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9巻
9-3
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「おかえり。どこまで行っていたんだ?」
僕のもとに戻ってきた途端、飛び込むように抱き着いてきたので二人の頭を撫でる。
「「あのね、あのねー。あっちにね」」
「けむりのでる」
「みずうみがあったの」
「煙の出る……湖? ん?」
僕は子供達が言っている意味がわからず、二人に同行していたジュールを見る。
《えっとね、あれは湯気だね。お湯の湖だった!》
「湯気の出る湖? で、ここは鉱山だし……もしかして、それは温泉かな?」
「「おんせん?」」
初めて聞く言葉に、アレンとエレナが首を傾げる。
「大きいお風呂のことだね」
「「それ!」」
《それだ!》
「へぇ~、それは見てみたいな。そこに案内してくれるかい?」
「「《うん!》」」
本当に温泉を見つけたのか気になったので、とりあえず、そこに案内してもらうことにする。
「「あっちだよー」」
《お兄ちゃん、あそこだよ。あそこ!》
「ああ、あそこか!」
しばらく歩いていくと、アレンとエレナ、ジュールの示す方向に湯気が上っているのが見えてきた。
「……結構な湯気だな」
温泉(仮)からかなりの湯気が発生しているらしく、周辺一帯が湯気で真っ白だった。
「でも、臭いは特にしないな~」
《臭い?》
《そう。温泉といえば、硫黄……独特な臭いがするものなんだが、それが感じないんだよ」
《臭いの?》
「あ~、ジュールやフィート、ベクトルにはきついかもしれないな~」
《っ!! それは嫌だ! お兄ちゃん、行くのを止めよう!》
臭いと聞いて、途端、ジュールが温泉(仮)に行くのを嫌がる。
「今の時点で臭いがしないから大丈夫だよ。まあ、ちょっとでもジュールが嫌な臭いがしたら、その時は行くのを止めてすぐに離れることにしよう?」
《……それなら》
「じゃあ、ジュール、嫌な臭いがしたらすぐに教えてくれ」
《わかった》
しぶしぶだがジュールが納得してくれたので、温泉(仮)にもっと近づくことにする。
「フィートもベクト……あっ! ベクトルがいない!」
と、その時、僕はベクトルがいないことに気がついた。
《あらあら、ベクトルは狩りに行ったままだったわね~》
《ぼくもすっかり忘れていました~》
《うっかりしていたの!》
僕だけじゃなく、みんなも忘れていたらしい。
だが、ベクトルなら匂いを追ってこられるだろうということになり、僕達はこのまま温泉(仮)に向かうことにした。
辿り着いた温泉(仮)は、全体が湯気で覆われているため、正確なところはわからなかったが、なかなかの広さである。しかも、臭いは全くと言っていいほどしない。
「肝心の水は……」
僕はすぐに【鑑定】で調べてみることにした。
《兄様、どう?》
「何も悪い成分はないみたいだな」
水質に何も問題はなく、温度も人肌より少し高いくらいのようだ。
さすがに【鑑定】では温泉の効能などはわからないが、問題ないということなら――
「これは入るしかないよな?」
「「おふろー!」」
街の外で、しかも魔物が出るかもしれない場所で裸になるのは流石に無防備かもしれない。
といっても、僕達にはジュール達がいるので問題ないと判断し、湯に浸かることにした。
早速、服を脱いで温泉に浸かってみる。
「ふはぁ~」
「「ふはぁ~」」
絶妙にいい湯加減で、僕はもちろん、アレンとエレナも気の抜けた声を出した。
《温かい水って気持ち良いね~》
《本当ね~。とても落ち着くわ~》
《これは心地よいです~》
《初めての感覚なの~》
ジュール、フィート、ボルト、マイルも気持ち良さそうに湯に浸かっている。
《みんな、こんなところにいた!》
少し体が温まってきた頃、全速力でベクトルが駆け込んできた。
《兄ちゃん、酷いよ! オレのこと置いて行ったでしょう! しかも、みんなでまったり寛いでるし!!》
「ごめん、ごめん。ベクトルの鼻は優秀だからな。匂いを辿って必ず追いついてくれるって信じていたんだ」
《そ、そんなことで誤魔化されないからね!》
最初は息巻くように文句を言っていたベクトルだが、僕の言い訳を聞くと、途端、照れたようにそっぽを向いた。
《ベクトル、兄様を責めては駄目よ。兄様が行きたいところに行くのを助ける。それが私達の役目なのだからね》
《そうだけど~~~》
《責めるなら、合図を出さなかった私達にしなさい》
フィートがそう諌めていると、ジュール、ボルト、マイルが順番に謝罪する。
《ベクトル、ごめんよ~。次はちゃんと呼ぶからさ~》
《すみません。気をつけます》
《ごめんなの》
そう口々に謝られて、ベクトルはしょうがないな、と納得した様子を見せる。
《だけど、ベクトル! そもそも、兄様達に魔物が近づかないようにしに行ったのだから、兄様達の位置はちゃんと把握していないと駄目でしょう! 狩りに夢中になって見失った……なんて言わないわよね?》
しかしそこで、フィートが謝罪はここまで、とばかりに表情を一変させ、今度は説教を始めた。
《そこはベクトルの悪い癖よ。直すようにしなさい! だいたいベクトルは……》
『……がる~ん』
ベクトルはすっかり項垂れてしまっているが、フィートの説教は終わりそうにない。
さすがに可哀想だから止めようか。
「ありがとう、フィート。でも、僕も悪かったことだし、そろそろ止めてあげて」
《もぉ~、兄様は甘いんだから~。――ベクトル、兄様に免じて今日はこのくらいにしてあげるけれど、今度からはもう少し考えてから行動するのよ》
《は~ぃ。気をつけま~すぅ》
フィートに声を掛けると、仕方がないとばかりに説教を終了してくれた。
「ベクトル、こっちおいでー」
「ベクトル、きもちいいよー」
話が終わったのを見計らって、アレンとエレナがベクトルを呼ぶ。
《ん? そういえば、兄ちゃん達は何していたの? 裸だし?》
「お風呂だよ。ここの水は温かいんだ。濡れるのは嫌いかもしれないけれど、水とは違うから入ってみな」
《ん~、わかった。入ってみる》
僕の言葉に素直に従って、ベクトルも温泉に入って来る。
「どうだ?」
《うん、気持ちいいね。これなら水と違って大丈夫だ!》
「そうか、それは良かった」
ベクトルもお湯に浸かるのは大丈夫なようなので、僕達は全員で本格的に温泉を堪能する。
「んにゃ~」
そうしてまったりしていたら、気持ち良さそうな小さな鳴き声が聞こえてきた。
「ははっ、フィート、声が漏れているぞ」
《あら、兄様。私じゃないわよ?》
「え、そうなのか? でも、アレンとエレナでもないよな?」
「「ちがーう」」
猫系の鳴き声だったのでフィートかと思ったが、違ったようだ。もちろん、子供達でもない。
《あ、お兄ちゃん、あそこ、あそこ!》
「「あ、にゃんこー」」
「本当だ。あれは……ヤマネコかな?」
ジュールが鼻先で示した方向に目を向けると、ヒョウ柄の猫がお湯に浸かっていた。
《魔物じゃなくて普通の猫のようですね》
《ここは魔物も出るのに、のんびりした猫なの!》
ヤマネコは本当に気持ち良さそうに温泉を堪能しているので、ボルトとマイルが感心している。
そんな様子を見て、アレンとエレナがヤマネコに近づこうとする。
「んにゃ!」
「「あう~」」
しかし、ヤマネコは威嚇するように鳴いてしまった。
子供達は口元をお湯に沈めてブクブクとさせながら落ち込む。
「んにゃ!」
《ちぇ~、気づかれたか~》
ベクトルも別の角度からヤマネコにそっと近づこうとして威嚇されていた。
「完全に無防備というわけではないようだな」
《アレンとエレナでも駄目だなんて、むしろ警戒心の塊だよね》
《あのパステルラビットでも大丈夫だったのに、なかなか手強い子ね~》
ジュールとフィートが、冷静にヤマネコを観察する。
「「おにーちゃん!」」
すると突然、アレンとエレナが湯から勢いよく立ち上がると両手を差し出してくる。
「な、何だ? どうした?」
「「ミルク、ちょーだい!」」
「ミルク? ああ、あのヤマネコにあげるのか?」
「「うん!」」
ヤマネコに懐かれたくて必死のようだ。
「わかったわかった。とりあえず、湯冷めするからお湯に浸かりなさい」
「「は~い」」
子供達がお湯に浸かったのを確認してから、僕は《無限収納》からミルクを取り出して深めの皿に注ぎ、子供達に渡す。
「ほら、これでいいか?」
「「うん!」」
「もういっかい」
「いってくるー」
「ほどほどにな~」
「「わかったー」」
ミルクを受け取った子供達は、またゆっくりとヤマネコに近づいていく。
「ミルクだよ~」
「おいで~」
「んにゃ!」
しかし、ヤマネコはミルクで誘われないどころか、ますます警戒心をむき出しにしていた。
「「むぅ~」」
上手くいかなくて、アレンとエレナは頬を膨らませる。
《あらあら、やっぱり駄目みたいね》
《仕方がないよ。野生の動物がほいほい人間に懐くなんて無理なんだしさ!》
フィートとジュールはむくれる子供達に近づき、慰めるようにすり寄る。
まあ、二匹の言うように、普段あれだけ懐かれるのが異常といえば異常なんだよな。
「アレン、エレナ、僕達には近づかないけど、ミルクは飲むかもしれないから、どこかに置いてあげな」
「「……わかった」」
アレンとエレナは少ししょんぼりしながらも、ヤマネコが行きやすそうな陸地にミルクを置くと、そっと泳いで戻ってくる。
《とっても見ているの!》
マイルの言う通り、子供達が離れたのを確認したヤマネコは、ちらちらとミルクを見ている。
「もう少し離れたほうがいいかな?」
《そうですね。あの様子なら、ぼく達がもう少し離れたら飲みそうです》
頷くボルトやみんなと一緒に、その場から遠ざかっていく。
僕達が離れたのを確認したヤマネコは、こちらを気にしながらゆっくりとミルクに近づいていく。
「「あっ!」」
《お、舐めた》
ヤマネコは何が入っているかを確認するように、ミルクをひと舐めする。
そして、何の問題もないものだとわかると、本格的にミルクを飲み始めた。
まあ、こちらへの警戒は十分にしているようだけどね。
「美味しそうに飲んでいるな~」
「「うん! のんでる!」」
ミルクはあっという間になくなり、ヤマネコは満足そうにこちらを見る。
「んにゃ!」
《あら、アレンちゃんとエレナちゃんを呼んでいるみたいよ》
フィートがヤマネコの気持ちを代弁する。
フィートは虎だが、同じ猫科だから言葉が通じているのかな?
「アレンを?」
「エレナを?」
《そうね。ちょっと近くに来て欲しいみたい》
いったいどうしたんだろうか?
「どうする? 行ってみるか?」
「「うん、いってくる!」」
先ほど拒否されたからか、アレンとエレナは慎重にヤマネコに近づいていく。
「「ひゃあ!」」
アレンとエレナがヤマネコのすぐ傍まで行くと、ヤマネコは二人の頬をひと舐めした。
「んにゃ!」
そしてヤマネコは、満足したかのように山に帰っていた。
「お礼だったのかな?」
《そうみたいね》
完全に懐かれるまではいかなかったが、少しは心を許してくれたようだ。
「良かったな」
「「うん!」」
「さて、ヤマネコも帰ったし、僕達もそろそろ上がるぞ。これ以上はのぼせるからな」
「「はーい」」
お湯から上がり、《ドライ》の魔法で身体を乾かすと、手早く服を着る。
「まずは水分補給だな。お風呂上がりはやっぱりあれか?」
僕は《無限収納》からジューサーを取り出し、そこに数種類の果物、モウのミルク、蜂蜜を少量入れ、起動させる。
それを見て、アレンとエレナが首を傾げる。
「「おにーちゃん、なーに?」」
「これか? これはフルーツ牛にゅ……じゃなくて、フルーツミルクだよ。――さあ、できた」
でき上がったばかりの冷たいフルーツミルクをみんなに配ると、すぐに飲み始める。
「「ん~~~」」
《《《《 《美味しい~》 》》》》
子供達は一気に飲み干してしまう。
「「《《《《 《おかわりー!》 》》》》」」
「ははは~、気に入ってくれたようだな。おかわりするのはいいけど、同じ味でいいのか?」
「「《《《《 《っ!?》 》》》》」」
あっという間に飲み終えたみんなにそう聞くと、揃って目を丸くした。
《お、お兄ちゃん、フルーツミルクって違う味もできるの?》
「できるぞ~。今のはマルゴの実にランカの実、リーゴの実を混ぜたものだ。混ぜる果物を変えてもいいし、あとはそうだな……イーチミルク、ナナミルクとか、一種類の味もできるぞ?」
マルゴの実は、マンゴーに似た果物だな。
僕の言葉を聞くと、子供達は全員で輪になって小声で相談を始める。
そしてすぐに、僕を見上げて声を合わせた。
「「《《《 《イーチ!》 》》》」」
《味でお願い。兄様》
相談した結果、イーチの実を使ったものに決めたようだ。
僕はすぐに、イーチミルクを作って子供達に配る。
「「おいしい!」」
《《《《 《美味しい!》 》》》》
全員がまたしても、一気に飲み干して目を輝かせる。
「「《《《《 《おかわ――》 》》》》」」
「あ、もうおかわりは駄目な」
「「《《《《 《えぇ~~~》 》》》》」」
またおかわりを所望しようとする子供達の言葉を遮るように、僕は先手を打つ。
冷たいミルクを立て続けに三杯も飲むと、お腹を壊すかもしれない。
「飲み過ぎも良くないから、また今度な」
「「えぇ~~~」」
声を合わせて悲しそうにする子供達の横で、ジュール、フィート、ボルト、ベクトル、マイルもしょんぼりとしている。
《残念~。ナナミルクも飲んでみたかったのに~》
《そうね。私も飲んでみたかったわ~》
《ですね。ぼくも飲んでみたかったです》
《もっと飲みたーい。兄ちゃん、もう一杯だけいいでしょう!》
《我慢なの。残念だけど、我慢なの》
しぶしぶといった風に聞き分ける子供達を宥め、僕達は街に帰ることにした。
「さあ、暗くなる前に帰るぞ」
「「うん……あっ! ゆえんかー!」」
「ん? 本当だな」
温泉から離れようとしたところで、アレンとエレナが、温泉の端のほうに浮かんで咲く花を見つけた。
先ほどまでは湯気で全然見えなかったが、風の向きが変わって見えるようになったんだろう。
子供達が見つけたのは、大量に咲いている湯煙花。温水でしか育たない花で、冷え性に効く薬草の一種だ。
「「とってくるー」」
アレンとエレナは早速とばかりに、湯煙花を摘もうと駆けていった。
僕も二人の後を追い、ジュール達も慌てて追ってくる。
そうこうしているうちに、二人はあっという間に採取を済ませていた。
「「いっぱいとったー」」
「そうだな。これだけあれば十分だな」
「「あっ、これも~」」
忘れていたとばかりに、アレンとエレナは自分の鞄を探り、薬草などを取り出して渡してくる。
温泉に来る前に採取していたものだろう。
「テング草に火炎草。おっ、キウィーの実まであるじゃないか! 凄いな。二人とも頑張ったな~」
「「えへへ~」」
キウィーの実はキウイに似た果実なんだけど、これまで採取したことはなかったんだよな。
僕はアレンとエレナを思いっきり褒め、それから街へと戻った。
宿に戻った時には、もう日が暮れる寸前だった。
「タクミさん、おかえりなさい」
宿の中に入ると、ダンストさんの奥さんであるサラさんが出迎えてくれる。
「ただいまです。えっと……忙しそうですね」
「あら、もしかしてお食事はまだ?」
「はい、そうなんです」
夕食は宿で摂ろうと思っていたのだが、食堂はもう既に混雑し始めている様子である。
かなりの割合でピザを食べているのが見えるので、僕が教えて最近メニューに加えられたピザ目当てのお客で大盛況のようだ。
「「ぴざたべるー!」」
「ピザか? でも、席が空いていなさそうだからな~」
子供達はピザを食べたいと言うが、席も空いていないので待ち時間が掛かりそうである。
宿での食事は諦めて、部屋で何かを作るか、どこかに食べに行くかしたほうが良さそうだな……。
「お部屋にお運びすることもできますよ?」
そう悩んでいたら、サラさんが別の選択肢をくれた。
「いいんですか? じゃあ、ピザを二人前とサラダも二人前お願いします」
「「さらだ、いらなーい」」
「野菜は食べないと駄目だよ。じゃあ、野菜炒めのほうがいいかい?」
「「……さらだ」」
しぶしぶ頷いた二人を見て、サラさんが微笑ましそうに笑う。
「ふふっ、すぐにご用意しますね」
そんな彼女にお礼を言って、借りている部屋に入り、子供達に手洗いをさせたり、荷物を整理したりしていると、すぐに食事が届いた。
そういえば、特に嫌いな食べ物がないアレンとエレナだが、珍しく食べたくないという発言をしていたな~。
「アレンとエレナは別に野菜が嫌いってわけじゃないだろう? 今日は野菜が食べたくない気分なのかい?」
「「おみせのやさい、あじなーい」」
聞いてみれば、原因は味だということがわかった。
確かに、宿で頼むサラダや野菜炒めは、基本的にシンプルな塩の味付けであることが多い。
宿で食事を摂ることはたまになので、僕はシンプルな味付けを楽しんでいたが、子供達はそれが嫌だったようだ。
「そういうことか。じゃあ、マヨネーズがあればいいのか?」
「「うん! いい!」」
食堂の人目がある場所ではあまりよくないと思うが、今日は自分達しかいない部屋だ。
《無限収納》からマヨネーズを取り出せば、明らかにアレンとエレナの目の色が変わった。
そういえば、マヨネーズも少しずつ普及しているようだが、あまり日持ちするものではないので、お店などで使われているのは見たことがないな~。
あ、サラダといえば、そろそろドレッシング系も欲しいな。
僕のもとに戻ってきた途端、飛び込むように抱き着いてきたので二人の頭を撫でる。
「「あのね、あのねー。あっちにね」」
「けむりのでる」
「みずうみがあったの」
「煙の出る……湖? ん?」
僕は子供達が言っている意味がわからず、二人に同行していたジュールを見る。
《えっとね、あれは湯気だね。お湯の湖だった!》
「湯気の出る湖? で、ここは鉱山だし……もしかして、それは温泉かな?」
「「おんせん?」」
初めて聞く言葉に、アレンとエレナが首を傾げる。
「大きいお風呂のことだね」
「「それ!」」
《それだ!》
「へぇ~、それは見てみたいな。そこに案内してくれるかい?」
「「《うん!》」」
本当に温泉を見つけたのか気になったので、とりあえず、そこに案内してもらうことにする。
「「あっちだよー」」
《お兄ちゃん、あそこだよ。あそこ!》
「ああ、あそこか!」
しばらく歩いていくと、アレンとエレナ、ジュールの示す方向に湯気が上っているのが見えてきた。
「……結構な湯気だな」
温泉(仮)からかなりの湯気が発生しているらしく、周辺一帯が湯気で真っ白だった。
「でも、臭いは特にしないな~」
《臭い?》
《そう。温泉といえば、硫黄……独特な臭いがするものなんだが、それが感じないんだよ」
《臭いの?》
「あ~、ジュールやフィート、ベクトルにはきついかもしれないな~」
《っ!! それは嫌だ! お兄ちゃん、行くのを止めよう!》
臭いと聞いて、途端、ジュールが温泉(仮)に行くのを嫌がる。
「今の時点で臭いがしないから大丈夫だよ。まあ、ちょっとでもジュールが嫌な臭いがしたら、その時は行くのを止めてすぐに離れることにしよう?」
《……それなら》
「じゃあ、ジュール、嫌な臭いがしたらすぐに教えてくれ」
《わかった》
しぶしぶだがジュールが納得してくれたので、温泉(仮)にもっと近づくことにする。
「フィートもベクト……あっ! ベクトルがいない!」
と、その時、僕はベクトルがいないことに気がついた。
《あらあら、ベクトルは狩りに行ったままだったわね~》
《ぼくもすっかり忘れていました~》
《うっかりしていたの!》
僕だけじゃなく、みんなも忘れていたらしい。
だが、ベクトルなら匂いを追ってこられるだろうということになり、僕達はこのまま温泉(仮)に向かうことにした。
辿り着いた温泉(仮)は、全体が湯気で覆われているため、正確なところはわからなかったが、なかなかの広さである。しかも、臭いは全くと言っていいほどしない。
「肝心の水は……」
僕はすぐに【鑑定】で調べてみることにした。
《兄様、どう?》
「何も悪い成分はないみたいだな」
水質に何も問題はなく、温度も人肌より少し高いくらいのようだ。
さすがに【鑑定】では温泉の効能などはわからないが、問題ないということなら――
「これは入るしかないよな?」
「「おふろー!」」
街の外で、しかも魔物が出るかもしれない場所で裸になるのは流石に無防備かもしれない。
といっても、僕達にはジュール達がいるので問題ないと判断し、湯に浸かることにした。
早速、服を脱いで温泉に浸かってみる。
「ふはぁ~」
「「ふはぁ~」」
絶妙にいい湯加減で、僕はもちろん、アレンとエレナも気の抜けた声を出した。
《温かい水って気持ち良いね~》
《本当ね~。とても落ち着くわ~》
《これは心地よいです~》
《初めての感覚なの~》
ジュール、フィート、ボルト、マイルも気持ち良さそうに湯に浸かっている。
《みんな、こんなところにいた!》
少し体が温まってきた頃、全速力でベクトルが駆け込んできた。
《兄ちゃん、酷いよ! オレのこと置いて行ったでしょう! しかも、みんなでまったり寛いでるし!!》
「ごめん、ごめん。ベクトルの鼻は優秀だからな。匂いを辿って必ず追いついてくれるって信じていたんだ」
《そ、そんなことで誤魔化されないからね!》
最初は息巻くように文句を言っていたベクトルだが、僕の言い訳を聞くと、途端、照れたようにそっぽを向いた。
《ベクトル、兄様を責めては駄目よ。兄様が行きたいところに行くのを助ける。それが私達の役目なのだからね》
《そうだけど~~~》
《責めるなら、合図を出さなかった私達にしなさい》
フィートがそう諌めていると、ジュール、ボルト、マイルが順番に謝罪する。
《ベクトル、ごめんよ~。次はちゃんと呼ぶからさ~》
《すみません。気をつけます》
《ごめんなの》
そう口々に謝られて、ベクトルはしょうがないな、と納得した様子を見せる。
《だけど、ベクトル! そもそも、兄様達に魔物が近づかないようにしに行ったのだから、兄様達の位置はちゃんと把握していないと駄目でしょう! 狩りに夢中になって見失った……なんて言わないわよね?》
しかしそこで、フィートが謝罪はここまで、とばかりに表情を一変させ、今度は説教を始めた。
《そこはベクトルの悪い癖よ。直すようにしなさい! だいたいベクトルは……》
『……がる~ん』
ベクトルはすっかり項垂れてしまっているが、フィートの説教は終わりそうにない。
さすがに可哀想だから止めようか。
「ありがとう、フィート。でも、僕も悪かったことだし、そろそろ止めてあげて」
《もぉ~、兄様は甘いんだから~。――ベクトル、兄様に免じて今日はこのくらいにしてあげるけれど、今度からはもう少し考えてから行動するのよ》
《は~ぃ。気をつけま~すぅ》
フィートに声を掛けると、仕方がないとばかりに説教を終了してくれた。
「ベクトル、こっちおいでー」
「ベクトル、きもちいいよー」
話が終わったのを見計らって、アレンとエレナがベクトルを呼ぶ。
《ん? そういえば、兄ちゃん達は何していたの? 裸だし?》
「お風呂だよ。ここの水は温かいんだ。濡れるのは嫌いかもしれないけれど、水とは違うから入ってみな」
《ん~、わかった。入ってみる》
僕の言葉に素直に従って、ベクトルも温泉に入って来る。
「どうだ?」
《うん、気持ちいいね。これなら水と違って大丈夫だ!》
「そうか、それは良かった」
ベクトルもお湯に浸かるのは大丈夫なようなので、僕達は全員で本格的に温泉を堪能する。
「んにゃ~」
そうしてまったりしていたら、気持ち良さそうな小さな鳴き声が聞こえてきた。
「ははっ、フィート、声が漏れているぞ」
《あら、兄様。私じゃないわよ?》
「え、そうなのか? でも、アレンとエレナでもないよな?」
「「ちがーう」」
猫系の鳴き声だったのでフィートかと思ったが、違ったようだ。もちろん、子供達でもない。
《あ、お兄ちゃん、あそこ、あそこ!》
「「あ、にゃんこー」」
「本当だ。あれは……ヤマネコかな?」
ジュールが鼻先で示した方向に目を向けると、ヒョウ柄の猫がお湯に浸かっていた。
《魔物じゃなくて普通の猫のようですね》
《ここは魔物も出るのに、のんびりした猫なの!》
ヤマネコは本当に気持ち良さそうに温泉を堪能しているので、ボルトとマイルが感心している。
そんな様子を見て、アレンとエレナがヤマネコに近づこうとする。
「んにゃ!」
「「あう~」」
しかし、ヤマネコは威嚇するように鳴いてしまった。
子供達は口元をお湯に沈めてブクブクとさせながら落ち込む。
「んにゃ!」
《ちぇ~、気づかれたか~》
ベクトルも別の角度からヤマネコにそっと近づこうとして威嚇されていた。
「完全に無防備というわけではないようだな」
《アレンとエレナでも駄目だなんて、むしろ警戒心の塊だよね》
《あのパステルラビットでも大丈夫だったのに、なかなか手強い子ね~》
ジュールとフィートが、冷静にヤマネコを観察する。
「「おにーちゃん!」」
すると突然、アレンとエレナが湯から勢いよく立ち上がると両手を差し出してくる。
「な、何だ? どうした?」
「「ミルク、ちょーだい!」」
「ミルク? ああ、あのヤマネコにあげるのか?」
「「うん!」」
ヤマネコに懐かれたくて必死のようだ。
「わかったわかった。とりあえず、湯冷めするからお湯に浸かりなさい」
「「は~い」」
子供達がお湯に浸かったのを確認してから、僕は《無限収納》からミルクを取り出して深めの皿に注ぎ、子供達に渡す。
「ほら、これでいいか?」
「「うん!」」
「もういっかい」
「いってくるー」
「ほどほどにな~」
「「わかったー」」
ミルクを受け取った子供達は、またゆっくりとヤマネコに近づいていく。
「ミルクだよ~」
「おいで~」
「んにゃ!」
しかし、ヤマネコはミルクで誘われないどころか、ますます警戒心をむき出しにしていた。
「「むぅ~」」
上手くいかなくて、アレンとエレナは頬を膨らませる。
《あらあら、やっぱり駄目みたいね》
《仕方がないよ。野生の動物がほいほい人間に懐くなんて無理なんだしさ!》
フィートとジュールはむくれる子供達に近づき、慰めるようにすり寄る。
まあ、二匹の言うように、普段あれだけ懐かれるのが異常といえば異常なんだよな。
「アレン、エレナ、僕達には近づかないけど、ミルクは飲むかもしれないから、どこかに置いてあげな」
「「……わかった」」
アレンとエレナは少ししょんぼりしながらも、ヤマネコが行きやすそうな陸地にミルクを置くと、そっと泳いで戻ってくる。
《とっても見ているの!》
マイルの言う通り、子供達が離れたのを確認したヤマネコは、ちらちらとミルクを見ている。
「もう少し離れたほうがいいかな?」
《そうですね。あの様子なら、ぼく達がもう少し離れたら飲みそうです》
頷くボルトやみんなと一緒に、その場から遠ざかっていく。
僕達が離れたのを確認したヤマネコは、こちらを気にしながらゆっくりとミルクに近づいていく。
「「あっ!」」
《お、舐めた》
ヤマネコは何が入っているかを確認するように、ミルクをひと舐めする。
そして、何の問題もないものだとわかると、本格的にミルクを飲み始めた。
まあ、こちらへの警戒は十分にしているようだけどね。
「美味しそうに飲んでいるな~」
「「うん! のんでる!」」
ミルクはあっという間になくなり、ヤマネコは満足そうにこちらを見る。
「んにゃ!」
《あら、アレンちゃんとエレナちゃんを呼んでいるみたいよ》
フィートがヤマネコの気持ちを代弁する。
フィートは虎だが、同じ猫科だから言葉が通じているのかな?
「アレンを?」
「エレナを?」
《そうね。ちょっと近くに来て欲しいみたい》
いったいどうしたんだろうか?
「どうする? 行ってみるか?」
「「うん、いってくる!」」
先ほど拒否されたからか、アレンとエレナは慎重にヤマネコに近づいていく。
「「ひゃあ!」」
アレンとエレナがヤマネコのすぐ傍まで行くと、ヤマネコは二人の頬をひと舐めした。
「んにゃ!」
そしてヤマネコは、満足したかのように山に帰っていた。
「お礼だったのかな?」
《そうみたいね》
完全に懐かれるまではいかなかったが、少しは心を許してくれたようだ。
「良かったな」
「「うん!」」
「さて、ヤマネコも帰ったし、僕達もそろそろ上がるぞ。これ以上はのぼせるからな」
「「はーい」」
お湯から上がり、《ドライ》の魔法で身体を乾かすと、手早く服を着る。
「まずは水分補給だな。お風呂上がりはやっぱりあれか?」
僕は《無限収納》からジューサーを取り出し、そこに数種類の果物、モウのミルク、蜂蜜を少量入れ、起動させる。
それを見て、アレンとエレナが首を傾げる。
「「おにーちゃん、なーに?」」
「これか? これはフルーツ牛にゅ……じゃなくて、フルーツミルクだよ。――さあ、できた」
でき上がったばかりの冷たいフルーツミルクをみんなに配ると、すぐに飲み始める。
「「ん~~~」」
《《《《 《美味しい~》 》》》》
子供達は一気に飲み干してしまう。
「「《《《《 《おかわりー!》 》》》》」」
「ははは~、気に入ってくれたようだな。おかわりするのはいいけど、同じ味でいいのか?」
「「《《《《 《っ!?》 》》》》」」
あっという間に飲み終えたみんなにそう聞くと、揃って目を丸くした。
《お、お兄ちゃん、フルーツミルクって違う味もできるの?》
「できるぞ~。今のはマルゴの実にランカの実、リーゴの実を混ぜたものだ。混ぜる果物を変えてもいいし、あとはそうだな……イーチミルク、ナナミルクとか、一種類の味もできるぞ?」
マルゴの実は、マンゴーに似た果物だな。
僕の言葉を聞くと、子供達は全員で輪になって小声で相談を始める。
そしてすぐに、僕を見上げて声を合わせた。
「「《《《 《イーチ!》 》》》」」
《味でお願い。兄様》
相談した結果、イーチの実を使ったものに決めたようだ。
僕はすぐに、イーチミルクを作って子供達に配る。
「「おいしい!」」
《《《《 《美味しい!》 》》》》
全員がまたしても、一気に飲み干して目を輝かせる。
「「《《《《 《おかわ――》 》》》》」」
「あ、もうおかわりは駄目な」
「「《《《《 《えぇ~~~》 》》》》」」
またおかわりを所望しようとする子供達の言葉を遮るように、僕は先手を打つ。
冷たいミルクを立て続けに三杯も飲むと、お腹を壊すかもしれない。
「飲み過ぎも良くないから、また今度な」
「「えぇ~~~」」
声を合わせて悲しそうにする子供達の横で、ジュール、フィート、ボルト、ベクトル、マイルもしょんぼりとしている。
《残念~。ナナミルクも飲んでみたかったのに~》
《そうね。私も飲んでみたかったわ~》
《ですね。ぼくも飲んでみたかったです》
《もっと飲みたーい。兄ちゃん、もう一杯だけいいでしょう!》
《我慢なの。残念だけど、我慢なの》
しぶしぶといった風に聞き分ける子供達を宥め、僕達は街に帰ることにした。
「さあ、暗くなる前に帰るぞ」
「「うん……あっ! ゆえんかー!」」
「ん? 本当だな」
温泉から離れようとしたところで、アレンとエレナが、温泉の端のほうに浮かんで咲く花を見つけた。
先ほどまでは湯気で全然見えなかったが、風の向きが変わって見えるようになったんだろう。
子供達が見つけたのは、大量に咲いている湯煙花。温水でしか育たない花で、冷え性に効く薬草の一種だ。
「「とってくるー」」
アレンとエレナは早速とばかりに、湯煙花を摘もうと駆けていった。
僕も二人の後を追い、ジュール達も慌てて追ってくる。
そうこうしているうちに、二人はあっという間に採取を済ませていた。
「「いっぱいとったー」」
「そうだな。これだけあれば十分だな」
「「あっ、これも~」」
忘れていたとばかりに、アレンとエレナは自分の鞄を探り、薬草などを取り出して渡してくる。
温泉に来る前に採取していたものだろう。
「テング草に火炎草。おっ、キウィーの実まであるじゃないか! 凄いな。二人とも頑張ったな~」
「「えへへ~」」
キウィーの実はキウイに似た果実なんだけど、これまで採取したことはなかったんだよな。
僕はアレンとエレナを思いっきり褒め、それから街へと戻った。
宿に戻った時には、もう日が暮れる寸前だった。
「タクミさん、おかえりなさい」
宿の中に入ると、ダンストさんの奥さんであるサラさんが出迎えてくれる。
「ただいまです。えっと……忙しそうですね」
「あら、もしかしてお食事はまだ?」
「はい、そうなんです」
夕食は宿で摂ろうと思っていたのだが、食堂はもう既に混雑し始めている様子である。
かなりの割合でピザを食べているのが見えるので、僕が教えて最近メニューに加えられたピザ目当てのお客で大盛況のようだ。
「「ぴざたべるー!」」
「ピザか? でも、席が空いていなさそうだからな~」
子供達はピザを食べたいと言うが、席も空いていないので待ち時間が掛かりそうである。
宿での食事は諦めて、部屋で何かを作るか、どこかに食べに行くかしたほうが良さそうだな……。
「お部屋にお運びすることもできますよ?」
そう悩んでいたら、サラさんが別の選択肢をくれた。
「いいんですか? じゃあ、ピザを二人前とサラダも二人前お願いします」
「「さらだ、いらなーい」」
「野菜は食べないと駄目だよ。じゃあ、野菜炒めのほうがいいかい?」
「「……さらだ」」
しぶしぶ頷いた二人を見て、サラさんが微笑ましそうに笑う。
「ふふっ、すぐにご用意しますね」
そんな彼女にお礼を言って、借りている部屋に入り、子供達に手洗いをさせたり、荷物を整理したりしていると、すぐに食事が届いた。
そういえば、特に嫌いな食べ物がないアレンとエレナだが、珍しく食べたくないという発言をしていたな~。
「アレンとエレナは別に野菜が嫌いってわけじゃないだろう? 今日は野菜が食べたくない気分なのかい?」
「「おみせのやさい、あじなーい」」
聞いてみれば、原因は味だということがわかった。
確かに、宿で頼むサラダや野菜炒めは、基本的にシンプルな塩の味付けであることが多い。
宿で食事を摂ることはたまになので、僕はシンプルな味付けを楽しんでいたが、子供達はそれが嫌だったようだ。
「そういうことか。じゃあ、マヨネーズがあればいいのか?」
「「うん! いい!」」
食堂の人目がある場所ではあまりよくないと思うが、今日は自分達しかいない部屋だ。
《無限収納》からマヨネーズを取り出せば、明らかにアレンとエレナの目の色が変わった。
そういえば、マヨネーズも少しずつ普及しているようだが、あまり日持ちするものではないので、お店などで使われているのは見たことがないな~。
あ、サラダといえば、そろそろドレッシング系も欲しいな。
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