然と煌めいていた。
「いよいよ仮設ステージとご対面か。ドキドキするね」
助手席でポツリと漏らした佑真の言葉は、確かな重みがあった。
緊張のうちに幕を下ろした初回ミーティングから今日に至るまで、制作チームとは何度も衝突を繰り返した。たった一夜に2つの相反するテーマを組み込んだ、異例のステージ。しかし、虎ノ門オーバルホールでの仮ステージ実験と安全審査を前に、ようやく現実味が帯びてきた。
当日限定ドリンクやグッズの事前販売予約が殺到していることで、コストの目途も立つ。そうした確かな裏付けが、頑なだったプロモーターを少しずつ動かしていった。今では、関係者全員が『この構成なら勝算がある』と口を揃えるまでになっている。
生放送が無事に終わってからようやく、櫂人も本音を漏らした。
「私も……浮足立ってしまって、昨夜はあまり眠れなかったな」
「ンなガラスのハートじゃ、身が持たねぇぞ。寝るのも仕事のうちだからな」
大地にしては珍しい正論だったが、機嫌を損ねた櫂人はそっぽを向いてしまった。
しかし、二人の『ビジネス仲良し』は現在も鋭意継続中で、現場に一歩足を踏み入れればプロの表情に切り替わる。
ガラス張りのエントランスを抜けると、ひんやりとした空気が肌を撫でる。夜間照明だけが灯されたホールは、都会の心臓部とは思えないほど静まり返っていた。
アーチ状に湾曲した天井からは、無数のラインライトが緩やかに流れ、まるで夜空の星座を模しているかのようだった。
足音が響くたび、磨き込まれた黒い床が光を返す。最奥には、組み上がったばかりの仮設ステージ――、ドーム公演のミニチュアともいえる原型が鎮座していた。
無人の客席を背に、ステージ中央には薄く霧のような照明が漂い、光と影がゆっくりと混ざり合っていく。
「……本当に、ドームの縮図みたいだね」
先頭にいた奏多が、興奮を隠しきれない様子で呟く。
紫音も思わず息を呑んだ。視線の先、吊り上げ用のワイヤーが天井リグに沿って交差し、銀色の光を反射している。
その先には、実験用の昇降ステージ、LEDスクリーン、スモーク装置、全てが一夜限りの仮想ライブ空間として構築されていた。
ただの稽古場ではない――完璧な『夢の再現装置』だった。
「安全管理は万全だ。照明も吊りも、本番仕様でテストできるようにしてあるから」
桐谷がモニタールームから姿を見せ、スタッフたちに指示を飛ばす。彼の声がホールの空気を引き締め、張り詰めた緊張が一層強まった。だが、その目の奥には、確固たる誇りと安堵が宿っていた。
長い交渉の末に辿り着いた、現実の形がここにある。
五人は視線を交わし、ステージへゆっくりと歩み出す。
仮設とは思えぬ堅牢さと、どこか人工的な温度のない光。紫音は一歩ごとに、これまでの努力と未来の重圧を同時に感じ取っていた。
そしてふと、視界の上――天井に伸びるワイヤーが月光のように光り、遠い夢の階段のように見えた。
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