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死に戻り編
赦しを①
しおりを挟む彼女を送り出して、僕は屋敷へと戻って来ていた。
…彼女は戸惑っていた。
馬車に共に揺られて、これからどこに行くのかという問いにも上手く答えられない僕に、やきもきしていたことだろう。
やがてたどり着いた場所で、彼女を降ろす。
彼の住む集合住宅の側の公園まで歩いて。
そこで待っていたデイビッドと、彼女は顔を合わせた。
目を見開いて、「デイビッド…」と呟くセレスと、「お嬢様…」と呆然とするデイビッドを、足を何とか踏ん張り、見届けて。
書簡は予め、封をしたまま彼女に預けてある。
「デイビッド、私…!」
セレスティアの彼を呼ぶ声ですら、耐えられそうもなくて、僕は踵を返す。
「ウィリアム様…?」
セレスティアの声が僕を呼んでも、もう振り返れなかった。
「それでは、その件は君に任せたから」
◇◆◇◆
それだけ告げて、馬車へと戻り、彼女を待つことなく帰り着いたのが今だ。
今日は執務も休みで、私室へと戻る。
寝台に腰かけて、外を眺めた。
空は青く、雲が穏やかに流れる。
…彼女が好きな天気だ。
(今朝、君と目覚めた。…決意が鈍るから抱かない様にと思っていたから、君の寝室へ行かなかったのに、…君ときたら…)
温度のない涙が滑り落ちる。
美しい君
金の髪、アメジストの瞳、薔薇の唇
世界に色を付ける微笑み
福音の声
…無邪気なところ
…優しいところ
…たまに厳しくて
…深い情を持ち
…いたずら好きで…
(――世界で一番愛しい、僕の…妻)
今日、会わせなければ。
何食わぬ顔で君の隣で幸せを享受していられたのではないか。
今まで何度も何度も振り払っては湧き上がってくるその考えに、もう苦しむ事はない。
(――…いいや、きっと一生の後悔が待っている。)
それでもいい。彼が彼女に最も相応しい。それを彼は真に生涯をかけて僕の目の前で証明したのだから。
あとは、もう彼女を自由にする準備に入るだけ。
(今のセレスティアは健康そのもの、きっと彼との…子…も…――)
そこまで考えた途端に堰を切った様に涙が流れ落ちる。
エステルが産まれるまでの、あのあまりにも幸せな日々が押し寄せて。
――あれが、他の男に、もたらされる。
「…いやだ…っ」
過去から遡ってきて、いま、初めて剝き出しの本音を出せた気がした。
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