異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~

水無月 静琉

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17巻

17-3

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「「ていや!」」

 アレンとエレナは、再びジャイアントグラスホッパーの大群と遭遇し、しっかりと力加減を調整してトンボ玉を入手していた。

「「おにぃちゃん、たからばこがでた~」」
「え、本当?」

 しかも、ドロップアイテムで宝箱が出てきたようだ。

「うむ、罠はないようだ。開けても問題ないぞ」
「「ありがとう~」」

 近くにいたカイザーがすぐに罠の有無を確認すると、アレンとエレナは宝箱を開ける。

「何が入っていた?」
「「うでわ~」」
「ふむ。これは……マジックリングだな」
「えっ、本当!?」
《おぉ~、凄いじゃん》

 僕も手に入れたマジックリングを見るために子供達のところに向かおうとすると、ジュールが〝ほらね〟と言わんばかりの表情をしていた。

「ジュール、予知能力のスキルでも手に入れたかい?」
《ははは~、それは手に入れてないかな~》

 ジュールは否定していたが、本当に予知したような凄いタイミングであった。

「「おにぃちゃん! みてみて~」」
「アレン、エレナ、凄いな~。――カイザー、時間経過と容量はどんな感じだった?」
「うむ、なかなか良い機能っぽいぞ」
「おぉ~、ますます凄いじゃん!」

 時間経過も容量も申し分ない機能だったようだ。

「「これは、ジュールだね!」」
《ボクでいいの?》
「「うん!」」
「そうだね。それはジュールが使って」

 アレンとエレナが差し出したマジックリングをジュールは嬉しそうに受け取っていた。

「「まだまだみつけるぞー!」」

 そんなやり取りを見ていたラジアンが羨ましそうにしていたので、アレンとエレナはやる気をみなぎらせていた。


 ◇ ◇ ◇


「「もりだね~」」
「そうだな。緑のガラスの森だ。予想通りだな」

 二十一階層、二十二階層でもたっぷりとトンボ玉を集め歩いた僕達は、二十三階層へとやって来た。
 すると、そこは予想通りの何もかもが緑のガラスでできた森であった。
 というか、食事、おやつ、睡眠と……それなりの休憩時間を取っているのに、かなりの速度で攻略が進んでいる。この迷宮は上級だが、かなり攻略しやすいんだよな~。

《よそうどおりだ~。わ~い》
「ラジアン、まて~」
《わぁ~》

 突然ラジアンが嬉しそうに走り出すと、その後をアレンが追いかけていき、近くの木の周りをくるくると回り出した。

《あら、このお花は可愛いわ~》
「わ~、みどりのおはなだ~。きれ~」

 こちらではフィートが見つけた緑のガラスの花を見て、エレナはうっとりしている。
 やはり女の子だな。

「おにぃちゃん、あつめていい?」
「もちろん、いいよ。集めて花束にしたものを花瓶にして部屋に飾るといいんじゃないか? あ、装飾品に加工してもいいぞ。それに、これはレベッカさん達へのお土産にもよさそうだな」
「うん!」
《エレナちゃん、手伝うわ》
《わたしも手伝うの!》

 エレナとフィート、マイルが花集めを始めると、追いかけっこをしていたアレンとラジアンも急いで駆けつけてくる。

「《なにしてるのー?》」
「おはなあつめだよ~。おみやげにするの~」
「おぉ~、アレンもてつだう!」
《ラジアンも!》

 花自体にはあまり興味がなかったアレンとラジアンも、お土産ならとエレナ達と一緒に花集めを始めた。

「このくらい?」
「そうだな。かご一つ分もあれは十分だよ。だって、他の色も集めるだろう?」
「そっか! 四しゅるいあるもんね」
「そうそう。もちろん、全部集めるよね?」
「うん!」

 エレナが緑の花で一杯にした籠を抱えて駆け寄ってきたのだが、〝足りるかな?〟という不安そうな表情をしていた。なので、赤、青、透明の花もあれば大丈夫だと伝えると、嬉しそうに笑う。

「それじゃあ、花を集めるためにもまずはこの階層の攻略だな」
「「おー!」」

 入口近くで花集めを終えた僕達は、二十三階層の攻略を始めることにした。

《……たからばこ、ないよ~》

 その攻略の道中、ラジアンがかなり真剣に宝箱を探していた。二十階層でジュール用のマジックリングを見つけたので、次は自分のだと張り切っているのだ。

「さすがにそう簡単には見つからないんじゃないかな~」
《むぅ~》

 だが、残念ながら宝箱は見つけられていない。
 今回の攻略ではもう既に二個の宝箱を発見している。それも、中身はかなり有用な魔道具だ。なので、僕はたとえ宝箱を発見できても、魔道具の可能性は少ないのではないかと思っている。

「アレン、がんばるよ!」
「エレナもがんばる!」

 アレンとエレナは、落ち込むラジアンを撫でながらなぐさめている。

「おぉ、宝箱があったぞ~」
《ほんとう!?》

 その時、タイミング良くカイザーが宝箱を発見したようだ。

「ふむ、罠もないようだ。ラジアン、開けても良いぞ」
《わ~い》

 カイザーはラジアンを呼び寄せると、ラジアンに開けるのを任せる。
 何だかカイザーは、面倒見の良い兄貴分になりつつあるよな~。

《なにかな~?》
「「なにかな~?」」
《……うぅ~》
「「ラジアン!?」」

 宝箱の中身は希望のものじゃなかったのか、ラジアンが泣きそうになっていた。

「えっと……何が入っていたんだ? 鑑定する前に悲しんでいるってことは、魔道具ではなかったのかな?」
《……おさかなだった~》
「そうか……魚だったか」

 ラジアンの脇から宝箱の中身を見てみると、ヒラメのような魚がびっしりと詰まっていた。
 せめて何かの道具であったのなら、まだ少しはわくわく感があったのかもしれないが……魚ではラジアンもひと目で違うとわかるよな~。

「残念だったな。そうだ、おやつを食べようか。甘いものを食べて気分を変えてから、もう一度宝箱探しをしようか」
《……たべる~》
「ラジアンが食べたいものを用意するよ。何がいい?」
《えっと、えっと……》
「「ラジアン、ラジアン。プリンはどう?」」
《プリン? なにそれ! たべる~》

 ラジアンの食べたいおやつにする予定だったが、アレンとエレナが推薦……というか誘導したプリンに決まった。
 まあ、ラジアンは今までアレンとエレナが食べてきた甘味系を全部食べているわけではないので、これはこれでいいのかな?

《おいしぃ~》
「うむ、これも美味い!」

 ラジアンもだが、ハズレの宝箱をラジアンに勧めてしまって少し落ち込んでいたカイザーもプリンで気分を復活させていた。

《いこう~》
「うむ、行こう!」
《たからばこ、みつけるぞ~》
「よし、ラジアン。我とあちらを探しに行くぞ!」
《うん!》

 しかも、落ち込みと復活を共有したラジアンとカイザーは、仲良く宝箱探しを再開させていた。

「「いっちゃったー?」」
「行っちゃったな。まあ、カイザーが一緒だから、ラジアンが怪我をしてしまう……っていう心配はないのかな?」
《カイザーは強いからね~。でも、このまま先に行かせちゃったら、迷子の心配はありそうじゃない?》
「「「あっ!」」」
「追いかけよう」
「「おいかける~」」

 急に仲良くなったな~……と、ラジアンとカイザーの後ろ姿を眺めていると、ジュールがこのまま行かせて良いのかと指摘してきた。
 ジュールの言っていることはもっともだったので、僕とアレンとエレナは、慌ててラジアンとカイザーの後を追いかけることにした。

「「いた!」」
「良かった。そんなに遠くに行っていなかった」

 僕達はすぐに追いついたのだが、ラジアンとカイザーは何故か揃って木の根元を覗き込むようにしていた。

「何をしているんだ?」
「お、タクミ、良いところに来た。グラスバタフライというものがいたのだが、これは倒すべきものだろうか?」
「ん? グラスバタフライ? ということは、ちょうか?」

 カイザーが示すところを見てみると、緑の木に擬態ぎたいするように小さな蝶がいた。

「「おぉ、ちいさいね~」」
「一応、魔物の分類だけど……普通に蝶みたいだな」

 僕の手のひらよりもかなり小さな蝶は、どう見ても害はなさそうな魔物である。
 カイザーに指摘されなかったら、存在にも気づかなかっただろうな。

《てい!》

 突然、ラジアンがグラスバタフライを軽く突いてみた。すると、たったそれだけでグラスバタフライは死んでしまったようで、ぽとりと落下した。

「……ずいぶんとまあ……はかない魔物だな~」
《あれ? もどってきたよ~?》
「え?」
「「いきかえった?」」
「いやいや、それはないだろう」

 軽く突いた程度で死んでしまったことに驚きつつ、ドロップアイテムは何が出るのかとみんなで見つめていると、何故かもう一度グラスバタフライが現れたのだ。

「えっと……あ、これがドロップアイテムっぽいな」

 もう一度現れたグラスバタフライに触れてみると、それは動く気配のない細工物だった。

「同じ蝶の形のガラス製品か。凄いな」
「これ、かわいいね~」
「エレナ、気に入ったんだ」
「うん!」
《じゃあ、エレナおねーちゃんにあげる~》
「ラジアン、ありがとう~」

 間違いなく女の子は好きそうな造形の細工物で、誰かが言い始めたわけではないのだが……やはりというか何というか、グラスバタフライ狩りが開始された。

《兄様、蝶の細工って何個集まったのかしら?》
「今は五個だね」
《足りないわね》

 しかし、グラスバタフライの擬態はかなり優秀であるのか、なかなか難航していた。
 エレナ、フィート、マイルで三つ。お土産用にルーウェン家の女性分三つで、少なくとも六個は必要なのだろう。

「あと、一個は欲しいよな~」
《あら、兄様、もっと欲しいわ》
「え、そうなの?」
《そうよ。ルーウェン家にお土産にするのなら、リスナー家にも渡さないとだわ。それに、もしかしたら、王妃様とか王太子妃様の分も必要になるかもしれないでしょう? 他にも知人女性へのお土産にも使えそうですもの。集められるだけ、集めましょう》
「……頑張ります」

 確かに、ルーウェン家と同じく後見してくれているリスナー家にも必要だろう。
 僕よりもフィートのほうがしっかりしているんではないかと、改めて思った瞬間だった。


《このくらいあれば、何かあっても問題ないわね》

 緑色の小さな蝶は、あれから時間をかけて何とか追加で十匹ほど見つけたところで、フィートは満足してくれたようだ。

「……思ったよりも擬態が凄くて、見つけるのが難しかったな~」
「「むずかしかったね~」」
《たおすのはかんたーん》
「そうだな。指で突くだけで倒せるもんな~」

 グラスバタフライは攻撃力、防御力がほとんどない魔物だが、ただひたすらに見つからない。
 まあ、だからといって無害ってわけではなく、血を好む魔物らしいけど。

《この迷宮は面白いわね~。とても綺麗きれいなものが多くて嬉しいわ~》
《わたしもそう思うの! 綺麗なのがいっぱいで素敵なの!》
「つぎはあかいろだね!」
《そうね。緑よりも赤い蝶のほうが可愛いと思うから、頑張って探しましょうね》
「うん!」
《頑張るの!》

 これから今いる階層の攻略を始めるところだが、女の子組は既に次の階層に気持ちが行っている。

「……とりあえず、先に進もうか」
「あ、そうだったね」
《あらあら、そうね》
《早かったの!》

 僕が少し先走っていると伝えると、女の子組はてへっ……と揃って首をかしげた。
 これがあざと可愛いってやつだろうか?

「「いこーう!」」
《いこ~!》

 気を取り直して、僕達は改めて二十三階層の攻略を開始することにした。
 とはいっても、グラスバタフライを探しつつも先に進んでいたため、まったく手つかずというわけではない。

「「あっ!」」

 開始早々、アレンとエレナが何かに気がつき、駆け出していく。

「「てい!」」

 走る流れのまま跳び蹴りでも繰り出すとかと思いきや、木の前で立ち止まるとかがんで何かを突いていた。

「グラスバタフライがいた~」
「二ひきもいたよ~」

 ……蝶のガラス細工が追加されたようだ。

「だいぶ遠かったけど、よくグラスバタフライが見えたな~」
「「なれたー?」」
「……いやいや、あの擬態に慣れるのは、難しいと思うぞ」
「「そうかな~?」」

 アレンとエレナは首を傾げているが、何メートルも先にある同系色の背景に紛れたコインサイズのものを見つけるのは、かなり難しいと思う。

《てい!》
「ラジアン!?」
《グラスバタフライみつけた~》
「…………この階層でのグラスバタフライ狩りは終わったはずなのに、ガラス細工が増えていくのは何でなんだろうな~?」

 近場でラジアンがグラスバタフライを仕留め、これで蝶のガラス細工は全部で三つ追加された。


 ◇ ◇ ◇


《さあ、次は赤のグラスバタフライ探しよ!》
「フィート、フィート! おはなも!」
《あら、そうだったわね。ガラスのお花も集めるのを忘れないようにしないといけなかったわね》
「うん!」

 二十三階層をさっくり攻略して二十四階層に辿たどくと、フィート主導のグラスバタフライ探しが即座に開始されることになった。

《お~、フィート、張り切っているね~》
「かなり蝶のガラス細工が気に入ったみたいだな」
「どの種族でも女性のこだわりは、激しいものだな~」
「え、カイザー、凄くしみじみ言っているけど……何かの経験談?」
「…………昔、いろいろとな」

 カイザーは視線をらして表情をくもらせていたので、何か苦い思い出でもありそうだ。
 まあ、詳しくは聞かないほうが良さそうなので、そっとしておくことにした。

「さてと、僕達もグラスバタフライ探しに協力しないと怒られるから、そろそろ探し始めるか~」
《そうだね~。頑張ろうか~》
《では、ぼくはあちらのほうを見てきますね》
《オレはグラスバタフライ以外の魔物を倒してくるね~》
「では、我はあちらを見てこよう」

 女の子組、アレン、ラジアンはまず花集めをしているので、僕達はグラスバタフライを探し始める。

「おっと、いたいた」

 赤い木の幹に擬態しているグラスバタフライを見つけると、突いて倒してドロップアイテムに変える。グラスバタフライのドロップアイテムは、今のところガラス細工だけである。

「……本当に儚いな~」

 指で突いて倒せる魔物が、上級迷宮の二十階層を超えたところにいてもいいのだろうかと、本気で思ってしまう。

「「おにぃちゃん! おはな、あつめたよ~」」
「お、もう籠一杯に集めたのか」
「「うん!」」
「じゃあ、あとはさくさくグラスバタフライを見つけて、先に進もうか」
「「さくさくみつける!」」

 子供達は宣言通り、次々とグラスバタフライを見つけ出していく。

《兄ちゃん!》
「ベクトル、どうしたんだ?」

 予定数のガラス細工が集まった時、ベクトルが慌てたように駆け込んできた。

《見て! 見てみて!!》
「うわっ!」
「「おぉ~」」

 ベクトルが慌ててマジックリングから取り出したものを見て、僕と子供達は驚きの声を上げてしまう。

「……これもガラス細工か?」
《そうだよ! 凄いでしょう!》

 ベクトルが取り出したものは、今まで僕達が手に入れていたガラス細工の十倍はありそうな、僕の顔の大きさくらいあるガラス細工だった。

《うわ~、何これ。ずいぶんと大きいけど、これもグラスバタフライのドロップアイテム?》
《まあ、凄いわ~。大きいけれど、これはこれで綺麗ね》
《ベクトル、凄いです!》
《ベクトル、良くやったの!》
《ベクトルおにーちゃん、すご~い》
「これはまた稀有けうなものを手に入れたな~」

 僕達の驚く声を聞きつけて? いや、ベクトルが騒ぎながらこちらに駆け込んできたのを聞きつけて、ジュール達も集まってきて、ベクトルの取り出した戦利品を驚きながら眺めていた。

「別の魔物じゃなくて、グラスバタフライのドロップアイテムなのか?」
《そうだよ。倒したのは今まで見てきた小さいのだった! で、倒したら、これがドロップしたんだよ!》
「じゃあ、レアアイテム的なものかな?」

 枝葉の細工に蝶が止まっている感じの、完全に置物仕様である。

「……え、何? どうした?」

 凄いものが手に入ったな~……と置物を見ていると、アレンとエレナが何かを訴えるように見つめてきた。

「「……おみやげ」」
「あ、これをお土産にしたい? もちろん、いいよ」
「「もっとさがす」」
「ん? んん!?」
「え、もしかしなくても……これを複数個集めたいって言わないよね!?」
「「あつめる!」」

 確認する時に嫌な予感はしたが、子供達は既に心は決まっているかのような返答だった。

「えぇ!? いやいやいや、これは難しいんじゃないかな?」
「がんばる!」
「ダメー?」
「……みんなもやる気みたいだな」

 しかも、ジュール達もわくわくしたような表情をしていたので、反対する理由も薄れてしまった。というわけで、僕達は徹底的にと言っていいほど、二十四階層を捜索して歩いたのだった。


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