底辺地下アイドルの僕がスパダリ様に推されてます!?

皇 いちこ

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#5 愛に寄生

5-2 愛に寄生

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ゲイになってしまったのだろうか。
明くる日に血迷って大量注文した分の段ボールが、家主が帰宅した玄関の前に積んであった。中には、本当にムスコが使い物にならなくなったのか確認するための道具が詰め込まれている。

不穏な箱を脇に抱え、直矢がようやく部屋に戻ったのは日付を跨いだ頃だった。
肝心の牛丼は店舗から配送中で、風呂を沸かす間にスーツをクローゼットに仕舞う。
せっかくの日曜は急遽接待で潰れ、片付けもままならない80㎡弱の1SLDK。先月まで家政婦に来てもらっていたが、腕時計が数点窃盗されていたことが判明してから、家事が滞りつつある。即刻解雇からの現在も民事訴訟中で、余計な仕事が増えてしまった。

当座のところ、家事よりも優先すべきなのは男の尊厳である。
ハイステータスの男に不能インポテンツの称号はふさわしくない。死んでも回避すべき恥だ。
リビングで段ボールを開封すると、パッケージには≪極上ケツマ○コ≫など卑猥な単語が躍る。しかしながら、シリコンの塊を見ても一向に興奮しなかった。
すると、一階エントランスへの到着を告げるインターホンが鳴る。

『あっ……ムーバーイーツです』

16時間労働を終えた体は、オ○ホールよりもむしろ肉を欲していた。
キンキンに冷やしたビールとイカゲソのつまみを卓にセットする。そのうちに、二度目のインターホンが鳴った。

置き配指定にしていたのに、たまに指示を見ない配達員もいるのだ。
直矢は舌打ちをして、バスローブを羽織った姿で玄関に向かった。ドアを開けるなり視界に飛び込んで来たのは、配達員のつむじだった。

「もっ、申し訳ございません……お客様……」

マスク越しの籠った声で、この世の終わりのように詫びる配達員。
直矢が何事かと訝しむと、ビニール袋を持つ手は震えていた。

「たった今、状態を確認したところ……その……」

中身を見なくても、袋の隅に雪崩れた米粒とつゆから、直矢にはその惨状がありありと伝わった。多少こぼれただけでは収まらない、360度ひっくり返った無様な牛丼の姿が。

「もういい……貸してみろ」

直矢は溜息を吐き、配達員から袋を奪った。
今から隣々町の店まで交換に遣るなど、究極のタイムロスだ。部屋に充満するダシダの香りに食欲が爆発しそうだった。
直矢は早足でキッチンへ向かうと、上下を反転させたどんぶりに袋の中身をすべて流し込んだ。

「……ほら、食えればいいんだ」

相互確認のために、直矢は原状回復させた牛丼を宙に掲げた。
それにしても既視感のある光景だった。前回はシャンパン、今回は牛丼とは――……しかし、そそっかしい若者というのは、一定数存在するものだ。
俯いていた配達員はおそるおそる顔を上げる。だが、その瞬間、細身の体は大きく前のめった。

「!?っ……おい!」

――ドサドサッ!
ものの数秒後、配達員はタイルの上に倒れ込んだ。
力無く投げ出された手足。次いで、横倒れになった配達カバン。忙しなく動いていた四肢が、突然活動を止めてしまったのだ。

「畜生……!ウソだろ……」

救急車を呼ぶか。内廊下のAEDを取りに行くか。
深夜の食欲と眠気は吹き飛び、あらゆる選択肢が脳内を駆け巡る。直矢は咄嗟に配達員の元へ駆け寄り、仰向けに抱き起こした。
心拍数と呼吸の確認。そして、気道確保。厚手のスウェットのファスナーを下ろし、マスクを剥ぎ取った。機敏な応急措置により、幸いにも配達員は意識を取り戻していく。

「う……ん……」

どうやら、一時的に気を失っていたようだ。
ぽってりとした唇が微かに動く。人形のような長い睫毛に縁取られた瞼は、ゆっくりと開き始めた。

「君は……」

間接照明の下に躍り出た、桃色の突起。
白い胸元で今にも弾けそうな、大ぶりの形は忘れられるはずがない。抱き起こした配達員の正体に、直矢はようやく気付かされたのだ。

「ナ……オヤさ……うぷっ!?」

動揺したのも束の間、今度は青ざめた配達員が直矢の胸に飛び込んだ。
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