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9巻
9-2
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◇ ◇ ◇
翌日、僕は早速フリーズドライのスープを作ることにした。
場所は街の外。今回は北の山側じゃなく、東門を出て平原へとやって来た。
人がいないのを確認すると、まずはジュール達を呼び出す。
《今日は草原だ!》
《何するのー?》
初めに、スカーレットキングレオのベクトルとフェンリルのジュールが、わくわくした様子でじゃれついてくる。
《そうだな~、今日はお料理かな?》
《ん~、他の街に移動とかですかね?》
《わたしはまた採取だと思うの!》
飛天虎のフィート、サンダーホークのボルト、フォレストラットのマイルは、呼び出された用件を予想し合っている。
「今日は――料理がしたいんだよね」
《あら、私が正解かしら?》
「うん、そうだな」
予想を的中させたフィートは嬉しそうにする。
的中させたご褒美が欲しいのだろう、フィートは撫でるように要求してくるので、僕はフィートを撫でながら話を続ける。
「僕が作業している間、みんなはアレンとエレナと一緒に遊んでいてくれないか?」
《それなら大歓迎! 何して遊ぶ?》
《ふふっ、兄様、任せてちょうだい》
《兄上の作業の邪魔をさせないように、周囲の警戒もしないとですね!》
《わーい、遊ぶ~》
《アレン、エレナ、何して遊ぶの?》
「「……うにゅ~」」
僕のお願いにジュール達は二つ返事で了承してくれる。
だが、何故かアレンとエレナが浮かない顔をしていた。
「どうした、アレン、エレナ?」
「「おてつだいはー?」」
「そうか。二人は手伝いをしてくれるつもりだったんだ?」
「「うん!」」
「ありがとう」
とりあえず、僕は二人の頭を思いっ切り撫でた。
「でも、今日は試行錯誤になるから、みんなと遊んでいてくれるか?」
「「わかったー」」
子供達は、今度は満面の笑みで頷く。
《じゃあ、何して遊ぶー?》
「「ん~? さいしゅ?」」
早速、とばかりにジュールが何で遊ぶか問いかけるが、子供達の返答はいつも通り過ぎるくらいいつも通りであった。
「……アレン、エレナ、採取は本来仕事だぞ? 他にやりたいこととかはないのか?」
「「……わかんない?」」
「本当に何もない? もうちょっと考えてみて」
「「……う~ん?」」
もう一度考えてみるように言えば、二人は首を傾げながら一生懸命に考えるが、何も思いつかないようだ。
「じゃあ、これなんてどうだ?」
僕は《無限収納》から、バブルアーケロンの泡――サッカーボールくらいのシャボン風船を取り出して、子供達のほうへ放る。
「「あっ! あわだ!」」
アレンとエレナはシャボン風船のことを覚えていたらしく、目を輝かせた。早速、アレンとエレナの間でシャボン風船が行き来する。どうやらお気に召してくれたようだ。
《何これ~?》
「かめの」
「あわ!」
《カメ? 泡?》
ベクトルがシャボン風船に興味を示し、アレンがキャッチしたシャボン風船を鼻先で突く。
「バブルアーケロンっているだろ。そいつが逃げる時に出す泡だよ」
《えっ!?》
シャボン風船の正体を聞き、真っ先にジュールが驚きの声を出す。
『細波の迷宮』で遭遇した亀の魔物であるバブルアーケロンは、敵が現れるとシャボン玉のような泡を吐き出して相手の動きを妨害し、その間に逃げるという習性を持つ。
普通ならその泡はすぐに割れるのだが、《無限収納》に収納してから取り出すと、ナイフなんかで突いても割れなくなるのだ。
《バブルアーケロンの泡って触ると割れるよね!?》
《そうね~。少なくとも、こんな風に弾力のあるものじゃなかったわよね~》
《ぼくはバブルアーケロンと遭遇したことがありません。これがバブルアーケロンの泡ですか~》
《お~、ぽよんぽよんなの!》
ジュール、フィート、ボルト、マイルも次々とシャボン風船に触っていく。
「これはそう簡単には割れないから、みんなで蹴り飛ばして遊ぶのはどうだ?」
《それ、何か楽しそうだね~》
《やろう、やろう!》
子供達はすぐにバラバラに散り、まずはシャボン風船を手にしていたアレンが蹴り飛ばす。
「それ!」
シャボン風船はぽよーんと飛び、ベクトルのほうへ行く。
《よーし、行くぞ~》
続いて、ベクトルが飛んできたシャボン風船を思いっ切り前足で叩く。
「「あっ!」」
思いっきり叩き過ぎたせいで、シャボン風船はベクトルのすぐ前の地面に叩きつけられ、高く跳ね上がる。
《ベクトル、下にじゃなくて、前に力を入れないと駄目よ~》
《ぼくに任せてください……エレナ、行きますよ~》
跳ね上がったシャボン風船の軌道を、ボルトは空中でエレナのほうへと変える。
《エレナ、こっち、こっちー!》
「はーい、いくよ~」
エレナは飛んできたシャボン風船を、ジュールのほうへ上手く蹴り飛ばす。
《エレナ、上手! フィート、行くよー》
《はーい。じゃあ、次はマイルね》
《はいなの……ふぎゃ!》
順調にシャボン風船を回すが、マイルがシャボン風船に潰されるという事件が起きてしまった。
みんなで慌ててマイルのところに駆け寄る。
「マイル、大丈夫か?」
「「だいじょーぶ?」」
《うぅ~……大丈夫なの~》
マイルは身体が小さいので、ちょっとこの遊びは辛いかな?
《この遊びはわたしには不向きっぽいの~。わたしはタクミ兄の傍にいるから、みんなで続けてなの!》
マイルを気遣って遊びそのものを止めようとする子供達だったが、マイルが僕と一緒にいるから大丈夫だと説得し、今度は二人と四匹で再開したのだった。
再び、子供達が遊びに夢中になり始めたところで、僕はスープ作りを始めることにする。
《タクミ兄、今日は何を作るの?》
「今日はスープを作るんだよ」
《スープなの! 何のスープなの?》
「それなんだよ。何のスープにしようかな~」
ミソ汁、コンソメ、クリーム、トマト、カレー……と、ざっと思いつくだけでもベースのスープにはこれだけの種類がある。さらに、加える具材の組み合わせを考えれば、かなりの種類が思いつく。
「ん~、この世界で一番馴染みがあるのはコンソメスープかな?」
コンソメにもビーフにチキン、ポアソンなどがあるけれど、今回はチキンコンソメにしよう!
《コンソメスープ! わたし、具は卵がいいの!》
「卵か。うん、いいな。じゃあ、まずはそれを作ろう」
《やったなの!》
種類が決定したので、早速作り始める。
まずは捨てずに取っておいたコッコの鶏ガラを下茹でして掃除し、大鍋へ。そこにたっぷりの水とタシ葱、ニンジン、ショーガなどの野菜を入れて火にかける。あ、臭み取りのためにレイ酒も少し入れるかな。
あとは灰汁を取りながら弱火でコトコト煮込む。もちろん、魔法で時間短縮するつもりだが、それでもこの作業は少し時間が掛かる。
大鍋のサイズに、マイルが目を丸くしていた。
《いっぱい作るの!》
「みんなもお昼に食べるだろう?」
《もちろん、食べるの!》
ついでにお昼ご飯用のスープも作るつもりだし、鶏ガラを煮込んでいる間にお昼ご飯用の料理やジャムやカスタードクリーム、シロップなんかの《無限収納》にストックしておくものを作る予定でもある。
「お昼ご飯は……久しぶりにフレンチトーストにするか~」
《フレンチトースト! 嬉しいの!》
蜂蜜はもちろん、果物やジャム、チョコレートソース、アイスクリームなどをたくさん用意して、好きなものをトッピングする形にしよう!
「とりあえず、いろんなジャムを作るかな」
《わたし、リーゴの実のジャムが食べたいの!》
「了解! リーゴの実の他に、ランカ、オレン、イーチ……あとはリコの実のジャムを作るか。マイル、他に食べたい味はあるか?」
《えっと、えっと……ロンの実もいいの!》
「うん、ロンの実もいいな。というか、いっそのこと、持っている果物全部のジャムを作るかな?」
《賛成なの!》
果実についてはそれぞれ、地球のもので似ているのを挙げると、リーゴはリンゴ、ランカは桃。オレン、イーチ、リコはオレンジ、イチゴ、アセロラで、マイルが言っていたロンはメロンだ。
別にいくつかの種類に絞る必要はないので、順番に全種類のジャムと、人数分のフレンチトーストを作っていった。
《いっぱい作ったの!》
「ははっ、全部並べると凄い光景だな~。マイル、手伝ってくれてありがとう」
全て作り終えたところで、瓶詰めされた色とりどりのジャムをあえて《無限収納》にしまわずに並べてみると、なかなか見応えのある光景になった。これもマイルが小さな身体で一生懸命、混ぜるのを手伝ってくれたお蔭だな~。
《役に立てて良かったの! あ、タクミ兄、スープはまだなの?》
「ん? そろそろ良さそうだな」
僕は良い具合に煮込まれたスープから鶏ガラと野菜を綺麗に取り除き、塩で味を調えて、最後に溶き卵を加えていく。
「よし、これでいいな」
《美味しそうなの!》
「ありがとう。マイル、少し味見してくれるか?」
《いいの!》
マイルは嬉しそうに、尻尾をピンと立てた。
「マイルは手伝ってくれたからな。みんなには内緒な」
《うんなの!》
小皿に少しスープをよそってマイルに渡すと、マイルは嬉しそうにスープを飲む。
《とっても美味しいの!》
「本当? 良かった」
うん、味は問題ないようだな。
「じゃあ、ここからが本番だ。――《フリーズ》」
僕はカップ一杯分のスープを、別の鍋に移して煮詰めて水分を減らし、ある程度濃くなったところで四角い容器に移して魔法で凍らせる。
《凍らせちゃったの?》
「そうだよ。それでこれを――《ドライ》」
今度は凍らせたスープを魔法で乾燥させていく。えっと、この作業の時は真空に近いほうがいいんだったよな?
風魔法で真空に近い状態を作りつつ、乾燥させることしばし。
《カラカラになったの!》
「水分がなくなったからな。ん~、これでいいのかな?」
《完成なの?》
「……たぶん?」
《たぶんなの?》
「そう。なにせ、初めて作ったからな」
カラカラになったスープを指でつまんで、状態を確認する。
けっこう軽くなったけど、ちゃんと乾燥されているので問題ないかな?
「見る限りでは大丈夫そうだな。まあ、お湯で戻してみればわかるか」
でき上がったばかりのフリーズドライのスープをカップに入れ、お湯を注いでみる。
《お湯を入れちゃうの?》
「そうだよ。あの乾燥した状態で持ち歩いて、食べる時にこうやってお湯を注いで」
スプーンでよくかき混ぜれば、見た感じは普通のスープに戻った。
《スープに戻ったの!》
「うん、大丈夫みたいだな」
試しに飲んでみれば、少ししょっぱかった。だが、それは注ぐお湯の量を変えれば問題ない。
《タクミ兄、持ち歩きやすいスープを作ったの?》
「うん、そうだよ」
《凄いの!》
「そうか? ありがとう」
上手くできたので、あとは微調整。乾燥させた状態をもう少し小さくしたいので、味をより濃いめにして、少ない量でフリーズドライできるようにした。
それから卵スープのフリーズドライを量産していく。
「「おにーちゃん!」」
量産が終わったところで、子供達が駆け寄って来る。
《お兄ちゃん、お腹空いた~》
《兄ちゃん、ご飯ちょうだい!》
どうやらお腹が空いたので戻ってきたようだ。
「じゃあ、お昼ご飯にするか」
《みんな、ご飯はフレンチトーストなの!》
「「《《《 《やったー!》 》》》」」
みんなにそれぞれ好きなトッピングを選ばせてみる。
「「できたー!」」
《アレンのナナの実にチョコアイスとチョコソースの組み合わせ、とても美味しそうね~》
《エレナのイーチ尽くしも美味しそうですよ》
「「えへへ~」」
「フィートのもおいしそう!」
「ボルトのも!」
《あら、ありがとう》
《ありがとうございます》
アレンとエレナ、フィート、ボルトは、自分の好きな果物、ジャム、アイスを一種類ずつ選んでいく。
《ボクはイーチとリーゴ。あとはね、ミルクアイスとチョコアイス。あ~、木の実のアイスも捨て難い! ロンの実のジャムもいいな~》
《オレは全部!》
《わたしはリーゴのジャムがいいの!》
ジュールとベクトルは数種類ずつ選び、マイルに至ってはリーゴのジャムのみを選んだ。こういう時って、性格が出るよな~。
《失敗した。美味しいんだけど、味が混ざってる~》
《欲張るからなの!》
みんな美味しそうに食べるが、ジュールだけは選び過ぎたことを後悔し、マイルに駄目出しされていた。
《混ざってても美味しいよ?》
そんな中、ジュール以上に複数のトッピングを選んだベクトルが、あっけらかんと完食していたのがとても印象的であった。
お昼ご飯を済ませて少し休憩した後、僕は子供達に再び遊ぼうと伝える。
フリーズドライのスープも完成したので、今度は僕も一緒にだ。
「さて、何をするかな?」
シャボン風船は午前中に十分堪能したようなので、午後からは違うことをしようと思い、まずは子供達に確認してみる。
「「えっとねー……さいしゅ!」」
すると子供達は、再び採取と叫んだ。
「……まあ、仕事のような内容とはいえ、楽しければ何でもいいか」
「「わーい!」」
「採取をするなら、鉱山の薬草のほうがいいから、山に移動するか。ジュール、フィート、お願いしてもいいか?」
《いいよ~》
《大丈夫よ》
僕はジュールに、アレンとエレナがフィートに乗って、すぐに山の中腹まで運んでもらう。
《お兄ちゃん、ここら辺でいいかな?》
「そうだな。ジュール、フィート、ありがとう」
《このくらい何でもないよ》
《ふふっ。そうよ、いつでも歓迎よ》
ジュールの背から降りて頭を撫でてあげると、フィートも寄って来たので、続いて撫でる。
「じゃあ、ここから登りながら採取するか」
「「うん!」」
《よし、アレン、エレナ! いっぱい薬草を見つけるぞー》
「「おー!」」
まず初めに、ジュールがアレンとエレナを引き連れて駆け出していく。
《周囲の警戒はぼくがしますか? それともベクトルがしますか?》
《オレがやる! 魔物は任せて! 行ってくる!》
続いて、ボルトとベクトルが、どちらが見張り担当になるか決める。
まあ、ベクトルが張り切って立候補し、早々に駆け出して行ったけどね~。
《自ら狩りに行っちゃったの!》
《ここにいて周囲を気にしていれば良かったのだけどね~》
《万が一、ベクトルが気づかない魔物が近づいてきても、ぼくが対処しますからいいんじゃないですか?》
《そうね~、良い素材を持って帰ってくるのならいいかしら?》
《そうなの! 美味しいお肉とか良い毛皮を期待するの!》
フィート、ボルト、マイルが、ベクトルの行動に呆れながらも許容を見せる。
「じゃあ、フィート、ボルト、マイルはどうするんだ?」
《ん~、私はどうしようかな~? 兄様は薬草を探すの?》
「うん、そうするつもりだよ。ゆっくりとね。まあ、薬草だけじゃなく食材とかも探すけどな」
フィートの言葉に頷くと、三匹とも目を輝かせる。
《じゃあ、私は兄様と一緒に探すわ。いいでしょう?》
《わたしも! わたしもタクミ兄と一緒に探すの!》
《兄上、ぼくもいいですか?》
「もちろんだよ。じゃあ、行こうか」
僕はフィート、ボルト、マイルと一緒にゆっくりと歩き出した。
《それにしても、街の近くの山なのに全然人の気配はないのね~》
「そうだな。みんな、坑道のほうに行ってしまうのかな?」
《では、その坑道のお蔭でぼく達がこうして兄上達とご一緒できるんですね!》
ボルトが嬉しそうに言うので、僕は頷く。
「ははは~、そうなるな。でも、みんな坑道のほうに行くせいで、鉱山の薬草採取をする人が少なくなって、品薄になっているみたいだけどな」
《じゃあ、わたし達が頑張って採取すれば解決なの!》
「そうだね。まあ、僕達に都合が良いのは確かだから、ありがたくこの時間を堪能しようか」
僕達はゆったりと喋りながら歩き、大量のテング草と火炎草、少量の月詠草とみわくの花をしっかりと採取した。
と、そこでとある草が目に留まった。
「おっと、これは……」
《あら、兄様、珍しいものを見つけたわね》
《フィート、これは火炎草じゃないんですか?》
《似ているけど、違うの! これは火焔草なの!》
火焔草は火炎草の上位版の薬草であり、見た目はほとんど一緒だが、少し暗めの色をしている。そして、大変珍しいものである。
「先に歩いているアレンとエレナが見つけないで、僕が見つけるなんて珍しいな~」
《も、もしかして、同じ道を歩いていると思ってましたが、違うところを歩いているんじゃないですか!?》
《大変なの! はぐれちゃったの!?》
僕の言葉を聞いて、ボルトとマイルがキョロキョロと周りを見渡し、アレンとエレナの姿を捜す。
《ボルト、マイル、落ち着いて。大丈夫よ、そんなに遠くには行っていないわ》
《あ、そうでした。フィートがいれば匂いで追えましたよね。というか、ぼくが空から捜せばいいんですよね~》
《そうだったの! 子供達のほうにもジュールがいるから問題なかったの!》
「そうだな。慌てる必要はないよ」
姿が見えなくても、ジュールやフィートがいれば匂いで追える。
それに、アレンとエレナには『追跡リング』という居場所のわかる魔道具を身に着けさせているので、ウィンドウ画面の地図に位置が表示されているはずだ。
「「おにーちゃん!」」
「お? 噂をしたら戻ってきたようだな」
《あら、本当ね》
子供達が全力疾走でこちらに駆けてくる姿が見えた。
翌日、僕は早速フリーズドライのスープを作ることにした。
場所は街の外。今回は北の山側じゃなく、東門を出て平原へとやって来た。
人がいないのを確認すると、まずはジュール達を呼び出す。
《今日は草原だ!》
《何するのー?》
初めに、スカーレットキングレオのベクトルとフェンリルのジュールが、わくわくした様子でじゃれついてくる。
《そうだな~、今日はお料理かな?》
《ん~、他の街に移動とかですかね?》
《わたしはまた採取だと思うの!》
飛天虎のフィート、サンダーホークのボルト、フォレストラットのマイルは、呼び出された用件を予想し合っている。
「今日は――料理がしたいんだよね」
《あら、私が正解かしら?》
「うん、そうだな」
予想を的中させたフィートは嬉しそうにする。
的中させたご褒美が欲しいのだろう、フィートは撫でるように要求してくるので、僕はフィートを撫でながら話を続ける。
「僕が作業している間、みんなはアレンとエレナと一緒に遊んでいてくれないか?」
《それなら大歓迎! 何して遊ぶ?》
《ふふっ、兄様、任せてちょうだい》
《兄上の作業の邪魔をさせないように、周囲の警戒もしないとですね!》
《わーい、遊ぶ~》
《アレン、エレナ、何して遊ぶの?》
「「……うにゅ~」」
僕のお願いにジュール達は二つ返事で了承してくれる。
だが、何故かアレンとエレナが浮かない顔をしていた。
「どうした、アレン、エレナ?」
「「おてつだいはー?」」
「そうか。二人は手伝いをしてくれるつもりだったんだ?」
「「うん!」」
「ありがとう」
とりあえず、僕は二人の頭を思いっ切り撫でた。
「でも、今日は試行錯誤になるから、みんなと遊んでいてくれるか?」
「「わかったー」」
子供達は、今度は満面の笑みで頷く。
《じゃあ、何して遊ぶー?》
「「ん~? さいしゅ?」」
早速、とばかりにジュールが何で遊ぶか問いかけるが、子供達の返答はいつも通り過ぎるくらいいつも通りであった。
「……アレン、エレナ、採取は本来仕事だぞ? 他にやりたいこととかはないのか?」
「「……わかんない?」」
「本当に何もない? もうちょっと考えてみて」
「「……う~ん?」」
もう一度考えてみるように言えば、二人は首を傾げながら一生懸命に考えるが、何も思いつかないようだ。
「じゃあ、これなんてどうだ?」
僕は《無限収納》から、バブルアーケロンの泡――サッカーボールくらいのシャボン風船を取り出して、子供達のほうへ放る。
「「あっ! あわだ!」」
アレンとエレナはシャボン風船のことを覚えていたらしく、目を輝かせた。早速、アレンとエレナの間でシャボン風船が行き来する。どうやらお気に召してくれたようだ。
《何これ~?》
「かめの」
「あわ!」
《カメ? 泡?》
ベクトルがシャボン風船に興味を示し、アレンがキャッチしたシャボン風船を鼻先で突く。
「バブルアーケロンっているだろ。そいつが逃げる時に出す泡だよ」
《えっ!?》
シャボン風船の正体を聞き、真っ先にジュールが驚きの声を出す。
『細波の迷宮』で遭遇した亀の魔物であるバブルアーケロンは、敵が現れるとシャボン玉のような泡を吐き出して相手の動きを妨害し、その間に逃げるという習性を持つ。
普通ならその泡はすぐに割れるのだが、《無限収納》に収納してから取り出すと、ナイフなんかで突いても割れなくなるのだ。
《バブルアーケロンの泡って触ると割れるよね!?》
《そうね~。少なくとも、こんな風に弾力のあるものじゃなかったわよね~》
《ぼくはバブルアーケロンと遭遇したことがありません。これがバブルアーケロンの泡ですか~》
《お~、ぽよんぽよんなの!》
ジュール、フィート、ボルト、マイルも次々とシャボン風船に触っていく。
「これはそう簡単には割れないから、みんなで蹴り飛ばして遊ぶのはどうだ?」
《それ、何か楽しそうだね~》
《やろう、やろう!》
子供達はすぐにバラバラに散り、まずはシャボン風船を手にしていたアレンが蹴り飛ばす。
「それ!」
シャボン風船はぽよーんと飛び、ベクトルのほうへ行く。
《よーし、行くぞ~》
続いて、ベクトルが飛んできたシャボン風船を思いっ切り前足で叩く。
「「あっ!」」
思いっきり叩き過ぎたせいで、シャボン風船はベクトルのすぐ前の地面に叩きつけられ、高く跳ね上がる。
《ベクトル、下にじゃなくて、前に力を入れないと駄目よ~》
《ぼくに任せてください……エレナ、行きますよ~》
跳ね上がったシャボン風船の軌道を、ボルトは空中でエレナのほうへと変える。
《エレナ、こっち、こっちー!》
「はーい、いくよ~」
エレナは飛んできたシャボン風船を、ジュールのほうへ上手く蹴り飛ばす。
《エレナ、上手! フィート、行くよー》
《はーい。じゃあ、次はマイルね》
《はいなの……ふぎゃ!》
順調にシャボン風船を回すが、マイルがシャボン風船に潰されるという事件が起きてしまった。
みんなで慌ててマイルのところに駆け寄る。
「マイル、大丈夫か?」
「「だいじょーぶ?」」
《うぅ~……大丈夫なの~》
マイルは身体が小さいので、ちょっとこの遊びは辛いかな?
《この遊びはわたしには不向きっぽいの~。わたしはタクミ兄の傍にいるから、みんなで続けてなの!》
マイルを気遣って遊びそのものを止めようとする子供達だったが、マイルが僕と一緒にいるから大丈夫だと説得し、今度は二人と四匹で再開したのだった。
再び、子供達が遊びに夢中になり始めたところで、僕はスープ作りを始めることにする。
《タクミ兄、今日は何を作るの?》
「今日はスープを作るんだよ」
《スープなの! 何のスープなの?》
「それなんだよ。何のスープにしようかな~」
ミソ汁、コンソメ、クリーム、トマト、カレー……と、ざっと思いつくだけでもベースのスープにはこれだけの種類がある。さらに、加える具材の組み合わせを考えれば、かなりの種類が思いつく。
「ん~、この世界で一番馴染みがあるのはコンソメスープかな?」
コンソメにもビーフにチキン、ポアソンなどがあるけれど、今回はチキンコンソメにしよう!
《コンソメスープ! わたし、具は卵がいいの!》
「卵か。うん、いいな。じゃあ、まずはそれを作ろう」
《やったなの!》
種類が決定したので、早速作り始める。
まずは捨てずに取っておいたコッコの鶏ガラを下茹でして掃除し、大鍋へ。そこにたっぷりの水とタシ葱、ニンジン、ショーガなどの野菜を入れて火にかける。あ、臭み取りのためにレイ酒も少し入れるかな。
あとは灰汁を取りながら弱火でコトコト煮込む。もちろん、魔法で時間短縮するつもりだが、それでもこの作業は少し時間が掛かる。
大鍋のサイズに、マイルが目を丸くしていた。
《いっぱい作るの!》
「みんなもお昼に食べるだろう?」
《もちろん、食べるの!》
ついでにお昼ご飯用のスープも作るつもりだし、鶏ガラを煮込んでいる間にお昼ご飯用の料理やジャムやカスタードクリーム、シロップなんかの《無限収納》にストックしておくものを作る予定でもある。
「お昼ご飯は……久しぶりにフレンチトーストにするか~」
《フレンチトースト! 嬉しいの!》
蜂蜜はもちろん、果物やジャム、チョコレートソース、アイスクリームなどをたくさん用意して、好きなものをトッピングする形にしよう!
「とりあえず、いろんなジャムを作るかな」
《わたし、リーゴの実のジャムが食べたいの!》
「了解! リーゴの実の他に、ランカ、オレン、イーチ……あとはリコの実のジャムを作るか。マイル、他に食べたい味はあるか?」
《えっと、えっと……ロンの実もいいの!》
「うん、ロンの実もいいな。というか、いっそのこと、持っている果物全部のジャムを作るかな?」
《賛成なの!》
果実についてはそれぞれ、地球のもので似ているのを挙げると、リーゴはリンゴ、ランカは桃。オレン、イーチ、リコはオレンジ、イチゴ、アセロラで、マイルが言っていたロンはメロンだ。
別にいくつかの種類に絞る必要はないので、順番に全種類のジャムと、人数分のフレンチトーストを作っていった。
《いっぱい作ったの!》
「ははっ、全部並べると凄い光景だな~。マイル、手伝ってくれてありがとう」
全て作り終えたところで、瓶詰めされた色とりどりのジャムをあえて《無限収納》にしまわずに並べてみると、なかなか見応えのある光景になった。これもマイルが小さな身体で一生懸命、混ぜるのを手伝ってくれたお蔭だな~。
《役に立てて良かったの! あ、タクミ兄、スープはまだなの?》
「ん? そろそろ良さそうだな」
僕は良い具合に煮込まれたスープから鶏ガラと野菜を綺麗に取り除き、塩で味を調えて、最後に溶き卵を加えていく。
「よし、これでいいな」
《美味しそうなの!》
「ありがとう。マイル、少し味見してくれるか?」
《いいの!》
マイルは嬉しそうに、尻尾をピンと立てた。
「マイルは手伝ってくれたからな。みんなには内緒な」
《うんなの!》
小皿に少しスープをよそってマイルに渡すと、マイルは嬉しそうにスープを飲む。
《とっても美味しいの!》
「本当? 良かった」
うん、味は問題ないようだな。
「じゃあ、ここからが本番だ。――《フリーズ》」
僕はカップ一杯分のスープを、別の鍋に移して煮詰めて水分を減らし、ある程度濃くなったところで四角い容器に移して魔法で凍らせる。
《凍らせちゃったの?》
「そうだよ。それでこれを――《ドライ》」
今度は凍らせたスープを魔法で乾燥させていく。えっと、この作業の時は真空に近いほうがいいんだったよな?
風魔法で真空に近い状態を作りつつ、乾燥させることしばし。
《カラカラになったの!》
「水分がなくなったからな。ん~、これでいいのかな?」
《完成なの?》
「……たぶん?」
《たぶんなの?》
「そう。なにせ、初めて作ったからな」
カラカラになったスープを指でつまんで、状態を確認する。
けっこう軽くなったけど、ちゃんと乾燥されているので問題ないかな?
「見る限りでは大丈夫そうだな。まあ、お湯で戻してみればわかるか」
でき上がったばかりのフリーズドライのスープをカップに入れ、お湯を注いでみる。
《お湯を入れちゃうの?》
「そうだよ。あの乾燥した状態で持ち歩いて、食べる時にこうやってお湯を注いで」
スプーンでよくかき混ぜれば、見た感じは普通のスープに戻った。
《スープに戻ったの!》
「うん、大丈夫みたいだな」
試しに飲んでみれば、少ししょっぱかった。だが、それは注ぐお湯の量を変えれば問題ない。
《タクミ兄、持ち歩きやすいスープを作ったの?》
「うん、そうだよ」
《凄いの!》
「そうか? ありがとう」
上手くできたので、あとは微調整。乾燥させた状態をもう少し小さくしたいので、味をより濃いめにして、少ない量でフリーズドライできるようにした。
それから卵スープのフリーズドライを量産していく。
「「おにーちゃん!」」
量産が終わったところで、子供達が駆け寄って来る。
《お兄ちゃん、お腹空いた~》
《兄ちゃん、ご飯ちょうだい!》
どうやらお腹が空いたので戻ってきたようだ。
「じゃあ、お昼ご飯にするか」
《みんな、ご飯はフレンチトーストなの!》
「「《《《 《やったー!》 》》》」」
みんなにそれぞれ好きなトッピングを選ばせてみる。
「「できたー!」」
《アレンのナナの実にチョコアイスとチョコソースの組み合わせ、とても美味しそうね~》
《エレナのイーチ尽くしも美味しそうですよ》
「「えへへ~」」
「フィートのもおいしそう!」
「ボルトのも!」
《あら、ありがとう》
《ありがとうございます》
アレンとエレナ、フィート、ボルトは、自分の好きな果物、ジャム、アイスを一種類ずつ選んでいく。
《ボクはイーチとリーゴ。あとはね、ミルクアイスとチョコアイス。あ~、木の実のアイスも捨て難い! ロンの実のジャムもいいな~》
《オレは全部!》
《わたしはリーゴのジャムがいいの!》
ジュールとベクトルは数種類ずつ選び、マイルに至ってはリーゴのジャムのみを選んだ。こういう時って、性格が出るよな~。
《失敗した。美味しいんだけど、味が混ざってる~》
《欲張るからなの!》
みんな美味しそうに食べるが、ジュールだけは選び過ぎたことを後悔し、マイルに駄目出しされていた。
《混ざってても美味しいよ?》
そんな中、ジュール以上に複数のトッピングを選んだベクトルが、あっけらかんと完食していたのがとても印象的であった。
お昼ご飯を済ませて少し休憩した後、僕は子供達に再び遊ぼうと伝える。
フリーズドライのスープも完成したので、今度は僕も一緒にだ。
「さて、何をするかな?」
シャボン風船は午前中に十分堪能したようなので、午後からは違うことをしようと思い、まずは子供達に確認してみる。
「「えっとねー……さいしゅ!」」
すると子供達は、再び採取と叫んだ。
「……まあ、仕事のような内容とはいえ、楽しければ何でもいいか」
「「わーい!」」
「採取をするなら、鉱山の薬草のほうがいいから、山に移動するか。ジュール、フィート、お願いしてもいいか?」
《いいよ~》
《大丈夫よ》
僕はジュールに、アレンとエレナがフィートに乗って、すぐに山の中腹まで運んでもらう。
《お兄ちゃん、ここら辺でいいかな?》
「そうだな。ジュール、フィート、ありがとう」
《このくらい何でもないよ》
《ふふっ。そうよ、いつでも歓迎よ》
ジュールの背から降りて頭を撫でてあげると、フィートも寄って来たので、続いて撫でる。
「じゃあ、ここから登りながら採取するか」
「「うん!」」
《よし、アレン、エレナ! いっぱい薬草を見つけるぞー》
「「おー!」」
まず初めに、ジュールがアレンとエレナを引き連れて駆け出していく。
《周囲の警戒はぼくがしますか? それともベクトルがしますか?》
《オレがやる! 魔物は任せて! 行ってくる!》
続いて、ボルトとベクトルが、どちらが見張り担当になるか決める。
まあ、ベクトルが張り切って立候補し、早々に駆け出して行ったけどね~。
《自ら狩りに行っちゃったの!》
《ここにいて周囲を気にしていれば良かったのだけどね~》
《万が一、ベクトルが気づかない魔物が近づいてきても、ぼくが対処しますからいいんじゃないですか?》
《そうね~、良い素材を持って帰ってくるのならいいかしら?》
《そうなの! 美味しいお肉とか良い毛皮を期待するの!》
フィート、ボルト、マイルが、ベクトルの行動に呆れながらも許容を見せる。
「じゃあ、フィート、ボルト、マイルはどうするんだ?」
《ん~、私はどうしようかな~? 兄様は薬草を探すの?》
「うん、そうするつもりだよ。ゆっくりとね。まあ、薬草だけじゃなく食材とかも探すけどな」
フィートの言葉に頷くと、三匹とも目を輝かせる。
《じゃあ、私は兄様と一緒に探すわ。いいでしょう?》
《わたしも! わたしもタクミ兄と一緒に探すの!》
《兄上、ぼくもいいですか?》
「もちろんだよ。じゃあ、行こうか」
僕はフィート、ボルト、マイルと一緒にゆっくりと歩き出した。
《それにしても、街の近くの山なのに全然人の気配はないのね~》
「そうだな。みんな、坑道のほうに行ってしまうのかな?」
《では、その坑道のお蔭でぼく達がこうして兄上達とご一緒できるんですね!》
ボルトが嬉しそうに言うので、僕は頷く。
「ははは~、そうなるな。でも、みんな坑道のほうに行くせいで、鉱山の薬草採取をする人が少なくなって、品薄になっているみたいだけどな」
《じゃあ、わたし達が頑張って採取すれば解決なの!》
「そうだね。まあ、僕達に都合が良いのは確かだから、ありがたくこの時間を堪能しようか」
僕達はゆったりと喋りながら歩き、大量のテング草と火炎草、少量の月詠草とみわくの花をしっかりと採取した。
と、そこでとある草が目に留まった。
「おっと、これは……」
《あら、兄様、珍しいものを見つけたわね》
《フィート、これは火炎草じゃないんですか?》
《似ているけど、違うの! これは火焔草なの!》
火焔草は火炎草の上位版の薬草であり、見た目はほとんど一緒だが、少し暗めの色をしている。そして、大変珍しいものである。
「先に歩いているアレンとエレナが見つけないで、僕が見つけるなんて珍しいな~」
《も、もしかして、同じ道を歩いていると思ってましたが、違うところを歩いているんじゃないですか!?》
《大変なの! はぐれちゃったの!?》
僕の言葉を聞いて、ボルトとマイルがキョロキョロと周りを見渡し、アレンとエレナの姿を捜す。
《ボルト、マイル、落ち着いて。大丈夫よ、そんなに遠くには行っていないわ》
《あ、そうでした。フィートがいれば匂いで追えましたよね。というか、ぼくが空から捜せばいいんですよね~》
《そうだったの! 子供達のほうにもジュールがいるから問題なかったの!》
「そうだな。慌てる必要はないよ」
姿が見えなくても、ジュールやフィートがいれば匂いで追える。
それに、アレンとエレナには『追跡リング』という居場所のわかる魔道具を身に着けさせているので、ウィンドウ画面の地図に位置が表示されているはずだ。
「「おにーちゃん!」」
「お? 噂をしたら戻ってきたようだな」
《あら、本当ね》
子供達が全力疾走でこちらに駆けてくる姿が見えた。
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