【完結】お人好し()騎士と偽カタブツ侍女

日比木 陽

文字の大きさ
10 / 15

10

ぷるぷる震えていると、今度はアメリーの後ろから「セドリックさまぁ~~♡♡」という甲高くキンキンする声が聞こえてきた。

「私以外の子を抱きしめちゃイヤですわッッ♡♡」

その声を受けて、恋人が纏う冷気が更に精度を増す。


「クレバー侯爵令嬢…少し取り込んでおりまして…今は任務どころでは…」


苛立ちを堪える様なセドリックが、言った言葉にアメリーは混乱する。

(任務…?)


「もう照れなくても…♡♡」

と、キンキン声の侯爵令嬢が、セドリックの腕に巻きつこうとしたのを見て、思わずセドリックを引っ張って躱してしまう。


「あ…」と自分のした事が信じられないというアメリーの表情が、その行動が無意識だと物語っていた。


「何ですの!!この無礼な女!!!」

さっきのキンキン声はどこへ?という程野太い声を出して私を罵倒しにくるのに、セドリックが全く意に介さず満面の笑みで視界を遮ってくる。

「アメ…!!」

ぎゅうううう~~~~~と更にセドリックにきつく抱きしめられ、苦しいのだが……嬉しくて仕方ないのが……私の本心だ…。


実際は周りはギャンギャンと喚いているのに、もう何も関係ないほど、この腕に戻ってきた安堵感が勝る。


「アメ…、行こうか」

私の耳に囁いたセドリックが、よく通る声で話す。



「連日の激務で体調不良の為早退させて頂きます。護衛は後ろに控える騎士が引き継ぎます。護衛数が減りますので、申し訳ございませんが令嬢は速やかに帰路につかれてください。何せストーカー犯はまだ捕まっておりません故!」


ハキハキと体調不良と宣ったセドリックは、アメリーを抱き上げた。


「ブルート殿、これ以降私の恋人に気安く話しかけることはやめて頂きたい。贈り物など以ての外です。悋気のあまり刃先が狂わぬようご協力ください。…あぁ、細君にこの件がバレないといいですね?」

その言葉にアレックスの肩はビクリと揺れた。

言いたいことだけを言って、半ば自棄を起こしたようにセドリックはアメリーを連れ去った。

残されたアレックス、キンキン令嬢、それからセドリックの後輩騎士たちは誰も彼らを止めることができなかった。




◇◆◇◆


アメリーはセドリックの腕に抱かれて肩に手を回しながら移動する。


アメリーにはあまりにも目まぐるしい状況であったが、セドリックが何を望んでいるのかだけは分かって、じわりじわりと胸に喜びが湧いている。

彼は怒っているのだろう、だけれどその怒りの原因がとんでもなく嬉しい。



もっと考えなければならないと思うのに、彼の首に巻きついて匂いに包まれている内に本当にどうでもよくなってしまった。


「セド…」


涙まじりのアメリーの声に、自分たちに発生していた誤解が重いものだったとセドリックは感じ取る。


見知らぬ一軒家の前に止まって、セドリックは鍵を開けた。

「え…?」


きい、と開けて彼は入っていくが、アメリーは初めて入る家に戸惑う。

それは手入れが行き届いているとは言い難い家だった。
だが、腕から降ろされた寝室だけは、綺麗に整えられて新品だろうベッドが置かれている。


「…セド…ここは…?」


困惑した表情のアメリーに、セドリックは意を決したように話す。


「俺と…アメの家。」
感想 5

あなたにおすすめの小説

男嫌いな王女と、帰ってきた筆頭魔術師様の『執着的指導』 ~魔道具は大人の玩具じゃありません~

花虎
恋愛
魔術大国カリューノスの現国王の末っ子である第一王女エレノアは、その見た目から妖精姫と呼ばれ、可愛がられていた。  だが、10歳の頃男の家庭教師に誘拐されかけたことをきっかけに大人の男嫌いとなってしまう。そんなエレノアの遊び相手として送り込まれた美少女がいた。……けれどその正体は、兄王子の親友だった。  エレノアは彼を気に入り、嫌がるのもかまわずいたずらまがいにちょっかいをかけていた。けれど、いつの間にか彼はエレノアの前から去り、エレノアも誘拐の恐ろしい記憶を封印すると共に少年を忘れていく。  そんなエレノアの前に、可愛がっていた男の子が八年越しに大人になって再び現れた。 「やっと、あなたに復讐できる」 歪んだ復讐心と執着で魔道具を使ってエレノアに快楽責めを仕掛けてくる美形の宮廷魔術師リアン。  彼の真意は一体どこにあるのか……わからないままエレノアは彼に惹かれていく。 過去の出来事で男嫌いとなり引きこもりになってしまった王女(18)×王女に執着するヤンデレ天才宮廷魔術師(21)のラブコメです。 ※ムーンライトノベルにも掲載しております。

あの人のことを忘れたい

ララ愛
恋愛
リアは父を亡くして家族がいなくなった為父の遺言で婚約者が決まり明日結婚することになったが彼は会社を経営する若手の実業家で父が独り娘の今後を託し経営権も譲り全てを頼んだ相手だった。 独身を謳歌し華やかな噂ばかりの彼が私を託されて迷惑に違いないと思うリアとすれ違いながらも愛することを知り手放したくない夫の気持ちにリアは悩み苦しみ涙しながら本当の愛を知る。

余命僅かな大富豪を看取って、円満に未亡人になるはずでした

ぜんだ 夕里
恋愛
傾きかけた家を救うため、私が結んだのはあまりにも不謹慎な契約――余命いくばくもない大富豪の辺境伯様と結婚し、彼の最期を穏やかに看取ることで莫大な遺産を相続する、というものだった。 しかし、人の死を利用して富を得るなど不正義! そう考えた私が立てたのは、前代未聞の計画。 「そうだ、遺産が残らないくらい贅沢の限りを尽くしてもらえば、すべて丸く収まるじゃない!」

私は愛されていなかった幼妻だとわかっていました

ララ愛
恋愛
ミリアは両親を亡くし侯爵の祖父に育てられたが祖父の紹介で伯爵のクリオに嫁ぐことになった。 ミリアにとって彼は初恋の男性で一目惚れだったがクリオには侯爵に弱みを握られての政略結婚だった。 それを知らないミリアと知っているだろうと冷めた目で見るクリオのすれ違いの結婚生活は誤解と疑惑の 始まりでしかなかった。

辺境の侯爵家に嫁いだ引きこもり令嬢は愛される

狭山雪菜
恋愛
ソフィア・ヒルは、病弱だったために社交界デビューもすませておらず、引きこもり生活を送っていた。 ある時ソフィアに舞い降りたのは、キース・ムール侯爵との縁談の話。 ソフィアの状況を見て、嫁に来いと言う話に興味をそそられ、馬車で5日間かけて彼の元へと向かうとーー この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。また、短編集〜リクエストと30日記念〜でも、続編を収録してます。

【完結】私は義兄に嫌われている

春野オカリナ
恋愛
 私が5才の時に彼はやって来た。  十歳の義兄、アーネストはクラウディア公爵家の跡継ぎになるべく引き取られた子供。  黒曜石の髪にルビーの瞳の強力な魔力持ちの麗しい男の子。  でも、両親の前では猫を被っていて私の事は「出来損ないの公爵令嬢」と馬鹿にする。  意地悪ばかりする義兄に私は嫌われている。

兄妹じゃないとわかったのでお兄様と結婚したら、全部仕込みでした

こじまき
恋愛
【20260401読みやすいように話を分割しました】 伯爵令嬢ヘイゼルは、兄アリステアに恋をしている。叶わないと知りながら、それでも諦めきれなかった。 しかし子ども時代の「取り違え」が発覚し、子爵令嬢ロレッタとして“正しい場所”で生き直すことに。 そして妹ではなくなった彼女に、アリステアは求婚する。 運命のねじれは正されて、望んだとおりに最愛の人と結ばれた―― けれど――その「正しい運命」は、兄アリステアによって用意されたものだった―― ※「小説家になろう」にも投稿しています。

片想いの相手と二人、深夜、狭い部屋。何も起きないはずはなく

おりの まるる
恋愛
ユディットは片想いしている室長が、再婚すると言う噂を聞いて、情緒不安定な日々を過ごしていた。 そんなある日、怖い噂話が尽きない古い教会を改装して使っている書庫で、仕事を終えるとすっかり夜になっていた。 夕方からの大雨で研究棟へ帰れなくなり、途方に暮れていた。 そんな彼女を室長が迎えに来てくれたのだが、トラブルに見舞われ、二人っきりで夜を過ごすことになる。 全4話です。