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書籍該当箇所こぼれ話
閑話 カイザーの冒険
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魔力を辿り、タクミのいるであろう街はすぐに見つけられた。
しかし、我との行く手を阻むように、街をぐるっと壁で覆われておる。何か所か人が通れそうな場所はあったが、確か中に入るには身分証とやらの確認があったはずだ。となると、身分証を持たぬ我は入れない。入口以外となると――
「……この壁を壊して通っては駄目であろうな」
いや、待てよ。
「ふむ……」
このくらいの高さなら飛び越えられそうだな。幸いにもここら辺は人の気配はせぬ。
やるしかないなとばかりの状況であったので、我は軽く助走をつけて上へ目がけて飛んだ。飛び越える……と言うには少々高さが足りなかったが、壁の上に手が掛けられるくらいまでは飛べたので、手の力も利用して、無事に街の内側へと着地した。
「ふむ、いけたな。身体の使い方にもだいぶ慣れてきたということか」
まだまだこの身体を使いこなしているとは言えぬが、違和感は覚えないくらいにはなったかのぅ。
「さてと、タクミは……あっちのほうか」
早速、タクミがいる方向へと歩くと、すぐにぽつりぽつりと人とすれ違うようになり、あっという間に視界いっぱいに人、人、人! さすがにこれほどの人を見るのは初めてである。
人族が数が多いというのは知識としてはあったが、一ヶ所にこれほどの数が集まっておるのだな~。なかなか新鮮な光景である。
「ぬ?」
見慣れる光景に目を取られていると、いつの間にかタクミの持つ我の魔力が移動していたことに気がついた。どうやらタクミは街の中を動いているようである。
建物の中にいると、顔を合わせるためにどうやって突撃するが悩むところだが、出歩いているのなら好都合だと思い、我は急いでタクミのもとへと向かった。
「お、いたいた。タクミ、久しぶりだな」
「……?」
ちょうど良いことにタクミも我がいるほうへ向かっていたらしく、すぐに相まみえることができたので、我は嬉しくなり声を掛けるが、タクミは我を見て不思議そうな顔をする。
どうやら我のことがわからないようだ。まあ、当たり前だがな。
「アレンとエレナも元気そうだな」
「「うにゅ?」」
子らにも声を掛けてみるが、こちらも不思議そうな顔だ。
「えっと……どちら様でしょうか?」
「我だ、我。カイザーだ」
「え、ええっ!? カ、カイザー!?」
「「カイザーなの?」」
三人は非常に驚いたような顔をした。
うむ、うむ。これが見たかったのだ!
「本当にカイザーだね! え、何で人の姿をしているんだ」
「ん? タクミは【人化】のスキルは知らんのか?」
「「「じんかー?」」」
「人になるという意味だな」
「ああ、人化ね!」
「「すごいね~」」
「凄いであろう~」
タクミは【人化】スキルの存在を知らなかったらしく、素直に賞賛してくれた。
「…………なぁ、カイザー、そのスキルは最近取得したのか?」
「ん? 以前から持っておったぞ」
「そうか、そうなんだ。それならさ、カイザーに聞きたいことがあるんだけど……」
「ん? 何だ?」
「アレンとエレナの保護を頼まれた時、【人化】スキルは取得していた?」
「…………取得しておったな」
しかし、タクミが我が少しも考えてなかったことに思い至ったようだ。
そうさな、今回のように人化して街に来れば、長殿に頼まれた時に街を破壊せずとも子供達を保護することは可能だったな!
「すまなかった! あの時はすっかりこのスキルのことは忘れたおったのだ!」
我は即座に謝罪することを選んだ。
タクミの表情が少々不穏だったのでな!
「……怒っておるか? そのな、言い訳になってしまうが、我が初めて人化したのはタクミに会った後なのだよ」
「僕と会った後? じゃあ、それまでは一度もスキルを試したことはなかったのか?」
「うむ。人化することに興味がなかったのでな」
「そうなんだ。じゃあ、何で急にスキルのことを思い出したんだ?」
「タクミと知り合い、仮とはいえ契約を交わし、縁を繋いだことで、我は無性にタクミに会いたくなってな」
「え……そうなんだ」
本当のことを素直に伝えればタクミはそれ以上追及はしてこなかった。
それどころか、せっかく来たのだからと我をいろいろな場所へと案内してくれたり、美味しいものを食べさせてくれた。
人族の生活は興味深いものがたっぷりとあり、我は楽しい時間を過ごした。
◇ ◇ ◇
人化の限界が来る前にタクミ達とは別れ、我は人気のない海岸までやって来た。
「もう少しなら余裕はありそうだな」
人目のあるところで人化が解けるような失態はせずに済んだようだ。
しかし、タクミと共に行動しようとするのであれば、もう少し長い時間人化していられるようにしなくてはならんな。そこは要訓練ってとこだな。
「ここなら良いだろう!」
我は腰を落ち着かせられる場所でレイ酒という飲みものを鞄から取り出した。
この酒というものが美味しいかどうか子らに聞いてみると、渋い顔をして全力で首を横に振っておったが、タクミが言うには大人の飲みものらしい。
迷宮で見つけた時、その場で飲んでみたかったが、タクミから全力で止められた。何故かわからなかったが、タクミが必死そうであったので、渋々諦めた。
しかし、タクミはマジックバッグを貸してくれ、それにレイ酒をたんまりと持たせてくれたのだ。
タクミはできれば人気のないところで飲んでみてくれて言っておったが……どうしてなのか。
「おぉ、これは美味いな~」
早速、我はレイ酒を飲んでみたが、今まで飲んだことがない味わいだった!
「これはどんどん進むな」
大樽で十個ほど持たせてくれたので、一度でひと樽としても十度は楽しめるな!
マジックバッグは便利よの~。もちろん、存在は知っておったが、我にはものを持ち歩くという習慣がないため、使う必要性を感じなかった。そのため、今まで使う機会はなかったが……使ってみると便利としか言いようがない。
タクミの話によれば、時間経過が遅くなるものもあるらしい。それであれば、料理などを入れておいても腐る心配がないと言う。しかも、鞄型ではなく同じ機能の装飾品もあるようなので、今度はそれを探してみるのも一興かもしれぬな。
「む? ……身体が――」
樽の半分くらいの酒を飲んだところで、何故か人化が解けてしまった!
人化の限界まではまだあったと思ったが……これはあれか? タクミが心配していたのは、スキルの制御ができなくなることを見越してだったか! タクミは慧眼であるな~。
元の身体でも酒は飲めぬことはないが、あっという間になくなりそうだな。ここは我慢して、また人化した時に楽しむことにしよう。
しかし、我との行く手を阻むように、街をぐるっと壁で覆われておる。何か所か人が通れそうな場所はあったが、確か中に入るには身分証とやらの確認があったはずだ。となると、身分証を持たぬ我は入れない。入口以外となると――
「……この壁を壊して通っては駄目であろうな」
いや、待てよ。
「ふむ……」
このくらいの高さなら飛び越えられそうだな。幸いにもここら辺は人の気配はせぬ。
やるしかないなとばかりの状況であったので、我は軽く助走をつけて上へ目がけて飛んだ。飛び越える……と言うには少々高さが足りなかったが、壁の上に手が掛けられるくらいまでは飛べたので、手の力も利用して、無事に街の内側へと着地した。
「ふむ、いけたな。身体の使い方にもだいぶ慣れてきたということか」
まだまだこの身体を使いこなしているとは言えぬが、違和感は覚えないくらいにはなったかのぅ。
「さてと、タクミは……あっちのほうか」
早速、タクミがいる方向へと歩くと、すぐにぽつりぽつりと人とすれ違うようになり、あっという間に視界いっぱいに人、人、人! さすがにこれほどの人を見るのは初めてである。
人族が数が多いというのは知識としてはあったが、一ヶ所にこれほどの数が集まっておるのだな~。なかなか新鮮な光景である。
「ぬ?」
見慣れる光景に目を取られていると、いつの間にかタクミの持つ我の魔力が移動していたことに気がついた。どうやらタクミは街の中を動いているようである。
建物の中にいると、顔を合わせるためにどうやって突撃するが悩むところだが、出歩いているのなら好都合だと思い、我は急いでタクミのもとへと向かった。
「お、いたいた。タクミ、久しぶりだな」
「……?」
ちょうど良いことにタクミも我がいるほうへ向かっていたらしく、すぐに相まみえることができたので、我は嬉しくなり声を掛けるが、タクミは我を見て不思議そうな顔をする。
どうやら我のことがわからないようだ。まあ、当たり前だがな。
「アレンとエレナも元気そうだな」
「「うにゅ?」」
子らにも声を掛けてみるが、こちらも不思議そうな顔だ。
「えっと……どちら様でしょうか?」
「我だ、我。カイザーだ」
「え、ええっ!? カ、カイザー!?」
「「カイザーなの?」」
三人は非常に驚いたような顔をした。
うむ、うむ。これが見たかったのだ!
「本当にカイザーだね! え、何で人の姿をしているんだ」
「ん? タクミは【人化】のスキルは知らんのか?」
「「「じんかー?」」」
「人になるという意味だな」
「ああ、人化ね!」
「「すごいね~」」
「凄いであろう~」
タクミは【人化】スキルの存在を知らなかったらしく、素直に賞賛してくれた。
「…………なぁ、カイザー、そのスキルは最近取得したのか?」
「ん? 以前から持っておったぞ」
「そうか、そうなんだ。それならさ、カイザーに聞きたいことがあるんだけど……」
「ん? 何だ?」
「アレンとエレナの保護を頼まれた時、【人化】スキルは取得していた?」
「…………取得しておったな」
しかし、タクミが我が少しも考えてなかったことに思い至ったようだ。
そうさな、今回のように人化して街に来れば、長殿に頼まれた時に街を破壊せずとも子供達を保護することは可能だったな!
「すまなかった! あの時はすっかりこのスキルのことは忘れたおったのだ!」
我は即座に謝罪することを選んだ。
タクミの表情が少々不穏だったのでな!
「……怒っておるか? そのな、言い訳になってしまうが、我が初めて人化したのはタクミに会った後なのだよ」
「僕と会った後? じゃあ、それまでは一度もスキルを試したことはなかったのか?」
「うむ。人化することに興味がなかったのでな」
「そうなんだ。じゃあ、何で急にスキルのことを思い出したんだ?」
「タクミと知り合い、仮とはいえ契約を交わし、縁を繋いだことで、我は無性にタクミに会いたくなってな」
「え……そうなんだ」
本当のことを素直に伝えればタクミはそれ以上追及はしてこなかった。
それどころか、せっかく来たのだからと我をいろいろな場所へと案内してくれたり、美味しいものを食べさせてくれた。
人族の生活は興味深いものがたっぷりとあり、我は楽しい時間を過ごした。
◇ ◇ ◇
人化の限界が来る前にタクミ達とは別れ、我は人気のない海岸までやって来た。
「もう少しなら余裕はありそうだな」
人目のあるところで人化が解けるような失態はせずに済んだようだ。
しかし、タクミと共に行動しようとするのであれば、もう少し長い時間人化していられるようにしなくてはならんな。そこは要訓練ってとこだな。
「ここなら良いだろう!」
我は腰を落ち着かせられる場所でレイ酒という飲みものを鞄から取り出した。
この酒というものが美味しいかどうか子らに聞いてみると、渋い顔をして全力で首を横に振っておったが、タクミが言うには大人の飲みものらしい。
迷宮で見つけた時、その場で飲んでみたかったが、タクミから全力で止められた。何故かわからなかったが、タクミが必死そうであったので、渋々諦めた。
しかし、タクミはマジックバッグを貸してくれ、それにレイ酒をたんまりと持たせてくれたのだ。
タクミはできれば人気のないところで飲んでみてくれて言っておったが……どうしてなのか。
「おぉ、これは美味いな~」
早速、我はレイ酒を飲んでみたが、今まで飲んだことがない味わいだった!
「これはどんどん進むな」
大樽で十個ほど持たせてくれたので、一度でひと樽としても十度は楽しめるな!
マジックバッグは便利よの~。もちろん、存在は知っておったが、我にはものを持ち歩くという習慣がないため、使う必要性を感じなかった。そのため、今まで使う機会はなかったが……使ってみると便利としか言いようがない。
タクミの話によれば、時間経過が遅くなるものもあるらしい。それであれば、料理などを入れておいても腐る心配がないと言う。しかも、鞄型ではなく同じ機能の装飾品もあるようなので、今度はそれを探してみるのも一興かもしれぬな。
「む? ……身体が――」
樽の半分くらいの酒を飲んだところで、何故か人化が解けてしまった!
人化の限界まではまだあったと思ったが……これはあれか? タクミが心配していたのは、スキルの制御ができなくなることを見越してだったか! タクミは慧眼であるな~。
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