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魔法というか呪い

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 マルカ国の王子妃選定は過酷だった。何人もの令嬢が選定に召され、その中の数人が心を折られ、数人が将来を絶たれ、数人が亡くなった。リラが最後まで残ったのはひとえに女神の加護があったからだ。結局たった二人の王子のために、何人の娘とその家族が涙を流したことか。

 だから、リラはそんな選定は必要ないと思った。

 王家の存続のために、次代もまた同じく妃候補の選定が行われ、また何人かの令嬢が悲しい思いをするのだろう。それが行きすぎた覇権争いの果てとはいえ、巻き込まれるのは年端もいかぬ娘たちだ。
 だったら、そんな王家はいらない。

 リラは王都で魔法の教育を受けた。常に無意識で魔法を展開しているリラには、その力に意思を加えることは割と容易にできた。守る力、命を、体を、心を、ならば逆も可能だ。

「ですので、わたくしは王子殿下お二人に、魔法をかけました」

 リラとケイン、それからやっと愛娘に会えたハルフネン侯爵家のリラの家族は、リラの話を聞いて顔色を変えた。

「魔法、とは、どんな」
「子孫が残せなくなる魔法です」
「な……」

 それは魔法ではなく、呪いではないかとリラ以外の全員が思った。女神の加護でそんなことが可能なのか。

「有り体にいえば王子様がたは、今後一切、女性と致すことができない体となりました」

 真顔ですらすらと言い放つリラに、主に男性陣が恐怖に背を縮めた。不能と蔑まれるのは、男性にとって最も矜持を傷付けられるものだ。

「リディ……それは」

 蒼白を通り越して、最早真っ白な顔色のリラの兄が、その意図を悟った。

「王子に子が成せないとなると、最も血が濃いのは我が家になる……」

 ハルフネン侯爵家、リラの祖母は先代の王妹が降嫁している。降嫁によって王妹は王位継承権を放棄しているが、血族を求めるならリラの父、あるいは兄かその子が継承を求められる。

「ついでに王家がハルフネンに手出しできないようにと思ったのですが」
「リディ」

 侯爵夫人がリラのそばに寄って、リラを抱きしめる。
 実家の心配をするほど、王家に辛い目に遭わされたのかと、不憫に思って涙を零す。
 リラは母を抱きしめ返した。再会を喜んだときにも泣いてしまったが、一度緩んだ涙は簡単にこぼれるようになるらしい。
 男性陣はもっと実質的なことを考えてしまって、なんだか膝を閉じて座り直した。閨で泣かれる、蔑まれる、呆れられる、考えたくないシチュエーションすぎる。
 その行く末は王家の断絶だ。

「今後、これ以上悲しむ令嬢たちを生まないためです」

 きっぱりドヤるリラには、ちょっと厳しいんじゃないかとか、うちは王家になりたい訳じゃないとか、誰も言える雰囲気ではなかった。
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