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死に戻り編
母の凶行①
しおりを挟むそれから、とんとん拍子に事が運び、晴れてセレスティアを名実ともに手に入れた。
何の努力もせずに舞い降りた幸せが、あまりにも手放しがたくて。
それに、君と母が合わないだろう事に目をつぶったことにも、罪悪感が募る。
この家の実態を知ったら君が出て行きたいと言うのではないかと、…僕はずっと「何か不満はないか」という問いかけを出来ないまま。
…あの最悪の日を迎えたのだ。
――戻ってきたのだから、今度は早い段階から君に問いかけて、改善したい。
(何せつい昨日、セレスティアの懐妊が分かったのだから。)
浮かれずに執務を、と思うのに頬は勝手に緩んでいく。
(…それにしても、エステルの懐妊報告が少し遅れた。過去に戻ったことで変わってしまったようだ。)
愛娘に会えないかもしれないというのは恐ろしかった。
あまり目立った事はしない方がいいのかもしれないと慄きもした。
そうは言っても、長年熟して、骨身に染み付いた執務がこの時期の自分よりも早く終わるのは当然の摂理というもので。
書類を合理的に改変し、記録の仕方も指導した。
招かれざる来客を追い返すやり方と、通常の来客でも、適切な時間で帰ってもらう言葉運びが、身についている。
羽ペンを手入れして仕舞って、席を立つ。
「お疲れ、皆も終業にしよう。」
声をかけると侍従たちも嬉しそうに礼をして、暫し休む為自室へと帰っていく。
そうして、毎日の日課となったセレスティアの私室へと足を向ける。
すると、セレスティアの部屋の前で何やら母が喚いているではないか。
「お義母様…それは…」
「できないと仰るの!?貴方はもう子をふたりも授けてもらって、充分でしょう!ウィルを自由にしてちょうだい!」
(授けてもらう?自由?)
話についていけなさ過ぎて、固まってしまう。
「いい!?伯爵なんていうものはね、高い地位の代わりに、とても心労が溜まるのよ!あなた一人に誠実になんてしていたら、ウィリアムが余計に疲れてしまうのは分かるでしょう?!あの若さで領主となったのだから、息抜きは必要です!貴方はそれをさせないと言うのかしら!?」
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