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11巻
11-3
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「タクミ! どれも美味い!」
「本当にとても美味しいです。何しろ、エヴァンに野菜を食べさせるなんて凄いです」
「このサラダにかかっているタレが美味いからな! これなら食える!」
……苦笑するスコットさんの表情を見る限り、エヴァンさんは野菜嫌いらしい。
「うちの子供達もドレッシングをかける前は食べるのを嫌がりましたが……」
「では、エヴァンは子供と一緒ということですね」
「だって、草だぞ! 味がなければ、食えたもんじゃないだろう!」
草って……まあ、サラダに使う野菜は葉っぱものが多いけどさ~。
「そういえばタクミさん、サラダにかかっているものはドレッシングというものなんですか?」
「ええ、はい。これは炒めたタシ葱に、ショーユと酢などの調味料と油を混ぜたものです」
「そうなんですか? というか、教えていただいても良かったのですか? 秘蔵のものなのでは?」
「秘蔵!? いやいや、そんなものじゃないですって! ただ調味料を混ぜたものですから!」
「これほどの味でしたら、食堂で提供したら大繁盛しますよ。どうですか?」
どうですか? って、僕に食堂を経営してくれって言っているのかな?
「食堂をやる予定はないですね。レシピが欲しいならあげますから、自分で作るか、泊まっている宿で作ってもらってください」
「……タクミさん、そういうレシピはほいほい人に渡すものじゃありませんよ」
「親交がある人にしか渡していませんよ」
「普通は親交があったとしても渡しませんよ」
「じゃあ、僕は普通じゃないんで」
「……」
レシピをほいほい渡しているつもりはないが、とりあえず今は開き直ってみた。
そんな僕に、スコットさんは絶句している。
「それで、レシピはいります?」
「……お願いします」
「ふふっ、了解です」
にやにや笑いながらスコットさんを見ると、スコットさんは〝参りました〟とばかりに深々と頭を下げていた。あとで紙にレシピを書いておこう。
「タクミ、カレーとチーズの入ったパンのお代わりはあるか?」
「ありますよ。食べますか?」
「頼む!」
「アレンもー」
「エレナもー」
「はいはい」
僕とスコットさんが話している間、マイペースに食べ進めていた子供達とエヴァンさんはお代わりを要求してくる。
「このパンも初めて見たんだが、タクミが作ったのか?」
「まあ、そうですね。でも、冒険者ギルドのすぐ傍のパン屋に売っていると思いますよ」
一緒に開発したパン屋さんはそことは違う店だが、レベッカさんがギルド傍のパン屋でも売れるようにすると言っていたので、きっともう売っているだろう。
「クリームパンとか売っている店だな! 最近いろんなパンが増えたから、その日の気分で選べていいよな!」
どうやらエヴァンさんは、店の常連のようだ。
「甘いものが大丈夫なら、食後に甘いものはいりますか?」
「「いる!」」
一応、エヴァンさんとスコットさんに聞いたのだけど、元気よく返答したのは子供達だった。だが、エヴァンさんとスコットさんも期待するような目をしていたので、冷やしたミルクプリンで口の中をさっぱりさせた。
少し食後の休憩をしていたところで良い具合に薄暗くなってきたので、軽い運動がてら夜光茸を探しつつ散策することにした。
「「ん~、あっちかな~。――あっ!」」
アレンとエレナが気になる方向へ適当に歩いていると、二人は声を上げる。
「あそこ!」
「あった!」
子供達が示す方を見れば、ほんのり光る場所が目に入った。
「「いっぱいあったー!」」
「お、夜光茸の群生地だな」
早速とばかりに、アレンとエレナが張り切って採取しに走っていく。
「……あっさり見つかったな~」
「……ですね。それも一つや二つじゃなくて、群生地です」
一緒に散策に来ていたエヴァンさんとスコットさんが、大きく溜め息を吐く。
「運が良かったですね~。群生地だから遠目でも光って見えましたし」
単体の夜光茸だと木陰などに隠れて見つけづらいものだが、見つけたのは群生地だったのでとてもわかりやすかった。
そう思いながら言うと、エヴァンさんがジト目を向けてくる。
「運が良かった? それで済む話か?」
「それで済ませましょう。深く考えても疲れるだけです」
「そうだな。――じゃあ、子供達だけに任せないで俺達も採取するか」
「ええ、そうしましょう」
エヴァンさんとスコットさんも採取を始めたので、僕も夜光茸を集める。
「「おにーちゃん、みて~」」
「んー?」
「ツキヨコケと」
「つきみそうも」
「「あったよ~」」
「おぉ、良いものを見つけたな!」
ツキヨコケも月見草も、三つの月が同時に出る夜にしか採れない薬草だ。
本当に今日の子供達は本当に絶好調である。
「「いっぱいとったねー」」
「本当にな」
夜光茸、ツキヨコケ、月見草の他にもいろんな薬草を採った僕達は、ほくほくとした気持ちで野営場所に戻った。
そして、見張りはエヴァンさん、スコットさん、僕の順で三交代することになったので、子供達を毛布に包んで早々に眠りについたのだった。
翌日、まだ暗い時間にスコットさんと見張りを交代した僕は、周囲の警戒をしつつぼーっとしていた。そして明るくなってきたところで、朝ご飯と、ついでにお昼ご飯用にサンドイッチを作り始めた。
「「……うにゅ~」」
「おはよう」
「「おはよ~。いいにおい~」」
料理を作り終え、パステルラビット達に餌をあげていると、子供達が目を覚ます。
二人は料理に気づいたらしく、目を擦りながら鼻をくんくんさせている。
「おいしそう~」
「あさごはん?」
「朝はスープと白パンだよ」
「「サンドイッチはー?」」
「サンドイッチはお昼用だよ」
「「ええ~」」
サンドイッチは、レタスとハムとチーズのサンド、たまごサンド、ツナマヨサンド、ポテサラサンド、カツサンド、テリヤキサンド。さらに生クリームにイーチの実、カスタードにナナの実のフルーツサンドを全部二組ずつ作り、半分に切ったものをセットにして一人前にした。あ、アレンとエレナはさらに半分、四分の一ずつだけどね。
サンドイッチのほうが豪華に見えるからか、子供達が不満そうな声を上げる。
「魚介たっぷりのミルクスープは食べたくないかい?」
「「たべる~」」
「じゃあ、朝ご飯はこっちな」
「「わかったー」」
貝やイカ、キャベツ、タシ葱などをたっぷり使ったクラムチャウダー風のスープが入っている鍋を示せば、子供達は簡単に意見を翻したので、サンドイッチは《無限収納》に収めた。
「……はよ~」
「おはようございます」
「「おはよう~」」
子供達が納得したところで、エヴァンさんとスコットさんが起きてきた。
「おはようございます。まだ少し早いですよ?」
「良い匂いで目が覚めたんだよ」
「え? 匂い? そ、それはすみませんでした」
「いえいえ、もしかしなくても朝食を作ってくれていたんですか? エヴァンの言う通り、とても良い匂いです」
二人の安眠を妨害するほど、匂いが充満していたらしい。
「もうできていますけど、すぐ食べられますか?」
「おう!」
「お願いします」
起こしてしまったのなら仕方がない。少し早いけれど、エヴァンさんもスコットさんも寝起きでも食べられるようなので、すぐに朝ご飯にする。
「「ん~~~」」
「美味い!」
「美味しいです!」
スープは好評で、多めに作ったのだが……鍋はすっからかんになった。
「あ~、ちょっと食い過ぎたな。腹ごなしに少し準備運動でもするかな。ちびっ子、軽く剣の稽古でもするか?」
「「する!」」
エヴァンさんが食後の運動に子供達を誘うと、子供達は大喜びで立ち上がる。
「エヴァン、これから移動ですから、ほどほどにしてくださいよ」
「わかってるさ」
スコットさんの注意を受けて、エヴァンさんも頷いていたのだが……しばらく見ていると、準備運動の域を超えて本格的な訓練になりかけていたので、それを慌てて止める。
そして気を取り直して、僕達はフレアトータスを探して海岸へと移動を始めた。
「「トータス♪ トータス♪ どこにいる~♪」」
「平和だな~」
「そうですねぇ~」
楽しそうに歌いながら歩く子供達を見て、エヴァンさんとスコットさんが和んでいる。
「「おにーちゃん、フレアトースターどこにいるかなぁ~」」
「「ぶっ!」」
「「んにゅ?」」
子供達の言葉にエヴァンさんとスコットさんが噴き出す。
そして、そんな反応をされてアレンとエレナは不思議そうに首を傾げていた。
「……アレン、エレナ、わざとか?」
「「んにゅ?」」
「歌ではちゃんと言っていたのに、今はフレアトースターって言っていたぞ」
「「あれぇ~?」」
アレンとエレナは傾げていた首を、今度は反対側に傾げ直して考え込む。
わざとではなかったようだ。
「「まちがえちゃった!」」
二人は舌をペロッと出し、誤魔化すように笑った。それはもう〝てへっ〟という台詞が似合いそうな笑顔だった。
「だな。トーストが食べたかったわけじゃないよな?」
「「サンドイッチがいい~」」
「ははっ、そうか」
エーテルディアには食パンがなかったから、トースターやそれに似た魔道具はない。だから、単純に言い間違いだろう。まあ、僕が作ったので子供達はトーストの存在を知っているんだけどね~。
そんなことを考えながら何となく聞いてみたけど、食べたかったわけでもないようだ。
「「うん、ごはんしよー」」
アレンとエレナが満面の笑みでお腹をさすってみせる。
「ご飯にはまだ早いだろう」
「「えへへ~」」
「わかっていて言っただろう?」
「「うん、いってみた~」」
「もう~」
最近、ずる賢いことを言うようになってきたな~。これも成長か?
「お昼ご飯は海岸に着いてからだよ」
「「じゃあ、はしる~」」
「えっ!? ちょっと待てっ!」
海岸に着いたらお昼ご飯と聞いた途端、子供達は少しでも早く海岸へ行こうと走り出した。
「エヴァンさん、スコットさん、すみません! 先に行きます」
「大丈夫だ、俺達も行く」
「そうですね」
僕がエヴァンさん、スコットさんに声を掛けながら走り出すと、二人も後ろから追ってきた。
「あの様子だと、海岸まで止まりませんよ。いいんですか?」
「おいおい、俺達のこと甘く見るなよ。海岸まで走るくらい軽いさ」
「ええ、問題ありません」
そんな二人にホッとしながらアレンとエレナを追いかけたが……子供達は本当に、海岸まで止まらずに走り切った。
「「ついたー」」
「こ~ら~。勝手な行動をするなよ~」
「「うにゅにゅにゅ~」」
僕は子供達の口を手のひらで覆うようにして、頬を指で挟むと、強めに揉みこむ。
「エヴァンさんとスコットさんに迷惑を掛けたんだから、まずは謝りなさい!」
「「はーい。――ごめんなさ~い」」
「いいって」
「謝罪を受け入れましょう」
アレンとエレナが素直に謝罪すると、エヴァンさんとスコットさんは快く許してくれる。
「ははっ、こうやって見ると普通の子供だな」
「そうですね。でも、逆に安心しました」
「あ、それは同感」
許してくれるどころか、何故か安心している。
まあ、とんでもないことばかり起こしていたから、普通な部分があって安心したのだろう。
「……はぁ~」
だけどそうだよな~。アレンとエレナが良い子過ぎるだけで、普通の子供は我儘を言ったり、勝手な行動を取ったりするもんだよな~。
「「おにーちゃん、おにーちゃん」」
アレンとエレナが、服を引っ張って呼んでくる。
「ん? 何だ?」
「「おにーちゃん、ごめんなさ~い」」
子供達は僕にも謝ってくる。僕が溜め息を吐いたからか、少ししょんぼりしていた。
「「おこってる?」」
「怒ってないよ」
心配そうに見上げてくるので、僕は子供達の頭を撫でて抱き上げる。
「で~もぉ~。僕達だけの時ならいいけど、一緒に行動する人がいる時は駄目! 今後はもうやらないように、いいね!」
「「はい!」」
怒ってはいないがしっかりと注意だけはしておくと、子供達も挙手して返事をした。
「よし、良い返事! ――じゃあ、エヴァンさん、スコットさん、少し早いですけど、休憩がてらお昼にしていいですか?」
「いいぞ」
「私も構いませんよ」
「「やったー。サンドイッチ!」」
サンドイッチを早く食べるために走った子供達は大喜びだった。
そして、ご飯を食べた後、僕達はあっさりフレアトータスを見つけ、さっくり倒し、目標を達成したので街へと戻ることにした。
第二章 親交を広げよう。
街に戻った僕達は、門から冒険者ギルドまで行く途中、もの凄く注目を浴びた。
何故かと言えば、子供達の頭の上や腕に九匹のパステルラビットがいるからだ。
『……』
僕達が冒険者ギルドに入った途端、喧騒に包まれていた空間が静まり返った。
「やっぱりこうなったか~」
「そうですね。予想の範囲内ですけど……」
エヴァンさんとスコットさんが溜め息を吐く。
「エヴァン! スコット!」
「ん? ああ、おっさんか」
「メレディスさん、どうかしましたか?」
「どうかしたかって……それは俺が聞きたい! そいつらはおまえの連れだろう!? 何だよ、その状況は!」
エヴァンさんとスコットさんの知り合いらしき冒険者が声を掛けてきたのだが、どうやらアレンとエレナのことが見過ごせなかったらしい。
「「むぅ! ゆびさしちゃだめなんだよ!」」
僕によく注意されるので、二人は指を差されたことを注意する。
「す、すまん」
「「いいよ~」」
アレンとエレナが勢いよく注意したからか、冒険者――メレディスさんは素直に謝罪した。というか、ほんのりヘコんでいる?
そんな相手を見て、子供達もあっさりと許してへにゃりと笑う。
「おっさん、それで用件ってパステルラビットのことか?」
「ああ、そうだ。俺も一時期探していたんだが、全然見つからなかったんだよ。だから、この辺にはいないと判断したんだ。それなのに、何だよこれは!」
「何だよ、おっさん。借金でもしたか? それで大金を狙ったのか?」
「違ぇーよ。俺は日々堅実に依頼をこなし、質素な生活を送っているわ! そうじゃなくて、うちの娘が欲しがったんで、依頼のついでにあちこち探したんだよ!」
「ああ、そういえば、おっさんは妻子持ちだったもんな。忘れてたわ」
「忘れんなよ!」
メレディスさんは、娘さんのためにパステルラビットを探していたようだ。
というか、エヴァンさんはメレディスさんとずいぶんと仲が良いな。
ただ、僕だけが話に置いてけぼりなのでちょっと居心地が悪い。
「あの……エヴァンさん?」
「ああ、すまん。タクミ、このメレディスのおっさんはこの街の冒険者で、たまに飲む仲なんだ」
「へぇ~、飲み仲間ですか? ――どうも、初めまして、僕はタクミです。この子達はアレンとエレナ」
「「よろしく~」」
「お、おう、俺はメレディスだ」
僕はエヴァンさん達の会話に割り込んで挨拶を済ませると、メレディスさんの用件を聞くことにした。
「それで、メレディスさんは、パステルラビットが欲しいんですか?」
「欲しいことは欲しいんだが、パステルラビット捕獲の依頼を出してまで手に入れるほどの財力はない。だから、見つけた場所を教えてもらおうと思ったんだよ」
パステルラビットの捕獲って、依頼で出すとかなり高いもんな~。なので、依頼を出しているのは裕福層ばかりだ。
「ああ、そういうことですか。場所を教えることは問題ないんですけど……」
「な、何だ?」
「「んにゅ?」」
僕はメレディスさんをじっくり観察し、次に子供達を見る。
「ん~、大丈夫か? じゃあ、ちょっと待っていてください……いや、一緒に来てください」
エヴァンさんとスコットさんと仲が良く、子供達もまったく警戒していないならいいだろう。
僕はメレディスさんを伴って受付に向かう。
「すみません。パステルラビットの依頼書を全部集めてもらうことはできますか?」
「ええ、少々お待ちください」
ちょうど空いていた受付のお姉さんに依頼書を集めてもらうようにお願いすると、快く引き受けてくれた。
「お待たせしました。全部で三十四枚ありますね」
しかも、お姉さんの仕事は速く、すぐに依頼書を集めて戻ってくる。
「三十四枚!? これはまた多いな~。あ、依頼書を一枚作ってもらえますか? 依頼人はメレディスさんで、依頼内容はパステルラビットの捕獲、依頼料は最低料金でいいので」
「お、おい、どういうことだ?」
僕の言葉に、隣にいるメレディスさんが困惑の声を上げる。
「運試しをしませんか?」
「運試し?」
「ええ、とにかく依頼書を作ってください」
「お、おう……」
僕の有無を言わせない態度に、メレディスさんは言われた通りに依頼書を作る。
その間に、僕は他の依頼書をざっと確認しておく。まあ、特に問題はなさそうだ。
すると、スコットさんが声を掛けてきた。
「本当にとても美味しいです。何しろ、エヴァンに野菜を食べさせるなんて凄いです」
「このサラダにかかっているタレが美味いからな! これなら食える!」
……苦笑するスコットさんの表情を見る限り、エヴァンさんは野菜嫌いらしい。
「うちの子供達もドレッシングをかける前は食べるのを嫌がりましたが……」
「では、エヴァンは子供と一緒ということですね」
「だって、草だぞ! 味がなければ、食えたもんじゃないだろう!」
草って……まあ、サラダに使う野菜は葉っぱものが多いけどさ~。
「そういえばタクミさん、サラダにかかっているものはドレッシングというものなんですか?」
「ええ、はい。これは炒めたタシ葱に、ショーユと酢などの調味料と油を混ぜたものです」
「そうなんですか? というか、教えていただいても良かったのですか? 秘蔵のものなのでは?」
「秘蔵!? いやいや、そんなものじゃないですって! ただ調味料を混ぜたものですから!」
「これほどの味でしたら、食堂で提供したら大繁盛しますよ。どうですか?」
どうですか? って、僕に食堂を経営してくれって言っているのかな?
「食堂をやる予定はないですね。レシピが欲しいならあげますから、自分で作るか、泊まっている宿で作ってもらってください」
「……タクミさん、そういうレシピはほいほい人に渡すものじゃありませんよ」
「親交がある人にしか渡していませんよ」
「普通は親交があったとしても渡しませんよ」
「じゃあ、僕は普通じゃないんで」
「……」
レシピをほいほい渡しているつもりはないが、とりあえず今は開き直ってみた。
そんな僕に、スコットさんは絶句している。
「それで、レシピはいります?」
「……お願いします」
「ふふっ、了解です」
にやにや笑いながらスコットさんを見ると、スコットさんは〝参りました〟とばかりに深々と頭を下げていた。あとで紙にレシピを書いておこう。
「タクミ、カレーとチーズの入ったパンのお代わりはあるか?」
「ありますよ。食べますか?」
「頼む!」
「アレンもー」
「エレナもー」
「はいはい」
僕とスコットさんが話している間、マイペースに食べ進めていた子供達とエヴァンさんはお代わりを要求してくる。
「このパンも初めて見たんだが、タクミが作ったのか?」
「まあ、そうですね。でも、冒険者ギルドのすぐ傍のパン屋に売っていると思いますよ」
一緒に開発したパン屋さんはそことは違う店だが、レベッカさんがギルド傍のパン屋でも売れるようにすると言っていたので、きっともう売っているだろう。
「クリームパンとか売っている店だな! 最近いろんなパンが増えたから、その日の気分で選べていいよな!」
どうやらエヴァンさんは、店の常連のようだ。
「甘いものが大丈夫なら、食後に甘いものはいりますか?」
「「いる!」」
一応、エヴァンさんとスコットさんに聞いたのだけど、元気よく返答したのは子供達だった。だが、エヴァンさんとスコットさんも期待するような目をしていたので、冷やしたミルクプリンで口の中をさっぱりさせた。
少し食後の休憩をしていたところで良い具合に薄暗くなってきたので、軽い運動がてら夜光茸を探しつつ散策することにした。
「「ん~、あっちかな~。――あっ!」」
アレンとエレナが気になる方向へ適当に歩いていると、二人は声を上げる。
「あそこ!」
「あった!」
子供達が示す方を見れば、ほんのり光る場所が目に入った。
「「いっぱいあったー!」」
「お、夜光茸の群生地だな」
早速とばかりに、アレンとエレナが張り切って採取しに走っていく。
「……あっさり見つかったな~」
「……ですね。それも一つや二つじゃなくて、群生地です」
一緒に散策に来ていたエヴァンさんとスコットさんが、大きく溜め息を吐く。
「運が良かったですね~。群生地だから遠目でも光って見えましたし」
単体の夜光茸だと木陰などに隠れて見つけづらいものだが、見つけたのは群生地だったのでとてもわかりやすかった。
そう思いながら言うと、エヴァンさんがジト目を向けてくる。
「運が良かった? それで済む話か?」
「それで済ませましょう。深く考えても疲れるだけです」
「そうだな。――じゃあ、子供達だけに任せないで俺達も採取するか」
「ええ、そうしましょう」
エヴァンさんとスコットさんも採取を始めたので、僕も夜光茸を集める。
「「おにーちゃん、みて~」」
「んー?」
「ツキヨコケと」
「つきみそうも」
「「あったよ~」」
「おぉ、良いものを見つけたな!」
ツキヨコケも月見草も、三つの月が同時に出る夜にしか採れない薬草だ。
本当に今日の子供達は本当に絶好調である。
「「いっぱいとったねー」」
「本当にな」
夜光茸、ツキヨコケ、月見草の他にもいろんな薬草を採った僕達は、ほくほくとした気持ちで野営場所に戻った。
そして、見張りはエヴァンさん、スコットさん、僕の順で三交代することになったので、子供達を毛布に包んで早々に眠りについたのだった。
翌日、まだ暗い時間にスコットさんと見張りを交代した僕は、周囲の警戒をしつつぼーっとしていた。そして明るくなってきたところで、朝ご飯と、ついでにお昼ご飯用にサンドイッチを作り始めた。
「「……うにゅ~」」
「おはよう」
「「おはよ~。いいにおい~」」
料理を作り終え、パステルラビット達に餌をあげていると、子供達が目を覚ます。
二人は料理に気づいたらしく、目を擦りながら鼻をくんくんさせている。
「おいしそう~」
「あさごはん?」
「朝はスープと白パンだよ」
「「サンドイッチはー?」」
「サンドイッチはお昼用だよ」
「「ええ~」」
サンドイッチは、レタスとハムとチーズのサンド、たまごサンド、ツナマヨサンド、ポテサラサンド、カツサンド、テリヤキサンド。さらに生クリームにイーチの実、カスタードにナナの実のフルーツサンドを全部二組ずつ作り、半分に切ったものをセットにして一人前にした。あ、アレンとエレナはさらに半分、四分の一ずつだけどね。
サンドイッチのほうが豪華に見えるからか、子供達が不満そうな声を上げる。
「魚介たっぷりのミルクスープは食べたくないかい?」
「「たべる~」」
「じゃあ、朝ご飯はこっちな」
「「わかったー」」
貝やイカ、キャベツ、タシ葱などをたっぷり使ったクラムチャウダー風のスープが入っている鍋を示せば、子供達は簡単に意見を翻したので、サンドイッチは《無限収納》に収めた。
「……はよ~」
「おはようございます」
「「おはよう~」」
子供達が納得したところで、エヴァンさんとスコットさんが起きてきた。
「おはようございます。まだ少し早いですよ?」
「良い匂いで目が覚めたんだよ」
「え? 匂い? そ、それはすみませんでした」
「いえいえ、もしかしなくても朝食を作ってくれていたんですか? エヴァンの言う通り、とても良い匂いです」
二人の安眠を妨害するほど、匂いが充満していたらしい。
「もうできていますけど、すぐ食べられますか?」
「おう!」
「お願いします」
起こしてしまったのなら仕方がない。少し早いけれど、エヴァンさんもスコットさんも寝起きでも食べられるようなので、すぐに朝ご飯にする。
「「ん~~~」」
「美味い!」
「美味しいです!」
スープは好評で、多めに作ったのだが……鍋はすっからかんになった。
「あ~、ちょっと食い過ぎたな。腹ごなしに少し準備運動でもするかな。ちびっ子、軽く剣の稽古でもするか?」
「「する!」」
エヴァンさんが食後の運動に子供達を誘うと、子供達は大喜びで立ち上がる。
「エヴァン、これから移動ですから、ほどほどにしてくださいよ」
「わかってるさ」
スコットさんの注意を受けて、エヴァンさんも頷いていたのだが……しばらく見ていると、準備運動の域を超えて本格的な訓練になりかけていたので、それを慌てて止める。
そして気を取り直して、僕達はフレアトータスを探して海岸へと移動を始めた。
「「トータス♪ トータス♪ どこにいる~♪」」
「平和だな~」
「そうですねぇ~」
楽しそうに歌いながら歩く子供達を見て、エヴァンさんとスコットさんが和んでいる。
「「おにーちゃん、フレアトースターどこにいるかなぁ~」」
「「ぶっ!」」
「「んにゅ?」」
子供達の言葉にエヴァンさんとスコットさんが噴き出す。
そして、そんな反応をされてアレンとエレナは不思議そうに首を傾げていた。
「……アレン、エレナ、わざとか?」
「「んにゅ?」」
「歌ではちゃんと言っていたのに、今はフレアトースターって言っていたぞ」
「「あれぇ~?」」
アレンとエレナは傾げていた首を、今度は反対側に傾げ直して考え込む。
わざとではなかったようだ。
「「まちがえちゃった!」」
二人は舌をペロッと出し、誤魔化すように笑った。それはもう〝てへっ〟という台詞が似合いそうな笑顔だった。
「だな。トーストが食べたかったわけじゃないよな?」
「「サンドイッチがいい~」」
「ははっ、そうか」
エーテルディアには食パンがなかったから、トースターやそれに似た魔道具はない。だから、単純に言い間違いだろう。まあ、僕が作ったので子供達はトーストの存在を知っているんだけどね~。
そんなことを考えながら何となく聞いてみたけど、食べたかったわけでもないようだ。
「「うん、ごはんしよー」」
アレンとエレナが満面の笑みでお腹をさすってみせる。
「ご飯にはまだ早いだろう」
「「えへへ~」」
「わかっていて言っただろう?」
「「うん、いってみた~」」
「もう~」
最近、ずる賢いことを言うようになってきたな~。これも成長か?
「お昼ご飯は海岸に着いてからだよ」
「「じゃあ、はしる~」」
「えっ!? ちょっと待てっ!」
海岸に着いたらお昼ご飯と聞いた途端、子供達は少しでも早く海岸へ行こうと走り出した。
「エヴァンさん、スコットさん、すみません! 先に行きます」
「大丈夫だ、俺達も行く」
「そうですね」
僕がエヴァンさん、スコットさんに声を掛けながら走り出すと、二人も後ろから追ってきた。
「あの様子だと、海岸まで止まりませんよ。いいんですか?」
「おいおい、俺達のこと甘く見るなよ。海岸まで走るくらい軽いさ」
「ええ、問題ありません」
そんな二人にホッとしながらアレンとエレナを追いかけたが……子供達は本当に、海岸まで止まらずに走り切った。
「「ついたー」」
「こ~ら~。勝手な行動をするなよ~」
「「うにゅにゅにゅ~」」
僕は子供達の口を手のひらで覆うようにして、頬を指で挟むと、強めに揉みこむ。
「エヴァンさんとスコットさんに迷惑を掛けたんだから、まずは謝りなさい!」
「「はーい。――ごめんなさ~い」」
「いいって」
「謝罪を受け入れましょう」
アレンとエレナが素直に謝罪すると、エヴァンさんとスコットさんは快く許してくれる。
「ははっ、こうやって見ると普通の子供だな」
「そうですね。でも、逆に安心しました」
「あ、それは同感」
許してくれるどころか、何故か安心している。
まあ、とんでもないことばかり起こしていたから、普通な部分があって安心したのだろう。
「……はぁ~」
だけどそうだよな~。アレンとエレナが良い子過ぎるだけで、普通の子供は我儘を言ったり、勝手な行動を取ったりするもんだよな~。
「「おにーちゃん、おにーちゃん」」
アレンとエレナが、服を引っ張って呼んでくる。
「ん? 何だ?」
「「おにーちゃん、ごめんなさ~い」」
子供達は僕にも謝ってくる。僕が溜め息を吐いたからか、少ししょんぼりしていた。
「「おこってる?」」
「怒ってないよ」
心配そうに見上げてくるので、僕は子供達の頭を撫でて抱き上げる。
「で~もぉ~。僕達だけの時ならいいけど、一緒に行動する人がいる時は駄目! 今後はもうやらないように、いいね!」
「「はい!」」
怒ってはいないがしっかりと注意だけはしておくと、子供達も挙手して返事をした。
「よし、良い返事! ――じゃあ、エヴァンさん、スコットさん、少し早いですけど、休憩がてらお昼にしていいですか?」
「いいぞ」
「私も構いませんよ」
「「やったー。サンドイッチ!」」
サンドイッチを早く食べるために走った子供達は大喜びだった。
そして、ご飯を食べた後、僕達はあっさりフレアトータスを見つけ、さっくり倒し、目標を達成したので街へと戻ることにした。
第二章 親交を広げよう。
街に戻った僕達は、門から冒険者ギルドまで行く途中、もの凄く注目を浴びた。
何故かと言えば、子供達の頭の上や腕に九匹のパステルラビットがいるからだ。
『……』
僕達が冒険者ギルドに入った途端、喧騒に包まれていた空間が静まり返った。
「やっぱりこうなったか~」
「そうですね。予想の範囲内ですけど……」
エヴァンさんとスコットさんが溜め息を吐く。
「エヴァン! スコット!」
「ん? ああ、おっさんか」
「メレディスさん、どうかしましたか?」
「どうかしたかって……それは俺が聞きたい! そいつらはおまえの連れだろう!? 何だよ、その状況は!」
エヴァンさんとスコットさんの知り合いらしき冒険者が声を掛けてきたのだが、どうやらアレンとエレナのことが見過ごせなかったらしい。
「「むぅ! ゆびさしちゃだめなんだよ!」」
僕によく注意されるので、二人は指を差されたことを注意する。
「す、すまん」
「「いいよ~」」
アレンとエレナが勢いよく注意したからか、冒険者――メレディスさんは素直に謝罪した。というか、ほんのりヘコんでいる?
そんな相手を見て、子供達もあっさりと許してへにゃりと笑う。
「おっさん、それで用件ってパステルラビットのことか?」
「ああ、そうだ。俺も一時期探していたんだが、全然見つからなかったんだよ。だから、この辺にはいないと判断したんだ。それなのに、何だよこれは!」
「何だよ、おっさん。借金でもしたか? それで大金を狙ったのか?」
「違ぇーよ。俺は日々堅実に依頼をこなし、質素な生活を送っているわ! そうじゃなくて、うちの娘が欲しがったんで、依頼のついでにあちこち探したんだよ!」
「ああ、そういえば、おっさんは妻子持ちだったもんな。忘れてたわ」
「忘れんなよ!」
メレディスさんは、娘さんのためにパステルラビットを探していたようだ。
というか、エヴァンさんはメレディスさんとずいぶんと仲が良いな。
ただ、僕だけが話に置いてけぼりなのでちょっと居心地が悪い。
「あの……エヴァンさん?」
「ああ、すまん。タクミ、このメレディスのおっさんはこの街の冒険者で、たまに飲む仲なんだ」
「へぇ~、飲み仲間ですか? ――どうも、初めまして、僕はタクミです。この子達はアレンとエレナ」
「「よろしく~」」
「お、おう、俺はメレディスだ」
僕はエヴァンさん達の会話に割り込んで挨拶を済ませると、メレディスさんの用件を聞くことにした。
「それで、メレディスさんは、パステルラビットが欲しいんですか?」
「欲しいことは欲しいんだが、パステルラビット捕獲の依頼を出してまで手に入れるほどの財力はない。だから、見つけた場所を教えてもらおうと思ったんだよ」
パステルラビットの捕獲って、依頼で出すとかなり高いもんな~。なので、依頼を出しているのは裕福層ばかりだ。
「ああ、そういうことですか。場所を教えることは問題ないんですけど……」
「な、何だ?」
「「んにゅ?」」
僕はメレディスさんをじっくり観察し、次に子供達を見る。
「ん~、大丈夫か? じゃあ、ちょっと待っていてください……いや、一緒に来てください」
エヴァンさんとスコットさんと仲が良く、子供達もまったく警戒していないならいいだろう。
僕はメレディスさんを伴って受付に向かう。
「すみません。パステルラビットの依頼書を全部集めてもらうことはできますか?」
「ええ、少々お待ちください」
ちょうど空いていた受付のお姉さんに依頼書を集めてもらうようにお願いすると、快く引き受けてくれた。
「お待たせしました。全部で三十四枚ありますね」
しかも、お姉さんの仕事は速く、すぐに依頼書を集めて戻ってくる。
「三十四枚!? これはまた多いな~。あ、依頼書を一枚作ってもらえますか? 依頼人はメレディスさんで、依頼内容はパステルラビットの捕獲、依頼料は最低料金でいいので」
「お、おい、どういうことだ?」
僕の言葉に、隣にいるメレディスさんが困惑の声を上げる。
「運試しをしませんか?」
「運試し?」
「ええ、とにかく依頼書を作ってください」
「お、おう……」
僕の有無を言わせない態度に、メレディスさんは言われた通りに依頼書を作る。
その間に、僕は他の依頼書をざっと確認しておく。まあ、特に問題はなさそうだ。
すると、スコットさんが声を掛けてきた。
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