【完結】死に戻り伯爵の妻への懺悔

日比木 陽

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死に戻り編

ふたりの出会い②

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この男が、彼女が生垣に座る羽目になった原因だと勘付く。


「いや、ここには誰も来てないよ?女性がこんな暗がりに来る筈ないだろう?」

「まあそうだよな、お前も早く戻らないとまた誰も持ち帰れねぇぞ!」

「…ご心配どうも。僕はそういう気は全くない」


男は自分で言って心配になったのか、僕の返事など気にも留めず足早にその場を離れていく。



シン、と静まって、また会場の喧騒が遠くに聞こえる。

僕は前を向いたまま、セレスティアに話しかける。



「…友が怖い思いをさせたようだ。済まなかったね、セレスティア嬢…?」

「…貴方様の所為ではございません…ので…」

「美しい君に似合う素敵なドレスだったのに、葉がついてしまっただろう」

「…!だ、大丈夫ですわ…」



すくっと僕が立ち上がったことで、セレスティアの肩が跳ねた。



「…君に恐ろしいことをするつもりはない。馬車まで裏道を通って行こう。」

「あ…」

月が雲に隠れて、セレスティアの表情を隠してしまう。



「女神をエスコートする栄誉を僕に頂けますか?」
「……ッ…はい、喜んで」



差し出した僕の手に、密かに憧れ続けた君の手が乗った時の喜びは言い知れない。


触れた途端に全く余裕がなくなって、先ほどまでのように話は出来なかった。

ただ足掻くようにゆっくりと歩く。馬車に着くまでのこの奇跡のような時間が続けばいい。




無情にもあっという間に着いてしまって、手を離さなければならなくなる。


セレスティアが手を離そうとした時に、衝動的にギュッと握ってしまった。

「!?…あの…」
「もし、また困ったら、僕に言うといい」


若き日の僕は、そう伝えるのが精一杯で、もう後は言葉にならなかった。


「…ありがとう、ございます…」



その言葉を残して、セレスティアの手は離れ、家の馬車へと乗り込んだ。



僕は馬車が見えなくなるまで、ずっと見送っていた。





◇◆◇◆




その数日後に、母に呼び出されて応接室に来てみれば、彼女が僕の屋敷に居たのだ。


僕の婚約者候補として―――。



「こちら、リベラ子爵令嬢のセレスティアさん。セレスティアさん、息子のウィリアムですわ。」





――分かっていた。少し話しただけでも君が、母と気性の合う人ではないという事くらいは。

なのに僕は一も二も無く望んでしまった。彼女を僕の妻に―――と。



涼しい顔を装いながら、腹の底では本当は、

君を自分のものにしたくて堪らなかったとこの時初めて自覚した。
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