異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~

水無月 静琉

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書籍該当箇所こぼれ話

閑話 カイザーの転機

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 我は海の覇者・リヴァイアサン。水神様の眷属でもある。
 我は基本、海を漂い気ままに過ごしておる。
 そんなある日、彼の地にいる同胞から連絡が来た。

(聞こえますか?)
(うむ、聞こえておるぞ。この声は長殿か?)

 連絡をしてきたのは我と同じ水神様の眷属であり、複数おる眷属達を纏める長殿だった。

(貴方に人の子供を保護して貰いたいのです)

 人の子を? 我が?

(保護とな? その子とやらは一体?)
(水神様の御子です)
(何とっ! 水神様の御子!)

 水神様に御子がおったことには驚いた。そんな話しは今まで聞いたことがなかった。
 ……ん? ちょっと待て、保護……とな?
 長殿は確かにそう言っておった。ということは、その御子が地上におるということか?

(御子が何故、地上に?)
(人との間に生まれた子なのです)
(っ!?)

 なんと! 人との子かっ!!

(しっかりと水神様の力を継いでおります)
(それならば水神様が引き取ってくださるのでは?)
(生憎と水神様は現在、不在でして……)

 不在か……。
 こう言ってはなんだが、水神様はおなごが好きな方だ。現在もきっと、おなごと出かけておるのだろう。

(さすがに私が連れ出すわけにはいかないのです。しかし今、子のいる環境が良くないのです。ですので、早々に手を打ちたいのです)

 確かに、人の世に神の子を置いておくのは危ないかもしれぬ。しかし……――

(……連れ出すだけで良いのか?)
(できれば、育てていただきたいのです)

 我には子がおらぬので、そもそも子育てというのは知らん。というより、我の種族はあまり子育てをせぬ。子が勝手に育つのでな。

(人の子を放置すれば死んでしまいます。食事は必要ですし)

 うむ……。

(ああ、餌か? 餌を与えればよいのだな。海の中には魔物が多数おるので、それらを与えればよいのだな?)
(人の子は魔物をそのままで食べることはあまりしません。それにまだ赤子ですから、魔物では駄目ですね)

 では一体、子は何を食すのだ? …………我には無理ではないか? 余計に環境が悪くなりそうだ。心苦しいが……これは断るしかあるまいな。


◇ ◇ ◇


 ある日突然、不思議な気配を感じたので、その気配のもとへ向かってみることにした。
 すると、そこには風神様の眷属がおった。しかも、少し前に長殿が言っていた水神様の子を一緒に連れているではないか。
 我が保護を断っても大丈夫だったのだな。それは重畳。

《ここで出会ったのも何かの縁だ。困った時は我が力を貸そう》

 少し話したところ、風の眷属の者はまだ若い者だったようなので、困ったことがあれば手助けすることにし、契約することにした。
 仮契約とはいえ、契約することなど初めてだが……これも良い経験になろう。


◇ ◇ ◇

 ……そういえば、タクミとあの子らはどう過ごしているだろうか?
 ふと、少し前に契約した風の眷属であるタクミのことを思い出した。
 海の近くから離れると【念話】で話して以来、音沙汰はない。元気なのだろうか……と気になり出したら、何故だか落ち着かなくなった。
 我はすぐにタクミに渡してあった鱗に宿った魔力の在処を辿ってみた。すると、残念ながら海の傍にはいなかった。それでは会うことは叶わぬと思ったが、その時あるスキルのことを思い出した。

《む?》

【人化】スキルというものを取得していることを思い出し、早速試してみたが、なかなか使いこなすことが難しかった。

「できたか? ――……む?」

 人化に成功した! と思っても数分で元の姿に戻ってしまうのだ。
 人の姿になれば会いに行けると思ったが……簡単にはいかないようだ。
 いっそのこと、タクミをこちらに呼ぼうかと思ったが、逆召喚は契約者しか呼べぬため、子達と引き離してしまうことになる。タクミと子達を離れ離れにするのは本意ではないので、今は諦めておこう。

「……少しは慣れたかの?」

 我はしばらくの間、集中的に【人化】スキルを使い、熟練度を高めていった。
 初めは早々に人化を諦め、タクミに念話で連絡しようかと思ったが、それよりも人化を極め、タクミに黙って会いに行き、驚かせたほうが楽しそうであると思ったからだ。

「よし、これなら会いにいっても大丈夫よの」

 訓練なんぞ久方ぶりだったが、目標があると実に楽しく訓練ができ、しばらくもすれば数日間は確実に人化できるようになった。これならタクミに会いに行っても問題ないだろう。

「む? でも、その前にどこかで服とやらを調達せねばならんな」

 しかし、会いに行く前にまずは準備を整えなくてはならん。人族は裸では出歩かないはずだからな!
 さて、どうするかのぅ。タクミと縁のある蒼海宮の人魚族なら話ができるかもしれんし、まずはそこへ行ってみるとするか。

「お似合いですわ」
「うむ、助かった。これでタクミに会い行けるな」

 早速、我は蒼海宮を訪れてみた。
 本来の姿で訪れたため、蒼海宮の者は驚いていたが、タクミの知り合いだと申せば納得した様子を見せ、人魚族の服では人族の街では目立つということで、工夫を凝らして人族風の服をあつらえてくれた。
 これで準備が整ったな。

「羨ましいですわ~。私もタクミ様にお会いしたいですわ。無事にお会いできましたら、こちらにも遊びに来ていただけるようにお伝えくださいませ」
「うむ、伝えておこう」

 人魚族は限られた人族としか交流を持たぬ。その少数の者でも深く関わろうとはしない。
 しかし、タクミは違うようだ。気に入られていると、我にでもわかる。我もそうだし、きっとタクミには我らを惹きつける何かがあるのかもしれないな。

「世話になったな。今度何か礼をしよう」
「お気になさらないでくださいませ」
「そういうわけにはいかぬ。何か考えておけ」

 せっかくタクミが繋いだ縁であるし、また世話になるかもしれぬからな。これからはここの者達のことを気にかけるようにしておこうかの。





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